サンダル先生 ? アーハン!
2005年9月7日僕、ザッキー、シローは貪るように詰め所内の引き出しを開ける。
「あったあった・・・」
「検査結果ですか?」
学生は覗き込んだ。
「何枚か検査結果が返ってきてる。ええっと・・・」
「たくさんありますね」
確かに色違いの伝票が合計20枚ほどある。
「なに、今日は少ないほうだよ」
「喀痰細胞診・・・培養」
「外注検査は、だいたい1週間くらいでやっと返ってくるからね」
僕は検査所見の戻った用紙をみて、その分カルテを揃えた。
「申し送りが始まるからね。その前に終えなきゃ」
「看護師さんの申し送りですね?」
「ああ。看護記録は切り離してるから、いいとして」
僕は各所見をカルテに記入していった。
「血痰が出て、精査した人だ。気管支鏡でBAL、TBLB」
「病理組織・・・・groupV!悪性ですか」
「扁平上皮癌であることは、画像や腫瘍マーカーから明白だった」
「やはり、気管支鏡でも出たんですね・・」
「このタイプの癌なので、気管支を閉塞して肺炎を起こしやすい」
「治療は何か・・」
「ケモ(化学療法)とラディエーション(放射線療法)」
シローが後ろからのぞいている。
「あ、僕が検査した人ですね」
「シローが心配してた、検査後の肺炎は起こさなかったよ。ありがと」
「よかったよかった・・」
「告知をせんといかん。気が重いよ・・」
僕は別のカルテにとりかかった。
「告知は必ずするんですか?」
「え?」
学生は一歩退いて質問した。
「テレビとかでは患者の権利が優先だからとか言ってるけど・・・」
「僕も告知には賛成です」
「すべてケースバイケースだよ。人間には、いろいろと事情がある。
告知するかしないかは今でも悩む問題だよ」
「そうなんですか」
「その人の家族関係や、勤務内容・・それらも全て把握しておかないと。
僕は必ず家族に事前に相談してる」
「生まれた以上の権利というものはあると思いますが」
チクリと刺す男だな・・。
「俺ら医者がその権利をコントロールしてもいけないってことだよ」
「はー・・・意味がよく・・・」
ザッキーが頭を抱えている。
「ユウキ先生、シロー先生・・・いいですか?」
彼は近くのシャーカステンに写真を掲げた。
「糖尿病で入院してる人の腹部単純CTですが、肝臓の右葉のこのへん・・」
彼は指差した。1センチくらいの円形病変だ。
辺縁はうっすらぼけて見える。
「くっきりだったらシストと考えますが、このボケ方はやらしいですよね」
「造影したらいいだろ?」
僕が答えた。
「ええ、したんです」
「なんだよ、おい?」
彼は引き続き造影CTを出した。単純の分と変わらない。
「ザッキー。単に造影というオーダーなんだろ?」
「え?ええ」
「ダイナミックCTで撮り直したら?」
シローも写真を見に来た。
「リゾビストMRIで詳しく見たらいいのでは?」
「シロー・・」
僕はシローの頭をポンポン叩いた。
「この人、事務でもめた人だよ。料金のことで」
「そうなんですか」
「いきなりMRIはどうかな・・・」
「ふーん。ま、そこは主治医の判断で」
シローはまた仕事にとりかかった。
「じゃ、ダイナミック条件で撮ります」
ザッキーはフィルムをしまった。
「放射線科の奴も、何か言ってくれたらいいんだけどな・・」
当院では放射線医は週3回の臨時バイトだった。
「水、かなり減りましたね」
シローが僕の患者のレントゲンを見ている。
「ああ、これか。利尿剤だけで引いたよ」
「注射だけで?」
数枚のレントゲンが連なり、左から日付順。
次第に胸水が減ってるのが分かる。
「この人は何の病気ですか?」
学生が聞いてきた。
「慢性心不全があって・・・それの急性増悪」
