カテはすぐ入った。

ウイーン、と造影。こちらも細いところはない。

「角度、変える」
いろいろ変えたが、見当たらない。

シローが後ろから医長にささやく。
「CPKは220」
「低いな・・・発症してかなりたつのか?もういっぺん測定だ」

 もし今閉塞が解除されたばかりなら、CPKはかなり高値を示すだろう。
※ 早期再灌流によるウオッシュアウト(洗い出し)による。

「壁運動はどうだったの?」
総統は間に入った。
「エコーの画像、モニターで流して!ビデオパネル、チェンジ!」

画面にザッキーが記録した超音波映像が映る。

 どうやら心尖部がよく見えないらしい。それ以外はなんとか分かるが・・。

 それか操作(走査)が未熟なのか。

「壁運動は、弱いところはないわね・・・でも心尖部がよく見えないわね」
「そこでしょう、たぶん」
医長が腕組みした。
「超音波、指導しておきます」
「アンタも自分で見なきゃいけないじゃないのよ」
「自分は他の急変で・・」
「言い訳言い訳!」

この2人の間に、火花が走る。

「LVG、やって!」
総統がガラスの向こうの技師・ナースに叫ぶ。

「今は、LVGはしなくても・・高齢ですし」
「腎機能が悪いの?」
「そんな訳ではないですが・・」
「石橋、たたきすぎ!」

LVG(左室造影)の準備ができた。左心室の動きをみる。

1人残し、僕らはいったんガラスの向こうへ避難。
グ−ン、と造影剤が注入。

プレイバック画面を何度も確認。
医長はまた腕組みした。
「ほら、やはり心尖部ですよ。動いてない」
「シッ!」
音は出てないのに総統は制した。

「ははあ・・なるほど」
総統は後ずさった。総統は僕に耳打ちした。

僕は少し考え・・・
「あ。そうかもしれませんね・・!」
「は・・?」
医長は首を傾けた。

総統は患者に2,3質問し、大きくため息をついた。
「さ。片付けましょうか。さきほどのCPKは?シローちゃん!」
「はい!今出ました・・240?あれ?あまり変わってない?」
「だろね」

医長は片付けながら、僕に言い寄ってきた。
「stunned myocardiumに近いですかね」
「ああ、それは知ってるよ。お前の得意分野だろ?」

北野は本をペラペラめくっている。
「スタンド、スタンド・・」
「気絶心筋だ。北野」
医長は服を1つずつ脱がせてもらっていた。

「気絶心筋?気を失う、の気絶?」
「血流が途絶えたショックで、血流が再開しても壁の運動が悪い状態」
「冠動脈が、詰まって、血液が流れなくなって・・・」
「誰か、こいつを頼む」

学生は僕に寄ってきた。

「流れなくなると、心筋は壊死・・・えっ?」
「壊死はまあ、部分的には起こったかもしれないが、気絶心筋では本来もとに戻るはずの壁運動が、一時的に悪いままだ。7-10日したら回復してくるhttp://web.kanazawa-u.ac.jp/~med23/bst/LecStun.html
「この患者さんは、発作から時間が・・実はかなり経っていて壊死が完了している・・だから動かない?えっ?」
「いや。当院に来たのは症状が出て間もなくだよ」
「えっ?えっ?」
「でも、総統は気絶心筋ではないとおっしゃる」

後ろでピクッ、と医長が反応した。

「メモ、貸せ。北野」
「はい?」
「・・・・・と。これだろうって」
「これ?はあ、はあ・・えっ?」
「教科書にはまだ載ってないんじゃないかな」

総統はスーツに着替えた。
病棟の婦長たちが患者を迎えに来た。

僕らはいつものように声を合わせた。
「(医長以外、一同)デスラー総統、ばんざーい!」
総統は手を振った。
「医長は分かってた?ユウキくん」
「いや、まだのようですね」
「じゃあ伝えといて」
「ええ」
「この<タコ>って!」

婦長が驚いた。
「窪田先生。医長にタコって・・」
「冗談よ。じゃ、デスラー艦で帰りますね」
「もう。仲良くしてください!医者同士!」

ケラケラ笑いながら、総統は去っていった。

僕はもう1度、プレイバック画面を見直した。

なるほど・・・確かに、心尖部以外の部分が過剰に収縮している。
特に心基部が。

「一見、<気絶心筋>が当てはまりそうな気はするが・・・」

 だが、このケースは特殊だ。これは当時より報告が盛んになった、<たこつぼ型心筋症>の典型例だったのだ。

数日後、医長の症例収集に加わったのは言うまでもない。

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