ダル4 ? 理想
2005年11月1日8時半。
「・・・・・」
病院の前で立ち止まる。股の濡れたジーンズで入るのには抵抗がある。
アメリカだったらいちいちこういう事は気にしないだろう。
<ER>の世界が、頭をよぎる・・。
(音楽)ドンドドン!
僕はジーンズで裏口から入った。しかし今は出勤がゾロゾロやってくる時間帯だ。
「今日はジーンズですか?グリーン先生!」
「そうだよジェリー。股が濡れちゃってさ」
「危ない遊び?」
「レイチェルが水鉄砲でさ」
「またあ」
「(振り向いて指差し)内緒だよ!」
僕は堂々と歩いた。
いろんな職員とすれ違う。
「おはよ」
「先生おはようさん。ジーンズが」
「知ってるよ!」
「何か問題が?」
「ないよ!」
医局に入ると、若い秘書さんがちょうど来たところだ。
「あらグリーン先生!今日は早いのね!」
「今日は休みなんだけど、呼ばれたんだ」
「急変?」
「ホントは君に会いたいから。ウソだよ!」
ソファーでは当直のカーターが寝ている。
「彼はまあいい、寝さしておこう」
白衣を着て、医局を出た。
歩いていくうち、ナース集団に合流した。
「おはよう」
「おはようございます!グリーン先生」
「おはよう。今日の化粧は。うん。特別だよ」
「おはよう!」
詰所を入ると、日勤ナースらが輪になっている。
「(一同)おはようございます!」
婦長がすまして立っている。
「お目当ての患者?」
「お目当ては、君だけだよ」
「合コンは?」
「黒こげ」
「紹介しよっか?」
「信用できる?」
「独身よ」
「平均は?」
「いってると思う」
「どうだか」
気になる患者は2人とも重症部屋にいた。
「波多野さん!おはよう!」
「やあやあ!」
じいは座位で座っていた。
「あなたがいきなり仕事始めるからですよ・・・!ダメじゃないですか」
「やっぱ、せんほうがよかったですな!」
「そりゃそうです。私は注意しましたよ」
「いやいや。グリーン先生がもう仕事してもええって言うから」
「そうですか?ウソをつくと、国家反逆罪で逮捕ですよ」
「なんでこうも悪化を繰り返す?」
「肺の予備能力が少ないんです」
「ま、素人やから・・」
「いいですか。人工呼吸器がついたら大変なんですよ。あなたは何も学んでない。自分の不注意が自分を苦しめるんだ!わかりましたか?」
「今日は休日なので、もう帰ります。明日の通常出勤まで、入院は続けましょう。明日、また状態を確認します」
「今から退院できませぬか?」
「無理です」
「わしはかか、帰る」
じいは尿道バルーンが入ったまま、立ち上がろうとした。
「おいおいダメダメ!おいだれか!」
ナースらがいっせいに走ってきた。
「いいですか。ここは病院だ。ここのルールを守ってもらいます!」
「わしにも権利がある!」
「こっちにも治す権利があります」
「帰る権利だって・・」
「生きる権利のためですよ」
「ぬう・・・」
<CM>
もう1人・・・脳梗塞後遺症でてんかん発作のおばあさんだ。
今は変わりはなさそうだな。痴呆あり、優位半球の障害のため、
失語が著明だ。誤嚥の傾向があり鼻チューブより経管栄養・内服。肺炎・尿路感染を繰り返している。
炎症・脱水を繰り返したりで、消化管も荒れたりでおそらく、薬物の血中濃度が一定してないのも発作の原因じゃないかな・・。はたまた後遺症の増悪か。
僕は申し送り中の詰所に入った。
「家族は?僕はずっと待ってる。かれこれ24分と33秒もね」
婦長がやってきた。
「あと15分で来るわ」
「それはさっき聞いたよ」
「もうちょっと待って」
「ダメだ。用事がある。ここにいたって雑用を押し付けられるだけだ!」
「どういう意味?」
「僕はせっかくの休日を惜しんでまで、ここに来た!雑用ならそこらのサボってる医者に
押し付けろよ!」
「ちょっとぐらい待って・・」
「そこが君のいけないところなんだ!部下や周囲の人間を甘やかす!」
「あたしが?」
「そう」
「甘い?」
「そう」
「わかった。もういいわ」
「言いたくはなかったが、言いなりになるのはゴメンだよ!」
「知らない」
近くの廊下を急速に降りてくる音。
「なに・・?」
のぞくと、降りてきた医者の1人が立ち止まった。
「下に救急車が来たんだ」
「わかった。行こう」
僕はさっそうと階段を駆け下りた。
(音楽)バンババン!
