サンダル先生 ? 一次会
2005年9月8日「そこで降りる!」
幹事のザッキーが率先、助手席で指示。
「じゃ、先に降りてください!」
僕とシローはいっせいに千円札を出した。
「タクシーチケットありますんで、いいです」
ザッキーは料金をチケットに書き込んだ。
僕らは順々に降り、もう1台も後ろに到着した。
「お待ちしておりました!」
街角で背広が立っている。まだ20代くらいのイケメンだ。
「人数は・・・」
「予定通り、来たよ」
ザッキーはMRも呼んでたのか。資金源だ。
学生と僕は最後尾を歩いた。
「接待なんか、いいんですか?」
学生は気まずそうだった。
「民間病院だから、いいんだよ」
「そうなんですか?捕まらないですか?」
「大学病院や官公立は厳しいよ」
料亭に入る。奥の座敷へ。荘重ともいうべき部屋。
「では、説明会という名目ですので」
MRはプロジェクターの電源を入れ、壁に画面を投影した。
薬剤名が映る。
「えー、今回はありがとうございます。おかげさまで・・」
僕の両端にギャルが座らされる。ザッキーやMRらの配慮なんだろう。
しかし・・・これは窮屈だ。事務長の前の女は右のほうだ。
さっそく右側が話しかける。
「ふーん。全然わかんなーい」
遊び人風の彼女から、派手な香水の匂いが漂ってくる。
こっちの服に染み付きそうだ。
「こういう薬、いくつもあるんですか?」
「あ・・・あるある。大辞典」
「キャッハッハー!おっもしろーい!」
向かいのザッキーは呆れて苦笑いだ。
「ユウキ先生。先月のカテ症例、計算しました」
「史上最多?」
「緊急がありましたからね。25例」
「そんだけ?」
仕方なかった。うちのカテーテル検査は週2,3回で、1日2回が限度だ。
「はやく僕もカテーテルしたいな!」
ザッキーは不満そうだ。
「でもオマエ、2年目だろ?」
「2年目から少しずつさせてもらうもんですよ」
「今は外回りを頑張って!」
「気管支鏡もそろそろ・・」
「1人でやるのは、まだ早すぎ!」
僕は警告した。
「ま、トシキ医長に相談を」
端っこの事務長が飲みながら答えた。
右の女、ジョッキを持つ爪が光る。
「医長ってそうなの、きてないんだー」
「医長は酒が飲めないんだ」
事務長は料理を手招きした。
1品ずつ運ばれていく。
「じゃ、医長がこの中で一番エライ人?」
左の女が聞く。
「いやいや、影の帝王はこのお方!」
事務長がまたイランことを言う。
「なあにが帝王だ」
僕は逐一、不快だった。
「影でいろいろやってんのは、オマエだろ!」
「わ、私が?」
事務長は首をかしげた。
「私のような健全な青年が?」
「ギャハハハハ!どっこがー!」
右の女が爆笑する。
「ガハハ!またどっかの女コマシてんのかー!」
一瞬、静まった。MRの説明は知らぬ間に終わっている。
「あ!ところで」
シローが思いついたように話しかけた。
「婦長とはどうなの?どうなったの?」
事務長は顔をしかめた。
「シロー先生。そういう話はちょっと」
「どうしてどうして?結婚しないの?ねえ!」
「身に覚えが・・」
「相手は本気だよ!マジで!」
会話の一部始終を、右の女は神妙に聞いていた。
「シロー!シロー!」
僕は助けを求めるようにシローを呼んだ。
「はい?」
「酔ってるだろ?」
「いいえ。これウーロンです」
右の女は歯を喰いしばってきた。
事務長は知らん顔をして、料理を運ぶ主人に話しかける。
「この魚は、東北だね?」
「いえ!舞鶴です!へい!」
「あ、そう・・」
「婦長って誰よ・・・」
右の女が肩を震わせた。
「うん!これおいしい!」
シローは知らん顔で食べ始めた。
「うんこ!れおいしい!」
ザッキーがふざけたが、不発弾だ。
「婦長って!誰!」
右の女が獣のように吼えた。
僕は雰囲気を気遣った。
「ごめん。シローは酔ってて」
「アンタには聞いてないんじゃ!」
「な?」
MRはあたふたしている。みんな、無言で料理を食べ始めた。
煮えてきた鍋のフタを、お上が1枚ずつ取り上げていく。
ホカホカの牛肉が数キレ。
「神戸牛でございます」
お上がお辞儀した。
「ほおお。これが神戸牛か!」
事務長はごまかそうとしたが、やってきた女にビンタを食らった。
「いたっ!」
「なめとんか!おのれは!」
女は怒りに燃えていた。
「もうせん、もうせんって、あれはウソか!」
女は事務長の料理を1つずつ、床につきとばした。
「ミナちゃん。もう行こ!そんな男!」
左の女は立ち上がり、髪をくくり始めた。
「クソ以下やで!仕返ししたるからなオッサン!」
またたく間に、2人は引き上げていった。
事務長は泣きかけの顔だ。
ザッキーが手をかざす。
「なきかけ?なきかけ?」
「ぐぐ・・・」
事務長は泣きを一生懸命こらえていた。
