サンダル2 ? 気配
2005年9月20日僧房弁逆流はあるが程度は小さく、左心房の拡大もない。
「手元をすこしひねると、この画面は・・」
4つ部屋の映っていた心臓は、左心室・左心房の2つ部屋に。
「これで、左心室下壁をもう一度評価・・と。問題ないな。次は」
左心室の入り口、つまり僧房弁口に照準を合わせ、スイッチオン。
<ザア、ザア>という音が出てくる。
画面には2つの山が繰り返し出現。
「パルスドプラーだ。この2つの山の高低で、拡張障害を遠まわしに
推定する」
学生は無言で、理解をすでに超えていた。僕はそれ以上の説明はやめた。
最後に、みぞおちにプローブを当てる。
「肝臓と心臓の間をみる。下大静脈径を確認。右心系への負荷があれば、
拡張が・・」
「あの先生。気管支鏡を見に行きたいのですが」
「こっちはおい、まだ終わってないぞ?」
「9時半になるので・・」
「あのなあ・・」
「はい?」
「はいよ。行きな!」
「はい!」
まあいい。いちいち説明する手間が省けたから、こっちのペースでやれる。
あの男、いっぺん自衛隊とかで鍛えなおしてもらわんとな・・。
次の人。44歳女性。トシキからの紹介。PSSで、PH(肺高血圧)の確認。
膠原病とCOPDは、定期的に肺高血圧をチェックする必要がある。
左心室から。あくまでもワンパターンの順序でだ。しかし漫然と見るようになると
肝心なものを見落とす。何を見たいのか常に考え、予想しながらやらないと。
それは腹部エコーや血管造影、どの検査も同じだ。
「左心系(左心房〜左心室)は異常なし」
チクワの画面へ。この画面を左心室の根元へ辿っていくと・・・。
真ん中に大動脈弁が現れる。その周囲に左心房や右心房が出現。
右心室ー肺動脈の境界が映る。その間にある弁が、肺動脈弁。
カラー画面(カラードプラ)に切り替え。
「肺動脈の拡張はなし」
画面をずらし、右心室ー右心房間の<三尖弁>を観察。
「逆流は・・・若干か」
三尖弁逆流より、自動的に肺動脈収縮期圧を測定。
逆流があれば、この測定は必須だ。
「以上!」
患者が着替えている間、カーテン挟んだ向こうの冷蔵庫からお茶。飲む。
「ふー・・9:50か」
次の検査の患者のカルテを先読み。
「スクリーニングか。51歳男性で外科から紹介。安静時心電図でST低下・・?」
心電図ではそのような所見はない。この時点で間違っている。
だが受けた依頼だ。いちおう、やらないと。
他科からの紹介は気を使う。
「じゃ、どうぞ」
左心室縦切り画面(長軸像)・・・壁運動良好、左心室内腔サイズ正常範囲。
「ちなみにタバコを?」
「吸わない」
「以前は?」
「吸ってた」
「1日1箱?」
「そんなときもあったな」
チクワ様画像(短軸像)・・・これも同様。周囲に心のう液貯留なし。
「血液でコレステロールと中性脂肪が高い。酒は?」
「飲みますわ。でもあまり多くない」
「たまに2〜3合を?」
「たまにはな」
「週に3回?」
「まあ2回かな」
たま、ではないな。
4腔断面像、ひねって2腔断面像はさきほどと同じ。異常ない。
カラーでも逆流ない。引き続き、パルスドプラー。
正常パターン。
肝臓ー心臓間を見るついでに、こっそり胆のうをのぞく。
すると・・・胆石らしきものあり。1年チェックしてないようで、前回の
所見と比較すると大きくなってるようだ。
あくまで心臓超音波検査だ。結果報告書に心臓の結果だけを書き・・
外科外来あてにメモを1つつける。
<偶然プローブが肝臓周囲を当たったとき、胆石らしきものが見えました>
「あとは頼んだ。次はと!」
31歳。ブルガダ症候群。心電図でトシキが発見。超音波では異常なしで経過観察中。
失神などの自覚症状はなく、治療は特にやってない。定期的な検査に通ってもらってるだけだ。
というか、通ってもらわないと僕らとしては不安だ。サドンデスが心配な疾患だ。
「横になって。どうもない?」
「ええ。何も」
彼はケロッとしている。
左室長軸、短軸。異常なし。4、2腔断面も、カラードプラも。パルスドプラも。
「異常ないな・・」
「やはり今後も通うべきでしょうか?」
「ええ」
「来るたびに異常ない、ばっかりなのに」
「異常がないっていう言葉は、ないと分かってはじめて言えることなんです」
「わかりました。今後も通います」
僕は使い慣れた言葉を残し、手洗いへ。
合間に病棟から連絡。
「今は超音波。無理だよ。行けない。そこに誰かいるか?シローは?