救急隊が患者を運んできた。
「59歳男性、突然の胸痛」
「アーハン」
「発症3時間。気胸を繰り返している」
「アーハン」
「バイタルは安定。以上」
「アーハン」
「オーマイナスはいってません」
「それ移すぞ!1!2!3!」
(音楽)ドンドコドンドコ・・・
ベントンが所見を取ったりして手伝う。
「さあもう、私が来たからには大丈夫ですよぉ」
僕は指示。
「血算に生化学。放射線科を呼んで!レントゲン、心電図」
「酸素飽和度96。酸素投与開始。モニターは正常!」
外来婦長が叫ぶ。
あっという間に採血ルート確保、写真撮影、心電図。
「こっちの気胸だ。チェストチューブをくれ!早く!」
ベントンが苛立つ。
「早くしろ!」
僕は患者に説明。
「気胸を起こしてる。ドレーン入れます。何度も入れてますね」
僕は横になっている患者に促した。
「ああ。もう慣れてる」
「よおし、入った!」
さっそくチューブが固定。
外来婦長がドカッと座り込む。
「グリーン先生。よく来てくださって」
「なあに。毎度のことだよ」
「今度、キタにおいしいレストランがあるって」
「・・・いいね」
「今日の7時はどう?」
「乗ったよ。その話」
僕は白衣を脱いで、外へ。
カーターが座っている。
「どうしたの?」
「え?いや、その・・・救急が慣れなくて」
「最初はそうさ。僕もそうだった」
「焦ってしまうんです。周囲の状況が」
「あるよ。誰だって。股もと過ぎれば、熱さだって忘れるさ」
「喉もとでは?」
「同じさ」
僕はジーンズを指差した。
「ここ。コーヒーをこぼしたのさ。最初は熱かったけどね。今は大丈夫。そんなものだよ。人生」
「なるほど・・!」
「はっ?」
ボーっとしていた。まだ僕は病院前だ。
ER的な妄想をふるい落とし、第一歩を刻んだ。
人類にとっては小さな一歩ですが・・・。
私にとっては・・大きな一歩です。
「・・・・・」
病院の前で立ち止まる。股の濡れたジーンズで入るのには抵抗がある。
アメリカだったらいちいちこういう事は気にしないだろう。
<ER>の世界が、頭をよぎる・・。
(音楽)ドンドドン!
僕はジーンズで裏口から入った。しかし今は出勤がゾロゾロやってくる時間帯だ。
「今日はジーンズですか?グリーン先生!」
「そうだよジェリー。股が濡れちゃってさ」
「危ない遊び?」
「レイチェルが水鉄砲でさ」
「またあ」
「(振り向いて指差し)内緒だよ!」
僕は堂々と歩いた。
いろんな職員とすれ違う。
「おはよ」
「先生おはようさん。ジーンズが」
「知ってるよ!」
「何か問題が?」
「ないよ!」
医局に入ると、若い秘書さんがちょうど来たところだ。
「あらグリーン先生!今日は早いのね!」
「今日は休みなんだけど、呼ばれたんだ」
「急変?」
「ホントは君に会いたいから。ウソだよ!」
ソファーでは当直のカーターが寝ている。
「彼はまあいい、寝さしておこう」
白衣を着て、医局を出た。
歩いていくうち、ナース集団に合流した。
「おはよう」
「おはようございます!グリーン先生」
「おはよう。今日の化粧は。うん。特別だよ」
「おはよう!」
詰所を入ると、日勤ナースらが輪になっている。
「(一同)おはようございます!」
婦長がすまして立っている。
「お目当ての患者?」
「お目当ては、君だけだよ」
「合コンは?」
「黒こげ」
「紹介しよっか?」
「信用できる?」
「独身よ」
「平均は?」
「いってると思う」
「どうだか」
気になる患者は2人とも重症部屋にいた。
「波多野さん!おはよう!」
「やあやあ!」
じいは座位で座っていた。
「あなたがいきなり仕事始めるからですよ・・・!ダメじゃないですか」
「やっぱ、せんほうがよかったですな!」
「そりゃそうです。私は注意しましたよ」
「いやいや。グリーン先生がもう仕事してもええって言うから」
「そうですか?ウソをつくと、国家反逆罪で逮捕ですよ」
「なんでこうも悪化を繰り返す?」
「肺の予備能力が少ないんです」
「ま、素人やから・・」
