ダル3 ? 午前診 ?
2005年10月4日今日はベテラン中年ナースがつく。
「20冊ほど・・」
「はいはい、わかったよ!」
ストンと席につき、上の1冊を取る。
「先生、まず左のから」
「?」
それ以前に、左手のほうに1冊あった。
「これは・・?」
「飛び入りですが、緊急的なので」
「わかった。熱は38.6℃か。入って!」
ナースがドアを開け、20代女性が夫とおぼしき人に支えられている。
「ノドが痛い・・」
「いつから?」
「2日前・・いや5日前・・」
咽頭の発赤は高度。リンパ節は頸部含め腫大。熱感著明だ。
「これを」
指先で酸素飽和度測定。95%か。微妙だな・・。
「胸の音を」
聴診していると、学生が覗き込んだ。
「どうですか?」
「あのなあ・・」
だんだん図々しくなってきたよな、この男。
「変な音は聞こえないけど、レントゲンを・・」
と思ったが、若年女性だ。被曝はなるべくなら避けたい。
「血液検査と点滴を」
指示、行ってもらう。
「95って、ちょっと少なめですね」
学生が自分の指を測定していた。
「僕は99あります」
「ほう。じゃ、オレは・・98か」
「僕のほうが多い!」
「自慢かよ・・次!」
ナースが次の人を連れてくる。定期受診の高血圧、中年女性。
なかなか血圧が下がらない。2次性のものは極力ルールアウト(除外)したはずなんだが。
「やあ杉本さん。血圧手帳は?」
「これ」
きんちゃくの袋から小さな血圧手帳を取り出した。僕が指示した通り、
起床後安静30分後と寝る前の血圧値がグラフで描いてある。
「ちっとも下がらん」
上は170-180mmHg、下は90-100mmHgか。高すぎる。
内服はARBにカルシウム拮抗剤、フランドルテープ。
糖尿病の傾向があり、利尿剤やβブロッカーは出してない。
「じゃ、カルデナリンの就寝前投与を、と。追加しますね」
「ええっ?また薬増えるの?」
杉本さんは眉をしかめた。
「こんな、薬ばっかり増やされたらたまらん!」
確かにそうだった。前述の薬のほかにも、彼女は整形から4種類、近医の精神科から3種類処方されている。薬の相互作用なんて、2剤の組み合わせしか調べようがないしな。
無責任といえば、無責任かもしれない。
「今、飲んでる分は中止したくないんですよ」
「わしゃこわい」
「どして?」
「初めて飲む薬、出されるたびに思うよ。飲んだとたんアレルギーでも起こしたら・・」
「そういうのって、めったに・・」
とは限らない。
「困ったな・・」
「さあ!困った困った!」
学生が親切に医薬品集を見せてくれる。
「プレタールっていう薬。これも血管開くんですよね」
「すっこんでろ!」
また患者に向き直った。
「困ったな・・」
「さあ!困った困った!♪どうしますか〜」
この人はわざと僕を困らせているのか?
「アレルギーを起こすのが怖い、ときたもんだ・・」
「♪そうですよ〜ん」
「よし!じゃ、こうしよう!」
「は?」
「内服して腸に吸収されるまで15-20分!」
「ほうほう」
「今から飲んでもらって、点滴用ベッドで30分横になって!」
「ほうほう。で、どうもなかったら?」
「薬を定期追加の上、帰ってもらいます!」
ナースははいはいと患者を連れて行った。
26歳女性。不整脈の治療中。採血・エコーなどの検査では基礎疾患は特にない。
「動悸はない?最近は」
「ないような・・・あるような」
いちおう脈をとる。
「仕事は今も・・?」
「休んでます」
PSVTという頻脈性の不整脈が何度も出るので内服を定期で飲んでいた。仕事は診断書上、本人希望で1ヶ月の自宅療養ということにしておいたが・・。
「1ヶ月も飲んでますよね。そろそろ薬を減らそうかと」
「つ、続けたいんで」
「少し減らそうかと」
「続けます・・もう少し」
先週もそうして押し切られた。
「じゃあ次回、ホルター心電図をして確認の上、減らしましょうよ」
「先生。診断書を・・」
「え?また?」
「あともう1ヶ月、自宅療養が必要という内容で」
この娘は、仕事に行きたくないのか・・・?
