ダル4 ? 白衣なければ・・・
2005年11月5日繁華街を抜け、アパートの下の駐車場へ停める。
車を出たが、そのまま部屋には向かわず。近所のツタヤに、
借りた1週間レンタルを返しに行く。夕方5時前。
賑わいだした通りは、買い物客のオバサンたちだ。
サラリーマンの姿はもうすぐ。
ツタヤに入って延滞料金を支払い、解放。
習慣的にポケベルを見ると・・・やはり着信が。
すると携帯にも・・・やはり着信ありだ。
どうやら車の中で歌っていて全然気づかなかったらしい。
こういうのがあると病院中でその日の噂になる。
「もしもし・・・電話した?」
『病棟です。ミチルです』
「今度は何?」
『アルツハイマーの患者さんが、転倒しまして』
「何やってんだよ!もう・・・!」
『出血はしてないようですが』
「どこを打ったんだよ、どこを!」
僕はレンタル屋内をあちこちウロウロした。
客がチラホラいて、落ち着く場所がない。
『頭・・・』
「なにい!それで?」
『意識は明瞭ですが・・』
「CTとか撮ったのかよ!おい!」
『今、行きました。とりあえずお伝えしようかと・・』
婦長は弱気だ。しかし僕への後ろめたさだけではなかった。
『先生。今すぐ戻って来ていただけませんか・・』
「おいおい・・・今、戻ってきたんだぞ。医長はどうよ?」
『カテのあと、すごく機嫌が悪くて』
「はっはー」
と、笑ってる場合ではない。
『CTが撮れたら、誰に・・』
「誰って・・・シローかザッキーに・・いやなるべくシローのほうが」
『シロー先生は外されました。用事があるって』
「最近、多いようだな・・」
シローのバイトの件を思い出した。たぶんバイトに出かけたな・・。
「ザッキーは?」
『それが捕まらないんです』
「あのなあ・・・」
『外科のドクターたちは、写真は分からないと』
「医者だろ?」
『あたしに言われても・・・』
出た。当院名物<ミチル婦長音頭>だ。<あたしは医者じゃないし>バージョン、<婦長になったばかりだしバージョン>もある。
「今日の当直医は・・」
『7時なので、遅くなるし・・』
「むう・・・」
『うーん・・・』
何がなんでも来させるつもりだな。
『トシキ医長に、伝えましょうか・・』
声が震えている。
「せんでいいせんでいい。オレが連絡するよ」
『ほんとに?うれしい』
「で、写真見てもらうようにお願いするから」
『助かるわ!』
「どあるう・・・!はっ?このカーテンは・・」
ピンクのカーテンをくぐると、そこはアダルトコーナーだった。
「し、しもた!」
『大丈夫ですか?』
「お、オレよりも背が高い・・」
気がつくと等身大ポスターの横に立っていた。
『背が?』
「そ、そう。せせ、セガ。セガのゲーム・・」
『ゲームしてるの?』
「い、いいじゃんか別に・・!」
僕は顔を真っ赤にしてカーテンをくぐりぬけた。
『では、連絡をお待ちしています』
電話は切れた。
医長に電話か。だる・・・。
怒ってないかな。
なんでいちいち機嫌を取らねばいかんのだ・・・!
僕は単刀直入に携帯をかけた。
『もしもし?』
「医長先生。患者が転倒したらしい。意識は良好だがCTを・・」
『それを僕に見てくれっていうのですか?』
「は・・はい」
『家族への説明もあるでしょうし』
「で、でもな」
『主治医からの説明でお願いします。(ガチャ)』
「おお、おい!」
『(プー)』
あの野郎・・・。
「はいよはいよ!」
またドライブだ。今度は何を歌おうか・・。
「♪あ〜の〜ひ〜と〜は、あのひと〜は・・くそっ!もう飽き飽き!」
オートバックスのヤンキー整備員め・・・!