「いいですか。人工呼吸器がついたら大変なんですよ。あなたは何も学んでない。自分の不注意が自分を苦しめるんだ!わかりましたか?」
「今日は休日なので、もう帰ります。明日の通常出勤まで、入院は続けましょう。明日、また状態を確認します」
「今から退院できませぬか?」
「無理です」
「わしはかか、帰る」
じいは尿道バルーンが入ったまま、立ち上がろうとした。
「おいおいダメダメ!おいだれか!」
ナースらがいっせいに走ってきた。
「いいですか。ここは病院だ。ここのルールを守ってもらいます!」
「わしにも権利がある!」
「こっちにも治す権利があります」
「帰る権利だって・・」
「生きる権利のためですよ」
「ぬう・・・」
<CM>
もう1人・・・脳梗塞後遺症でてんかん発作のおばあさんだ。
今は変わりはなさそうだな。痴呆あり、優位半球の障害のため、
失語が著明だ。誤嚥の傾向があり鼻チューブより経管栄養・内服。肺炎・尿路感染を繰り返している。
炎症・脱水を繰り返したりで、消化管も荒れたりでおそらく、薬物の血中濃度が一定してないのも発作の原因じゃないかな・・。はたまた後遺症の増悪か。
僕は申し送り中の詰所に入った。
「家族は?僕はずっと待ってる。かれこれ24分と33秒もね」
婦長がやってきた。
「あと15分で来るわ」
「それはさっき聞いたよ」
「もうちょっと待って」
「ダメだ。用事がある。ここにいたって雑用を押し付けられるだけだ!」
「どういう意味?」
「僕はせっかくの休日を惜しんでまで、ここに来た!雑用ならそこらのサボってる医者に
押し付けろよ!」
「ちょっとぐらい待って・・」
「そこが君のいけないところなんだ!部下や周囲の人間を甘やかす!」
「あたしが?」
「そう」
「甘い?」
「そう」
「わかった。もういいわ」
「言いたくはなかったが、言いなりになるのはゴメンだよ!」
「知らない」
近くの廊下を急速に降りてくる音。
「なに・・?」
のぞくと、降りてきた医者の1人が立ち止まった。
「下に救急車が来たんだ」
「わかった。行こう」
僕はさっそうと階段を駆け下りた。
(音楽)バンババン!
救急隊が患者を運んできた。
「59歳男性、突然の胸痛」
「アーハン」
「発症3時間。気胸を繰り返している」
「アーハン」
「バイタルは安定。以上」
「アーハン」
「オーマイナスはいってません」
「それ移すぞ!1!2!3!」
(音楽)ドンドコドンドコ・・・
ベントンが所見を取ったりして手伝う。
「さあもう、私が来たからには大丈夫ですよぉ」
僕は指示。
「血算に生化学。放射線科を呼んで!レントゲン、心電図」
「酸素飽和度96。酸素投与開始。モニターは正常!」
外来婦長が叫ぶ。
あっという間に採血ルート確保、写真撮影、心電図。
「こっちの気胸だ。チェストチューブをくれ!早く!」
ベントンが苛立つ。
「早くしろ!」
僕は患者に説明。
「気胸を起こしてる。ドレーン入れます。何度も入れてますね」
僕は横になっている患者に促した。
「ああ。もう慣れてる」
「よおし、入った!」
さっそくチューブが固定。
外来婦長がドカッと座り込む。
「グリーン先生。よく来てくださって」
「なあに。毎度のことだよ」
「今度、キタにおいしいレストランがあるって」
「・・・いいね」
「今日の7時はどう?」
「乗ったよ。その話」
僕は白衣を脱いで、外へ。
カーターが座っている。
「どうしたの?」
「え?いや、その・・・救急が慣れなくて」
「最初はそうさ。僕もそうだった」
「焦ってしまうんです。周囲の状況が」
「あるよ。誰だって。股もと過ぎれば、熱さだって忘れるさ」
「喉もとでは?」
「同じさ」
僕はジーンズを指差した。
「ここ。コーヒーをこぼしたのさ。最初は熱かったけどね。今は大丈夫。そんなものだよ。人生」
「なるほど・・!」
「はっ?」
ボーっとしていた。まだ僕は病院前だ。
ER的な妄想をふるい落とし、第一歩を刻んだ。
人類にとっては小さな一歩ですが・・・。
私にとっては・・大きな一歩です。
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