ダル3 ? 夜診外来 ? <わたしもこうして治療している>
2005年10月15日カテ室を出ると、防護服がないおかげで体が軽くなった感じだ。
「♪ニッポンのミライはオウオウ、オウオウ、セッカイガフラムム(←歌詞思い出せず)イエイイエイ、イエイイエイ!」
この頃はモーニング娘がブレイクし始めた時期だ。
外来へ。待合室のみんなが、僕を睨む。
「だるう!」
カーテンをくぐると、カーテンが頭の上で止まった。
「カルテ、けっこうきてるな・・・」
「先生。カーテンが汚れる・・」
背の高いナースが近づき、カーテンをはじいた。
いくよくるよの細いほうに似ており、それにちなんで『美少女ミイラ』と陰で呼ばれていた。
「今日はあんたか・・」
「な、なんですの?」
この人は・・・あまり経験がなくガサツなところがあり、患者からもけっこう無神経だというクレームが来てる。ひいては僕の外来の評判まで落としかねないこともあった。
「さ、行こう行こう!」
ノッポナースはそそくさと出て行った。
机の上に『時間が空いたら病棟へお越し願いします ミチル』とある。
行けたらな・・・。
「さ!はいはい!」
サラリーマン風の男性。36歳。風邪症状で初診。
「頭が痛くてね・・喉も痛い」
「熱は?」
ナースはまだ測ってなかった。
「はいはい、いますぐ!」
「しとけよ!ちゃんと!」
耳で測定。
「35.8℃!オッケーイ!」
「何がOKだよ?」
この空元気が目障りでしょうがない。
喉・・リンパ節を確認。指先で酸素飽和度。聴診。顔色が白っぽい。眼瞼結膜は問題ない。脈が速くむしろ脱水のせいだろう。
咽頭発赤は著明。熱はなくとも激しい炎症を疑う。
「体がだるい?」
「ものすごく」
「明日は仕事?」
「ええ」
「今日はじゃあ、安静を。点滴を夕食代わりに」
「よろしくお願いします」
処方は抗生剤・・・
「クラビット4錠を分2、と」
「多すぎません?」
ナースが覗いた。
「なんでだよ。俺たちはこれで飲んでるぞ。いちいちもう・・」
ノッポナースはフン、とそっぽ向いた。
「次呼べよ!次を!」
「はいはい。ったく・・・」
57歳女性。高血圧。腰椎椎間板ヘルニアあり、歩行がままならない。ナースは補助を・・するどころか、後ろから勢い余ってぶつかった。
「あらよっと」
「とと・・・!」
あやうく患者の膝が机に当たりそうだった。
「なにやって・・・!あ。こんばんは。斉藤さん」
「こんばんは」
少しオベスティーぎみの女性は気にせず、笑顔を見せてくれた。
シュパシュパとここでも血圧測定。
「・・・・血圧手帳からみても、いいようですね。最近」
「ええ。先生。でも腰がね・・・」
右腰を押さえている。
「いつもの痛みと違うんですよね・・・」
横になってもらった。机の下から医長のエコー。
「ユウキ先生。いいんですかあ?」
ナースが干渉してくる。
「いいだろ?ここに置いてある以上、公共のものだよ」
「知りませんよー」
いちいち患者に聞こえてしまうのが、またうっとうしい。
「じゃ、べたっとしますが・・・」
とりあえず、痛いところに一致した場所を超音波で確認。
腎結石を否定したかったからだ。
「・・・あるな。ここに」
「どこ?」
ノッポナースが覗いた。
「アンタじゃないって。斉藤さんだよ」
結石について説明。泌尿器科の受診も促した。
例のナースはまた干渉してきた。
「ユウキ先生。整形外科の先生にも一筆」
「なんだよ。いらんだろ」
「整形外科が主体で診てるんだから・・」
「カルテの流れでわかるって!」
単にあの整形の医者が気に入らないだけだったのだが・・・。
「ま、書くさ。書きゃいいんだろ」
丁寧な文章を書いて、バン!と手渡した。
「さっきのなんだよ。あれ。後ろから蹴飛ばして」
「え?なにがですか?」
「何がじゃないだろ?きちんと謝れよ!」
「蹴飛ばした・・・?あたしが?」
気づいてない。
事務長がやってきた。
「お怒りのようで?」
「関係ない」
「ま。2人ともね。疲れてるんですよ!」
全く仲裁にならなかった。
「あたしは、失礼なことはなにも・・・!」
ナースはガバッと胸をはった。
「うん。まあ人生ね、いろいろあるよ。今度の
沖縄旅行で、羽を伸ばせば?」
当院で秋に予定している院内旅行のことだった。
「あたしは小さい我が子がいるので、行けません!」
「子供さんも連れてきなさいよ」
「でも料金は?」
「子供は別」
「どうして?」
「経営者の・・」
この男は最近、こればっかだな。だる。
北野がやってきた。
「すみません。遅くなりまして。トイレでふんばってたんです」
「そこまで聞いてないって・・」
「どうしたんですか?元気が・・・」
疲れだ。
98歳男性。肺気腫に狭心症に糖尿病・・・などなど。
え?
