サンダル先生 ? ニップ・ネーザル
2005年9月14日救急室で動脈血の測定。
「pH 7.323 , pCO2 83mmHg , pO2 45mmHg!」
ザッキーが読み上げる。
「 pCO2 83mmHg も!挿管ですね!」
「おい、あれは?あれ!」
僕は点滴ラインを確保したところだ。
「トシキ!あれ!」
「病棟からナースが持ってきます。慌てずに」
採血した血液を各スピッツに分けながら、トシキは答えた。
「これが慌てずにいられるかよ!」
僕はアンビュー換気を数回、時々繰り返した。
シローはリザーバマスクを準備中。
ザッキーは勝手に挿管の準備をはじめた。
「ザッキー。何してんだよ!」
僕は問うた。
「何って・・・。自分が挿管しようと思いまして」
「そんな勝手な判断、その学年ですんな!」
「が、学年って・・」
ザッキーは呆れた。
「ありました!」
ナースが走ってきた。
「おせえんだよ!」
僕はそれを奪い、当てたばかりのリザーバマスクを外した。
「さ!これを!」
患者の顔にあてがったのは、ブタの鼻のような形の<NIPPV用マスク>
というやつだ。http://www.mmjp.or.jp/IMI/nippv.htm
鼻を覆うように、しっかりと密着させる。ヘッドギアで頭に固定。
「よし、流すぞ!Sモード(自発呼吸に同調)!」
かなり高い圧の気流が流れ出す。
波多野じいさんは少し顔をゆがめた。
「動脈血、また調べないとな。Aラインを手首から・・」
「しましたよ」
トシキは吊ったバッグを握り締めていた。
「先輩。落ち着いて」
「せっかちなのは、循環器ゆずりだ」
ザッキーは挿管チューブを持って立ち尽くしている。
「エビデンスあるんですか?それ・・あまりないって」
「なんか言ったか?カーター!」
僕は彼に振り向いた。
「エビデンスエビデンスって、お前らの世代はうるさいよ」
「実験段階のものでしょ?」
「症例がいろいろ異なるから、ニップの研究はもっぱら症例報告に頼るんだよ!」
学生は本をパラパラめくっているが、どこにも載ってないようだ。
「ニップ、ニップ・・」
http://www.aikoukai.or.jp/kokyu3.htm
「北野くん。最近の本にしか載ってないよ」
僕は患者の呼吸状態を確認しながら、病棟へ運ぶ手はずを整えた。
「じゃ、行こう。主治医はどうする?医長さん」
トシキはモバイルをペンで押していた。
「患者数は、ユウキ先生58人、僕が53人、シローが34人、ザッキーが7人・・
ザッキー。どうだ?」
「え?僕ですか・・」
ザッキーはあまり気が進まない。
「ニップはあまり勉強してないし」
「今日徹夜して、勉強すればいい」
医長はシビアだ。
「やめときます」
「なに?」
トシキの顔がひきつった。
「僕としましては胸部内科のスタンダードから学びたいので」
「患者を選べる立場?」
「ではないですけど・・・」
「・・・・じゃ、ユウキ先生」
このじいさんは僕が外来で見ていた方なので、僕が受け持って当然だ。
ただトシキは、レジデント2年目としてのザッキーの積極性を見たかったようだ。
事務長が戻ってきた。
「なかなか帰らない客がいて大変でしたよ」
「事務長。ニップネ−ザルのマスク。鼻用しかない。フェイスマスクを取り寄せててくれ」
「ニューフェイス?」
「フェイスマスクだよ。鼻だけでなく口も覆うやつ」
「はいはい」
「はい、は1回」
「・・はい」
重症部屋でもう1度動脈血を見届け、医局へ戻った。
学生以外のスタッフはみな帰っている。
「ふう・・・もう2時かよ」
僕は医局の冷蔵庫を開けた。
「なんにもないぞ!ったく!」
ドアを閉めて振り向くと、学生が立っている。
「も、帰れよ。今日は」
「帰るとこが・・」
「見学に来たなら、どっかホテル予約しとけよ」
「ここでは・・ダメですか?」
「医局に泊まる・・・か。ご自由に」
僕は白衣を脱ぎ荷物を抱え、帰る支度をした。
「せ、先生!」
「なに?」
「医局の本でちょこっと読みました。さきほどのニップネーザル」
「ああ。何の略?」
「ひ、しんしゅうてきようあつかんき」
「非侵襲的陽圧換気=非侵襲的陽圧人工呼吸」
「そうですね」
「人工呼吸器を使わず、気道を陽圧に保つ呼吸だよな」
「そうですね」
「なんだよ。<そうですね>ばっかり。笑っていいとも、かよ?」
「え?笑ってません。笑ってる顔に見えますか?」
なにかとムカつくな・・・。
「どあるう。じゃ、宿題だ。NIPPVの利点について調べて提出せよ」
「いつまでですか?」
「明日の。いや、今日だな・・の、朝」
「え?もうあと6時間くらいしか」
「やれよ!」
僕は足でドアをスライドした。
「じゃあな。シャランラ!」
人工呼吸器はなんとか装着せずにすんだ。
ここの解説が詳しくて丁寧。
http://www.ne.jp/asahi/nishi-kobe/masui/nppv/nppv.htm
こうして長い月曜日は終わった。