「ま、若い頃はね。いろんなことある」
料亭の主人が隅っこにいた。
「あとで謝ったら、意外とすぐ許してくれるで」
「女なあ。女は、もうええわ。ヒック」
酔った僕は箸を置いた。
「女でオレは、さんざん振り回されたぜ」
「女のせいにしちゃいけませんよ!」
シローは真面目だった。
「僕なんかどうするんです?この後家に帰ったら、子供の世話に・・」
「そうだよな。シローは大変だよな。既婚者って。ヒック」
「先生も、早く結婚してください」
「余計なお世話だよ。ヒック」
「医者でも出会いがないっていいますよ」
「分かってるって。ヒック」
「ナースはやめといたほうがいいですよ!」
「なぜに?ヒック」
「変に独立心がありますからね」
「手に職持ってる女は、1人でも食っていけるからな・・・ヒック」
「たた、大変勉強になりますです!」
MRは喜んでいた。
「こんな間近で、先生方のいろんなご意見をお聞きできるとは。ところで」
話題が打ち切られ、みな注目した。
「私、今回説明しました抗生剤ですが、今月キャンペーン期間となっておりまして」
「はあ?」
僕は呆れた。
「キャンペーン・・て、何?安売りでもすんの?」
「いえ。値段は据え置きです」
「どういう意味?」
「薬にはそれぞれ、キャンペーン期間というのがありまして。社の方針なんです。
今月はこれを特に売り上げろって」
「なんだよ。製薬会社の中での盛り上げかよ?」
「はい」
「つまんね!ヒック!」
「1日2グラムが基本ですが、できれば4グラム投与のほうが効果的ですし」
「でもおい、副作用出たらどうすんだ?ヒック」
「ええ、まあそこは先生方のご判断で!」
「そうか。ヒック」
僕は立ち上がった。
「相手を引き込むまではいかないな。ヒック」
MRは肩を落とした。
「でもよかったよ!料理!ヒック!事務長!元気出せよ!それ!」
僕らはいっせいに三本締めを行い、服を羽織った。
「ユウキ先生。し、仕返しするって・・」
事務長はつらそうだった。
「せえへん、せえへんって!知らんけど。だる・・・」
僕は彼を小突きながら、靴のところへ向かった。
「あれ?」
学生が隅で寝ている。
「あいつ、寝てるぞ。おい、ザッキー!」
「はい!」
「高圧カンチョー!」
「はい!うら!」
「わあっ!」
学生は飛び起きた。
僕らは2次会のカラオケボックスへ向かった。
幹事のザッキーが率先、助手席で指示。
「じゃ、先に降りてください!」
僕とシローはいっせいに千円札を出した。
「タクシーチケットありますんで、いいです」
ザッキーは料金をチケットに書き込んだ。
僕らは順々に降り、もう1台も後ろに到着した。
「お待ちしておりました!」
街角で背広が立っている。まだ20代くらいのイケメンだ。
「人数は・・・」
「予定通り、来たよ」
ザッキーはMRも呼んでたのか。資金源だ。
学生と僕は最後尾を歩いた。
「接待なんか、いいんですか?」
学生は気まずそうだった。
「民間病院だから、いいんだよ」
「そうなんですか?捕まらないですか?」
「大学病院や官公立は厳しいよ」
料亭に入る。奥の座敷へ。荘重ともいうべき部屋。
「では、説明会という名目ですので」
MRはプロジェクターの電源を入れ、壁に画面を投影した。
薬剤名が映る。
「えー、今回はありがとうございます。おかげさまで・・」
僕の両端にギャルが座らされる。ザッキーやMRらの配慮なんだろう。
しかし・・・これは窮屈だ。事務長の前の女は右のほうだ。
さっそく右側が話しかける。
「ふーん。全然わかんなーい」
遊び人風の彼女から、派手な香水の匂いが漂ってくる。
こっちの服に染み付きそうだ。
「こういう薬、いくつもあるんですか?」
「あ・・・あるある。大辞典」
「キャッハッハー!おっもしろーい!」
向かいのザッキーは呆れて苦笑いだ。
「ユウキ先生。先月のカテ症例、計算しました」
「史上最多?」
「緊急がありましたからね。25例」
「そんだけ?」
仕方なかった。うちのカテーテル検査は週2,3回で、1日2回が限度だ。
「はやく僕もカテーテルしたいな!」
ザッキーは不満そうだ。
「でもオマエ、2年目だろ?」
「2年目から少しずつさせてもらうもんですよ」
「今は外回りを頑張って!」
「気管支鏡もそろそろ・・」
「1人でやるのは、まだ早すぎ!」
僕は警告した。
「ま、トシキ医長に相談を」
端っこの事務長が飲みながら答えた。
右の女、ジョッキを持つ爪が光る。
「医長ってそうなの、きてないんだー」
「医長は酒が飲めないんだ」
事務長は料理を手招きした。
1品ずつ運ばれていく。
「じゃ、医長がこの中で一番エライ人?」
左の女が聞く。
「いやいや、影の帝王はこのお方!」
事務長がまたイランことを言う。
「なあにが帝王だ」
