ダル3 ? 総回診 ? + 教育的指導
2005年10月14日6人部屋男性。
「有木さん。夜中に腹痛」
僕は医長にカルテと外科の返事を見せた。
「腹部のオペ歴はなし。虫垂炎か憩室炎を疑う・・」
「点滴ですか・・婦長、熱は?」
「昼は37.2℃」
医長は聴診、腹部を押さえた。
「だいぶ・・マシです」
遠慮がちな患者は、わざと明るい表情を見せた。
「有木さん。また言うてね」
僕らは次のベッドへ。
「31歳、気胸」
医長は写真を取り出した。右胸にドレーンが入っている。
液の入ったバッグからエアリークは・・・ポコ、ポコと出ている。
「昨日入院して、圧は今日すでに15センチいっぱいまで上げてます」
「早いな・・」
医長は在院日数を減らそうと必死だな・・。
「で、医長先生。ブラは?」
胸部CTで拡がった肺を見るが・・・まだ十分拡がってないようだ。
「これで気胸は2回目。今後は胸腔鏡による観察下で、ブラの切除を呼吸器外科で」
「ほうほう」
ただ、当院には呼吸器外科はない。
「医長。呼吸器外科はどこに紹介を?」
「ここから車で15分の、なにや病院」
「老舗の病院か・・」
当院のライバルだ。以前は活気があって大学との出入りが激しかったが、最近その筋の医局の人員が減り、医師が引き上げた。
そのため老齢の医師だけが残り、非常勤の外科医が大学から定期的に派遣・・という有様だった。
「うちの事務長は偉大ですね。先輩」
「うちの・・・あいつ?」
「きちんと先を見据えて、大学とパイプを作りましたから」
「そうだな・・・大学と手を結べば、人手は安定するからな」
医長は紹介状をしたためた。
「行ってもらおうか。終わったらまたここで再評価などをして、と」
「あの病院はそろそろ買われるんだろ?」
「半年はまあ、いけるでしょう・・」
36歳。かなり肥満が強い。高尿酸血症で、痛風で診ていたが今回
負荷心電図で虚血が疑われた。
「はよう、よくしてくださいよ!」
彼はバッと服を上げた。
「カテーテルで血管が異常なかったら、ホンマ怒るで!金だけとって・・!」
医長は無視して聴診を終えた。
「直接みないと、なんともいえないんです」
「そうそう。そうよ」
婦長がうなずいた。
「胸、どうもないよ。なんか、シロー先生が入院しろって言うから・・・!」
そう、シローの患者だ。
「あの先生、もう1つ病院掛け持ちしてるやろ?でもどこかは教えないよ」
僕らは顔を見合わせた。当院では1年前から他病院でのバイトは禁止だ。バイト禁止かどうかはどこの病院でも決まっている。当院では半年前に内科医が2人(禁忌キッズ)リストラされ、ただでさえ人手が足りないのだ。
これも経営者の意向だ。
「シローが?それは・・・」
医長は驚いていた。もとオーベンは、もとコベンの動きが全て把握できていると思っていたようだ。
「厳しく言っておこう」
医長は立ち上がり、僕らは廊下へ出た。
「事務長に報告だ」
医長はPHSを取り出した。
「待てよ。シローは家族持ちだ」
僕は止めにかかった。
「うちの病院はそういうとこ、シビアだろ?」
「見過ごせません」
「だから。オレが言っとくよ。だったらもうしないだろ」
「手技がちょっと発達したと思ったらいい気になって・・!」
「な。医長!」
丸く収めるのも僕の仕事だった。1人1人個性が強く、主張もなかなか曲げない。これはまずいといろいろ相談するうち、こういう立場になった。
「何かあったら、それは先輩の・・」
「わかったから!お前最近、イライラしすぎだぞ!」
僕はテンポラリー(一時ペースメーカー)挿入準備の知らせを聞き、透視室へ降りた。
医長は婦長と回診中。
「シローのやつ、どうやってバイトなんか探して・・」
あれこれ考えながら、透視室へ。
すると、ザッキーがすでにカテーテル・・いや、ペースメーカーのリードを挿入している
ところだった。横からシローが指導している。
「そうそう。ザッキー、もうできるね!」
シローは感心していた。
「あ。ユウキ先生。あとは閾値・出力の確認、位置決めと固定で終了です」
「すぐ来たんだぜ。待っておいてくれよ・・!」
僕は覗きこんで確認した。出血はほとんどない。
ザッキーは僕をチラッと見た。そして・・
「透視!」
「おわ?」
僕は逃げるように部屋を出た。透視画面で位置を確認。
出てきたシローに、すかさず指摘した。
「おいおい、シロー。こっちへ」
部屋の隅へ。
「うちの病院の規則だよ。バイトバイト」
「え?バイト?バイトって?」
「いやいや。知ってるんだよ。ある筋から聞いた。しないほうがいいぞ」
「あ、あれか・・」
彼はわざとらしく答えた。
「どこの病院かは知らないが・・・うちは緊急カテなどの呼び出しが無差別で
あるんだから」
「え、ええ・・」
彼は肩を落とした。
「事務長には黙っておくから、そこんとこよろしくな」
「は、はい・・あの」
「あ?」
すると、廊下から事務長が現れた。腕組みしている。
あの男、喋ったのか・・・?
