ダル5 ? 離したくはない
2005年11月14日整形外科より院内紹介状あり、65歳男性。
「手術前につき、心機能の評価をお願いします・・・か。院内の患者は午後にしようよ」
「それが・・」
ベテランナースも困っていた。
「手術は今日なんです。全身麻酔」
「へえっ？うそ？」
「昨日入院したんです。で、今日手術」
「おいおい。もし検査して異常があったらどうすんだ？」
整形の例の医者を思い出した。頑固じじいだ。
「しょうがないな。レントゲンと心電図は？」
「これです」
じっくり見る。
「心臓が大きく見えるけど。臥位なんだろ。しかも斜位だし」
「背中のオペなんでね・・」
「座れないわけか」
「心電図はこれ・・」
V3-5が陰転している。虚血を示唆する所見だ。
「まあ電解質異常であることも多いけど・・以前の分はない？」
「既往歴に狭心症が」
「なんだよ。早く言えよ。なになに・・・」
カルテに＜松田クリニック＞と書いてある。
「またかよ！もう嫌だ！」
内服がすさまじい。バファリン、パナルジン、シグマート、ヘルベッサー・・・全部で12種類。
とりあえず、ストレッチャーで来てもらった。患者は横になったまま。
「診てもらってるのは、院長ですか？」
「ええ。院長先生」
ハズレくじだ・・。可哀想に。
「診断されたのは、そのクリニックで？」
「ええ。1年前。食事したら胸焼けがするって言ったら心電図とってくれて、＜あんた、危ないところやったね＞って」
「で、薬もらって・・・よくなった？」
「心臓の薬もらったんだけど、あまり変わらなかったんで。そしたら胃の一番いい薬、出すって」
「マジか・・」
「腰が痛いんで、ここの整形の先生に診てもらってたんですわ。痛み止めぎょうさんもろうて」
「胸焼けは？」
「ひどいんです。なのでそれは心臓やないかと言われたわけで」
どこが術前評価だよ。
「確かに心電図は異常があるので・・ただ、以前の分が欲しいですね」
「ああ。比べるわけですね？家内に・・」
「いえ。ファックスで取り寄せます」
事務員に命じ、超音波を確認。臥位しかとれないらしく、観察範囲も限定される。
「うん。まあ、いいか・・・」
医長のポータブルエコーはドプラという方法までできないので、心臓の動きの評価しかできない。
心機能のうちの収縮能しか分からず、拡張能までは分からない。
※ 心機能＝左室収縮能＋左室拡張能。前者は（LV）EF＝（左室）駆出率より簡単に計測されるが、後者はドプラ法で測定。ちゃちい超音波機械では前者しか分からない。ともあれ「EFは正常」イコール「心機能は良好」とは限らないのだ。
左心室の中隔が気になる。左心室と右心室との間だ。真向かいである左心室後壁の動きより
弱い。若干。心電図を見てからの妙な思い込みもあるかもしれないが・・。
異常がないとはいえそうにない。
「タバコ吸います？」
「吸ってない」
「以前は？」
「吸った。ことはないでもない」
「多い時で3箱？」
「そんなにはない。せいぜい2箱」
「松田先生からは、他になにか指摘は？」
「青汁を勧められました」
医者か・・・？
田中事務員が走ってきた。
「ユウキ先生。心電図が来ません」
「連絡したのなら、催促しろよ」
「それが、すごく怒られまして」
「院長か？」
「そのようで」
「かける！」
かつてはお世話になった人なんだが・・。
『院長ですが』
「松田先生？」
『おお！その声は！』
「いつもお世話になります。先生、心電図・・・」
『そっちでの所見は？』
「え？こっち？胸部誘導でT波が陰性化してます。そちらでは・・」
『ああ。こっちもあったよ。診る前から』
「検査は他には・・・」
『うん。まあ1年前の話やからなあ・・へっへ』
彼は余裕の声だった。
「先生。ファックスしていただけますか。念のため・・」
『うん。まあ超音波で調べたらええんとちがうの？』
「しましたが、中隔がハイポです」
『ユウキのエコーだからなあ・・そこはどうだか。へっへ！』
「・・・・・・」
意地が悪いのは、相変わらずだった。
「ですから先生、ファックスを」
『もう！しつこいんだよお前は！』
「は？」
『この前も1人紹介しただろ！肺癌疑いを！』
「え・・ええ。返事は届きましたか？」
『オレは検査だけしろって言ったんだ！それをオイ！以前のレントゲンもってこいって
患者に言ったのか？』
「レントゲンも、比較がしたいのです」
『オ、オレが何か見落としてたとでも言うのか？お？』
その通りだ。
「先生すみません。まずファックスを！」
『うるさい！ああ！あったら送るけどな！』
「あったら？」
電話は切れた。
困ったな。その件はいいとしても、午後のオペをそのまま許可するのは・・。
ベテランナースが電話を新たに差し出した。
「さ、整形の先生と話されますか？」
「イヤだなあ・・」
「患者さんのためでしょう？」
「うん。まあ。だけど・・・」
「話したくない？」
僕は思いっきり息を吸った。口パクだが、思いっきりフレーズが出た。
「♪んはなしったくは、ないいいいい！」
T-BOLAN。
