サンダル2 ? 愚痴グチTUESDAY
2005年9月29日「ふう・・・」
僕はこりもせず、また医局の冷蔵庫を開けた。
「なんにもないな、この医局は・・北野は、バンメシは?」
「バンメシ・・・?」
「ディナーだよ!」
「いえ、まだ・・・」
僕は医局の壁に張ってあるビラを眺めた。
「・・・ピザとろう。ピザ!」
「時間がもう・・」
「あ、そうか・・・」
「何か、買ってきましょうか?」
「うーん・・・」
かなりの空腹感だ。
「吉野家で弁当、買ってきてくれ」
「ええ」
「牛丼はもう、食い飽きたけどな・・・」
「では、近所ですので歩いて行ってきます」
「頼む。味噌汁もな。こぼすなよ!」
この頃吉野家にはまだ牛丼があった。
僕はパソコンを開いた。この頃からメールなどさかんにするようになった。
受診メール・・・5件。ゴミはポイして、と。
1件・・・これは循環器の、ある権威の先生だ。
メールを開く。
『早速、お答えいたします』ときてる。
そうだった。先日この先生に質問を送ったんだ。
この権威の先生はある講演会で質問→懇親会で会話→そこで難しい質問→返事またください、とメルアド教える、
という過程で強引に知り合いになった。
僕の本当の目的は、どうしてもという質問があったときにこの先生を利用、いや活用することで問題の
解決を図りたかった。
というのは、うちの病院は医師スタッフがみな若いが日々の仕事に追われ、講演会などほとんど出席もできず、
相談する相手に恵まれていない。若いスタッフだけで結論を出し続けるのは危険だ。
そこで、難症例があったときはこのドクターに、密かに相談していた。いつかみんなにも教えるつもりだが。
『早速、お答えいたします。slow VTは虚血性心疾患の存在を示唆します。先生のご指摘の通りです』
ジェントルだな、この人。アカデミックは違うなあ。
『私も講演のついでに各病院の先生がたとディスカッションしましたが、結論としては必ずしも対処の必要はないということです』
こ、この先生、そこまでしてくれて・・・。
『意義はともかく、治療については結論が出ていないのです。なので、そのときの患者さんの状態に応じて対処するべきものと思います。と、ふだんはこのようにしてごまかしております』
おいおい・・。
『また新たな意見などあれば返信させていただきます』
そっか・・・。ありがとう。感謝のメールを送った。
「便利便利!」
僕はメールを閉じた。
デスクトップに、見たことないファイルがある。題名が書いていない。
「これ、要らないやつか?」
クリックするが、パスワードが必要らしい。
「やめとこ・・・」
あれから1時間。
「北野、遅いな・・・」
仕方ないので、机の上の診断書を1枚ずつ書き始めた。
「?」
カルテとカルテの間に封書。
「これは・・・振込用紙?」
よく見ると、学会の会費振込み用紙だ。学会には最近全く出席してないから、毎月送られてくる学会誌の料金を払ってるようなもんだ。
今のように1人でもなかなか抜け出せない職場だと、学会などフルには出席できない。学会は通常2−3日はある。理想的にはちゃんとしたホテルを予約してエレガントに出席したいものだ。
病院から学会の交通費・参加費は出してくれるのが常なので、利用しないと損な気がする。だが外来を休みにするのも患者に申し訳ない・・。
内科専門認定医を取得したトシキは、単位取得に追われている。どんなつまらない地方講演でも必死に参加している。ひどいときは終了ぎりぎりに参加して、参加証だけもらって帰ったらしい。
この前はビデオを送ってもらったとか言ってたな?
