ダル5 ? 気配り
2005年11月21日上村さんという人工呼吸器のついている肺炎患者。血小板はどんどん減ってきて7000しかない。月曜日は6万だったのに。
「重症板では・・・やはり出血傾向か」
マーゲンチューブからの出血がないのは幸いだ。しかし気管内チューブからは血痰が引ける。レントゲンの両側肺炎はARDS
の印象で、そのためでもある。抗生剤は3種類、グロブリン製剤もとっくに使用した。
手立てはほとんどないな・・・。近くのナースに伝える。
「脈拍がだんだん落ちてきている。尿もほとんど出てない。カリウム7あるしな・・・家族は?」
「呼びます」
家族が入ってきた。詰所で話。
「非常に厳しい状態です・・・」
写真、検査所見を並べて説明。
「正直、いつ急変しても不思議ではないです」
「ええ。どうも・・・ありがとうございました」
外で待ってる中年男性がいる。
「あの人も、家族じゃないのか?」
ナースに聞いた。
「家族だけど、そうではないって。なんかよく・・・」
「分からんな・・・」
あとで聞いた話では、患者の息子ということだったがなにやら事情ありで、縁を切っている状態だということだ。
しかし遺産の相続にあたっては権利があるってことで・・・そこからはもう僕の守備範囲ではなかった。
これまた訳アリの波多野じいのところへ。
「いいかい?」
「おお先生。今日退院できますかいな?」
「あのねえ。やっぱり無理はせんほうが」
「せんせん」
「カラオケ屋は大変ですよ・・・1人でやってくなんて」
「そうやが。ゴホン。これも食うためやからな。おっと」
じいさんは横の小さい戸棚を開け、封筒を取り出した。
「ふむふむ・・・」
じいさんは1枚ずつ数えている。万札のようだが。
「ごめん先生。今はちと苦しいわ。チップはまた今度・・・」
「ええってそんなの!」
ドレナージチューブの入っていた気胸の山本さんは・・・寝ている。
「こんばんは」
「・・・ん?ああ!」
「じゃあ、今日クランプ・・・管を止めますね」
目の前で、チューブをカチッとクランプ。
「これで明日の写真を見て、肺が縮んでなければ抜きましょう」
「ふああ。やっとですな」
「でもよかったよ。反対の肺にも影響なしで」
「ふだんはどういうことに気をつけるんですかいな?」
「激しい咳をしないこと。かな」
「それとタバコ!」
近くのナースが叫んだ。
シローの患者、ペースメーカー植え込み後の人が寝ている。
「痛くない?」
「ああ。全然。もう動いてるんですかいな?」
「ペースメーカー?ええ。これがそう」
モニター波形を見せる。
「なんか心臓のことばかり思いよったら、それで心臓が悪くなるんとちゃいますかいな」
「いろいろ考えるんだなあ・・・!」
別の部屋では、入院したばっかりのばあさんが寝ている。
田中君お気に入りのヘルパーさんが運んできた患者だ。
「あ?おい?」
よく見ると点滴が入っていない。
「栄養不良で入院したのに、だぞ?」
廊下で点滴まわりをしているおばさんナースを捕まえた。
「おい!どうなってんだ!点滴は昼前に・・」
「オペ後の人とかもあって、忙しかったんですよ!」
ナースはすぐ言い訳した。
「この人はおい!脱水状態で来たんだぞ!いったいどんな申し送りを・・・!」
「脱水?外来からはそのように聞いてませんが」
「カルテの指示の病名欄にも書いたぞ!」
「はあ」
「はあじゃねえぞ!まったく!」
煮えきらず、他の病室へ。
アルコール性肝障害の巣鴨さんがカンプマサツ中。
「お疲れさん先生!」
「元気そうですね・・」
「今日はなんやら、ペースメイカーってやつ入れたらしいやんな!」
「ええ」
「わしにも入れてえな!」
「なんで?」
「心臓が止まっても、あの機械あったら生きれるんじゃろ?」
「だる・・・脈を出す刺激だけですよ」
人工呼吸管理の2人部屋も簡単に確認していき・・・
もう一度、詰所の掲示板を見て終了。
医局に6時半に戻った。今日はもう業務は残ってない。
「北野、どこ行ったのかなあいつ・・・ま、いっか」
荷物を1つずつ片付けていく。
ピートがフラフラと現れ、横に机にガタン、と崩れ落ちる。
「ピート。オペ終わったのか?」
「風邪ひいたみたいでな・・・交代してもらったんだ」
「まだオペ中?」
「なんだかんだ言って、オペはうまくいってるよ」
「ST変化もなしか?」
「ああ。あ〜・・・苦しいぜ」
「カルテ持って来いよ。薬出してやる」
事務長がカルテを持ってきた。
「ピート先生のカルテ。処方はユウキ先生が?」
「ああ。ピート。点滴して行けよ」
処方を書き込み、点滴の指示。
医者も体調はよく崩すが、スケジュールまでは崩せない。
なので自分の病気を治すのも力づくだ。
事務長は僕の機嫌をチラチラっと伺っている。
「何見てる?」
「いやいや。クリニックの件で謝ろうかな、と・・・」
「はっはっは」
「?」
「気にするなよ」
「そ、そう?」
事務長に笑顔が戻った。
「オレも譲らないといけないときもあるし」
「いやあ、こんなすぐ許してもらえるとは・・」
「いいんだって」
僕は荷物を背負った。
「すみませ〜ん」
「だる。ゴマスリ野郎が」
「ありがと先生!」
「ま、別に・・・あやまってすむモンでもないしな!」
「へへへ・・・えっ?」
僕はペタンペタンとペンギン歩きで、廊下を悠々と歩いた。
