ダル5 ? おみやげ?
2005年11月25日 僕と事務長はナース軍団に囲まれていた。注文はどんどん追加され、酒、肉がズンズンと運ばれてくる。
もう30万くらいいってるのではないか?僕は事務長への感謝でなく、金のことばかり心配していた。
「ギャルって先生・・・ウソつきじゃないですか」
「も、もとギャルってことで」
「先生も物好きだなあ・・・。なんでまたこんな連中と」
「無理やり連れてこられたんだよ」
「シッパイオッパイですよ。とほほ・・・」
すると周囲の軍団がオーッとどよめいた。見上げるとフスマがスタン、と開き、またそこを10名ほどの中年ナースたちが
ドカドカやってきたではないか。
「もうダメだ・・・事務長。支払いはなんとかできないかな」
「は?」
「3-4万ならともかく、こんな奴らのために10万以上は払えんよ」
「私だってイヤですよ!」
入ってきた約10名は僕らへの挨拶もなく、メニューをガウガウと奪い合っている。事務長は観念した。
「しょうがない。ここにいる私らで払いましょうよ」
「マジ?」
「で、明日彼らに請求すればいいんですよ。今はこんな状態ですし」
「とりあえず、君のカードで」
「はいはい・・・」
僕の携帯が鳴っている。
「もしもし?」
『ピートだ。今、外来で点滴してもらっている』
「はあ。それがどうしたよ」
『今、オペが終わったようだぜ』
「そうか。よかったな」
『おいおい。心配だっただろ?心機能にちょっと問題ありの』
「う、うん。ま、そうなんだけど。こっちも問題が」
事務長が気にした。
「問題が?何か問題が?」
「ピート。心電図のこととか言ってなかったか?」
「いや、なにも・・・変わりなかったようだぜ」
僕は電話を切った。
「事務長。オペした患者がね」
「うん。整形の」
「心臓にちょっと疑い病名があって」
「病名はレセでなんとかなりますよ」
「ちゃうちゃう。心臓疾患の疑いがあって。オペは済んだけど、心電図を見てくれって」
「ええっ?当直医に見せるとか・・・」
事務長は思いっきり不満をあらわにした。
「事務長。今日の当直は大学からの応援だ」
「生化学の教授でしたね」
「心電図は分からんよ」
「なんでまたそんな人を雇って・・」
「雇ったのはオマエだろ!」
「経営者の希望で・・」
「そればっかだな。だる」
僕は立ち上がった。
「みんな。すまんが僕は、心電図を確認のため病棟へ戻る」
「(一同)ええ〜〜〜〜〜〜!」
「だから妨害はできないぞ!」
さすが事情が分かったのか、ナースらは道をあけた。
フスマを開け、振り返った。
「じゃあな!シャランラ!」
事務長の周囲から、腹を満たした軍団が詰め寄る。
「先生!用件が終わったら戻ってきてくださいよ!」
「心臓は・・・」
「?」
「休めない」
フスマを閉め、階段をトントンと降りていった。
「きゃああああ!」
事務長の叫びを背に受けながら、玄関のじいさんに靴を履かせてもらった。
「えらいお集まりのようで・・・」
「代金は、品川事務長がカード一括で支払います」
「さようで」
「金持ちですからね・・・では!」
僕は駆け出し、サウナのようにうだる街を走っていった。オペ後変化はなさそうだが、念のため心電図の確認はすることに。
「こんばんは!」
夜の9時の医局。電気がつけっぱなし。やはり北野はいないが、彼のカバンが置いてある。
ファスナーが開きっぱなしで、書類があふれ出している。
パソコン画面も起動したままなので、消そうと思ったが・・・。
なにやらデータを送信しているようだ。1分で2%ぐらいの遅いスピードだ。
「もしもし病棟?オペ後の患者は・・そうか!わかった。行く!」
ドアを開け、静まった空気の中、手すりを急降下で降りていった。
心電図はST-T変化など、変わりない。不整脈もみられない。
オペ後、落ち着いたら検査の対象だ。
僕はついでに夜勤ナースに顔を出した。モニター画面を見ながら休憩している。20代後半のナースがすごくまぶしく映る。
「こんばんは。上村さんは・・・?」
「尿が出ません。血圧も徐々に低下。家族が大勢来られて・・・」
「そっか。急変時には呼んでね」
「はい。先生!」
「あん?」
「おみやげは?」
「なんのこと?」
「飲み会のおみやげ!」
「さあ。ナース軍団が持って帰ってくるだろ?」
