サンダル先生 ? ファイトファイト(死語)!
2005年9月7日コメント (1)カテーテル検査に入る前に、手洗い。
学生と2人並び、鏡の前。
「北野くんは、何か目標でもあるの?」
「はい。医者です」
「そりゃそうだろ?医学生なんだから」
「でも、役職とかで医者にならない人もいますし。なれない人も」
「失礼なヤツだよな・・」
僕らは消毒のついたタワシで揃えた指の、特に爪の間をゴシゴシ、何度も洗う。
「挙げた両手は、下へは下ろすなよ。バイキンが下りてきて不潔になる」
「腋の下まで濡れてきました」
「そこから拭きペーパーを取って!」
ペーパーで片手ずつ拭く。
「じゃ、カテ室に入る前に・・・頼む!」
僕は近くのナースを呼び、術衣と防護服を着せてもらう。
「え?これは?」
学生の首に、ベルト様のものが巻きつく。
「これも被曝を避けるものですか?」
「甲状腺を守るため」
「なるほど・・」
「じゃ、部屋へ入るぞ。あちこち触るなよ!」
グイ−ン、とドアが開く。
中の清潔な領域の真ん中ベッドに患者が横になっている。
側に術者のトシキが立つ。
近くでザッキーという2年目レジデントが、忙しそうにフラッシュ(洗浄)など準備をしている。
僕らはザッキーの後ろに立った。
患者のベッドの上には布がかかっている。頭上には透視画面と心電図波形。
ピッピッピッ・・・という音が単調に鳴り続け、緊迫感をもたらす。
「北野君。患者さんの横に行って、症状とか聞いてあげなよ」
「はい」
学生が患者の側につく。顔と顔が触れ合いそうな距離だ。
「透視カメラには絶対に当たるな」
術者がうつむいたまま呟いた。よく見ると、右の手首の動脈から細く血が吹き出している。
すかさずカテーテルが入っていく。
「透視、見せろ!」
カテーテルが頭上の透視画面に移る。スーッとスムーズに大動脈へ。
トシキが少しカテを指でひねり、カテ先は右冠動脈の入口部に入った。
みな反射的に心電図を確認。
「右冠動脈、造影」
ウィーンという音とともに、透視画面に造影された血管が黒く映る。
「あ、あれ・・」
帽子をかぶった患者が呟く。
「あれが、血管ですか・・」
「はい」
学生は懸命に答えた。
「冠動脈です」
「どうなんでしょうか・・」
患者は北野に力なく問いかけた。
「?」
周囲では僕らがあちこち立ち位置を変えながら、あれこれ指摘している。
北野にはわけがわからない。
「ハイポか。次、LAOで造影だ」
トシキは4つの透視カメラをグルンと操作し、カメラと患者の距離を狭めた。
「造影!」
北野は術者に問うた。
「患者さんが、結果はどうかと・・」
「黙れ」
術者の目は冷ややかだった。
「ザッキー。退がらせろ」
「ハイ!おい!」
ザッキーは目で学生を追い出そうとした。
「いいって。ついてあげとけ」
僕の一声でみんな黙った。僕が一番この中で年上なのが幸いだった。
左冠動脈が造影。
「あれは15PDだな。右冠動脈はやっぱりハイポ(低形成)だ」
トシキは後ろのザッキーに話しかけた。
「おっしゃるとおりだと思います」
ザッキーは大学を出て間もないせいか、どことなくイエスマン体質だった。
また角度を変えては造影。何回か繰り返す。
画面がプレイバックされ、スローで何度か確認。みな言葉なくうなずいている。
「LVG(左室造影)」
術者の掛け声とともに、技師がインジェクターをセット。カテーテルとつなぐ。
「これから造影するが、引き続き骨盤部も造影する」
術者は患者の顔に近づいた。
「これから心臓の中を造影剤が入りますので、胸が熱くなります」
患者はいまいち理解できなかった。
「な、なに言いましたの?」
患者は北野を見つめた。
「ぞ、造影剤が入るので胸が熱く・・」
「悪いんですの?」
「い、いえ。悪くは」
「悪くはないんでっか?よかった」
「い、いえその・・」
北野が見る限り、異常はなさそうな雰囲気だった。
ウイーンという音とともに、画面に左心室の造影が映し出された。
「今、ちょっと熱いような」
「ど、どのへんが・・」
「ここ・・」
患者はついカテの入ってない左手を胸に持ってこようとした。
「ああ!」
術者はあわてて患者の手を押さえにかかった。
「手は持っていかないで!」
術者は北野を睨み、近寄った。
「出ろ!」
北野はビビリまくり、僕のほうへ戻ってきた。
「北野くん。外で画面を確認しよう」
僕らはいったん外へと出た。
「すみません。つい・・」
学生は肩を落とした。
「うん。まあ気をつけなよ、次から」
「術者の先生、かなりお怒りで・・そりゃそうでしょうね」