認定更新も、大変だな・・・。
「北野はまだか、くそ!」
テレビをつけ、ソファになだれ込んだ。睡魔が襲ってきそうだ。
ガラッ、と医局のドアが開く。見たことあるような中年だ。眼科の・・そうか、当直医。
「・・・ここにいると聞いたんで」
「え?オレ?」
「うん。いいかな」
メガネでオタクっぽい彼は、シマシマくんのTシャツだ。
「喘息発作で息苦しいって患者さんがね」
「カルテは?」
「あっちゃあ、カルテは下だ!」
わざとらしい。いっしょに見に来いという催促だろう。
「いつもの点滴してくれって来たんだ。発作はいつからですか、って聞いたら『2日前から』だって言うんだよ。どうして昼間に来ないんですかって言ったら、なんかその?つまり?」
「・・・・・・・・」
「あれ?どこまで言ったっけ?」
「・・・・・・・・」
「よかったら、診てくれないかな」
「しゃあないな・・・行くわ」
「じゃ、よろしく!」
眼科医はとたん笑顔になり、ソファにかけようとした。
「おいおい!」
「え?」
「先生も来るんだよ!」
僕は眼科医も連れて、救急外来へと降りた。金もらって当直してんだから、少しは経験してもらわないとな。
部屋に入ると、25歳くらいの男性だった。肩で呼吸をしている。
聴診したあと、僕は点滴を用意した。当直ナースは今日はハズレの奴だ。以前指導しようとしたが、ダメだった。悲しいことだが、やる気のない人間には何度指導しても無駄だ。
サクシゾンの点滴を300mg。喘息の患者は比較的若年で、治療内容を感覚的に把握している人も多い。なので治療内容を細かく伝えて同意を得た上で行っている。当然のことだが、夜間の救急というのはドクター→患者への一方通行になりやすいので要注意だ。「ぼくの決めた治療をするから、黙って受けて。終わったら帰って」的な態度にならぬよう。
「ね!先生!」
眼科医が腕を組んでいる。
「なに?」
「僕はもう・・いいだろ?帰っても!」
「怒鳴るなよ、ここで・・・!」
眼科医は怒って帰っていった。
どうやら関心はないようだ。
点滴中。SpO2 91 → 95% へと落ち着きつつある。
「苦しさは・・?」
「マシです!」
「ふう。点滴が終わったらそのボタンを押して」
呼び鈴を渡し、医局へ戻る。
戻ると・・ソファで北野が寝ていた。
机の上に牛丼弁当。
午前0時を過ぎている。
「今日はもう・・・ここで寝るか」
北野をさしおいて、パクパク食べる弁当。
だる。
思い出したように弁当を放り投げ、外来へ降りる。
ちょうど点滴が終わりかけ。
終わり近くまで見届け、聴診。
少し音は残っているが・・。呼吸はよさそうだし、改めて
昼間の外来受診とする。この患者の外来主治医は・・・
トシキか。
「じゃ、おやすみ!」
患者を送り出し、再び医局へ。かなりバテている。
荷物を背負い、今度こそ・・。
「じゃあな。北野。シャランラ・・」
タイムカードを押しなおし、廊下へ出た。
「ああ、明日は忙しいのに・・」
午前中外来、昼過ぎ総回診、カテーテル検査2例、夜また外来・・。
なので患者の回診を早朝に行う予定。
表玄関から出ようとすると、カチャ、という音・・。
ナースが出てきた。また救急が来るんだろうか。
僕はスッと振り向き、裏口へゆっくり歩いた。
背後ではナースが1人何やらあわてている。
「体がもたんぜ!」
僕は裏口から駐車場へ出て、マーク?に乗った。
「頑張れよ!眼科医!」
キュキュキューブウウウウンとマフラーが吼え、急発進。
はああ(あくび)・・・。
だる。
僕はこりもせず、また医局の冷蔵庫を開けた。
「なんにもないな、この医局は・・北野は、バンメシは?」
「バンメシ・・・?」
「ディナーだよ!」
「いえ、まだ・・・」
僕は医局の壁に張ってあるビラを眺めた。
「・・・ピザとろう。ピザ!」
「時間がもう・・」
「あ、そうか・・・」
「何か、買ってきましょうか?」
「うーん・・・」
かなりの空腹感だ。
「吉野家で弁当、買ってきてくれ」
「ええ」
「牛丼はもう、食い飽きたけどな・・・」
「では、近所ですので歩いて行ってきます」
「頼む。味噌汁もな。こぼすなよ!」
この頃吉野家にはまだ牛丼があった。
僕はパソコンを開いた。この頃からメールなどさかんにするようになった。
受診メール・・・5件。ゴミはポイして、と。
1件・・・これは循環器の、ある権威の先生だ。
メールを開く。
『早速、お答えいたします』ときてる。
そうだった。先日この先生に質問を送ったんだ。
この権威の先生はある講演会で質問→懇親会で会話→そこで難しい質問→返事またください、とメルアド教える、
という過程で強引に知り合いになった。
僕の本当の目的は、どうしてもという質問があったときにこの先生を利用、いや活用することで問題の
解決を図りたかった。
というのは、うちの病院は医師スタッフがみな若いが日々の仕事に追われ、講演会などほとんど出席もできず、
相談する相手に恵まれていない。若いスタッフだけで結論を出し続けるのは危険だ。
そこで、難症例があったときはこのドクターに、密かに相談していた。いつかみんなにも教えるつもりだが。
『早速、お答えいたします。slow VTは虚血性心疾患の存在を示唆します。先生のご指摘の通りです』
ジェントルだな、この人。アカデミックは違うなあ。
『私も講演のついでに各病院の先生がたとディスカッションしましたが、結論としては必ずしも対処の必要はないということです』
こ、この先生、そこまでしてくれて・・・。
『意義はともかく、治療については結論が出ていないのです。なので、そのときの患者さんの状態に応じて対処するべきものと思います。と、ふだんはこのようにしてごまかしております』
おいおい・・。
『また新たな意見などあれば返信させていただきます』
そっか・・・。ありがとう。感謝のメールを送った。
「便利便利!」
僕はメールを閉じた。
デスクトップに、見たことないファイルがある。題名が書いていない。
「これ、要らないやつか?」
クリックするが、パスワードが必要らしい。
「やめとこ・・・」
あれから1時間。
「北野、遅いな・・・」
仕方ないので、机の上の診断書を1枚ずつ書き始めた。
「?」
カルテとカルテの間に封書。
「これは・・・振込用紙?」
よく見ると、学会の会費振込み用紙だ。学会には最近全く出席してないから、毎月送られてくる学会誌の料金を払ってるようなもんだ。
今のように1人でもなかなか抜け出せない職場だと、学会などフルには出席できない。学会は通常2−3日はある。理想的にはちゃんとしたホテルを予約してエレガントに出席したいものだ。
病院から学会の交通費・参加費は出してくれるのが常なので、利用しないと損な気がする。だが外来を休みにするのも患者に申し訳ない・・。
内科専門認定医を取得したトシキは、単位取得に追われている。どんなつまらない地方講演でも必死に参加している。ひどいときは終了ぎりぎりに参加して、参加証だけもらって帰ったらしい。
この前はビデオを送ってもらったとか言ってたな?
