駐車場で、車のドアを開ける。
「ふに・・・?」

 またドアを閉める。そういや、今日の朝、超音波検査した人は
まだ整形のオペ中だ。整形の頑固じじいからは実質的な待機命令を受けている。

もし急変など手に負えないことがあれば呼ばれる。

 なのでここは帰らずに・・・徒歩で近くの店に向かった。晩御飯はそこで。

「ユウキ先生!」
いきなり後ろから抱きつかれた。どうやら女のようだ。
ムカッとはせずに、振り向くと・・・。

この前駐車場で呼び止められた中年ナースじゃないか。
横にオバタリオンが1人。

「うわ。だるう・・・」
「ちょおっとお!何そのうっとうしそうな顔は!」
「帰るんだろ?」
「どっか行くんなら!ね!飲みに行こうよ!」
「飲みに・・・?」

メンバーが悪すぎる。中年ナースは女としての峠をとうに過ぎている。
オバタリアンは論外だ。僕はオバタリアンを指差した。

「そ、そこの方は家族の食事でも・・」
「はあ?わし独身」
「うそ?」
「失礼な。でもバツイチだよーん」

ダメおやじのオニババのような彼女は、風体に似合わずハジけていた。

「困ったな。オレ、オペの待機があって」
「え?そう?でも待つ待つ」
中年ナースとオバタリアンは僕を囲んだ。

「おいおい。オペだっていつ終わるか・・!」
「整形のオペやろ?もうそんな時間かからへんで!」
オバタリアンはどうやら事情に詳しいようだ。

「うーん。酒は飲めないしな」

誰か助けてくれ・・・!

「メシ行こうよメシ!」
中年ナースはピョンピョンと跳ねた。
オバタリアンもドスドス跳ねる。

近くを、疲れた日勤ナースたちがどんどん通り過ぎていく。
「(大勢)お疲れー!」
「あ、ああ!おお!」
僕は手を振った。しかし誰も助けてはくれない。

しかし気がつくと、ナースが3人増えている。みな中年既婚者だ。

「おいおい。どうすんの?」
「ユウキ先生がね。おごってくれるって」
中年ナースがそう言うと、みなガッツポーズした。

「誰がおごるって言ったよ?」
「先生。あたし見たよ」
3人のうちの1人がつぶやいた。
「はあ?覗いたか?」
「お金もらってたんでしょ。波多野じいから!」
「だ、誰がそんなことを?」
「ほらほら!図星!今日は寝させへんでえええ!」

彼女は野獣のように歯をむき出した。

「お、おまんら・・・!家族はいいのか家族は!」
「たまにはダンナに任せるしぃ〜!」
中年ナースは腰をクイクイ振った。

「ま、食うだけなら・・」
「(一同)いやったああああああ!」

どあるう・・・。

「他に誰か、呼ぼうかな・・・」
僕は携帯の住所録を1つずつスキップした。
「北野の番号も聞いたんだよな・・・」

「学生さん?」
オバタリアンが覗いた。
「ああ」
「アレあんた!今日も遊びまわってんじゃないのお!」
「遊び?」
「若いコたちと!」
「若い子って・・・」
「先生はなんも知らんのですねえ・・おほほ!」
「言えよ。頼む!」
「ビール飲んでもええの?」
「いいから!」
「飲み放題?」
「いいから!言えっての!」
「(一同)いやったああああああ!」

 知らない間に、9名(みな中年以上)に増えている。中年ナースがメールで密かに集めているのだ。恐るべし。女の結束力というのは・・・。

オバタリアンは粘っこい口を開いた。
「あの先生、いや学生。若いコとねここ何日かつるんで飲みに行ってるよ!」
「うそお?あのへタレがあ?夜中はたしか病院で・・」
「騙されやすいねえ、先生も!」
「いや〜、ちょっとショックだな」
「ジェラシー?」
「全然」
「あたしらがおるから、ええやん!パオ〜ン!」
「あのな・・・」

知らない間に2列の隊形が組まれた。
中年ナースが仕切る。

「ほら、じゃあ行くよ!」
ダミな掛け声とともに、2列のオーク編隊(変態?)はザッザッザッ、と早足で繁華街に向かった。

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