「♪さびしい〜ときも、かなしい〜ときも、いつもあなたが〜めにう〜かあぶ〜暗っ!」
そうこうするうち、病院に到着。渋滞になりかけている。職員駐車場に車はほとんどない。
「あ〜!だるだる!」
降りて、ダイレクトに詰所へ。入るなり、若いナースに腕をつかまれた。
「いてえ!」
「す、すみません!まさか先生だとは・・」
やはり白衣を着ていなければ、ただのヒトということかな・・。
このナース含めた準夜ナース2人以外、誰もいなかった。
「婦長のやつ・・・!要領いいぜ!」
CTを確認。問題なし。部屋番号を確認し、転倒した患者の部屋へ。
「あ!こんばんは!」
「だれ?」
情けないことに、白衣なしの僕は患者の娘にも分からなかった。
「しゅしゅ、主治医の・・」
「ああ、ごめんなさい!」
仕事帰りっぽい疲れた女性は立ち上がって謝った。
「大丈夫だね・・」
「ええ」
所見を取り終わり、じいさんは相変わらずニコニコ顔だ。
写真を説明し、夜間状態悪化の可能性にも触れておく。
「よし。帰るか・・」
部屋を出ようとすると、廊下で10人くらいの家族が立っている。
重症の人の見舞いなのか・・。
「誰か、約束を・・?」
中のうち1人の背の高い中年男性が入ってきた。
「ああ、おにいさんよ。先生、呼んでくれるか?」
「先生・・・?」
「鹿児島から、伊丹にやっと着いてね」
「それは・・大変でしたね」
そうだ。鹿児島からわざわざ来てくれた・・・てんかんのバアサンの家族だ。
こんな大人数で・・。
「ほら、はよ先生呼んでくれ!みんなメシも食わず・・」
「じゃ、こちらへ」
僕はイスを用意した。
「はよ、呼んでくれって!」
「すみません。実は僕です」
「え?うそ?だって・・」
「白衣は・・・洗濯中で」
「す、すみません・・・!」
家族がゾロゾロと入ってきた。久しぶりのムンテラでもあり、じっくり時間を
かけて説明。
さきほどの男性が深々と頭を下げる。
「さっきはごめんなさいね。いかなこて・・」
「?」
「こんな時間まで待ってくれておやっとさあ!」
「?」
意味が分からん・・。
「おい!おっさんも!」
男性が話しかけたのはどうやら奥さんのようだが、向こうでは<おっさん>というのか?
「では・・・今後ともよろしゅう」
意味不明の締めくくりで、僕は医局へ戻った。
医局のパソコンで、北野が一生懸命何か打っている。
「北野!」
「うわあっ!びっくりしたなあもう!」
彼は物凄く驚いて飛び上がり、画面を消した。
「は、白衣着てないし!」
「余計なお世話だこの!」
「はっ、はっ」
なにやら焦っている。僕は肩をたたきに行った。
「なにをしている〜?」
「れ、レポートです。医長から」
「医長からも宿題か」
「そそ、それとユウキ先生からの新しい宿題。医者の条件・・」
「ああ、あれね・・・やっとけよ!」
医局の冷蔵庫を開けるが、やはり何もない。
「それにしても、なんにもない医局だなあ・・・♪なんにもなあいなんにもなあい」
「うう・・」
医長がソファから半分起き上がった。
丁度よかった。こいつにはヒトコト言ってやらないと!
「あ?おいトシキ!」
「は、はい」
「戻ってきたぞ!ちゃんと!でもな、お前もうちょっと!」
「異常なくてよかったですね」
「うん」
その場がいったんフリーズし、医長はトイレへ歩いていった。
いいなあ、B型野郎は・・・!
車を出たが、そのまま部屋には向かわず。近所のツタヤに、
借りた1週間レンタルを返しに行く。夕方5時前。
賑わいだした通りは、買い物客のオバサンたちだ。
サラリーマンの姿はもうすぐ。
ツタヤに入って延滞料金を支払い、解放。
習慣的にポケベルを見ると・・・やはり着信が。
すると携帯にも・・・やはり着信ありだ。
どうやら車の中で歌っていて全然気づかなかったらしい。
こういうのがあると病院中でその日の噂になる。
「もしもし・・・電話した?」
『病棟です。ミチルです』
「今度は何?」
『アルツハイマーの患者さんが、転倒しまして』
「何やってんだよ!もう・・・!」
『出血はしてないようですが』
「どこを打ったんだよ、どこを!」
僕はレンタル屋内をあちこちウロウロした。
客がチラホラいて、落ち着く場所がない。
『頭・・・』
「なにい!それで?」
『意識は明瞭ですが・・』
「CTとか撮ったのかよ!おい!」
『今、行きました。とりあえずお伝えしようかと・・』
婦長は弱気だ。しかし僕への後ろめたさだけではなかった。
『先生。今すぐ戻って来ていただけませんか・・』
「おいおい・・・今、戻ってきたんだぞ。医長はどうよ?」
『カテのあと、すごく機嫌が悪くて』
「はっはー」
と、笑ってる場合ではない。
『CTが撮れたら、誰に・・』
「誰って・・・シローかザッキーに・・いやなるべくシローのほうが」
『シロー先生は外されました。用事があるって』
「最近、多いようだな・・」
シローのバイトの件を思い出した。たぶんバイトに出かけたな・・。
「ザッキーは?」
『それが捕まらないんです』
「あのなあ・・・」
『外科のドクターたちは、写真は分からないと』
「医者だろ?」
『あたしに言われても・・・』
出た。当院名物<ミチル婦長音頭>だ。<あたしは医者じゃないし>バージョン、<婦長になったばかりだしバージョン>もある。
「今日の当直医は・・」
『7時なので、遅くなるし・・』
「むう・・・」
『うーん・・・』
何がなんでも来させるつもりだな。
『トシキ医長に、伝えましょうか・・』
声が震えている。
「せんでいいせんでいい。オレが連絡するよ」
『ほんとに?うれしい』
「で、写真見てもらうようにお願いするから」
『助かるわ!』
「どあるう・・・!はっ?このカーテンは・・」
ピンクのカーテンをくぐると、そこはアダルトコーナーだった。
「し、しもた!」
『大丈夫ですか?』
「お、オレよりも背が高い・・」
気がつくと等身大ポスターの横に立っていた。
『背が?』
「そ、そう。せせ、セガ。セガのゲーム・・」
『ゲームしてるの?』
「い、いいじゃんか別に・・!」
僕は顔を真っ赤にしてカーテンをくぐりぬけた。
『では、連絡をお待ちしています』
電話は切れた。
医長に電話か。だる・・・。
怒ってないかな。
なんでいちいち機嫌を取らねばいかんのだ・・・!
