救急隊が患者を運んできた。

「59歳男性。気胸を繰り返してますね」
バイタル自体は落ち着いているようだった。
「左胸痛が突然出現ということで」

「はいはい。ご苦労さん」
僕らは患者を移し、採血ルート確保、CTへ。

「私らは帰っても?」
後ろの救急隊が呼び止めた。
「ええ。お疲れさんでした」
僕はストレッチャーを後ろから押した。

胸部CTをとり終えた。あちこちに爆弾・・ブラがある。
あちこち破裂を繰り返している人だ。そのつどブラ切除
を行ってはいるんだが・・。

「今回も破裂ですね。ドレーン入れましょう」
僕は横になっている患者に促した。
「はあ。またでっか」
家族の了解を得て、救急部屋へ戻る。

ピートが介助。
「朝からオッサン、張り切ってるぜ!ブルージーンズ!」
「詰所から呼ばれたんだ」
「ナースの尻に敷かれたか?ええ?」
「はっ?」

思わず自分の尻に手を当てた。て、ティッシュが1枚くっついていた。
クシャクシャにして、床へ。

「ありがとう、ピート」
「?」
「じゃ、ここから・・」
麻酔。あたりをつけて、モスキートでこじあける。プス〜と出る空気。
すかさずそこへ、ドレーン。わずかだが、出血した。

「糸での固定は・・・・持針器を出そうか?」
「ピンク針でやるから、いい」
ピンク針に、糸を通して、と・・。

「事務長と医長がな、うるさいんだよ。コストコストって」
「<最小限の材料で、最大限の効果を>かい?」
「ああ」
「聞き飽きたねえ・・・」
「あっ・・」

糸を針で切ったとたん、点状の出血が白衣についた。

「ついちゃったな・・」
「着替えろ。この患者は感染症・・・HCVプラスだぜ」
「これぐらい」
「よかないさ。おいナース!」
ピートが救急玄関を開けると、中年ナースが救急隊とダベってる。

「コンパの約束かよ?よくやるもんだぜ!」
ピートはナースを通じ、白衣を取りに行った。ナースは僕の白衣を
脱がした。

「これでまた数日、入院でっか」
患者はだるそうに寝ていた。
「肺自体がブラだらけだからねえ、どこまで拡がるものか・・・」
確かにその通りだった。

「きゃああ!」
中年ナースが叫んだ。
「なに?」
僕はうっとうしく反応した。

「ユウキ先生!そこ!そこ・・・!」
「はあ?」
どうやらナースは・・・しまった。僕は白衣を脱いで・・・ジーンズの股を見られた。

「そこにも散った?散ってる散ってる!」
「いやいや、これは血では・・」
「すぐ脱ぐ脱ぐ!」
彼女は走りながら中腰になってきた。

「これはちがう!」
「早くしたほうが!」
「するなよ!」
僕はベルトをつかんだまま対抗した。異様な光景だ。

「おい・・・?」
近くの廊下でピートが白衣を持ったまま固まっていた。
「何を一体・・・」

中年ナースがピートに振り向いた。
「股が!ユウキ先生の股が真っ黒!」
「股がなんだ?」

僕は混乱を避けるため、救急出口を飛び出した。
T-1000を上回る速さだ。

「待ちなよ!おい待て!」
後ろからピートの声が聞こえる。余計あせる。
一目散に、車へと走った。すぐさまエンジンをかけ、駐車場内を暴走した。
どうやらピートは僕を見失ったようだ。
「ふう・・・」

まだ院内だからか、院内PHSが鳴る。

『ミチルです。気胸の方の家族が・・』
「駐車場で説明するから」
『先生。今、駐車場でしょ。お見通しよ』
ミチルが4階から手を振っている。

「駐車場へ降りてきてもらって」
『はあ?』
「じ、時間がないんだ。そこで説明」
『写真の説明とかは・・』
「写真はまた後日。何度も会ったことのある家族だから」

結局、駐車場近くの小窓から顔を出してもらい、僕が運転席から説明。
まるでドライブスルーだ。

奥さんはいつもの説明通り、納得した。
「お忙しいんですね先生も・・・」
「か、家族がね。ちょっと・・」

慌ててアクセルを踏み、明日引き続いての説明とした。

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