ダル3 ? 終業<わたし・・・だけの十字架>
2005年10月18日「終わりましたね。お疲れ様」
ベテランナースはフィルムをしまい、片付けにかかった。
「ふう〜。だる」
僕もペンをしまい、イスを戻した。
周囲の外来もすでに終わっており、夜7時を5分越している。
事務長がやってきた。
「満員御礼、ありがとうございます」
「波多野じいさんは、無事送れた?」
「ええ。店は今日から営業するそうで」
「うそお?」
「私はウソは申しませんって!」
「そうだ。今日、家族が来て」
「ええ。じいさんにはどうやら・・・会わずじまいのようですね」
「じいさん、昔何かしたのかな・・」
「さあ、私にもそれは分かりませんが・・・つらいと思いますよ。娘さんは」
「でもじいさん1人だぞ・・・じいさんのほうがつらいよ」
「うーん・・・でもね。ユウキ先生」
久しぶりに事務長は反抗してきた。
「一番つらいのはね。人生で・・・苦渋の決断を強いられることなんです」
「身を切る思いか」
「そうそれ!言い当ててる!」
背を向けて歩き出すと、もう一声かけられた。
「ユウキ先生。明日はよく休んで」
「ああ」
「今日の午後は先生。ちょっとイライラしてませんでした?」
「誰のせいでもない。オレのせいだよ」
「そういうときはホラ、ちょっと自分に優しくなれば、なんとか」
「るさいな。じゃ!」
医局へ戻ると、北野が待っていた。
「お疲れ様でした!今日の夜診はヒマでしたね!」
「余計なお世話だ・・・あ、そうだ!おい!」
「はいっ?」
「放射線部の技師長が言ってたぞ!」
「?」
「パソコンのとこで、いかがわしい行為はするなって!」
「パソコン・・?ああ、あれ・・」
北野は珍しく慌てていた。
「あれは、宿題ですよ。宿題を」
「?」
「宿題のファイルを作成してて」
「ああ。以前にオレが出した宿題か。見てやらんとな・・」
「へへ・・!金曜日には必ず!」
「じゃ、これもお前のか?」
僕は医局のパソコンのデスクトップを指差した。
「このファイルだよ。パスワード式になってる」
「そ、そうです・・」
「ここを去る前には消しておけよ」
「せ、先生。また課題などあれば」
「宿題マゾだな、お前・・・そうだな。じゃ、これ!」
「?」
「医者の資質として、一番必要なもの!これだ!」
「コレステロー・・」
「脂質じゃない資質!<スタッフ>のほう!お前わざとだろ?」
「文章でなく、語句ですね?」
「ああ。でも正解がどうとか、そういう問題ではないがな」
僕は医局の隅をごそごそ探した。
「カサ、カサ・・・あった!」
透明のカサが出てきた。
「北野はカサあるか?」
「自分は今日もここで泊まりますんで」
「あ、そ・・・」
玄関に出た。
赤いカッパを来た、幼い子供がいる。
この子供・・そこらでよく遊んでいる、託児所の子供だ。
「かあちゃん!かあちゃん!」
数メートル先に、私服で現れたのは・・・あの美少女ミイラじゃないか。
この子の親か。そうか、このナース・・・。娘に会うために。
さきほどのじいの娘とどこか重なるところがあった。
「そおれ!」
彼女は子供に軽く体当たりした。子供はキャッキャッと笑っている。僕のほうは傘を拡げたが、骨組みが全部イカれてて、うまく拡がらない。
悪戦苦闘するうち、彼女に気づかれた。彼女はハッと気づいた。
「あ・・・お疲れ様です」
「ああ」
自分に優しくか・・・。事務長のやつ。
「あ、あう・・」
僕は一声かけた。
「はい?」
ナースは浮かない職場の顔で覗き込んだ。
「きき、今日はま、いろいろと・・・」
「?」
「いろいろと、ありがとう!じゃあね!」
子供と向かい合って手を振った。
彼女はたぶんこれまで見せたことのないような、まぶしい笑顔を見せた。一瞬だが、それは美しいものだった。
僕は傘を捨ててダッシュした。目から火が出そうだ。
結局ずぶぬれで運転席についた。
「はあ、はあ、はあ・・・そうか。事務長。お前のいうことが、
なんとなく分かったよ・・・はあ」
ゆっくりと徐行で車はすべり、国道へと向かう。
近くのバス停には・・・彼女がいた。じいさんの娘が。
うつむいた表情は、疲れているのか落ち込んでいるのか・・・。
僕は自分の都合のいいほうに解釈した。
あの歌が頭によぎる。
♪か〜ぜ〜が吹〜け〜ばみいな〜とに〜・・・ジャラララン
♪ふ〜ね〜はか〜えり来〜るけ〜ど・・・・・
♪若いあ〜いを交わ〜した〜 ・・・ジャラララン
♪え〜がお〜 二度と見〜えな〜い〜〜〜〜ああ〜〜〜〜
の、ひ〜〜〜と〜〜は〜〜〜、あのひとおは〜〜〜・・・・
♪お〜〜〜か〜〜〜の〜〜〜おおおおおおおおおおおおお
おおおおぉぉぉぉ白い〜十字架・・・・・
♪わあああ〜〜〜〜た〜〜〜〜しぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜だけのじゅうううじかああぁぁぁ
(夜景)
ポポン、ポポポポポン、ポポポ
星の揺れる港を
二人見てたあの日よ
肩に受けた口づけ
愛の形見消せない
あの人は あの人は
私だけの十字架
わあたあしいいいぃぃぃぃぃだけのじゅうじかあああぁ・・・
「私だけの十字架」
作詞:尾中美千絵 作曲:木下忠司 編曲:青木望
ロケ地 東京
