ダル5 ? 暗黙の了解
2005年11月15日話はしたくないが、整形の頑固じじいへTEL。
ベテランナースによると<曇りときどき晴れ>。ホントか?
『なんや?』
「先生。オペ予定の人」
『お前誰や?』
「ユウキです。紹介状見ました」
『心臓はええわけやな?』
「異常所見があります。それに痛み止めもらって胸焼けが増強してます」
『貧血ないやないか』
「ですが胃カメラも確認しときたいし、心臓もRIなどで・・」
『いけるやろ』
「な・・・」
『EFはいくらや?いーえふは?』
「立体的な計測では50%。正常より低いです」
『ま、いけるやろ』
「延期をお願いします」
『アカンて!』
「許可できません」
『もうええ!こらあ!』
噴火した。
『心臓がちょっと悪いくらい、ええやろ!終わってみたらどうってことない!』
「オペ中に終わってしまったらいかんので」
『むっ?お前、名前なんやあ!』
「だから、ユウキだって・・・」
だる。赤ん坊の面倒よりつらい。
『もうええわ!ピートに聞くからもうええ!』
麻酔科から強引に許可をもらうつもりだ。
「おいおい。晴れ時々どころか・・・!」
ナースはもじもじ困っていた。
「所によりにわか雨」
「または雷雨!次!」
18歳男性。母親が付き添い。風邪。過保護な親が多いこと・・。
「て、点滴はいやだよ。てんてきは!」
ジャージを着た彼はしきりに後ろの母親に振り向く。
僕は所見をとり、カルテに指示。
「喉がすごく腫れてるし、脱水がひどい」
「試験があるんです」
母親はしかめっ面。
「試験までになんとかなりませんか!」
「試験は、あーいつ?」
僕はクルーニー風にふんぞりかえった。
「試験は・・3日後です」
「そうですか。お母さんも心配しているし、ここは一晩でも点滴を」
「点滴はいやだってのに!」
息子はしわがれ声で言い張った。
「あー、だが君は試験をベストコンディションで受けたい。そうだろ?」
「飲み薬で十分だ!」
「フフン、それでいいのか?」
「母さん!」
「母さんじゃない。君のためなんだ。わかるか?」
やっぱクルーニー流は難しい。
母親は甘い。
「じゃ、薬でいちばんいいのを」
「ないですよ。そんなの!」
仕方なく、内服処方。
ピートが後ろに立ってる。思わず驚いた。
「うわっ!びっくりした」
「盛況だな!」
「なんだよ。さっそく差し金か?」
「オレッちも困ってんだわさ!整形の医者!」
「オペは許可できないぞ」
「うん。ま、その許可出すのはオレっちの番だから」
「麻酔科は<オペの番人>だろ?シローから聞いたぞ」
「ははは・・・ドブタミン負荷で、心機能を見るとかできるかい?」
「安静時でも障害があるのに、なんで急いでそんな検査を?ダメだ」
「うーん。困ったな」
ピートは頭を抱え込んだ。
「オレっちがま、責任もつから」
「はあ?どういう意味だ?」
「たぶんあの整形の医者は、オペを強行するよ」
「許可すんなよ!ピート!」
「それはちょっとな・・・微妙だな」
「どこが微妙だよ。明らかだ!」
術前の評価はよく頼まれるが、あくまでも最終的な決定権は外科側にある。
特別な事情で強行する場合もあると思うが・・・。納得いかないケースだ。
「ああ、それと・・」
ピートが戻ってきた。
「はあ?」
「オペのとき、何かあれば・・フォローは」
「何かあれば、お前らの責任だよ」
「・・・・・」
「しっかりしろ!ピート!あとは任せる!」
しかしこの僕も整形の医者に抗議するのはイヤで、これ以上の直接の連絡は敬遠した。
85歳女性。呼吸困難。聴診で喘息。いつもどおりのステロイド指示。
40歳男性。不整脈感。心電図など指示。
77歳男性。慢性腎不全+COPD。結果説明。
狭心症。慢性心不全。塵肺。肺結核後遺症・・・。
「どある!1回休み!か15コマもどる!」
大汗かいたまま、家族休憩室へ。
ベッドで事務長が寝ているので、起こした。
「おい!」
「うう・・・」
「何が出張だ!」
「え?ここはだれ?わたしはどこ?」
「ふざけるな!」
揺り起こし、イスに座らせた。
「逃げ足の速い奴だな・・・!」
「まあまあ先生。イライラせずに」
「イライラさせるなって」
「オペの件はどうか先生。お許しを」