僕らは息を呑んだ。
「ここか・・・ユウキ先生!」
「な、なんだ?」
「どこにいるかと思ったらここだったか・・・」
「な、なんだって言うんだよ!」
事務長は手をサッと横に差し出した。
「波多野さんが、帰る前に挨拶をと!」
「うああ〜なんだぁ〜!そんなことかぁ〜!」
僕はホッとして廊下へ出た。
罪悪感を感じる。
「先生。ありがとう、どうも」
じいさんの両手荷物が重たそうだ。
「持ちましょうか?」
「いやいや。自分で持つよ。最近盗難も多いしの」
どういう意味なんだ・・・?
「事務長の私がお送りします」
事務長はペコッと頭を下げ、2人は駐車場に出て行った。
何人かのナースがついてきて、手をふっている。
ストレッチャーがガラガラと出てきた。
ザッキーはマスクを外した。
「ユウキ先生。汗がすごいっすよ!」
「ああ」
「階段を降りるのに、そんなに・・?」
これは冷や汗だ・・・!
事務長の直属部下、田中事務員がやってきた。
「満床御礼!」
ガッツポーズだ。
「満床って、そんなに嬉しいものなんですか・・?」
北野は事情がよく分からない。
「ベッドが空いたら、そのぶん金が損するからね」
「経営も大変ですね・・・」
「どんな経営者なんだか。でも所詮は人間・・・」
僕は久しぶりにコメカミのネジを廻すしぐさをした。
「しょせんは人間だるう!」
「有木さん。夜中に腹痛」
僕は医長にカルテと外科の返事を見せた。
「腹部のオペ歴はなし。虫垂炎か憩室炎を疑う・・」
「点滴ですか・・婦長、熱は?」
「昼は37.2℃」
医長は聴診、腹部を押さえた。
「だいぶ・・マシです」
遠慮がちな患者は、わざと明るい表情を見せた。
「有木さん。また言うてね」
僕らは次のベッドへ。
「31歳、気胸」
医長は写真を取り出した。右胸にドレーンが入っている。
液の入ったバッグからエアリークは・・・ポコ、ポコと出ている。
「昨日入院して、圧は今日すでに15センチいっぱいまで上げてます」
「早いな・・」
医長は在院日数を減らそうと必死だな・・。
「で、医長先生。ブラは?」
胸部CTで拡がった肺を見るが・・・まだ十分拡がってないようだ。
「これで気胸は2回目。今後は胸腔鏡による観察下で、ブラの切除を呼吸器外科で」
「ほうほう」
ただ、当院には呼吸器外科はない。
「医長。呼吸器外科はどこに紹介を?」
「ここから車で15分の、なにや病院」
「老舗の病院か・・」
当院のライバルだ。以前は活気があって大学との出入りが激しかったが、最近その筋の医局の人員が減り、医師が引き上げた。
そのため老齢の医師だけが残り、非常勤の外科医が大学から定期的に派遣・・という有様だった。
「うちの事務長は偉大ですね。先輩」
「うちの・・・あいつ?」
「きちんと先を見据えて、大学とパイプを作りましたから」
「そうだな・・・大学と手を結べば、人手は安定するからな」
医長は紹介状をしたためた。
「行ってもらおうか。終わったらまたここで再評価などをして、と」
「あの病院はそろそろ買われるんだろ?」
「半年はまあ、いけるでしょう・・」
36歳。かなり肥満が強い。高尿酸血症で、痛風で診ていたが今回
負荷心電図で虚血が疑われた。
「はよう、よくしてくださいよ!」
彼はバッと服を上げた。
「カテーテルで血管が異常なかったら、ホンマ怒るで!金だけとって・・!」
医長は無視して聴診を終えた。
「直接みないと、なんともいえないんです」
「そうそう。そうよ」
婦長がうなずいた。
「胸、どうもないよ。なんか、シロー先生が入院しろって言うから・・・!」
そう、シローの患者だ。
「あの先生、もう1つ病院掛け持ちしてるやろ?でもどこかは教えないよ」
僕らは顔を見合わせた。当院では1年前から他病院でのバイトは禁止だ。バイト禁止かどうかはどこの病院でも決まっている。当院では半年前に内科医が2人(禁忌キッズ)リストラされ、ただでさえ人手が足りないのだ。