「慢性心不全・・・」
「HCMという病気。肥大型心筋症」
「進行してるんですか?」
「うーん・・・進行する病気ではあるけど。今回は感染症がきっかけで
悪化した」
「感染症?ばい菌ですか?」
「ばい菌・・・!」
ザッキーが笑っていた。
「たぶん風邪だと思うけど、それを契機に食欲が低下、脱水が起こった。
そこから心不全が悪化した」
「なんだ風邪か」
「おいおい。でもそのナンダ風邪かってヤツが、結果的にこういうものをもたらす
ことだってあるんだよ」
「水分バランスとか大事なんですね」
いいこと言うな・・。
「この先また寒くなったら、また患者が増えるな。ザッキー」
ザッキーは次々とカルテをたたんでいった。
「それこそ、学生くんのいう水分バランスが崩れる時期に、ですよね」
気候が変わると体の水分バランスが不安定になりやすく、病気が増えるというのは
迷信ではない。
「さて。今日の晩は、栄養バランスのほうを崩しにいくか!」
僕はかねてから予定していた飲み会を思い出した。
「さっさと終わらせて上がってこいよ、シロー!」
僕とザッキーはカルテを戻し、詰所から出て行きかけた。
ナースらの申し送りも始まりつつある。
シローはじっくり考えるタイプで、無言で考えていた。
「飲み会ですか?」
学生は聞いた。
「晩飯、飲み会!月曜日は決まってやってるよ!」
「僕も・・・」
ザッキーが遮った。
「でもな!金はオマエ持ち!」
「え?そうなんですか?」
「バーカ!ウソだよ!」
イエスマンらしく、ザッキーは目下には容赦ない。
「ザッキー。店は予約を?」
「OKです。アーハン!」
「タクシーは?」
「アーハン!」
「2次会も?」
「アーハン!」
「ギャルは何人か呼んでる?」
「アーハン!」
「完璧だ!」
学生は少しとまどいながらも、駆ける僕らについてきた。
「あったあった・・・」
「検査結果ですか?」
学生は覗き込んだ。
「何枚か検査結果が返ってきてる。ええっと・・・」
「たくさんありますね」
確かに色違いの伝票が合計20枚ほどある。
「なに、今日は少ないほうだよ」
「喀痰細胞診・・・培養」
「外注検査は、だいたい1週間くらいでやっと返ってくるからね」
僕は検査所見の戻った用紙をみて、その分カルテを揃えた。
「申し送りが始まるからね。その前に終えなきゃ」
「看護師さんの申し送りですね?」
「ああ。看護記録は切り離してるから、いいとして」
僕は各所見をカルテに記入していった。
「血痰が出て、精査した人だ。気管支鏡でBAL、TBLB」
「病理組織・・・・groupV!悪性ですか」
「扁平上皮癌であることは、画像や腫瘍マーカーから明白だった」
「やはり、気管支鏡でも出たんですね・・」
「このタイプの癌なので、気管支を閉塞して肺炎を起こしやすい」
「治療は何か・・」
「ケモ(化学療法)とラディエーション(放射線療法)」
シローが後ろからのぞいている。
「あ、僕が検査した人ですね」
「シローが心配してた、検査後の肺炎は起こさなかったよ。ありがと」
「よかったよかった・・」
「告知をせんといかん。気が重いよ・・」
僕は別のカルテにとりかかった。
「告知は必ずするんですか?」
「え?」
学生は一歩退いて質問した。
「テレビとかでは患者の権利が優先だからとか言ってるけど・・・」
「僕も告知には賛成です」
「すべてケースバイケースだよ。人間には、いろいろと事情がある。
告知するかしないかは今でも悩む問題だよ」
「そうなんですか」
「その人の家族関係や、勤務内容・・それらも全て把握しておかないと。
僕は必ず家族に事前に相談してる」
「生まれた以上の権利というものはあると思いますが」