「オレにオペ前の評価しろって言っておいて、こっちのいう事聞かないとは何事だよ!」
「オペの許可を出すのは麻酔科ですからねえ・・」
「麻酔科に循環器がどれだけ分かる?」
「まあまあ先生・・まあ座って」
僕も横に腰掛けた。
「何かあったんでしょう。先生」
「え?」
「昨日の夜、何かありましたか?」
「鋭いな・・・」
「AV見てて、親に見つかったとか?」
「ああ。高校のときな。VHSのテープが出てくるのが遅いんだこれが!」
「まだいいですよ。私なんか」
「おい!話を逸らすな!」
「こういうときはリラックスするんですよ。リラックス!」
「そ、そうかな・・・」
事務長は余裕だった。
「時々。視野が狭くなるでしょう。こうじゃなきゃいけない、とか、これはどうなってんだ!とかね」
「ああ。あるな。よくないことだが・・・僕にもそれはあるか?」
「時々ね。みられます」
「なら、仕事をも少し減らしてくれよ」
「それは無理。先生方は、ここまでうちの病院の名声を高めてくれた」
「そうなの?」
「御覧なさい。おかげで患者さんたちが増えて、こんなに大勢の方が来てくださっている」
「う、うん・・・」
「みんなが先生を頼ってこられてるんですよ」
彼はエルボーでつついてきた。
「幸せだなあ。私はその病院の事務長だ・・・」
「何の話、してたかな?」
「よかったよかった。張り詰めてた空気が、今スパッと飛んだんですよ」
「飛ぶ?空気が?」
そういえばそんな気がする。
「それでいいんです。先生」
「はあ?なにがいいんだよ?」
「オペの件は、どうか。ね!ドンマイドンマイ!」
彼は頭を下げた。
うーん。これでいいのだろうか。たまにこうして彼らに押し切られることがある。幸いこれまで問題はなかったが。今後の課題だ。
しかし事務長のゴマスリは気分を害することもなく、結果的に気持ちを新たにできた。彼にはどこか才能がある。
「騙されたような気がせんでもないが・・・」
控え室の出口に立ち両脚を曲げ、ググッとふんばる。
「じゃ・・・外来残り、いきまーす!」
ズドーン!と外来空間へ突っ込んだ。
ベテランナースによると<曇りときどき晴れ>。ホントか?
『なんや?』
「先生。オペ予定の人」
『お前誰や?』
「ユウキです。紹介状見ました」
『心臓はええわけやな?』
「異常所見があります。それに痛み止めもらって胸焼けが増強してます」
『貧血ないやないか』
「ですが胃カメラも確認しときたいし、心臓もRIなどで・・」
『いけるやろ』
「な・・・」
『EFはいくらや?いーえふは?』
「立体的な計測では50%。正常より低いです」
『ま、いけるやろ』
「延期をお願いします」
『アカンて!』
「許可できません」
『もうええ!こらあ!』
噴火した。
『心臓がちょっと悪いくらい、ええやろ!終わってみたらどうってことない!』
「オペ中に終わってしまったらいかんので」
『むっ?お前、名前なんやあ!』
「だから、ユウキだって・・・」
だる。赤ん坊の面倒よりつらい。
『もうええわ!ピートに聞くからもうええ!』
麻酔科から強引に許可をもらうつもりだ。
「おいおい。晴れ時々どころか・・・!」
ナースはもじもじ困っていた。
「所によりにわか雨」
「または雷雨!次!」
18歳男性。母親が付き添い。風邪。過保護な親が多いこと・・。
「て、点滴はいやだよ。てんてきは!」
ジャージを着た彼はしきりに後ろの母親に振り向く。
僕は所見をとり、カルテに指示。
「喉がすごく腫れてるし、脱水がひどい」
「試験があるんです」
母親はしかめっ面。
「試験までになんとかなりませんか!」
「試験は、あーいつ?」
僕はクルーニー風にふんぞりかえった。
「試験は・・3日後です」
「そうですか。お母さんも心配しているし、ここは一晩でも点滴を」
「点滴はいやだってのに!」
息子はしわがれ声で言い張った。
「あー、だが君は試験をベストコンディションで受けたい。そうだろ?」
「飲み薬で十分だ!」
「フフン、それでいいのか?」
「母さん!」
「母さんじゃない。君のためなんだ。わかるか?」
やっぱクルーニー流は難しい。
母親は甘い。
「じゃ、薬でいちばんいいのを」
「ないですよ。そんなの!」
仕方なく、内服処方。
