ダル4 ? お前ら!すべてはこの夜に。
2005年11月5日 もう夕方の4時にさしかかった。しっとりとした股も乾いてきた。
僕はカテ室からそのまま私服で階段を降りた。
休日なので、病棟に寄る予定はない。
事務室を通りかかる。
「おっ!」
事務長が小さく驚いた。
「なんでまた休日に・・?」
彼はわざわざ窓を開けた。
「雨、降るんじゃないかな・・・?」
「おい!」
「はっ?」
僕は事務長と救急控え室に入った。家族が待機する場所だ。
「事務長。ザッキーはまあいろいろと問題はあるけど・・」
「やっぱ新米ですか」
新しく雇った医者の評価は医長でなく、一応最年配の僕が行っていた。これはみんなには極秘になっている。
つまり新任者の運命は僕の手に・・。核ミサイルボタンを渡されたような気がする。
どこにでも<問題児>はいる。ザッキーが本当に問題児かどうかは別として、民間病院ではどこでも抱えている問題だ。だがあまりにも問題あって経営に悪影響と判断された場合は辞めてもらうことがある。
大学病院は別だ。ここはクビにしたくてもそれができない。なので教授にとってどうでもいいような山奥の民間関連病院へ廻してしまう。そういうとこは割と高給で(医者の需要↑)仕事も楽(ベッド数キープ目的病院多い)だから、すんなり居座ってしまう・・のがこれまた悲しいところだ。
「事務長。ザッキーはもう1ヶ月、みてみる」
「患者さんからの苦情はねえ・・このように」
彼は外来ナースらがまとめた報告書を差し出した。
・ 患者さんに逆ギレする
・ 呼んでも無視することがある
・ 外来からすぐ姿を消す
・ みんなの陰口を言う
僕は冷や汗が流れた。
「あいつら、そのものじゃないか・・・?」
「灯台もと暗し、でしょうか」
「お前もそう思う?」
「ええ」
「陰口はみんな言うよな。呼び出されたらいきなり姿は消すことあるし・・」
「患者さんにキれるのは、ちょっとね・・」
「問題ありの患者じゃなくてか?」
「耳の遠い老人とかね」
「なるほどな・・・」
「先生。直々にお願いします」
「オレから説教?シローに言えよ。シローはいちおうオーベン・・」
事務長は出て行く僕の袖を掴んだ。
「頼みます頼みます!」
「やめろって!」
「ナースに頼まれたんですよ!ユウキ先生から直々に伝えるようって」
「で、お前は?」
「かしこまりました、と」
「ほざくな!」
「待って先生!」
事務長は駐車場までついてきた。
「事務長。まああれだ。当直医をしてて、呼び出しに応じないのは問題だな」
「でしょう・・ですから先生から」
「じゃ、明日あたり厳しく言っておくから」
「あわわ!先生!」
「なに?」
「じ、常勤ドクターの当直は貴重なので・・・あまり高圧的には」
「わかってるよ・・・!」
事務長が取り乱すあまり、書類を抱えた脇からバサバサと紙が落ちてきた。
「先生!拾わんでいい拾わんで!」
「いいって!」
太いフエルトペンで書かれた紙・・・いろんな職員が書いたアンケート用紙のようだ。
「先生、こっち貸して・・!」
「なんだこれ!」
僕の名前が視界に飛び込んだ。
『ユウキ先生の悪口を言う』
どこのナースか知らんが、主語はもちろんザッキーだろう。
「ほお・・・そうかそうか」
「うわわ・・・か、陰口は誰でも言うし」
「そ!それとこれとは別だ!」
「それとこれ?えっ?」
「お前は北野か!」
僕は事務長の胸ぐらを軽く掴んだ。
「ぼぼ、暴力医者!」
「冗談冗談!ソーリーソーリー!」
僕は手を放した。
なんて言われているかは知らないが、悔しい。
事務長はエリを正した。
「子供みたいですよ、最近・・・」
「あいつ。明日からはもう他人だ!」
そこまでは思ってないが、今度は説教させてもらおう。
人は傷つけたくないが・・。シローに押し付けるのもなんだし。
事務長は後ろで口ずさんでいる。
「♪やさしすぎたの、あんなた・・」
「♪こどもみたいな、あんなた・・」
「♪あすはた〜にんどうしに〜チャチャチャ」
「♪(2人)なるけ〜れど〜」
僕は車に乗り、ミラーを直した。