これも経営者の意向だ。
「シローが?それは・・・」
医長は驚いていた。もとオーベンは、もとコベンの動きが全て把握できていると思っていたようだ。
「厳しく言っておこう」
医長は立ち上がり、僕らは廊下へ出た。
「事務長に報告だ」
医長はPHSを取り出した。
「待てよ。シローは家族持ちだ」
僕は止めにかかった。
「うちの病院はそういうとこ、シビアだろ?」
「見過ごせません」
「だから。オレが言っとくよ。だったらもうしないだろ」
「手技がちょっと発達したと思ったらいい気になって・・!」
「な。医長!」
丸く収めるのも僕の仕事だった。1人1人個性が強く、主張もなかなか曲げない。これはまずいといろいろ相談するうち、こういう立場になった。
「何かあったら、それは先輩の・・」
「わかったから!お前最近、イライラしすぎだぞ!」
僕はテンポラリー(一時ペースメーカー)挿入準備の知らせを聞き、透視室へ降りた。
医長は婦長と回診中。
「シローのやつ、どうやってバイトなんか探して・・」
あれこれ考えながら、透視室へ。
すると、ザッキーがすでにカテーテル・・いや、ペースメーカーのリードを挿入している
ところだった。横からシローが指導している。
「そうそう。ザッキー、もうできるね!」
シローは感心していた。
「あ。ユウキ先生。あとは閾値・出力の確認、位置決めと固定で終了です」
「すぐ来たんだぜ。待っておいてくれよ・・!」
僕は覗きこんで確認した。出血はほとんどない。
ザッキーは僕をチラッと見た。そして・・
「透視!」
「おわ?」
僕は逃げるように部屋を出た。透視画面で位置を確認。
出てきたシローに、すかさず指摘した。
「おいおい、シロー。こっちへ」
部屋の隅へ。
「うちの病院の規則だよ。バイトバイト」
「え?バイト?バイトって?」
「いやいや。知ってるんだよ。ある筋から聞いた。しないほうがいいぞ」
「あ、あれか・・」
彼はわざとらしく答えた。
「どこの病院かは知らないが・・・うちは緊急カテなどの呼び出しが無差別で
あるんだから」
「え、ええ・・」
彼は肩を落とした。
「事務長には黙っておくから、そこんとこよろしくな」
「は、はい・・あの」
「あ?」
すると、廊下から事務長が現れた。腕組みしている。
あの男、喋ったのか・・・?
僕らは息を呑んだ。
「ここか・・・ユウキ先生!」
「な、なんだ?」
「どこにいるかと思ったらここだったか・・・」
「な、なんだって言うんだよ!」
事務長は手をサッと横に差し出した。
「波多野さんが、帰る前に挨拶をと!」
「うああ〜なんだぁ〜!そんなことかぁ〜!」
僕はホッとして廊下へ出た。
罪悪感を感じる。
「先生。ありがとう、どうも」
じいさんの両手荷物が重たそうだ。
「持ちましょうか?」
「いやいや。自分で持つよ。最近盗難も多いしの」
どういう意味なんだ・・・?
「事務長の私がお送りします」
事務長はペコッと頭を下げ、2人は駐車場に出て行った。
何人かのナースがついてきて、手をふっている。
ストレッチャーがガラガラと出てきた。
ザッキーはマスクを外した。
「ユウキ先生。汗がすごいっすよ!」
「ああ」
「階段を降りるのに、そんなに・・?」
これは冷や汗だ・・・!
事務長の直属部下、田中事務員がやってきた。
「満床御礼!」
ガッツポーズだ。
「満床って、そんなに嬉しいものなんですか・・?」
北野は事情がよく分からない。
「ベッドが空いたら、そのぶん金が損するからね」
「経営も大変ですね・・・」
「どんな経営者なんだか。でも所詮は人間・・・」
僕は久しぶりにコメカミのネジを廻すしぐさをした。
「しょせんは人間だるう!」
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