サンダル先生 ? 二次会
2005年9月10日「学生!早く入れろ!」
酔ったザッキーがカラオケ本を開き、急かす。
「ええっと・・・これはまだ練習してないし」
学生は本気で悩んでいる。
「そんなおい、本気で歌わなくていいんだよ!」
「やっぱ、やめときます・・」
「ダメだ!うちではゲストが一番手なんだ!」
学生は仕方なく、リモコンの番号を押した。
「これ、あまり練習してないですから。聞き流してください。
♪ぼ!くらの生まれてくる、ずっとずっと!前にはもう!」
僕らが知らない歌だった。というか、まだ知らない歌だった。
学生は熱狂して歌う。
僕は飲み物の注文を終え、最後尾に着いた。
「新しい歌、医者になってからうとくなったよな・・」
「なんか、こう心のこもった歌がないよねえ!」
事務長は本をめくるが、新譜はチンプンカンのようだ。
「♪か〜わ〜ら〜ない!あいのす〜がたさがして〜るぅ〜!」
学生は完璧に歌いこなしていた。
「調子、ついてきました!2番目本領発揮!」
これが若さか・・!
「♪だいっと・・」
「お待たせしました!」
店のおじいさんが入ってきた。
「ええと!ジントニックのお客さんは!へいへい!」
威勢のいいおじいさんだ。
「じいさん。調子は?」
僕は病状を問うた。ここは肺気腫のじいさんが経営するボックスだ。
「ああどうも!すんませんいつも!」
じいさんは難聴で、学生の歌い続ける余地はなかった。
「おかげさんで、息のほうも楽で!プープー」
肩で息をしている。
「でも先生。こんなときくらいは酸素は引きずれませんわ!」
「したほうがええよ」
「そんなんしとったら、気味悪がられて嫌われてまうわ!プープー・・ヒーヒー」
じいさんの呼吸がおかしい。
僕は学生に耳打ちした。
「あのじいさんは、COPDで在宅酸素を・・」
「♪ほ〜んきでつきにいこうって!」
「こっち向け!」
「♪か〜んが〜え」
「ザッキー!カンチョーしろ!」
ザッキーは片手を突っ込んだ。
「♪た〜んにゃろめうわ!はい?」
「じいさんは肺気腫で、在宅酸素中なんだけどな。呼吸が荒いだろ」
「回数が多そうです」
「そして・・・浅い。浅促性の呼吸というやつだ。二酸化炭素が高い」
「もともとそうなんでしょう?」
「うん。だけど肩で息をしてる。これはちょっと・・」
じいさんはフラツキながら、皿を1つずつテーブルに置いた。
「いやいや。先生方が来られてると思うと、興奮してもて」
驚かそうと思ってきたのが、アダになったのか・・。僕は反省した。
「じいさ・・・波多野さん。ちょっと1回外来まで・・」
「あ、明日行きますわ!ヒーフーヒー」
「明日じゃちょっと心配だよ」
「カアッ!」
痰の喀出だ。
「シロー!ティッシュ!」
シローは紙をじいさんの口に当てた。緑色の痰。
じいさんの顔がそういや赤い。僕らが来て驚いたからでなく、
感染が背景にあるのでは・・・。
「波多野さん、やっぱ行こうよ!病院!」
僕は強引に勧めた。
「びょういん?今日はええですわ!まだ閉店してないし!」
「誰かに任すとかさ!」
「わししかおらんねん!ヒーフー・・・ヒー」
「命は大事・・?」
「フーヒーフーヒー」
じいさんの呼吸がまずます怪しくなってきた。
僕は時計を見た。
「タクシー呼べ。シロー。2台!」
「はい!」
事務長やザッキーはじいさんをイスに座らせ、壁にもたれさせた。
「フーヒーヒー・・・コンコン!カアッ!」
「出して出して!」
ザッキーがティッシュで受け取る。
痰は出さなきゃいけない。そのため出た咳なのだから。
「ヴィーヴィー・・・・ヴォーヴォー・・・!ココン!」
喘鳴がひどくなってきた。
「タクシー捕まえました!」
シローが入り口をあけた。
「ひどいな・・救急車のほうがよかったのでは?」
「病院まで5分とかからん!いくぞ!」
僕らはじいさんを座位のまま、タクシーまで運んだ。
後部座席ドアが開く。
「どちらまで?」
「ハアハア。真田病院まで!」
「おいおい、すぐ近くじゃないか。歩いて・・」
「このじいさんは、病気なんです!」
じいさんは上を向いて呼吸している。
「びょ、病気の人を?もし途中で・・」
「途中は僕らが」
「は?」
「僕らは医者です。頼みます」
「そ、そっか。よし」
ラーメン店長の経験のある事務長は店に残り、閉店の努力をすることにした。
タクシーは病院へ向かった。
じいさんと僕とシロー、学生が乗る。
「トシキか!波多野さんって知ってるか?肺気腫の!そうそう!