事務長が後ろで見送る。
「じゃあユウキ先生。お願いしましたよ!」
「テメエに言われたくないよ!」
カテ室から持ってきたMDを、さっそく運転席横のチェンジャーに取り付けた。このMDは退職した30代の技師が残していったものだ。この技師は自分でスピーカーを作れるほどのオーディオマニアと聞いていた。硬派な人だったが、上司とウマが合わず辞めてしまった。民間病院の退職っていうのはほとんどそんなことがキッカケだ(特にパラメディカル)。
僕もなるべくなら争いは避けたい。争ってスッキリしたためしがないからだ。グラウンドで星と花形が泣いて殴りあえるような、そんな美しい場面など存在しない。
しばらく沈黙。
ガガガガガガガ・・・
「お?」
チェンジャーをのぞくと、MDがどうやら入っていかない。振動している。
「この・・・!どりゃあ!」
力任せに入れようとしたのがいけなかったのか、押されたMDはバキンという音とともに奥に入ってしまった。以後、ウンともスンともいわず。
どのボタンを押しても動かない。
外来ナースが助手席側からコンコンと叩く。
「な、なんだよ?」
ナースがウインドウの隙間から覗く。
「あの、整形の急患が来るかもしれないんで、はやくここを」
「わわ、わかってる!」
「事務長とイチャイチャしてたよね!」
「するか!」
「おおこわ」
「お前ら!」
僕はかなりカッとなってしまったが・・・。
まあ待て待て。抑えろ。
抑えろ。
「お前ら・・・」
「ひっ?」
ナースは少し驚いていた。
「おっまえら〜♪あああ・・・すべてはこの夜に・・・」
「え?」
「知らんか。この歌・・」
このナースは50代だ。知る由もない。
車は大通りへ。
「♪おっまいら〜あああ・・・すべてはこの夜に!
おっまいら(Oh,My Love)〜ああああ!すべてはこの夜に!」
だんだん盛り上がっていく。
「おっまままええええっらっらっっっ(多重エコー)!」
『すべてはこの夜に』
作詞 佐野元春 作曲 佐野元春 編曲 西平 彰
<ロケ地 大阪>
僕はカテ室からそのまま私服で階段を降りた。
休日なので、病棟に寄る予定はない。
事務室を通りかかる。
「おっ!」
事務長が小さく驚いた。
「なんでまた休日に・・?」
彼はわざわざ窓を開けた。
「雨、降るんじゃないかな・・・?」
「おい!」
「はっ?」
僕は事務長と救急控え室に入った。家族が待機する場所だ。
「事務長。ザッキーはまあいろいろと問題はあるけど・・」
「やっぱ新米ですか」
新しく雇った医者の評価は医長でなく、一応最年配の僕が行っていた。これはみんなには極秘になっている。
つまり新任者の運命は僕の手に・・。核ミサイルボタンを渡されたような気がする。
どこにでも<問題児>はいる。ザッキーが本当に問題児かどうかは別として、民間病院ではどこでも抱えている問題だ。だがあまりにも問題あって経営に悪影響と判断された場合は辞めてもらうことがある。
大学病院は別だ。ここはクビにしたくてもそれができない。なので教授にとってどうでもいいような山奥の民間関連病院へ廻してしまう。そういうとこは割と高給で(医者の需要↑)仕事も楽(ベッド数キープ目的病院多い)だから、すんなり居座ってしまう・・のがこれまた悲しいところだ。
「事務長。ザッキーはもう1ヶ月、みてみる」
「患者さんからの苦情はねえ・・このように」
彼は外来ナースらがまとめた報告書を差し出した。
・ 患者さんに逆ギレする
・ 呼んでも無視することがある
・ 外来からすぐ姿を消す
・ みんなの陰口を言う
僕は冷や汗が流れた。
「あいつら、そのものじゃないか・・・?」
「灯台もと暗し、でしょうか」
「お前もそう思う?」
「ええ」
「陰口はみんな言うよな。呼び出されたらいきなり姿は消すことあるし・・」
「患者さんにキれるのは、ちょっとね・・」
「問題ありの患者じゃなくてか?」
「耳の遠い老人とかね」
「なるほどな・・・」
「先生。直々にお願いします」
「オレから説教?シローに言えよ。シローはいちおうオーベン・・」