「重症板では・・・やはり出血傾向か」
マーゲンチューブからの出血がないのは幸いだ。しかし気管内チューブからは血痰が引ける。レントゲンの両側肺炎はARDS
の印象で、そのためでもある。抗生剤は3種類、グロブリン製剤もとっくに使用した。
手立てはほとんどないな・・・。近くのナースに伝える。
「脈拍がだんだん落ちてきている。尿もほとんど出てない。カリウム7あるしな・・・家族は?」
「呼びます」
家族が入ってきた。詰所で話。
「非常に厳しい状態です・・・」
写真、検査所見を並べて説明。
「正直、いつ急変しても不思議ではないです」
「ええ。どうも・・・ありがとうございました」
外で待ってる中年男性がいる。
「あの人も、家族じゃないのか?」
ナースに聞いた。
「家族だけど、そうではないって。なんかよく・・・」
「分からんな・・・」
あとで聞いた話では、患者の息子ということだったがなにやら事情ありで、縁を切っている状態だということだ。
しかし遺産の相続にあたっては権利があるってことで・・・そこからはもう僕の守備範囲ではなかった。
これまた訳アリの波多野じいのところへ。
「いいかい?」
「おお先生。今日退院できますかいな?」
「あのねえ。やっぱり無理はせんほうが」
「せんせん」
「カラオケ屋は大変ですよ・・・1人でやってくなんて」
「そうやが。ゴホン。これも食うためやからな。おっと」
じいさんは横の小さい戸棚を開け、封筒を取り出した。
「ふむふむ・・・」
じいさんは1枚ずつ数えている。万札のようだが。
「ごめん先生。今はちと苦しいわ。チップはまた今度・・・」
「ええってそんなの!」
ドレナージチューブの入っていた気胸の山本さんは・・・寝ている。
「こんばんは」
「・・・ん?ああ!」
「じゃあ、今日クランプ・・・管を止めますね」
目の前で、チューブをカチッとクランプ。
「これで明日の写真を見て、肺が縮んでなければ抜きましょう」
「ふああ。やっとですな」
「でもよかったよ。反対の肺にも影響なしで」
「ふだんはどういうことに気をつけるんですかいな?」
「激しい咳をしないこと。かな」
「それとタバコ!」
近くのナースが叫んだ。
シローの患者、ペースメーカー植え込み後の人が寝ている。
「痛くない?」
「ああ。全然。もう動いてるんですかいな?」
「ペースメーカー?ええ。これがそう」
モニター波形を見せる。
「なんか心臓のことばかり思いよったら、それで心臓が悪くなるんとちゃいますかいな」
「いろいろ考えるんだなあ・・・!」
別の部屋では、入院したばっかりのばあさんが寝ている。
田中君お気に入りのヘルパーさんが運んできた患者だ。
「あ?おい?」
よく見ると点滴が入っていない。
「栄養不良で入院したのに、だぞ?」
廊下で点滴まわりをしているおばさんナースを捕まえた。
「おい!どうなってんだ!点滴は昼前に・・」
「オペ後の人とかもあって、忙しかったんですよ!」
ナースはすぐ言い訳した。
「この人はおい!脱水状態で来たんだぞ!いったいどんな申し送りを・・・!」
「脱水?外来からはそのように聞いてませんが」
「カルテの指示の病名欄にも書いたぞ!」
「はあ」
「はあじゃねえぞ!まったく!」
煮えきらず、他の病室へ。
アルコール性肝障害の巣鴨さんがカンプマサツ中。
「お疲れさん先生!」
「元気そうですね・・」
「今日はなんやら、ペースメイカーってやつ入れたらしいやんな!」
「ええ」
「わしにも入れてえな!」
「なんで?」
「心臓が止まっても、あの機械あったら生きれるんじゃろ?」
「だる・・・脈を出す刺激だけですよ」
人工呼吸管理の2人部屋も簡単に確認していき・・・
もう一度、詰所の掲示板を見て終了。
医局に6時半に戻った。今日はもう業務は残ってない。
「北野、どこ行ったのかなあいつ・・・ま、いっか」
荷物を1つずつ片付けていく。
ピートがフラフラと現れ、横に机にガタン、と崩れ落ちる。
「ピート。オペ終わったのか?」
「風邪ひいたみたいでな・・・交代してもらったんだ」
「まだオペ中?」
「なんだかんだ言って、オペはうまくいってるよ」
「ST変化もなしか?」
「ああ。あ〜・・・苦しいぜ」
「カルテ持って来いよ。薬出してやる」
事務長がカルテを持ってきた。
「ピート先生のカルテ。処方はユウキ先生が?」
「ああ。ピート。点滴して行けよ」
処方を書き込み、点滴の指示。
医者も体調はよく崩すが、スケジュールまでは崩せない。
なので自分の病気を治すのも力づくだ。
事務長は僕の機嫌をチラチラっと伺っている。
「何見てる?」
「いやいや。クリニックの件で謝ろうかな、と・・・」
「はっはっは」
「?」
「気にするなよ」
「そ、そう?」
事務長に笑顔が戻った。
「オレも譲らないといけないときもあるし」
「いやあ、こんなすぐ許してもらえるとは・・」
「いいんだって」
僕は荷物を背負った。
「すみませ〜ん」
「だる。ゴマスリ野郎が」
「ありがと先生!」
「ま、別に・・・あやまってすむモンでもないしな!」
「へへへ・・・えっ?」
僕はペタンペタンとペンギン歩きで、廊下を悠々と歩いた。
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