ピートが後ろに立ってる。思わず驚いた。
「うわっ!びっくりした」
「盛況だな!」
「なんだよ。さっそく差し金か?」
「オレッちも困ってんだわさ!整形の医者!」
「オペは許可できないぞ」
「うん。ま、その許可出すのはオレっちの番だから」
「麻酔科は<オペの番人>だろ?シローから聞いたぞ」
「ははは・・・ドブタミン負荷で、心機能を見るとかできるかい?」
「安静時でも障害があるのに、なんで急いでそんな検査を?ダメだ」
「うーん。困ったな」
ピートは頭を抱え込んだ。
「オレっちがま、責任もつから」
「はあ?どういう意味だ?」
「たぶんあの整形の医者は、オペを強行するよ」
「許可すんなよ!ピート!」
「それはちょっとな・・・微妙だな」
「どこが微妙だよ。明らかだ!」
術前の評価はよく頼まれるが、あくまでも最終的な決定権は外科側にある。
特別な事情で強行する場合もあると思うが・・・。納得いかないケースだ。
「ああ、それと・・」
ピートが戻ってきた。
「はあ?」
「オペのとき、何かあれば・・フォローは」
「何かあれば、お前らの責任だよ」
「・・・・・」
「しっかりしろ!ピート!あとは任せる!」
しかしこの僕も整形の医者に抗議するのはイヤで、これ以上の直接の連絡は敬遠した。
85歳女性。呼吸困難。聴診で喘息。いつもどおりのステロイド指示。
40歳男性。不整脈感。心電図など指示。
77歳男性。慢性腎不全+COPD。結果説明。
狭心症。慢性心不全。塵肺。肺結核後遺症・・・。
「どある!1回休み!か15コマもどる!」
大汗かいたまま、家族休憩室へ。
ベッドで事務長が寝ているので、起こした。
「おい!」
「うう・・・」
「何が出張だ!」
「え?ここはだれ?わたしはどこ?」
「ふざけるな!」
揺り起こし、イスに座らせた。
「逃げ足の速い奴だな・・・!」
「まあまあ先生。イライラせずに」
「イライラさせるなって」
「オペの件はどうか先生。お許しを」
「オレにオペ前の評価しろって言っておいて、こっちのいう事聞かないとは何事だよ!」
「オペの許可を出すのは麻酔科ですからねえ・・」
「麻酔科に循環器がどれだけ分かる?」
「まあまあ先生・・まあ座って」
僕も横に腰掛けた。
「何かあったんでしょう。先生」
「え?」
「昨日の夜、何かありましたか?」
「鋭いな・・・」
「AV見てて、親に見つかったとか?」
「ああ。高校のときな。VHSのテープが出てくるのが遅いんだこれが!」
「まだいいですよ。私なんか」
「おい!話を逸らすな!」
「こういうときはリラックスするんですよ。リラックス!」
「そ、そうかな・・・」
事務長は余裕だった。
「時々。視野が狭くなるでしょう。こうじゃなきゃいけない、とか、これはどうなってんだ!とかね」
「ああ。あるな。よくないことだが・・・僕にもそれはあるか?」
「時々ね。みられます」
「なら、仕事をも少し減らしてくれよ」
「それは無理。先生方は、ここまでうちの病院の名声を高めてくれた」
「そうなの?」
「御覧なさい。おかげで患者さんたちが増えて、こんなに大勢の方が来てくださっている」
「う、うん・・・」
「みんなが先生を頼ってこられてるんですよ」
彼はエルボーでつついてきた。
「幸せだなあ。私はその病院の事務長だ・・・」
「何の話、してたかな?」
「よかったよかった。張り詰めてた空気が、今スパッと飛んだんですよ」
「飛ぶ?空気が?」
そういえばそんな気がする。
「それでいいんです。先生」
「はあ?なにがいいんだよ?」
「オペの件は、どうか。ね!ドンマイドンマイ!」
彼は頭を下げた。
うーん。これでいいのだろうか。たまにこうして彼らに押し切られることがある。幸いこれまで問題はなかったが。今後の課題だ。
しかし事務長のゴマスリは気分を害することもなく、結果的に気持ちを新たにできた。彼にはどこか才能がある。
「騙されたような気がせんでもないが・・・」
控え室の出口に立ち両脚を曲げ、ググッとふんばる。
「じゃ・・・外来残り、いきまーす!」
ズドーン!と外来空間へ突っ込んだ。
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