「pH 7.323 , pCO2 83mmHg , pO2 45mmHg!」
ザッキーが読み上げる。
「 pCO2 83mmHg も!挿管ですね!」
「おい、あれは?あれ!」
僕は点滴ラインを確保したところだ。
「トシキ!あれ!」
「病棟からナースが持ってきます。慌てずに」
採血した血液を各スピッツに分けながら、トシキは答えた。
「これが慌てずにいられるかよ!」
僕はアンビュー換気を数回、時々繰り返した。
シローはリザーバマスクを準備中。
ザッキーは勝手に挿管の準備をはじめた。
「ザッキー。何してんだよ!」
僕は問うた。
「何って・・・。自分が挿管しようと思いまして」
「そんな勝手な判断、その学年ですんな!」
「が、学年って・・」
ザッキーは呆れた。
「ありました!」
ナースが走ってきた。
「おせえんだよ!」
僕はそれを奪い、当てたばかりのリザーバマスクを外した。
「さ!これを!」
患者の顔にあてがったのは、ブタの鼻のような形の<NIPPV用マスク>
というやつだ。http://www.mmjp.or.jp/IMI/nippv.htm
鼻を覆うように、しっかりと密着させる。ヘッドギアで頭に固定。
「よし、流すぞ!Sモード(自発呼吸に同調)!」
かなり高い圧の気流が流れ出す。
波多野じいさんは少し顔をゆがめた。
「動脈血、また調べないとな。Aラインを手首から・・」
「しましたよ」
トシキは吊ったバッグを握り締めていた。
「先輩。落ち着いて」
「せっかちなのは、循環器ゆずりだ」
ザッキーは挿管チューブを持って立ち尽くしている。
「エビデンスあるんですか?それ・・あまりないって」
「なんか言ったか?カーター!」
僕は彼に振り向いた。
「エビデンスエビデンスって、お前らの世代はうるさいよ」
「実験段階のものでしょ?」
「症例がいろいろ異なるから、ニップの研究はもっぱら症例報告に頼るんだよ!」
学生は本をパラパラめくっているが、どこにも載ってないようだ。
「ニップ、ニップ・・」
http://www.aikoukai.or.jp/kokyu3.htm
「北野くん。最近の本にしか載ってないよ」
僕は患者の呼吸状態を確認しながら、病棟へ運ぶ手はずを整えた。
「じゃ、行こう。主治医はどうする?医長さん」
トシキはモバイルをペンで押していた。
「患者数は、ユウキ先生58人、僕が53人、シローが34人、ザッキーが7人・・
ザッキー。どうだ?」
「え?僕ですか・・」
ザッキーはあまり気が進まない。
「ニップはあまり勉強してないし」
「今日徹夜して、勉強すればいい」
医長はシビアだ。
「やめときます」
「なに?」
トシキの顔がひきつった。
「僕としましては胸部内科のスタンダードから学びたいので」
「患者を選べる立場?」
「ではないですけど・・・」
「・・・・じゃ、ユウキ先生」
このじいさんは僕が外来で見ていた方なので、僕が受け持って当然だ。
ただトシキは、レジデント2年目としてのザッキーの積極性を見たかったようだ。
事務長が戻ってきた。
「なかなか帰らない客がいて大変でしたよ」
「事務長。ニップネ−ザルのマスク。鼻用しかない。フェイスマスクを取り寄せててくれ」
「ニューフェイス?」
「フェイスマスクだよ。鼻だけでなく口も覆うやつ」
「はいはい」
「はい、は1回」
「・・はい」
重症部屋でもう1度動脈血を見届け、医局へ戻った。
学生以外のスタッフはみな帰っている。
「ふう・・・もう2時かよ」
僕は医局の冷蔵庫を開けた。
「なんにもないぞ!ったく!」
ドアを閉めて振り向くと、学生が立っている。
「も、帰れよ。今日は」
「帰るとこが・・」
「見学に来たなら、どっかホテル予約しとけよ」
「ここでは・・ダメですか?」
「医局に泊まる・・・か。ご自由に」
僕は白衣を脱ぎ荷物を抱え、帰る支度をした。
「せ、先生!」
「なに?」
「医局の本でちょこっと読みました。さきほどのニップネーザル」
「ああ。何の略?」
「ひ、しんしゅうてきようあつかんき」
「非侵襲的陽圧換気=非侵襲的陽圧人工呼吸」
「そうですね」
「人工呼吸器を使わず、気道を陽圧に保つ呼吸だよな」
「そうですね」
「なんだよ。<そうですね>ばっかり。笑っていいとも、かよ?」
「え?笑ってません。笑ってる顔に見えますか?」
なにかとムカつくな・・・。
「どあるう。じゃ、宿題だ。NIPPVの利点について調べて提出せよ」
「いつまでですか?」
「明日の。いや、今日だな・・の、朝」
「え?もうあと6時間くらいしか」
「やれよ!」
僕は足でドアをスライドした。
「じゃあな。シャランラ!」
人工呼吸器はなんとか装着せずにすんだ。
ここの解説が詳しくて丁寧。
http://www.ne.jp/asahi/nishi-kobe/masui/nppv/nppv.htm
こうして長い月曜日は終わった。
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