今から向かう!」
僕は電話を切った。
シローは排痰を促がしながら呟いた。
「人工呼吸器は空いてますかね」
「じいさん、80か・・・」
じいさんは高齢だが、カラオケボックスの経営でしか食う手段が
なかった。真のQOLを重視して仕事を許可していたが・・・
やはり無理がありすぎた。外来主治医の僕にも責任がある。
「80歳で1人暮らし、人工呼吸器・・・」
「二酸化炭素、80mmHg以上あるのでは?」
「それはシローの勝手な推測だろ!・・そうかもな」
「挿管、人工呼吸器ですね」
「準備はいるな・・・待て。そうだ」
僕は病院へ電話した。
「あれを用意してくれ。そう」
また電話を切った。
「痰があるから、適応としてどうか・・・しかしそのほうが」
じいさんの着てる服は汗だくだ。
「何を用意してもらうんですか?」
学生が聞いてきた。
「病院に着くまで考えろ!」
「分かりません」
「<医者の無知は罪>だと、学校で習わなかったか?」
こんなこと言える立場かよ。ちょっと赤面した。
タクシーは病院の正門のタヌキ像(置物)を突き抜けていく。
酔ったザッキーがカラオケ本を開き、急かす。
「ええっと・・・これはまだ練習してないし」
学生は本気で悩んでいる。
「そんなおい、本気で歌わなくていいんだよ!」
「やっぱ、やめときます・・」
「ダメだ!うちではゲストが一番手なんだ!」
学生は仕方なく、リモコンの番号を押した。
「これ、あまり練習してないですから。聞き流してください。
♪ぼ!くらの生まれてくる、ずっとずっと!前にはもう!」
僕らが知らない歌だった。というか、まだ知らない歌だった。
学生は熱狂して歌う。
僕は飲み物の注文を終え、最後尾に着いた。
「新しい歌、医者になってからうとくなったよな・・」
「なんか、こう心のこもった歌がないよねえ!」
事務長は本をめくるが、新譜はチンプンカンのようだ。
「♪か〜わ〜ら〜ない!あいのす〜がたさがして〜るぅ〜!」
学生は完璧に歌いこなしていた。
「調子、ついてきました!2番目本領発揮!」
これが若さか・・!