認定更新も、大変だな・・・。
「北野はまだか、くそ!」
テレビをつけ、ソファになだれ込んだ。睡魔が襲ってきそうだ。
ガラッ、と医局のドアが開く。見たことあるような中年だ。眼科の・・そうか、当直医。
「・・・ここにいると聞いたんで」
「え?オレ?」
「うん。いいかな」
メガネでオタクっぽい彼は、シマシマくんのTシャツだ。
「喘息発作で息苦しいって患者さんがね」
「カルテは?」
「あっちゃあ、カルテは下だ!」
わざとらしい。いっしょに見に来いという催促だろう。
「いつもの点滴してくれって来たんだ。発作はいつからですか、って聞いたら『2日前から』だって言うんだよ。どうして昼間に来ないんですかって言ったら、なんかその?つまり?」
「・・・・・・・・」
「あれ?どこまで言ったっけ?」
「・・・・・・・・」
「よかったら、診てくれないかな」
「しゃあないな・・・行くわ」
「じゃ、よろしく!」
眼科医はとたん笑顔になり、ソファにかけようとした。
「おいおい!」
「え?」
「先生も来るんだよ!」
僕は眼科医も連れて、救急外来へと降りた。金もらって当直してんだから、少しは経験してもらわないとな。
部屋に入ると、25歳くらいの男性だった。肩で呼吸をしている。
聴診したあと、僕は点滴を用意した。当直ナースは今日はハズレの奴だ。以前指導しようとしたが、ダメだった。悲しいことだが、やる気のない人間には何度指導しても無駄だ。
サクシゾンの点滴を300mg。喘息の患者は比較的若年で、治療内容を感覚的に把握している人も多い。なので治療内容を細かく伝えて同意を得た上で行っている。当然のことだが、夜間の救急というのはドクター→患者への一方通行になりやすいので要注意だ。「ぼくの決めた治療をするから、黙って受けて。終わったら帰って」的な態度にならぬよう。
「ね!先生!」
眼科医が腕を組んでいる。
「なに?」
「僕はもう・・いいだろ?帰っても!」
「怒鳴るなよ、ここで・・・!」
眼科医は怒って帰っていった。
どうやら関心はないようだ。
点滴中。SpO2 91 → 95% へと落ち着きつつある。
「苦しさは・・?」
「マシです!」
「ふう。点滴が終わったらそのボタンを押して」
呼び鈴を渡し、医局へ戻る。
戻ると・・ソファで北野が寝ていた。
机の上に牛丼弁当。
午前0時を過ぎている。
「今日はもう・・・ここで寝るか」
北野をさしおいて、パクパク食べる弁当。
だる。
思い出したように弁当を放り投げ、外来へ降りる。
ちょうど点滴が終わりかけ。
終わり近くまで見届け、聴診。
少し音は残っているが・・。呼吸はよさそうだし、改めて
昼間の外来受診とする。この患者の外来主治医は・・・
トシキか。
「じゃ、おやすみ!」
患者を送り出し、再び医局へ。かなりバテている。
荷物を背負い、今度こそ・・。
「じゃあな。北野。シャランラ・・」
タイムカードを押しなおし、廊下へ出た。
「ああ、明日は忙しいのに・・」
午前中外来、昼過ぎ総回診、カテーテル検査2例、夜また外来・・。
なので患者の回診を早朝に行う予定。
表玄関から出ようとすると、カチャ、という音・・。
ナースが出てきた。また救急が来るんだろうか。
僕はスッと振り向き、裏口へゆっくり歩いた。
背後ではナースが1人何やらあわてている。
「体がもたんぜ!」
僕は裏口から駐車場へ出て、マーク?に乗った。
「頑張れよ!眼科医!」
キュキュキューブウウウウンとマフラーが吼え、急発進。
はああ(あくび)・・・。
だる。
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