「先週の採血のBNPは異常なし。聴診でも心臓に負担がそんなかかった印象はないけど・・」
「でも、動悸ときどきあるし」
「じゃ、ホルターは今日・・」
「用事があるんで」
どうしようもない。揉めるのを避けるため、仕方なく診断書。
何やってんだ。オレ・・・・。
「今だったら、カテーテルアブレーションすれば1発で治るんでしょう?」
学生がつついてきた。
「まあな。そういう話もしたが」
「若いのに」
「若いからさ」
「え?意味がよく分からない・・」
「ネクスト!」
40歳男性。お腹をおさえている。
「胃が痛い」
「なんで胃だと分かる?」
学生が吹き出した。
「ここ・・」
男性が僕の手を引っ張り、みぞおちに押し付けた。
右目で問診表を確認。酒は飲んでない。
診察上、腫瘤は触れない。
「胃じゃないんでしょうか?」
「むしろ十二指腸かも。胆石ってこともある。膵臓も・・」
「胃薬だけください」
「ここの場所はいろいろ確認しとくべきだよ。採血に、レントゲン・・」
「胃薬だけちょうだい。オレこのあと、職安に相談に行くんです」
「・・・・・」
「検査検査じゃ、お金もいるし・・失業寸前でして」
この頃から、こういう訴えも増え始めた。サラリーマン3割負担の影響だ。
成果主義で縛られている彼らのためにも、早く「成果」を出してあげなければならない。
「そうか・・じゃ、ガスター・・いや、タケプロンで」
ガスター処方で再受診としたかったが、事情を考えいいほうの胃薬を出した。
「頓服のブスコパン・・と」
「ありがとう、先生」
男性は深く頭を下げて出て行った。
「おい!事務長!」
通りかかった事務長を呼び止めた。
「おはようございます!」
「今の患者だけど。いくらになるか計算して、提示してあげて」
「アーハン」
「高すぎるようなら、もういっぺんここへ」
「アーハン!」
事務長は引き上げた。
「お金より、命が大事なのに」
学生は無邪気に冷淡だった。
だが、そうもいかんのだよ。
坊や・・
♪いったい、何を、教わってきたの?バババババン!
あたしだって、あたしだって・・・バーババン
疲れるわ!
だる。
「20冊ほど・・」
「はいはい、わかったよ!」
ストンと席につき、上の1冊を取る。
「先生、まず左のから」
「?」
それ以前に、左手のほうに1冊あった。
「これは・・?」
「飛び入りですが、緊急的なので」
「わかった。熱は38.6℃か。入って!」
ナースがドアを開け、20代女性が夫とおぼしき人に支えられている。
「ノドが痛い・・」
「いつから?」
「2日前・・いや5日前・・」
咽頭の発赤は高度。リンパ節は頸部含め腫大。熱感著明だ。
「これを」
指先で酸素飽和度測定。95%か。微妙だな・・。
「胸の音を」
聴診していると、学生が覗き込んだ。
「どうですか?」
「あのなあ・・」
だんだん図々しくなってきたよな、この男。
「変な音は聞こえないけど、レントゲンを・・」
と思ったが、若年女性だ。被曝はなるべくなら避けたい。
「血液検査と点滴を」
指示、行ってもらう。
「95って、ちょっと少なめですね」
学生が自分の指を測定していた。
「僕は99あります」
「ほう。じゃ、オレは・・98か」
「僕のほうが多い!」
「自慢かよ・・次!」
ナースが次の人を連れてくる。定期受診の高血圧、中年女性。
なかなか血圧が下がらない。2次性のものは極力ルールアウト(除外)したはずなんだが。
「やあ杉本さん。血圧手帳は?」
「これ」
きんちゃくの袋から小さな血圧手帳を取り出した。僕が指示した通り、
起床後安静30分後と寝る前の血圧値がグラフで描いてある。
「ちっとも下がらん」
上は170-180mmHg、下は90-100mmHgか。高すぎる。
内服はARBにカルシウム拮抗剤、フランドルテープ。
糖尿病の傾向があり、利尿剤やβブロッカーは出してない。
「じゃ、カルデナリンの就寝前投与を、と。追加しますね」
「ええっ?また薬増えるの?」
杉本さんは眉をしかめた。
「こんな、薬ばっかり増やされたらたまらん!」
確かにそうだった。前述の薬のほかにも、彼女は整形から4種類、近医の精神科から3種類処方されている。薬の相互作用なんて、2剤の組み合わせしか調べようがないしな。
無責任といえば、無責任かもしれない。
「今、飲んでる分は中止したくないんですよ」
「わしゃこわい」
「どして?」
「初めて飲む薬、出されるたびに思うよ。飲んだとたんアレルギーでも起こしたら・・」
「そういうのって、めったに・・」
とは限らない。
「困ったな・・」
「さあ!困った困った!」
学生が親切に医薬品集を見せてくれる。
「プレタールっていう薬。これも血管開くんですよね」
「すっこんでろ!」
また患者に向き直った。
「困ったな・・」
「さあ!困った困った!♪どうしますか〜」
この人はわざと僕を困らせているのか?
