47歳女性。狭心症でステント挿入後。パナルジンの内服中。
この頃、副作用情報として肝障害のイエローカードが交付され、
国から2週間に1回の血液検査が勧められていた。

 そんなの、できるわけないだろ・・・。

「胸の痛みはないです」
「心電図、撮りましょうか。2ヶ月ぶりに」
「胸はどうもないんですけど・・」
「いやいや、それでも」

 糖尿病もある。この場合むしろ無症状が多いので、患者の主観はあてにならない。

「じゃ、このあと検査室へ・・」
「バスの時間が」
「バス?」
「病院の停留所に来る、バスの時間が・・」
患者は腕時計を見ている。

買い物袋が2つ、床の隅にある。このあと夕飯なんだろう。

「検査はできれば、今度にしてもらえたら・・」
「ええ。そうしましょうか」
「では」
「タマゴ、割らないようにね」
「は?」
「その買い物袋・・」
「これ?これは私のじゃありませんよ」
「うそお?おい。ナース・・」

ナースは断りもなく、もういない。
どっか用事か・・。
「おいどこへ!ったく・・・!」

僕は最初のほうに診た風邪患者のところへ行った。
横になっているが、起こした。

「この買い物袋・・」
「は、はい?」
「おたくの?」
「ああ!こりゃどうも・・!」
「大変ですね」
言い残し、診察室へ。

美少女ミイラが戻ってきている。
「あ、いた」
「おい。勝手に外すなよ・・」
「初診の方です、それ」
「あのな。聞けよ。外す前には、一声かけろって!」
「はいはい!」
愛想もへったくれもない。

初診は68歳の女性。

「初診といっても、1年前に受診してそれが最後・・・」
カルテでは糖尿病だ。トシキが最後に診察して、血糖値260mg/dlと
高い。糖尿病関連の内服はこの時点で4種類。

『インスリンを勧めたが拒否される。再三の指導にも関わらず』
と記載があり、当時のトシキ医長の怒りがうかがわれる。

「どこか、他の病院に・・?」
「ええ。地下鉄でひと駅の」

もしかして・・・。

「松田クリニックとか?」
「ええそうです!先生よくご存知で!」
「以前僕の先輩・・・いえいえ。どうでもいいことです」
「今日はそこ、休みでしてね」
「薬がない・・?」
「できれば何日分かを。今日の昼でなくなったから」

患者は薬を持ってきていなかった。全部切らしてから来てしまったのだ。一番困るパターンだ。

「困ったな。とりあえず今の血糖が知りたいな・・測定しますね」

僕はデキスターの指示を出した。患者は外へ。

ガラッとドアが開いた。さきほどの点滴の患者だ。
「先生。どうもありがとうございました。楽になりました」
「え?ええ・・」
いまどき、こうしてあとで声を丁寧にかけてくれる若い人は少ない。そういう意味で驚いた。

43歳男性。この人もスーツ姿、サラリーマンだ。
「動悸がしまして」
脈をとる。
「たしかに・・・飛んでますね」

心電図・胸部レントゲンの指示。3割負担には気をつかう。

ナースが紙を差し出す。
「先生、デキスターは480」
「あ、そう・・ええっ?」
さっきの患者だ。

「帰ってもらいますね」
「アホか、おい?」
「あ、アホ?アホって・・」
「薬もらいに来たんだぞ。しかし480とは・・・」
「アホってなによ・・・」
ナースは勝手に怒っていた。

僕は患者に再び入ってもらった。

「高すぎるなあ・・」
「血糖ですか」
「松田クリニックではいくらほど・・?」
「検査はさあ、したんだがね。結果はもらってなくて」
「?」
「あそこは採血は月に3回するんですけど、説明はないんです」
「・・・・」
「結果は?ってあたしが聞いたら、うんうん、ってそれだけ」

何やってんだ。あの先生・・・。

「高すぎるから、入院の上で・・」
「え?入院?」
「そのほうが安全だよ」
「松田先生は、大丈夫だって毎回・・」
「でも今の状態は」
「松田先生に聞いてからにします」
「でもそれ、明日でしょ?」
「失礼します」

信者は出て行った。

さきほどのレントゲン・心電図が戻ってきた。
「心臓拡大にLVH(左室肥大)か・・・!」
患者を呼ぶ。

「今から超音波で見せてください」
酸素飽和度は94%と、若干下がっている。心不全なのは
間違いなさそう。

机の下から超音波を出し観察。左心室の・・壁が異様に厚い。
「血圧を言われたことは・・?」
「健診では特にはないよ」
「でも心電図は言われてたのでは?」
「ああ。それは言われてた」

エコーの電源を消した。

「心不全を起こしてます。入院の上で治療を」
「仕事が・・」
「これで仕事したら、命にかかわる」
ここぞという時に使用する断定の表現は効果があった。
<ER>で学んだ。

※例

(音楽)ドンドコドコドコ!ドンドコドコドコ!

グリーン「入院しましょう」
男性患者「なに?そんな大げさな?」
グリーン「あとで悪くなったら、命の保障はないですよ」
男性患者「もういい。別の医者に診てもらう」
グリーン「いいですか。肺に激しい炎症を起こしてます。これが進行したら敗血症を起こし・・」
男性患者「帰る!仕事がある!」
婦長「グリーン先生。外傷2号へ」
グリーン「あとでいくったら!待ってください!あなたは目先だけを見ている。明日死んでもいいんですか?」
男性患者「どいてくれ!」
クルーニー「危ないですよ!あーあー、立たないほうがいい」
グリーン「待ってくれ!あなたのその態度のせいで家族が路頭に迷うんだ!」
男性患者「どうしたらいいんだぁ?」
グリーン「私の言うことを聞きなさい!治してみせる!」
男性患者「そ・・それでは・・うう」
グリーン「・・・・」
男性患者「お願いしよう・・」

ドンドンドンドドン・・!(音楽終了)

<画面真っ黒→CM>


「動悸くらいでは仕事はいけるが・・」
「ベッドは空いてます」
「困ってはないんだけど」
「だが家族が困る」

僕は内線で事務長へ。

「1人入院。アルコール性心筋症疑い。酸素いる。モニターがいるので
詰所の近くへ。主治医は・・・シローへ」
『主治医がユウキ先生ではダメですか?』
「もうこれ以上持てないって。それにオレ、明日は・・・だろ?」
『あ、そうか』

僕は電話を切った。

明日(木曜日)は休みなのだ。 

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