「え〜!うそ〜!ないのか〜!」
重症部屋に入り、状態を確認。
肺炎の悪化と胸水貯留によって呼吸状態は悪化傾向で、酸素濃度も増加せざるを得ない(現在80%)。FiO2はなんとか55%まででそれ以上増やすことはしなかったが(酸素による肺傷害を避けるため)、さすが肺水腫の状態になると難しい。1回換気量を増やそうとすれば気道内圧が上がる。同様の理由でPEEPも使いにくい。
根底には低栄養状態があり、ハイカロリーの輸液も効果がない。肝臓での合成能そのものの問題が考えられる。水分だけがサードスペースに貯留していく。それも困る。こうなると泥沼状態に陥ることが多い。抵抗力の低下が病勢を助長し、それがまた抵抗力をさらに落としていくのだ。
詰所に入ると、ナースがカルテを数冊持ってきた。
「当直の先生が生化学の・・」
「お偉いさんで呼びにくいんだろ。わかったわかった!」
こまごまとした指示を1つずつ拾い、なんとか落ち着いた。
基礎系の先生方に文句を言うわけではないが、特にこの中のお偉方というのは・・・まあ一部だとは思いたいが、実際こうやって当直のバイトをして生計を立てている。大学の給料ではとても生活はできないからだ。
もちろん大学からバイトへの規制はあり、そこはまあコネの部分を生かしてうまくやることは可能だ。
だが夜間の病棟・外来の当直を本当に彼らが背負えるのかどうか、それには疑問がある。
しかし僕自身、みんなも口にして問題にしないのは、当院の当直の穴埋めをしてもらっているという安心感からだ。もしこういう方々からの助けもなしに常勤で当直を回せば、その常勤である僕らが借り出されて今以上の疲弊をもたらす。
なんとかしたいところだが、どうにもできない。なので文句は言うべきでなく、言う権利もない。ここで書くだけにしておく。
ただ基礎系に進む人で将来ひょっとして臨床に進むかもしれない人、バイトを紹介して欲しい人は・・・
学生じぶんの同僚のコネを大事にしておこう(ときどきパルス療法的に声をかけておくこと)。
※ 付け加えるが、ネットや求人情報など公的なものは避けよう。どういうことなのか?は、年明けの大作で触れる。
もう30万くらいいってるのではないか?僕は事務長への感謝でなく、金のことばかり心配していた。
「ギャルって先生・・・ウソつきじゃないですか」
「も、もとギャルってことで」
「先生も物好きだなあ・・・。なんでまたこんな連中と」
「無理やり連れてこられたんだよ」
「シッパイオッパイですよ。とほほ・・・」
すると周囲の軍団がオーッとどよめいた。見上げるとフスマがスタン、と開き、またそこを10名ほどの中年ナースたちが
ドカドカやってきたではないか。
「もうダメだ・・・事務長。支払いはなんとかできないかな」
「は?」
「3-4万ならともかく、こんな奴らのために10万以上は払えんよ」
「私だってイヤですよ!」
入ってきた約10名は僕らへの挨拶もなく、メニューをガウガウと奪い合っている。事務長は観念した。
「しょうがない。ここにいる私らで払いましょうよ」
「マジ?」
「で、明日彼らに請求すればいいんですよ。今はこんな状態ですし」
「とりあえず、君のカードで」
「はいはい・・・」
僕の携帯が鳴っている。
「もしもし?」
『ピートだ。今、外来で点滴してもらっている』
「はあ。それがどうしたよ」
『今、オペが終わったようだぜ』
「そうか。よかったな」
『おいおい。心配だっただろ?心機能にちょっと問題ありの』
「う、うん。ま、そうなんだけど。こっちも問題が」
事務長が気にした。
「問題が?何か問題が?」
「ピート。心電図のこととか言ってなかったか?」
「いや、なにも・・・変わりなかったようだぜ」
僕は電話を切った。
「事務長。オペした患者がね」
「うん。整形の」
「心臓にちょっと疑い病名があって」
「病名はレセでなんとかなりますよ」
「ちゃうちゃう。心臓疾患の疑いがあって。オペは済んだけど、心電図を見てくれって」
「ええっ?当直医に見せるとか・・・」
事務長は思いっきり不満をあらわにした。
「事務長。今日の当直は大学からの応援だ」
「生化学の教授でしたね」
「心電図は分からんよ」
「なんでまたそんな人を雇って・・」
「雇ったのはオマエだろ!」
「経営者の希望で・・」