「手術前につき、心機能の評価をお願いします・・・か。院内の患者は午後にしようよ」
「それが・・」
ベテランナースも困っていた。
「手術は今日なんです。全身麻酔」
「へえっ？うそ？」
「昨日入院したんです。で、今日手術」
「おいおい。もし検査して異常があったらどうすんだ？」
整形の例の医者を思い出した。頑固じじいだ。
「しょうがないな。レントゲンと心電図は？」
「これです」
じっくり見る。
「心臓が大きく見えるけど。臥位なんだろ。しかも斜位だし」
「背中のオペなんでね・・」
「座れないわけか」
「心電図はこれ・・」
V3-5が陰転している。虚血を示唆する所見だ。
「まあ電解質異常であることも多いけど・・以前の分はない？」
「既往歴に狭心症が」
「なんだよ。早く言えよ。なになに・・・」
カルテに＜松田クリニック＞と書いてある。
「またかよ！もう嫌だ！」
内服がすさまじい。バファリン、パナルジン、シグマート、ヘルベッサー・・・全部で12種類。
とりあえず、ストレッチャーで来てもらった。患者は横になったまま。
「診てもらってるのは、院長ですか？」
「ええ。院長先生」
ハズレくじだ・・。可哀想に。
「診断されたのは、そのクリニックで？」
「ええ。1年前。食事したら胸焼けがするって言ったら心電図とってくれて、＜あんた、危ないところやったね＞って」
「で、薬もらって・・・よくなった？」
「心臓の薬もらったんだけど、あまり変わらなかったんで。そしたら胃の一番いい薬、出すって」
「マジか・・」
「腰が痛いんで、ここの整形の先生に診てもらってたんですわ。痛み止めぎょうさんもろうて」
「胸焼けは？」
「ひどいんです。なのでそれは心臓やないかと言われたわけで」
どこが術前評価だよ。
「確かに心電図は異常があるので・・ただ、以前の分が欲しいですね」
「ああ。比べるわけですね？家内に・・」
「いえ。ファックスで取り寄せます」
事務員に命じ、超音波を確認。臥位しかとれないらしく、観察範囲も限定される。
「うん。まあ、いいか・・・」
医長のポータブルエコーはドプラという方法までできないので、心臓の動きの評価しかできない。
心機能のうちの収縮能しか分からず、拡張能までは分からない。
※ 心機能＝左室収縮能＋左室拡張能。前者は（LV）EF＝（左室）駆出率より簡単に計測されるが、後者はドプラ法で測定。ちゃちい超音波機械では前者しか分からない。ともあれ「EFは正常」イコール「心機能は良好」とは限らないのだ。
左心室の中隔が気になる。左心室と右心室との間だ。真向かいである左心室後壁の動きより
弱い。若干。心電図を見てからの妙な思い込みもあるかもしれないが・・。
異常がないとはいえそうにない。
「タバコ吸います？」
「吸ってない」
「以前は？」
「吸った。ことはないでもない」
「多い時で3箱？」
「そんなにはない。せいぜい2箱」
「松田先生からは、他になにか指摘は？」
「青汁を勧められました」
医者か・・・？
田中事務員が走ってきた。
「ユウキ先生。心電図が来ません」
「連絡したのなら、催促しろよ」
「それが、すごく怒られまして」
「院長か？」
「そのようで」
「かける！」
かつてはお世話になった人なんだが・・。
『院長ですが』
「松田先生？」
『おお！その声は！』
「いつもお世話になります。先生、心電図・・・」
『そっちでの所見は？』
「え？こっち？胸部誘導でT波が陰性化してます。そちらでは・・」
『ああ。こっちもあったよ。診る前から』
「検査は他には・・・」
『うん。まあ1年前の話やからなあ・・へっへ』
彼は余裕の声だった。
「先生。ファックスしていただけますか。念のため・・」
『うん。まあ超音波で調べたらええんとちがうの？』
「しましたが、中隔がハイポです」
『ユウキのエコーだからなあ・・そこはどうだか。へっへ！』
「・・・・・・」
意地が悪いのは、相変わらずだった。
「ですから先生、ファックスを」
『もう！しつこいんだよお前は！』
「は？」
『この前も1人紹介しただろ！肺癌疑いを！』
「え・・ええ。返事は届きましたか？」
『オレは検査だけしろって言ったんだ！それをオイ！以前のレントゲンもってこいって
患者に言ったのか？』
「レントゲンも、比較がしたいのです」
『オ、オレが何か見落としてたとでも言うのか？お？』
その通りだ。
「先生すみません。まずファックスを！」
『うるさい！ああ！あったら送るけどな！』
「あったら？」
電話は切れた。
困ったな。その件はいいとしても、午後のオペをそのまま許可するのは・・。
ベテランナースが電話を新たに差し出した。
「さ、整形の先生と話されますか？」
「イヤだなあ・・」
「患者さんのためでしょう？」
「うん。まあ。だけど・・・」
「話したくない？」
僕は思いっきり息を吸った。口パクだが、思いっきりフレーズが出た。
「♪んはなしったくは、ないいいいい！」
T-BOLAN。
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