「♪だいっと・・」
「お待たせしました!」
店のおじいさんが入ってきた。
「ええと!ジントニックのお客さんは!へいへい!」
威勢のいいおじいさんだ。
「じいさん。調子は?」
僕は病状を問うた。ここは肺気腫のじいさんが経営するボックスだ。
「ああどうも!すんませんいつも!」
じいさんは難聴で、学生の歌い続ける余地はなかった。
「おかげさんで、息のほうも楽で!プープー」
肩で息をしている。
「でも先生。こんなときくらいは酸素は引きずれませんわ!」
「したほうがええよ」
「そんなんしとったら、気味悪がられて嫌われてまうわ!プープー・・ヒーヒー」
じいさんの呼吸がおかしい。
僕は学生に耳打ちした。
「あのじいさんは、COPDで在宅酸素を・・」
「♪ほ〜んきでつきにいこうって!」
「こっち向け!」
「♪か〜んが〜え」
「ザッキー!カンチョーしろ!」
ザッキーは片手を突っ込んだ。
「♪た〜んにゃろめうわ!はい?」
「じいさんは肺気腫で、在宅酸素中なんだけどな。呼吸が荒いだろ」
「回数が多そうです」
「そして・・・浅い。浅促性の呼吸というやつだ。二酸化炭素が高い」
「もともとそうなんでしょう?」
「うん。だけど肩で息をしてる。これはちょっと・・」
じいさんはフラツキながら、皿を1つずつテーブルに置いた。
「いやいや。先生方が来られてると思うと、興奮してもて」
驚かそうと思ってきたのが、アダになったのか・・。僕は反省した。
「じいさ・・・波多野さん。ちょっと1回外来まで・・」
「あ、明日行きますわ!ヒーフーヒー」
「明日じゃちょっと心配だよ」
「カアッ!」
痰の喀出だ。
「シロー!ティッシュ!」
シローは紙をじいさんの口に当てた。緑色の痰。
じいさんの顔がそういや赤い。僕らが来て驚いたからでなく、
感染が背景にあるのでは・・・。
「波多野さん、やっぱ行こうよ!病院!」
僕は強引に勧めた。
「びょういん?今日はええですわ!まだ閉店してないし!」
「誰かに任すとかさ!」
「わししかおらんねん!ヒーフー・・・ヒー」
「命は大事・・?」
「フーヒーフーヒー」
じいさんの呼吸がまずます怪しくなってきた。
僕は時計を見た。
「タクシー呼べ。シロー。2台!」
「はい!」
事務長やザッキーはじいさんをイスに座らせ、壁にもたれさせた。
「フーヒーヒー・・・コンコン!カアッ!」
「出して出して!」
ザッキーがティッシュで受け取る。
痰は出さなきゃいけない。そのため出た咳なのだから。
「ヴィーヴィー・・・・ヴォーヴォー・・・!ココン!」
喘鳴がひどくなってきた。
「タクシー捕まえました!」
シローが入り口をあけた。
「ひどいな・・救急車のほうがよかったのでは?」
「病院まで5分とかからん!いくぞ!」
僕らはじいさんを座位のまま、タクシーまで運んだ。
後部座席ドアが開く。
「どちらまで?」
「ハアハア。真田病院まで!」
「おいおい、すぐ近くじゃないか。歩いて・・」
「このじいさんは、病気なんです!」
じいさんは上を向いて呼吸している。
「びょ、病気の人を?もし途中で・・」
「途中は僕らが」
「は?」
「僕らは医者です。頼みます」
「そ、そっか。よし」
ラーメン店長の経験のある事務長は店に残り、閉店の努力をすることにした。
タクシーは病院へ向かった。
じいさんと僕とシロー、学生が乗る。
「トシキか!波多野さんって知ってるか?肺気腫の!そうそう!
今から向かう!」
僕は電話を切った。
シローは排痰を促がしながら呟いた。
「人工呼吸器は空いてますかね」
「じいさん、80か・・・」
じいさんは高齢だが、カラオケボックスの経営でしか食う手段が
なかった。真のQOLを重視して仕事を許可していたが・・・
やはり無理がありすぎた。外来主治医の僕にも責任がある。
「80歳で1人暮らし、人工呼吸器・・・」
「二酸化炭素、80mmHg以上あるのでは?」
「それはシローの勝手な推測だろ!・・そうかもな」
「挿管、人工呼吸器ですね」
「準備はいるな・・・待て。そうだ」
僕は病院へ電話した。
「あれを用意してくれ。そう」
また電話を切った。
「痰があるから、適応としてどうか・・・しかしそのほうが」
じいさんの着てる服は汗だくだ。
「何を用意してもらうんですか?」
学生が聞いてきた。
「病院に着くまで考えろ!」
「分かりません」
「<医者の無知は罪>だと、学校で習わなかったか?」
こんなこと言える立場かよ。ちょっと赤面した。
タクシーは病院の正門のタヌキ像(置物)を突き抜けていく。
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