今日の朝、来たじいちゃんじゃないか・・・!マスコット的存在の人だ。なんでまた?
またまた杖をつきながら登場。
「変わりはないんだなあ、これが」
「なにか、変わったことでも・・」
「ないよ!」
この人、朝来たのを忘れてるのか・・・。
ためしに同じことを問うてみる。
「タバコは?」
「吸うてるよお!」
「酒は」
「飲んどるよお!」
「では次回あたり検査を」
「いや、いいよ先生」
ほぼ同じレスポンスだった。
「もう先生、ここまで生きたんや。カアッ」
「家は、何人ぐらしだったかな・・・」
「連れのバアサンがおったが、もう12年ほど会うてない」
「うんうん。そうだったね」
「あれ、知っとったですかいな?」
「え、ええ。なぜかね・・・」
「はよこっちも逝かんと、あの世で待っとるバアサンが寂しがっとる!ゲホゲホ」
ノッポナースは涙ぐんでいた。この人はここ1年の勤務で、バアサンのことは知らないが。
「でもここに来るよ。わしは!ゴフゴホ」
勇敢な老兵は立ち上がった。
「くすり、出しておいてな!ゴフゴフ」
「くすりは朝、出したはずなんだけど・・・」
アリセプトを出すことにしよう。
彼は振り返った。
「なあ先生。明日の朝、ベッドから起きてもし・・・万が一」
「起きたら天国ってことはないですよ。心配いりません」
「そやな。カアッ」
「看護師さん、ティッシュ!ティッシュ!」
ナースはあたふたし、事務室まで走っていった。
「カアッ!ペッ!」
「ああ!」
『今日の診断指針』で受け止めた。
しかし・・・表紙についた、その白さは見逃さなかった。
「♪ニッポンのミライはオウオウ、オウオウ、セッカイガフラムム(←歌詞思い出せず)イエイイエイ、イエイイエイ!」
この頃はモーニング娘がブレイクし始めた時期だ。
外来へ。待合室のみんなが、僕を睨む。
「だるう!」
カーテンをくぐると、カーテンが頭の上で止まった。
「カルテ、けっこうきてるな・・・」
「先生。カーテンが汚れる・・」
背の高いナースが近づき、カーテンをはじいた。
いくよくるよの細いほうに似ており、それにちなんで『美少女ミイラ』と陰で呼ばれていた。
「今日はあんたか・・」
「な、なんですの?」
この人は・・・あまり経験がなくガサツなところがあり、患者からもけっこう無神経だというクレームが来てる。ひいては僕の外来の評判まで落としかねないこともあった。
「さ、行こう行こう!」
ノッポナースはそそくさと出て行った。
机の上に『時間が空いたら病棟へお越し願いします ミチル』とある。
行けたらな・・・。
「さ!はいはい!」
サラリーマン風の男性。36歳。風邪症状で初診。
「頭が痛くてね・・喉も痛い」
「熱は?」
ナースはまだ測ってなかった。
「はいはい、いますぐ!」
「しとけよ!ちゃんと!」
耳で測定。
「35.8℃!オッケーイ!」
「何がOKだよ?」
この空元気が目障りでしょうがない。
喉・・リンパ節を確認。指先で酸素飽和度。聴診。顔色が白っぽい。眼瞼結膜は問題ない。脈が速くむしろ脱水のせいだろう。
咽頭発赤は著明。熱はなくとも激しい炎症を疑う。
「体がだるい?」
「ものすごく」
「明日は仕事?」
「ええ」
「今日はじゃあ、安静を。点滴を夕食代わりに」
「よろしくお願いします」
処方は抗生剤・・・
「クラビット4錠を分2、と」
「多すぎません?」
ナースが覗いた。
「なんでだよ。俺たちはこれで飲んでるぞ。いちいちもう・・」
ノッポナースはフン、とそっぽ向いた。
「次呼べよ!次を!」
「はいはい。ったく・・・」
57歳女性。高血圧。腰椎椎間板ヘルニアあり、歩行がままならない。ナースは補助を・・するどころか、後ろから勢い余ってぶつかった。
「あらよっと」
「とと・・・!」
あやうく患者の膝が机に当たりそうだった。
「なにやって・・・!あ。こんばんは。斉藤さん」
「こんばんは」
少しオベスティーぎみの女性は気にせず、笑顔を見せてくれた。