僕は単刀直入に携帯をかけた。
『もしもし?』
「医長先生。患者が転倒したらしい。意識は良好だがCTを・・」
『それを僕に見てくれっていうのですか?』
「は・・はい」
『家族への説明もあるでしょうし』
「で、でもな」
『主治医からの説明でお願いします。(ガチャ)』
「おお、おい!」
『(プー)』
あの野郎・・・。
「はいよはいよ!」
またドライブだ。今度は何を歌おうか・・。
「♪あ〜の〜ひ〜と〜は、あのひと〜は・・くそっ!もう飽き飽き!」
オートバックスのヤンキー整備員め・・・!
「♪さびしい〜ときも、かなしい〜ときも、いつもあなたが〜めにう〜かあぶ〜暗っ!」
そうこうするうち、病院に到着。渋滞になりかけている。職員駐車場に車はほとんどない。
「あ〜!だるだる!」
降りて、ダイレクトに詰所へ。入るなり、若いナースに腕をつかまれた。
「いてえ!」
「す、すみません!まさか先生だとは・・」
やはり白衣を着ていなければ、ただのヒトということかな・・。
このナース含めた準夜ナース2人以外、誰もいなかった。
「婦長のやつ・・・!要領いいぜ!」
CTを確認。問題なし。部屋番号を確認し、転倒した患者の部屋へ。
「あ!こんばんは!」
「だれ?」
情けないことに、白衣なしの僕は患者の娘にも分からなかった。
「しゅしゅ、主治医の・・」
「ああ、ごめんなさい!」
仕事帰りっぽい疲れた女性は立ち上がって謝った。
「大丈夫だね・・」
「ええ」
所見を取り終わり、じいさんは相変わらずニコニコ顔だ。
写真を説明し、夜間状態悪化の可能性にも触れておく。
「よし。帰るか・・」
部屋を出ようとすると、廊下で10人くらいの家族が立っている。
重症の人の見舞いなのか・・。
「誰か、約束を・・?」
中のうち1人の背の高い中年男性が入ってきた。
「ああ、おにいさんよ。先生、呼んでくれるか?」
「先生・・・?」
「鹿児島から、伊丹にやっと着いてね」
「それは・・大変でしたね」
そうだ。鹿児島からわざわざ来てくれた・・・てんかんのバアサンの家族だ。
こんな大人数で・・。
「ほら、はよ先生呼んでくれ!みんなメシも食わず・・」
「じゃ、こちらへ」
僕はイスを用意した。
「はよ、呼んでくれって!」
「すみません。実は僕です」
「え?うそ?だって・・」
「白衣は・・・洗濯中で」
「す、すみません・・・!」
家族がゾロゾロと入ってきた。久しぶりのムンテラでもあり、じっくり時間を
かけて説明。
さきほどの男性が深々と頭を下げる。
「さっきはごめんなさいね。いかなこて・・」
「?」
「こんな時間まで待ってくれておやっとさあ!」
「?」
意味が分からん・・。
「おい!おっさんも!」
男性が話しかけたのはどうやら奥さんのようだが、向こうでは<おっさん>というのか?
「では・・・今後ともよろしゅう」
意味不明の締めくくりで、僕は医局へ戻った。
医局のパソコンで、北野が一生懸命何か打っている。
「北野!」
「うわあっ!びっくりしたなあもう!」
彼は物凄く驚いて飛び上がり、画面を消した。
「は、白衣着てないし!」
「余計なお世話だこの!」
「はっ、はっ」
なにやら焦っている。僕は肩をたたきに行った。
「なにをしている〜?」
「れ、レポートです。医長から」
「医長からも宿題か」
「そそ、それとユウキ先生からの新しい宿題。医者の条件・・」
「ああ、あれね・・・やっとけよ!」
医局の冷蔵庫を開けるが、やはり何もない。
「それにしても、なんにもない医局だなあ・・・♪なんにもなあいなんにもなあい」
「うう・・」
医長がソファから半分起き上がった。
丁度よかった。こいつにはヒトコト言ってやらないと!
「あ?おいトシキ!」
「は、はい」
「戻ってきたぞ!ちゃんと!でもな、お前もうちょっと!」
「異常なくてよかったですね」
「うん」
その場がいったんフリーズし、医長はトイレへ歩いていった。
いいなあ、B型野郎は・・・!
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