チクリと刺す男だな・・。
「俺ら医者がその権利をコントロールしてもいけないってことだよ」
「はー・・・意味がよく・・・」
ザッキーが頭を抱えている。
「ユウキ先生、シロー先生・・・いいですか?」
彼は近くのシャーカステンに写真を掲げた。
「糖尿病で入院してる人の腹部単純CTですが、肝臓の右葉のこのへん・・」
彼は指差した。1センチくらいの円形病変だ。
辺縁はうっすらぼけて見える。
「くっきりだったらシストと考えますが、このボケ方はやらしいですよね」
「造影したらいいだろ?」
僕が答えた。
「ええ、したんです」
「なんだよ、おい?」
彼は引き続き造影CTを出した。単純の分と変わらない。
「ザッキー。単に造影というオーダーなんだろ?」
「え?ええ」
「ダイナミックCTで撮り直したら?」
シローも写真を見に来た。
「リゾビストMRIで詳しく見たらいいのでは?」
「シロー・・」
僕はシローの頭をポンポン叩いた。
「この人、事務でもめた人だよ。料金のことで」
「そうなんですか」
「いきなりMRIはどうかな・・・」
「ふーん。ま、そこは主治医の判断で」
シローはまた仕事にとりかかった。
「じゃ、ダイナミック条件で撮ります」
ザッキーはフィルムをしまった。
「放射線科の奴も、何か言ってくれたらいいんだけどな・・」
当院では放射線医は週3回の臨時バイトだった。
「水、かなり減りましたね」
シローが僕の患者のレントゲンを見ている。
「ああ、これか。利尿剤だけで引いたよ」
「注射だけで?」
数枚のレントゲンが連なり、左から日付順。
次第に胸水が減ってるのが分かる。
「この人は何の病気ですか?」
学生が聞いてきた。
「慢性心不全があって・・・それの急性増悪」
「慢性心不全・・・」
「HCMという病気。肥大型心筋症」
「進行してるんですか?」
「うーん・・・進行する病気ではあるけど。今回は感染症がきっかけで
悪化した」
「感染症?ばい菌ですか?」
「ばい菌・・・!」
ザッキーが笑っていた。
「たぶん風邪だと思うけど、それを契機に食欲が低下、脱水が起こった。
そこから心不全が悪化した」
「なんだ風邪か」
「おいおい。でもそのナンダ風邪かってヤツが、結果的にこういうものをもたらす
ことだってあるんだよ」
「水分バランスとか大事なんですね」
いいこと言うな・・。
「この先また寒くなったら、また患者が増えるな。ザッキー」
ザッキーは次々とカルテをたたんでいった。
「それこそ、学生くんのいう水分バランスが崩れる時期に、ですよね」
気候が変わると体の水分バランスが不安定になりやすく、病気が増えるというのは
迷信ではない。
「さて。今日の晩は、栄養バランスのほうを崩しにいくか!」
僕はかねてから予定していた飲み会を思い出した。
「さっさと終わらせて上がってこいよ、シロー!」
僕とザッキーはカルテを戻し、詰所から出て行きかけた。
ナースらの申し送りも始まりつつある。
シローはじっくり考えるタイプで、無言で考えていた。
「飲み会ですか?」
学生は聞いた。
「晩飯、飲み会!月曜日は決まってやってるよ!」
「僕も・・・」
ザッキーが遮った。
「でもな!金はオマエ持ち!」
「え?そうなんですか?」
「バーカ!ウソだよ!」
イエスマンらしく、ザッキーは目下には容赦ない。
「ザッキー。店は予約を?」
「OKです。アーハン!」
「タクシーは?」
「アーハン!」
「2次会も?」
「アーハン!」
「ギャルは何人か呼んでる?」
「アーハン!」
「完璧だ!」
学生は少しとまどいながらも、駆ける僕らについてきた。
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