そうか。気管支鏡だなあいつ。消毒ならそうだな。ザッキーに頼んでくれ」
すかさず次の検査へ。
11時が近くなると日勤ナースがあれこれ気づき始め、報告が来る。しかし
検査所見などに目を通してない段階でもあり、とりあえずの指示しか出せない
のが常だ。
「尿量?腎機能の結果は?出てる?持ってきてくれよ」
「IVH?それは明日だろ?カルテを見たのか?」
「手が放せない」
何度もPHSに出たり、切ったり。そのたびプローブから放す手がもどかしい。
「お医者さんも大変でんな」
ばあさんが壁のほうに向かって微笑んでいた。
「いえいえ。みな大変ですよ・・あ、そのまま!」
時間がなく、右手で超音波操作、左手で次の患者のカルテを一瞥。
そして時計とにらめっこ。振り向くと中待合で貧乏ゆすりしてる患者。
数々のプレッシャーが常にある。それでも今日は、まだ楽なほうだった。
「あ!」
紙がなくなっている。超音波検査で撮影した写真を撮るための。
「おいおい!」
周囲を探すが、ない。
「たかが紙ごときで!されど紙!」
空箱だらけだ。こんなつまらんことで・・しかしよくあることだ。PHSで外来へ。
「紙、持ってきてくれ!ふう・・」
とりあえず、途中までの所見を記入。患者は寝かせたまま。
「すみません。ちょっとだけ時間を・・」
「はいはい」
おばさんナースが入ってきた。
「ペーパーね」
「おい!」
僕はあきれ返った。彼女が持ってきたのはトイレットペーパーだ。
「何やってんだよ!」
「え?だって紙・・・ペーパー」
「紙もペーパーだろうが!」
「違いますの?」
「オレが言ったのはほら!超音波検査の紙だよ!だる・・」
「ふーん・・あたしゃ、病棟から外来に降ろさたばっかりなもんで・・」
「理由かよ?」
「よう分からん。先生、下まで取りに行って!」
「しょうがねえなあ。もう・・!」
僕はイライラしながら廊下へ出ようとした。
「あ!看護師さんは患者さんと話してて!」
そう命じて、降りた。
外来へ行く途中、近くの内視鏡室のドアがせわしく開いたり閉まったりしている。
こういう慌しい気配を感じたら向かうクセが大事だ。
「手元をすこしひねると、この画面は・・」
4つ部屋の映っていた心臓は、左心室・左心房の2つ部屋に。
「これで、左心室下壁をもう一度評価・・と。問題ないな。次は」
左心室の入り口、つまり僧房弁口に照準を合わせ、スイッチオン。
<ザア、ザア>という音が出てくる。
画面には2つの山が繰り返し出現。
「パルスドプラーだ。この2つの山の高低で、拡張障害を遠まわしに
推定する」
学生は無言で、理解をすでに超えていた。僕はそれ以上の説明はやめた。
最後に、みぞおちにプローブを当てる。
「肝臓と心臓の間をみる。下大静脈径を確認。右心系への負荷があれば、
拡張が・・」
「あの先生。気管支鏡を見に行きたいのですが」
「こっちはおい、まだ終わってないぞ?」
「9時半になるので・・」
「あのなあ・・」
「はい?」
「はいよ。行きな!」
「はい!」
まあいい。いちいち説明する手間が省けたから、こっちのペースでやれる。
あの男、いっぺん自衛隊とかで鍛えなおしてもらわんとな・・。
次の人。44歳女性。トシキからの紹介。PSSで、PH(肺高血圧)の確認。
膠原病とCOPDは、定期的に肺高血圧をチェックする必要がある。
左心室から。あくまでもワンパターンの順序でだ。しかし漫然と見るようになると
肝心なものを見落とす。何を見たいのか常に考え、予想しながらやらないと。
それは腹部エコーや血管造影、どの検査も同じだ。
「左心系(左心房〜左心室)は異常なし」
チクワの画面へ。この画面を左心室の根元へ辿っていくと・・・。
真ん中に大動脈弁が現れる。その周囲に左心房や右心房が出現。
右心室ー肺動脈の境界が映る。その間にある弁が、肺動脈弁。
カラー画面(カラードプラ)に切り替え。
「肺動脈の拡張はなし」
画面をずらし、右心室ー右心房間の<三尖弁>を観察。
「逆流は・・・若干か」
三尖弁逆流より、自動的に肺動脈収縮期圧を測定。
逆流があれば、この測定は必須だ。
「以上!」
患者が着替えている間、カーテン挟んだ向こうの冷蔵庫からお茶。飲む。
「ふー・・9:50か」
次の検査の患者のカルテを先読み。
「スクリーニングか。51歳男性で外科から紹介。安静時心電図でST低下・・?」