「アレルギーを起こすのが怖い、ときたもんだ・・」
「♪そうですよ〜ん」
「よし!じゃ、こうしよう!」
「は?」
「内服して腸に吸収されるまで15-20分!」
「ほうほう」
「今から飲んでもらって、点滴用ベッドで30分横になって!」
「ほうほう。で、どうもなかったら?」
「薬を定期追加の上、帰ってもらいます!」
ナースははいはいと患者を連れて行った。
26歳女性。不整脈の治療中。採血・エコーなどの検査では基礎疾患は特にない。
「動悸はない?最近は」
「ないような・・・あるような」
いちおう脈をとる。
「仕事は今も・・?」
「休んでます」
PSVTという頻脈性の不整脈が何度も出るので内服を定期で飲んでいた。仕事は診断書上、本人希望で1ヶ月の自宅療養ということにしておいたが・・。
「1ヶ月も飲んでますよね。そろそろ薬を減らそうかと」
「つ、続けたいんで」
「少し減らそうかと」
「続けます・・もう少し」
先週もそうして押し切られた。
「じゃあ次回、ホルター心電図をして確認の上、減らしましょうよ」
「先生。診断書を・・」
「え?また?」
「あともう1ヶ月、自宅療養が必要という内容で」
この娘は、仕事に行きたくないのか・・・?
「先週の採血のBNPは異常なし。聴診でも心臓に負担がそんなかかった印象はないけど・・」
「でも、動悸ときどきあるし」
「じゃ、ホルターは今日・・」
「用事があるんで」
どうしようもない。揉めるのを避けるため、仕方なく診断書。
何やってんだ。オレ・・・・。
「今だったら、カテーテルアブレーションすれば1発で治るんでしょう?」
学生がつついてきた。
「まあな。そういう話もしたが」
「若いのに」
「若いからさ」
「え?意味がよく分からない・・」
「ネクスト!」
40歳男性。お腹をおさえている。
「胃が痛い」
「なんで胃だと分かる?」
学生が吹き出した。
「ここ・・」
男性が僕の手を引っ張り、みぞおちに押し付けた。
右目で問診表を確認。酒は飲んでない。
診察上、腫瘤は触れない。
「胃じゃないんでしょうか?」
「むしろ十二指腸かも。胆石ってこともある。膵臓も・・」
「胃薬だけください」
「ここの場所はいろいろ確認しとくべきだよ。採血に、レントゲン・・」
「胃薬だけちょうだい。オレこのあと、職安に相談に行くんです」
「・・・・・」
「検査検査じゃ、お金もいるし・・失業寸前でして」
この頃から、こういう訴えも増え始めた。サラリーマン3割負担の影響だ。
成果主義で縛られている彼らのためにも、早く「成果」を出してあげなければならない。
「そうか・・じゃ、ガスター・・いや、タケプロンで」
ガスター処方で再受診としたかったが、事情を考えいいほうの胃薬を出した。
「頓服のブスコパン・・と」
「ありがとう、先生」
男性は深く頭を下げて出て行った。
「おい!事務長!」
通りかかった事務長を呼び止めた。
「おはようございます!」
「今の患者だけど。いくらになるか計算して、提示してあげて」
「アーハン」
「高すぎるようなら、もういっぺんここへ」
「アーハン!」
事務長は引き上げた。
「お金より、命が大事なのに」
学生は無邪気に冷淡だった。
だが、そうもいかんのだよ。
坊や・・
♪いったい、何を、教わってきたの?バババババン!
あたしだって、あたしだって・・・バーババン
疲れるわ!
だる。
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