「いろんな医者がいるよ。ま、あれは誰だって怒るだろうけど」
「本当に申し訳・・」
「そのつどいろいろ反省したりだけど、自分のその後の活動に悪影響を
もたらさない程度にな」
学生はまだ肩を落としていた。
「それで・・・ほら。この画像。左冠動脈造影で・・・何回も流してた画像があったろ?」
「はい・・」
「ここ。回旋枝の12番。狭窄がある」
「はい・・」
僕はその場で計測した。
「見た目で分かるけど、狭窄としては50%以下・・・計測では。ほら。44%。
有意狭窄ではない」
「では正常の扱いですか・・」
「いや。これはあくまでも冠動脈造影という検査での狭窄率、という指標だけであって、
本来なら冠動脈の中の構造を確かめたいとこだ」
「今後狭窄が増すということも・・」
「ありうる。コロナリーリスクのコントロールが必要だ。この患者は高血圧、喫煙・・」
「さきほど、ハイポっておっしゃてましたが、あれは・・」
「低形成。逆に反対側の冠動脈が発達していて、総合的には問題ない」
「15PD・・」
「15PDは、右がハイポの代わりに左冠動脈の末梢が発達して、右冠動脈の末梢部分の領域まで流れているという表現」
「・・・・・」
学生はまだダメージを受けているようだった。
「大丈夫だって。循環器の医者は単純だ」
「そ、そうでしょうか・・」
カテが終わり、術者が出てきた。
「フーッ。いちおうユウキ先生の勝ちですかね?」
「有意狭窄とはいえんだろ」
「1000円?」
「そこの貯金箱に入れろ!」
ブタの貯金箱に金が入る。
トシキはマスクを外し、北野を一瞥した。
「やあ、学生さん?」
「は、はい!北野です!医学部3、3年生で、秋より解剖実習が!」
「いろいろ見ていってね」
「ああ、ありがとうございます!」
学生の元気が戻った。僕は学生の肩を叩いた。
「な。単純だろ?」
「そうですね!」
あのなあ・・・。
「だる・・・」
防護服の内側の術衣は汗でヌレヌレだ。
夕方4時にはカテーテルは終了、各自病棟へと向かった。
学生と2人並び、鏡の前。
「北野くんは、何か目標でもあるの?」
「はい。医者です」
「そりゃそうだろ?医学生なんだから」
「でも、役職とかで医者にならない人もいますし。なれない人も」
「失礼なヤツだよな・・」
僕らは消毒のついたタワシで揃えた指の、特に爪の間をゴシゴシ、何度も洗う。
「挙げた両手は、下へは下ろすなよ。バイキンが下りてきて不潔になる」
「腋の下まで濡れてきました」
「そこから拭きペーパーを取って!」
ペーパーで片手ずつ拭く。
「じゃ、カテ室に入る前に・・・頼む!」
僕は近くのナースを呼び、術衣と防護服を着せてもらう。
「え?これは?」
学生の首に、ベルト様のものが巻きつく。
「これも被曝を避けるものですか?」
「甲状腺を守るため」
「なるほど・・」
「じゃ、部屋へ入るぞ。あちこち触るなよ!」
グイ−ン、とドアが開く。
中の清潔な領域の真ん中ベッドに患者が横になっている。
側に術者のトシキが立つ。
近くでザッキーという2年目レジデントが、忙しそうにフラッシュ(洗浄)など準備をしている。
僕らはザッキーの後ろに立った。
患者のベッドの上には布がかかっている。頭上には透視画面と心電図波形。
ピッピッピッ・・・という音が単調に鳴り続け、緊迫感をもたらす。
「北野君。患者さんの横に行って、症状とか聞いてあげなよ」
「はい」
学生が患者の側につく。顔と顔が触れ合いそうな距離だ。
「透視カメラには絶対に当たるな」
術者がうつむいたまま呟いた。よく見ると、右の手首の動脈から細く血が吹き出している。
すかさずカテーテルが入っていく。
「透視、見せろ!」
カテーテルが頭上の透視画面に移る。スーッとスムーズに大動脈へ。
トシキが少しカテを指でひねり、カテ先は右冠動脈の入口部に入った。
みな反射的に心電図を確認。
「右冠動脈、造影」
ウィーンという音とともに、透視画面に造影された血管が黒く映る。
「あ、あれ・・」
帽子をかぶった患者が呟く。
「あれが、血管ですか・・」
「はい」
学生は懸命に答えた。
「冠動脈です」
「どうなんでしょうか・・」
患者は北野に力なく問いかけた。
「?」
周囲では僕らがあちこち立ち位置を変えながら、あれこれ指摘している。
北野にはわけがわからない。
「ハイポか。次、LAOで造影だ」
トシキは4つの透視カメラをグルンと操作し、カメラと患者の距離を狭めた。
「造影!」
北野は術者に問うた。
「患者さんが、結果はどうかと・・」
「黙れ」
術者の目は冷ややかだった。
「ザッキー。退がらせろ」