心電図ではそのような所見はない。この時点で間違っている。
だが受けた依頼だ。いちおう、やらないと。
他科からの紹介は気を使う。
「じゃ、どうぞ」
左心室縦切り画面(長軸像)・・・壁運動良好、左心室内腔サイズ正常範囲。
「ちなみにタバコを?」
「吸わない」
「以前は?」
「吸ってた」
「1日1箱?」
「そんなときもあったな」
チクワ様画像(短軸像)・・・これも同様。周囲に心のう液貯留なし。
「血液でコレステロールと中性脂肪が高い。酒は?」
「飲みますわ。でもあまり多くない」
「たまに2〜3合を?」
「たまにはな」
「週に3回?」
「まあ2回かな」
たま、ではないな。
4腔断面像、ひねって2腔断面像はさきほどと同じ。異常ない。
カラーでも逆流ない。引き続き、パルスドプラー。
正常パターン。
肝臓ー心臓間を見るついでに、こっそり胆のうをのぞく。
すると・・・胆石らしきものあり。1年チェックしてないようで、前回の
所見と比較すると大きくなってるようだ。
あくまで心臓超音波検査だ。結果報告書に心臓の結果だけを書き・・
外科外来あてにメモを1つつける。
<偶然プローブが肝臓周囲を当たったとき、胆石らしきものが見えました>
「あとは頼んだ。次はと!」
31歳。ブルガダ症候群。心電図でトシキが発見。超音波では異常なしで経過観察中。
失神などの自覚症状はなく、治療は特にやってない。定期的な検査に通ってもらってるだけだ。
というか、通ってもらわないと僕らとしては不安だ。サドンデスが心配な疾患だ。
「横になって。どうもない?」
「ええ。何も」
彼はケロッとしている。
左室長軸、短軸。異常なし。4、2腔断面も、カラードプラも。パルスドプラも。
「異常ないな・・」
「やはり今後も通うべきでしょうか?」
「ええ」
「来るたびに異常ない、ばっかりなのに」
「異常がないっていう言葉は、ないと分かってはじめて言えることなんです」
「わかりました。今後も通います」
僕は使い慣れた言葉を残し、手洗いへ。
合間に病棟から連絡。
「今は超音波。無理だよ。行けない。そこに誰かいるか?シローは?
そうか。気管支鏡だなあいつ。消毒ならそうだな。ザッキーに頼んでくれ」
すかさず次の検査へ。
11時が近くなると日勤ナースがあれこれ気づき始め、報告が来る。しかし
検査所見などに目を通してない段階でもあり、とりあえずの指示しか出せない
のが常だ。
「尿量?腎機能の結果は?出てる?持ってきてくれよ」
「IVH?それは明日だろ?カルテを見たのか?」
「手が放せない」
何度もPHSに出たり、切ったり。そのたびプローブから放す手がもどかしい。
「お医者さんも大変でんな」
ばあさんが壁のほうに向かって微笑んでいた。
「いえいえ。みな大変ですよ・・あ、そのまま!」
時間がなく、右手で超音波操作、左手で次の患者のカルテを一瞥。
そして時計とにらめっこ。振り向くと中待合で貧乏ゆすりしてる患者。
数々のプレッシャーが常にある。それでも今日は、まだ楽なほうだった。
「あ!」
紙がなくなっている。超音波検査で撮影した写真を撮るための。
「おいおい!」
周囲を探すが、ない。
「たかが紙ごときで!されど紙!」
空箱だらけだ。こんなつまらんことで・・しかしよくあることだ。PHSで外来へ。
「紙、持ってきてくれ!ふう・・」
とりあえず、途中までの所見を記入。患者は寝かせたまま。
「すみません。ちょっとだけ時間を・・」
「はいはい」
おばさんナースが入ってきた。
「ペーパーね」
「おい!」
僕はあきれ返った。彼女が持ってきたのはトイレットペーパーだ。
「何やってんだよ!」
「え?だって紙・・・ペーパー」
「紙もペーパーだろうが!」
「違いますの?」
「オレが言ったのはほら!超音波検査の紙だよ!だる・・」
「ふーん・・あたしゃ、病棟から外来に降ろさたばっかりなもんで・・」
「理由かよ?」
「よう分からん。先生、下まで取りに行って!」
「しょうがねえなあ。もう・・!」
僕はイライラしながら廊下へ出ようとした。
「あ!看護師さんは患者さんと話してて!」
そう命じて、降りた。
外来へ行く途中、近くの内視鏡室のドアがせわしく開いたり閉まったりしている。
こういう慌しい気配を感じたら向かうクセが大事だ。
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