ベテランナースはフィルムをしまい、片付けにかかった。
「ふう〜。だる」
僕もペンをしまい、イスを戻した。
周囲の外来もすでに終わっており、夜7時を5分越している。
事務長がやってきた。
「満員御礼、ありがとうございます」
「波多野じいさんは、無事送れた?」
「ええ。店は今日から営業するそうで」
「うそお?」
「私はウソは申しませんって!」
「そうだ。今日、家族が来て」
「ええ。じいさんにはどうやら・・・会わずじまいのようですね」
「じいさん、昔何かしたのかな・・」
「さあ、私にもそれは分かりませんが・・・つらいと思いますよ。娘さんは」
「でもじいさん1人だぞ・・・じいさんのほうがつらいよ」
「うーん・・・でもね。ユウキ先生」
久しぶりに事務長は反抗してきた。
「一番つらいのはね。人生で・・・苦渋の決断を強いられることなんです」
「身を切る思いか」
「そうそれ!言い当ててる!」
背を向けて歩き出すと、もう一声かけられた。
「ユウキ先生。明日はよく休んで」
「ああ」
「今日の午後は先生。ちょっとイライラしてませんでした?」
「誰のせいでもない。オレのせいだよ」
「そういうときはホラ、ちょっと自分に優しくなれば、なんとか」
「るさいな。じゃ!」
医局へ戻ると、北野が待っていた。
「お疲れ様でした!今日の夜診はヒマでしたね!」
「余計なお世話だ・・・あ、そうだ!おい!」
「はいっ?」
「放射線部の技師長が言ってたぞ!」
「?」
「パソコンのとこで、いかがわしい行為はするなって!」
「パソコン・・?ああ、あれ・・」
北野は珍しく慌てていた。
「あれは、宿題ですよ。宿題を」
「?」
「宿題のファイルを作成してて」
「ああ。以前にオレが出した宿題か。見てやらんとな・・」
「へへ・・!金曜日には必ず!」
「じゃ、これもお前のか?」
僕は医局のパソコンのデスクトップを指差した。
「このファイルだよ。パスワード式になってる」
「そ、そうです・・」
「ここを去る前には消しておけよ」
「せ、先生。また課題などあれば」
「宿題マゾだな、お前・・・そうだな。じゃ、これ!」
「?」
「医者の資質として、一番必要なもの!これだ!」
「コレステロー・・」
「脂質じゃない資質!<スタッフ>のほう!お前わざとだろ?」
「文章でなく、語句ですね?」
「ああ。でも正解がどうとか、そういう問題ではないがな」
僕は医局の隅をごそごそ探した。
「カサ、カサ・・・あった!」
透明のカサが出てきた。
「北野はカサあるか?」
「自分は今日もここで泊まりますんで」
「あ、そ・・・」
玄関に出た。
赤いカッパを来た、幼い子供がいる。
この子供・・そこらでよく遊んでいる、託児所の子供だ。
「かあちゃん!かあちゃん!」
数メートル先に、私服で現れたのは・・・あの美少女ミイラじゃないか。
この子の親か。そうか、このナース・・・。娘に会うために。
さきほどのじいの娘とどこか重なるところがあった。
「そおれ!」
彼女は子供に軽く体当たりした。子供はキャッキャッと笑っている。僕のほうは傘を拡げたが、骨組みが全部イカれてて、うまく拡がらない。
悪戦苦闘するうち、彼女に気づかれた。彼女はハッと気づいた。
「あ・・・お疲れ様です」
「ああ」
自分に優しくか・・・。事務長のやつ。
「あ、あう・・」
僕は一声かけた。
「はい?」
ナースは浮かない職場の顔で覗き込んだ。
「きき、今日はま、いろいろと・・・」
「?」
「いろいろと、ありがとう!じゃあね!」
子供と向かい合って手を振った。
彼女はたぶんこれまで見せたことのないような、まぶしい笑顔を見せた。一瞬だが、それは美しいものだった。
僕は傘を捨ててダッシュした。目から火が出そうだ。
結局ずぶぬれで運転席についた。
「はあ、はあ、はあ・・・そうか。事務長。お前のいうことが、
なんとなく分かったよ・・・はあ」
ゆっくりと徐行で車はすべり、国道へと向かう。
近くのバス停には・・・彼女がいた。じいさんの娘が。
うつむいた表情は、疲れているのか落ち込んでいるのか・・・。
僕は自分の都合のいいほうに解釈した。
あの歌が頭によぎる。
♪か〜ぜ〜が吹〜け〜ばみいな〜とに〜・・・ジャラララン
♪ふ〜ね〜はか〜えり来〜るけ〜ど・・・・・
♪若いあ〜いを交わ〜した〜 ・・・ジャラララン
♪え〜がお〜 二度と見〜えな〜い〜〜〜〜ああ〜〜〜〜
の、ひ〜〜〜と〜〜は〜〜〜、あのひとおは〜〜〜・・・・
♪お〜〜〜か〜〜〜の〜〜〜おおおおおおおおおおおおお
おおおおぉぉぉぉ白い〜十字架・・・・・
♪わあああ〜〜〜〜た〜〜〜〜しぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜だけのじゅうううじかああぁぁぁ
(夜景)
ポポン、ポポポポポン、ポポポ
星の揺れる港を
二人見てたあの日よ
肩に受けた口づけ
愛の形見消せない
あの人は あの人は
私だけの十字架
わあたあしいいいぃぃぃぃぃだけのじゅうじかあああぁ・・・
「私だけの十字架」
作詞:尾中美千絵 作曲:木下忠司 編曲:青木望
ロケ地 東京
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