「ハイ!おい!」
ザッキーは目で学生を追い出そうとした。
「いいって。ついてあげとけ」
僕の一声でみんな黙った。僕が一番この中で年上なのが幸いだった。
左冠動脈が造影。
「あれは15PDだな。右冠動脈はやっぱりハイポ(低形成)だ」
トシキは後ろのザッキーに話しかけた。
「おっしゃるとおりだと思います」
ザッキーは大学を出て間もないせいか、どことなくイエスマン体質だった。
また角度を変えては造影。何回か繰り返す。
画面がプレイバックされ、スローで何度か確認。みな言葉なくうなずいている。
「LVG(左室造影)」
術者の掛け声とともに、技師がインジェクターをセット。カテーテルとつなぐ。
「これから造影するが、引き続き骨盤部も造影する」
術者は患者の顔に近づいた。
「これから心臓の中を造影剤が入りますので、胸が熱くなります」
患者はいまいち理解できなかった。
「な、なに言いましたの?」
患者は北野を見つめた。
「ぞ、造影剤が入るので胸が熱く・・」
「悪いんですの?」
「い、いえ。悪くは」
「悪くはないんでっか?よかった」
「い、いえその・・」
北野が見る限り、異常はなさそうな雰囲気だった。
ウイーンという音とともに、画面に左心室の造影が映し出された。
「今、ちょっと熱いような」
「ど、どのへんが・・」
「ここ・・」
患者はついカテの入ってない左手を胸に持ってこようとした。
「ああ!」
術者はあわてて患者の手を押さえにかかった。
「手は持っていかないで!」
術者は北野を睨み、近寄った。
「出ろ!」
北野はビビリまくり、僕のほうへ戻ってきた。
「北野くん。外で画面を確認しよう」
僕らはいったん外へと出た。
「すみません。つい・・」
学生は肩を落とした。
「うん。まあ気をつけなよ、次から」
「術者の先生、かなりお怒りで・・そりゃそうでしょうね」
「いろんな医者がいるよ。ま、あれは誰だって怒るだろうけど」
「本当に申し訳・・」
「そのつどいろいろ反省したりだけど、自分のその後の活動に悪影響を
もたらさない程度にな」
学生はまだ肩を落としていた。
「それで・・・ほら。この画像。左冠動脈造影で・・・何回も流してた画像があったろ?」
「はい・・」
「ここ。回旋枝の12番。狭窄がある」
「はい・・」
僕はその場で計測した。
「見た目で分かるけど、狭窄としては50%以下・・・計測では。ほら。44%。
有意狭窄ではない」
「では正常の扱いですか・・」
「いや。これはあくまでも冠動脈造影という検査での狭窄率、という指標だけであって、
本来なら冠動脈の中の構造を確かめたいとこだ」
「今後狭窄が増すということも・・」
「ありうる。コロナリーリスクのコントロールが必要だ。この患者は高血圧、喫煙・・」
「さきほど、ハイポっておっしゃてましたが、あれは・・」
「低形成。逆に反対側の冠動脈が発達していて、総合的には問題ない」
「15PD・・」
「15PDは、右がハイポの代わりに左冠動脈の末梢が発達して、右冠動脈の末梢部分の領域まで流れているという表現」
「・・・・・」
学生はまだダメージを受けているようだった。
「大丈夫だって。循環器の医者は単純だ」
「そ、そうでしょうか・・」
カテが終わり、術者が出てきた。
「フーッ。いちおうユウキ先生の勝ちですかね?」
「有意狭窄とはいえんだろ」
「1000円?」
「そこの貯金箱に入れろ!」
ブタの貯金箱に金が入る。
トシキはマスクを外し、北野を一瞥した。
「やあ、学生さん?」
「は、はい!北野です!医学部3、3年生で、秋より解剖実習が!」
「いろいろ見ていってね」
「ああ、ありがとうございます!」
学生の元気が戻った。僕は学生の肩を叩いた。
「な。単純だろ?」
「そうですね!」
あのなあ・・・。
「だる・・・」
防護服の内側の術衣は汗でヌレヌレだ。
夕方4時にはカテーテルは終了、各自病棟へと向かった。
コメント
拝啓 平素のご厚情並びにご支援に御礼申し上げます。
ここに、関係者一同より感謝申し上げます。
さて、医学・医療・技術等の発展とともに、この分野での
発展も目覚しく、また、なお一層の発展を図るべく
この度、下記のようなホームページをご用意しました。
http://square.umin.ac.jp/jacscopy/
ここに、皆様よりの忌憚のないご指導とご叱責を
承りたく、また、情報のご提供を賜りたく、宜しく
お願い申し上げます。
また、僭越ながら、バナー広告をご用意しましたので、
ご関係会社並びに医院諸団体様よりのご掲載を期待
申し上げます。
当該幹事担当者 拝