シュパシュパとここでも血圧測定。
「・・・・血圧手帳からみても、いいようですね。最近」
「ええ。先生。でも腰がね・・・」
右腰を押さえている。
「いつもの痛みと違うんですよね・・・」
横になってもらった。机の下から医長のエコー。
「ユウキ先生。いいんですかあ?」
ナースが干渉してくる。
「いいだろ?ここに置いてある以上、公共のものだよ」
「知りませんよー」
いちいち患者に聞こえてしまうのが、またうっとうしい。
「じゃ、べたっとしますが・・・」
とりあえず、痛いところに一致した場所を超音波で確認。
腎結石を否定したかったからだ。
「・・・あるな。ここに」
「どこ?」
ノッポナースが覗いた。
「アンタじゃないって。斉藤さんだよ」
結石について説明。泌尿器科の受診も促した。
例のナースはまた干渉してきた。
「ユウキ先生。整形外科の先生にも一筆」
「なんだよ。いらんだろ」
「整形外科が主体で診てるんだから・・」
「カルテの流れでわかるって!」
単にあの整形の医者が気に入らないだけだったのだが・・・。
「ま、書くさ。書きゃいいんだろ」
丁寧な文章を書いて、バン!と手渡した。
「さっきのなんだよ。あれ。後ろから蹴飛ばして」
「え?なにがですか?」
「何がじゃないだろ?きちんと謝れよ!」
「蹴飛ばした・・・?あたしが?」
気づいてない。
事務長がやってきた。
「お怒りのようで?」
「関係ない」
「ま。2人ともね。疲れてるんですよ!」
全く仲裁にならなかった。
「あたしは、失礼なことはなにも・・・!」
ナースはガバッと胸をはった。
「うん。まあ人生ね、いろいろあるよ。今度の
沖縄旅行で、羽を伸ばせば?」
当院で秋に予定している院内旅行のことだった。
「あたしは小さい我が子がいるので、行けません!」
「子供さんも連れてきなさいよ」
「でも料金は?」
「子供は別」
「どうして?」
「経営者の・・」
この男は最近、こればっかだな。だる。
北野がやってきた。
「すみません。遅くなりまして。トイレでふんばってたんです」
「そこまで聞いてないって・・」
「どうしたんですか?元気が・・・」
疲れだ。
98歳男性。肺気腫に狭心症に糖尿病・・・などなど。
え?
今日の朝、来たじいちゃんじゃないか・・・!マスコット的存在の人だ。なんでまた?
またまた杖をつきながら登場。
「変わりはないんだなあ、これが」
「なにか、変わったことでも・・」
「ないよ!」
この人、朝来たのを忘れてるのか・・・。
ためしに同じことを問うてみる。
「タバコは?」
「吸うてるよお!」
「酒は」
「飲んどるよお!」
「では次回あたり検査を」
「いや、いいよ先生」
ほぼ同じレスポンスだった。
「もう先生、ここまで生きたんや。カアッ」
「家は、何人ぐらしだったかな・・・」
「連れのバアサンがおったが、もう12年ほど会うてない」
「うんうん。そうだったね」
「あれ、知っとったですかいな?」
「え、ええ。なぜかね・・・」
「はよこっちも逝かんと、あの世で待っとるバアサンが寂しがっとる!ゲホゲホ」
ノッポナースは涙ぐんでいた。この人はここ1年の勤務で、バアサンのことは知らないが。
「でもここに来るよ。わしは!ゴフゴホ」
勇敢な老兵は立ち上がった。
「くすり、出しておいてな!ゴフゴフ」
「くすりは朝、出したはずなんだけど・・・」
アリセプトを出すことにしよう。
彼は振り返った。
「なあ先生。明日の朝、ベッドから起きてもし・・・万が一」
「起きたら天国ってことはないですよ。心配いりません」
「そやな。カアッ」
「看護師さん、ティッシュ!ティッシュ!」
ナースはあたふたし、事務室まで走っていった。
「カアッ!ペッ!」
「ああ!」
『今日の診断指針』で受け止めた。
しかし・・・表紙についた、その白さは見逃さなかった。
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