事務長は出て行く僕の袖を掴んだ。
「頼みます頼みます!」
「やめろって!」
「ナースに頼まれたんですよ!ユウキ先生から直々に伝えるようって」
「で、お前は?」
「かしこまりました、と」
「ほざくな!」
「待って先生!」
事務長は駐車場までついてきた。
「事務長。まああれだ。当直医をしてて、呼び出しに応じないのは問題だな」
「でしょう・・ですから先生から」
「じゃ、明日あたり厳しく言っておくから」
「あわわ!先生!」
「なに?」
「じ、常勤ドクターの当直は貴重なので・・・あまり高圧的には」
「わかってるよ・・・!」
事務長が取り乱すあまり、書類を抱えた脇からバサバサと紙が落ちてきた。
「先生!拾わんでいい拾わんで!」
「いいって!」
太いフエルトペンで書かれた紙・・・いろんな職員が書いたアンケート用紙のようだ。
「先生、こっち貸して・・!」
「なんだこれ!」
僕の名前が視界に飛び込んだ。
『ユウキ先生の悪口を言う』
どこのナースか知らんが、主語はもちろんザッキーだろう。
「ほお・・・そうかそうか」
「うわわ・・・か、陰口は誰でも言うし」
「そ!それとこれとは別だ!」
「それとこれ?えっ?」
「お前は北野か!」
僕は事務長の胸ぐらを軽く掴んだ。
「ぼぼ、暴力医者!」
「冗談冗談!ソーリーソーリー!」
僕は手を放した。
なんて言われているかは知らないが、悔しい。
事務長はエリを正した。
「子供みたいですよ、最近・・・」
「あいつ。明日からはもう他人だ!」
そこまでは思ってないが、今度は説教させてもらおう。
人は傷つけたくないが・・。シローに押し付けるのもなんだし。
事務長は後ろで口ずさんでいる。
「♪やさしすぎたの、あんなた・・」
「♪こどもみたいな、あんなた・・」
「♪あすはた〜にんどうしに〜チャチャチャ」
「♪(2人)なるけ〜れど〜」
僕は車に乗り、ミラーを直した。
事務長が後ろで見送る。
「じゃあユウキ先生。お願いしましたよ!」
「テメエに言われたくないよ!」
カテ室から持ってきたMDを、さっそく運転席横のチェンジャーに取り付けた。このMDは退職した30代の技師が残していったものだ。この技師は自分でスピーカーを作れるほどのオーディオマニアと聞いていた。硬派な人だったが、上司とウマが合わず辞めてしまった。民間病院の退職っていうのはほとんどそんなことがキッカケだ(特にパラメディカル)。
僕もなるべくなら争いは避けたい。争ってスッキリしたためしがないからだ。グラウンドで星と花形が泣いて殴りあえるような、そんな美しい場面など存在しない。
しばらく沈黙。
ガガガガガガガ・・・
「お?」
チェンジャーをのぞくと、MDがどうやら入っていかない。振動している。
「この・・・!どりゃあ!」
力任せに入れようとしたのがいけなかったのか、押されたMDはバキンという音とともに奥に入ってしまった。以後、ウンともスンともいわず。
どのボタンを押しても動かない。
外来ナースが助手席側からコンコンと叩く。
「な、なんだよ?」
ナースがウインドウの隙間から覗く。
「あの、整形の急患が来るかもしれないんで、はやくここを」
「わわ、わかってる!」
「事務長とイチャイチャしてたよね!」
「するか!」
「おおこわ」
「お前ら!」
僕はかなりカッとなってしまったが・・・。
まあ待て待て。抑えろ。
抑えろ。
「お前ら・・・」
「ひっ?」
ナースは少し驚いていた。
「おっまえら〜♪あああ・・・すべてはこの夜に・・・」
「え?」
「知らんか。この歌・・」
このナースは50代だ。知る由もない。
車は大通りへ。
「♪おっまいら〜あああ・・・すべてはこの夜に!
おっまいら(Oh,My Love)〜ああああ!すべてはこの夜に!」
だんだん盛り上がっていく。
「おっまままええええっらっらっっっ(多重エコー)!」
『すべてはこの夜に』
作詞 佐野元春 作曲 佐野元春 編曲 西平 彰
<ロケ地 大阪>
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