僕は逐一、不快だった。
「影でいろいろやってんのは、オマエだろ!」
「わ、私が?」
事務長は首をかしげた。
「私のような健全な青年が?」
「ギャハハハハ!どっこがー!」
右の女が爆笑する。
「ガハハ!またどっかの女コマシてんのかー!」
一瞬、静まった。MRの説明は知らぬ間に終わっている。
「あ!ところで」
シローが思いついたように話しかけた。
「婦長とはどうなの?どうなったの?」
事務長は顔をしかめた。
「シロー先生。そういう話はちょっと」
「どうしてどうして?結婚しないの?ねえ!」
「身に覚えが・・」
「相手は本気だよ!マジで!」
会話の一部始終を、右の女は神妙に聞いていた。
「シロー!シロー!」
僕は助けを求めるようにシローを呼んだ。
「はい?」
「酔ってるだろ?」
「いいえ。これウーロンです」
右の女は歯を喰いしばってきた。
事務長は知らん顔をして、料理を運ぶ主人に話しかける。
「この魚は、東北だね?」
「いえ!舞鶴です!へい!」
「あ、そう・・」
「婦長って誰よ・・・」
右の女が肩を震わせた。
「うん!これおいしい!」
シローは知らん顔で食べ始めた。
「うんこ!れおいしい!」
ザッキーがふざけたが、不発弾だ。
「婦長って!誰!」
右の女が獣のように吼えた。
僕は雰囲気を気遣った。
「ごめん。シローは酔ってて」
「アンタには聞いてないんじゃ!」
「な?」
MRはあたふたしている。みんな、無言で料理を食べ始めた。
煮えてきた鍋のフタを、お上が1枚ずつ取り上げていく。
ホカホカの牛肉が数キレ。
「神戸牛でございます」
お上がお辞儀した。
「ほおお。これが神戸牛か!」
事務長はごまかそうとしたが、やってきた女にビンタを食らった。
「いたっ!」
「なめとんか!おのれは!」
女は怒りに燃えていた。
「もうせん、もうせんって、あれはウソか!」
女は事務長の料理を1つずつ、床につきとばした。
「ミナちゃん。もう行こ!そんな男!」
左の女は立ち上がり、髪をくくり始めた。
「クソ以下やで!仕返ししたるからなオッサン!」
またたく間に、2人は引き上げていった。
事務長は泣きかけの顔だ。
ザッキーが手をかざす。
「なきかけ?なきかけ?」
「ぐぐ・・・」
事務長は泣きを一生懸命こらえていた。
「ま、若い頃はね。いろんなことある」
料亭の主人が隅っこにいた。
「あとで謝ったら、意外とすぐ許してくれるで」
「女なあ。女は、もうええわ。ヒック」
酔った僕は箸を置いた。
「女でオレは、さんざん振り回されたぜ」
「女のせいにしちゃいけませんよ!」
シローは真面目だった。
「僕なんかどうするんです?この後家に帰ったら、子供の世話に・・」
「そうだよな。シローは大変だよな。既婚者って。ヒック」
「先生も、早く結婚してください」
「余計なお世話だよ。ヒック」
「医者でも出会いがないっていいますよ」
「分かってるって。ヒック」
「ナースはやめといたほうがいいですよ!」
「なぜに?ヒック」
「変に独立心がありますからね」
「手に職持ってる女は、1人でも食っていけるからな・・・ヒック」
「たた、大変勉強になりますです!」
MRは喜んでいた。
「こんな間近で、先生方のいろんなご意見をお聞きできるとは。ところで」
話題が打ち切られ、みな注目した。
「私、今回説明しました抗生剤ですが、今月キャンペーン期間となっておりまして」
「はあ?」
僕は呆れた。
「キャンペーン・・て、何?安売りでもすんの?」
「いえ。値段は据え置きです」
「どういう意味?」
「薬にはそれぞれ、キャンペーン期間というのがありまして。社の方針なんです。
今月はこれを特に売り上げろって」
「なんだよ。製薬会社の中での盛り上げかよ?」
「はい」
「つまんね!ヒック!」
「1日2グラムが基本ですが、できれば4グラム投与のほうが効果的ですし」
「でもおい、副作用出たらどうすんだ?ヒック」
「ええ、まあそこは先生方のご判断で!」
「そうか。ヒック」
僕は立ち上がった。
「相手を引き込むまではいかないな。ヒック」
MRは肩を落とした。
「でもよかったよ!料理!ヒック!事務長!元気出せよ!それ!」
僕らはいっせいに三本締めを行い、服を羽織った。
「ユウキ先生。し、仕返しするって・・」
事務長はつらそうだった。
「せえへん、せえへんって!知らんけど。だる・・・」
僕は彼を小突きながら、靴のところへ向かった。
「あれ?」
学生が隅で寝ている。
「あいつ、寝てるぞ。おい、ザッキー!」
「はい!」
「高圧カンチョー!」
「はい!うら!」
「わあっ!」
学生は飛び起きた。
僕らは2次会のカラオケボックスへ向かった。
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