「そればっかだな。だる」
僕は立ち上がった。
「みんな。すまんが僕は、心電図を確認のため病棟へ戻る」
「(一同)ええ〜〜〜〜〜〜!」
「だから妨害はできないぞ!」
さすが事情が分かったのか、ナースらは道をあけた。
フスマを開け、振り返った。
「じゃあな!シャランラ!」
事務長の周囲から、腹を満たした軍団が詰め寄る。
「先生!用件が終わったら戻ってきてくださいよ!」
「心臓は・・・」
「?」
「休めない」
フスマを閉め、階段をトントンと降りていった。
「きゃああああ!」
事務長の叫びを背に受けながら、玄関のじいさんに靴を履かせてもらった。
「えらいお集まりのようで・・・」
「代金は、品川事務長がカード一括で支払います」
「さようで」
「金持ちですからね・・・では!」
僕は駆け出し、サウナのようにうだる街を走っていった。オペ後変化はなさそうだが、念のため心電図の確認はすることに。
「こんばんは!」
夜の9時の医局。電気がつけっぱなし。やはり北野はいないが、彼のカバンが置いてある。
ファスナーが開きっぱなしで、書類があふれ出している。
パソコン画面も起動したままなので、消そうと思ったが・・・。
なにやらデータを送信しているようだ。1分で2%ぐらいの遅いスピードだ。
「もしもし病棟?オペ後の患者は・・そうか!わかった。行く!」
ドアを開け、静まった空気の中、手すりを急降下で降りていった。
心電図はST-T変化など、変わりない。不整脈もみられない。
オペ後、落ち着いたら検査の対象だ。
僕はついでに夜勤ナースに顔を出した。モニター画面を見ながら休憩している。20代後半のナースがすごくまぶしく映る。
「こんばんは。上村さんは・・・?」
「尿が出ません。血圧も徐々に低下。家族が大勢来られて・・・」
「そっか。急変時には呼んでね」
「はい。先生!」
「あん?」
「おみやげは?」
「なんのこと?」
「飲み会のおみやげ!」
「さあ。ナース軍団が持って帰ってくるだろ?」
「え〜!うそ〜!ないのか〜!」
重症部屋に入り、状態を確認。
肺炎の悪化と胸水貯留によって呼吸状態は悪化傾向で、酸素濃度も増加せざるを得ない(現在80%)。FiO2はなんとか55%まででそれ以上増やすことはしなかったが(酸素による肺傷害を避けるため)、さすが肺水腫の状態になると難しい。1回換気量を増やそうとすれば気道内圧が上がる。同様の理由でPEEPも使いにくい。
根底には低栄養状態があり、ハイカロリーの輸液も効果がない。肝臓での合成能そのものの問題が考えられる。水分だけがサードスペースに貯留していく。それも困る。こうなると泥沼状態に陥ることが多い。抵抗力の低下が病勢を助長し、それがまた抵抗力をさらに落としていくのだ。
詰所に入ると、ナースがカルテを数冊持ってきた。
「当直の先生が生化学の・・」
「お偉いさんで呼びにくいんだろ。わかったわかった!」
こまごまとした指示を1つずつ拾い、なんとか落ち着いた。
基礎系の先生方に文句を言うわけではないが、特にこの中のお偉方というのは・・・まあ一部だとは思いたいが、実際こうやって当直のバイトをして生計を立てている。大学の給料ではとても生活はできないからだ。
もちろん大学からバイトへの規制はあり、そこはまあコネの部分を生かしてうまくやることは可能だ。
だが夜間の病棟・外来の当直を本当に彼らが背負えるのかどうか、それには疑問がある。
しかし僕自身、みんなも口にして問題にしないのは、当院の当直の穴埋めをしてもらっているという安心感からだ。もしこういう方々からの助けもなしに常勤で当直を回せば、その常勤である僕らが借り出されて今以上の疲弊をもたらす。
なんとかしたいところだが、どうにもできない。なので文句は言うべきでなく、言う権利もない。ここで書くだけにしておく。
ただ基礎系に進む人で将来ひょっとして臨床に進むかもしれない人、バイトを紹介して欲しい人は・・・
学生じぶんの同僚のコネを大事にしておこう(ときどきパルス療法的に声をかけておくこと)。
※ 付け加えるが、ネットや求人情報など公的なものは避けよう。どういうことなのか?は、年明けの大作で触れる。
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