ダル6 ? ノーペイン!
2005年11月29日2000年。
無限に拡がる、医師過剰大都市群。そこには、様々な医者が満ち溢れていた。
大学でふんぞり返る者、片手間でバイトだけする者、開業して数年で店をたたむ者・・・。
関西ではこの頃から病院間での競争、貧富差が増加し、まさに弱肉強食の時代を迎えていた。
僕らの総合病院「真田会」が「真珠会」と敵対するまでの平穏な日々。まさにそれはバブリーな
つかの間の黄金時代であった。
病院経営が安定していた中、僕らは日々診療に追われていた。
土曜日。
病院の職員駐車場にマーク?を停め、スタッと飛び降りた。今度は成功。
病院のウラ玄関から入る。駐車場には外車など高級車の陳列。
入り口でサンダルに履き替え。足跡がペタンペタンと響く。裏底がたまに逸脱する。
「あ〜!だる!だる!だる!」
エレベーターでなく、階段を利用。患者らと鉢合わせを避ける。
少しずつ復活してくる脳細胞。
途中で買うコーヒー。
今日は半ドンだ!
さあ!号令かけて大和朝廷(350年:暗記法より)!
ドアを開けると・・・当直医とおぼしき爺さんが座っている。
テレビを見て朝食を摂っている。ゆで卵をむく指が汚い。
昨日はこいつ、寝てばっかだったな。
生化学の教授とやら。
とりあえず、会釈。
「おはようございます」
「うむ!」
ガマガエルのような教授はこれでもかというくらい塩をふり、
タマゴをアング、とひと飲みした。
「パクパク・・・・昨日は何事もなかったようだ!」
「救急が1人・・・」
「うん?そうなのか?」
彼は当直日誌を取り出した。
「きゅうきゅうにゅういん・・・・名前は?」
「名前・・そこの黒板に」
「ふむふむ・・・」
彼は一生懸命書き綴る。救急指定の病院でも、当直医が患者を
確実に受け入れしてもらうために、経営者はあれこれ工夫をこらす。
通常は患者1人の入院につき3000-5000円の懸賞金が出る。
この教授はこれに固執しているようだ。
「ふん。で、どんな患者を?」
「アネミーです。HCCのラプチャーだと。ショックになってなかったのが幸いで。あとは消化器外科が」
「待て待て!1つずつ言え!・・・すまんが書いてくれんか?」
彼は日誌を差し出し、大急ぎで食べにかかった。
いちおうお客さんのため、僕も余計なちょっかいはやめた。
机の上に荷物を置くと、ピートがまた寝ている。
「ピート。昨日も泊まりか?」
「うう・・・とぼけんな。ユウキが呼んだ消化器外科から呼ばれて・・」
「オペしたのか」
「ああ。安定してるが・・・連日夜間呼び出しで、きついぜ」
「仕事だろ」
「ペインクリニックに鞍替えすっかな・・・」
「弱気な。オマエは救急+麻酔医志望だろ?」
僕は彼の肩をガシッとつかんだ。
「ノーペイン!」
「そ、そうだな」
「ノーペイン!」
「ノーペイン!」
「ノーペイン!安易にペインに進むな!」
「イエッサー!」
「だる・・・」
白衣に着替え、医局のドアを開けると、整形のじいが入ってきた。
思わず会釈した。
「おはようございまふ」
「おう!あれからどうや?」
「昨日の夜、心電図など確認しました」
「どうせ、どうもなかったんやろ?」
「明らかなものは・・・」
「なんや?セコセコしやがって。フン・・・おいピート!」
ピートは眠そうに顔を上げた。
「は、はい・・・」
「何寝よんねん、アホンダラが!今日ももう1件入れるからな!」
僕は廊下に出た。さらに後ろから・・・秘書さんが呼び止める。
「ユウキ先生。医局費!」
「いくら?」
「4か月分」
「8千円か・・・はいはい」
延滞したお金を払う姿は、絵にならない。
「秘書さん。北野は?」
「学生さん?なんか、昨日の昼から行方が・・・」
「最後に見たのは、病院近くの交差点だな」
「まさか・・・?」
「死んだ?」
「いえいえ。そこまでは私!」
彼女は慌てた。
医長やシローらが到着してくる。でも彼らはすでに白衣だ。
早くも病棟の早朝回診を終えたのだ。
「今日の会議は11時からです!」
医長は僕めがけて報告した。
「大事な議題があるようです!」
「ホントかよ?」
「ユウキ先生には、ぜひ出席してほしいと事務長が」
「ほう。軍法会議になりそうか?」
「?」
僕は医局を出て、体を浮かし右肘をバンと手すりに乗せた。
「どけどけ!ザッキー!」
「うわ?」
着飾って階段を上がるザッキーは道を開けた。
タン、と降りて僕は振り向いた。
「ザッキー。北野は知らないよな?学生!」
「え。ええ」
「会ったらカンチョウしといてくれ」
「はっ!」
非常識な学生だな。いきなり去るなら、挨拶してからにしろ!
でも今日、最後の最後に戻ってくるのではないか?
そんなヨカンがします、ヨカンがします・・・。
「いたた・・・」
昨日の夜、ナースらに襲われた際にできた打撲傷が痛む。仕事に支障が出ないようにしないとな。
「痛くない痛くない・・・ノーペイン!ノーペイン!」
手すりをまた滑り、ダダンダン!と廊下へはじけ飛んだ。
「ととと!止まれ!」
ブレーキがやっと利いたが、そこは・・・
またリハビリ室だった。
向こうからばあさんがやって来る。
「あのなあ先生。10個ほど聞いて欲しいことがあんねや・・・」
「だ、だるう・・・」
周りを囲まれ、ひとまず対症療法に専念した。
無限に拡がる、医師過剰大都市群。そこには、様々な医者が満ち溢れていた。
大学でふんぞり返る者、片手間でバイトだけする者、開業して数年で店をたたむ者・・・。
関西ではこの頃から病院間での競争、貧富差が増加し、まさに弱肉強食の時代を迎えていた。
僕らの総合病院「真田会」が「真珠会」と敵対するまでの平穏な日々。まさにそれはバブリーな
つかの間の黄金時代であった。
病院経営が安定していた中、僕らは日々診療に追われていた。
土曜日。
病院の職員駐車場にマーク?を停め、スタッと飛び降りた。今度は成功。
病院のウラ玄関から入る。駐車場には外車など高級車の陳列。
入り口でサンダルに履き替え。足跡がペタンペタンと響く。裏底がたまに逸脱する。
「あ〜!だる!だる!だる!」
エレベーターでなく、階段を利用。患者らと鉢合わせを避ける。
少しずつ復活してくる脳細胞。
途中で買うコーヒー。
今日は半ドンだ!
さあ!号令かけて大和朝廷(350年:暗記法より)!
ドアを開けると・・・当直医とおぼしき爺さんが座っている。
テレビを見て朝食を摂っている。ゆで卵をむく指が汚い。
昨日はこいつ、寝てばっかだったな。
生化学の教授とやら。
とりあえず、会釈。
「おはようございます」
「うむ!」
ガマガエルのような教授はこれでもかというくらい塩をふり、
タマゴをアング、とひと飲みした。
「パクパク・・・・昨日は何事もなかったようだ!」
「救急が1人・・・」
「うん?そうなのか?」
彼は当直日誌を取り出した。
「きゅうきゅうにゅういん・・・・名前は?」
「名前・・そこの黒板に」
「ふむふむ・・・」
彼は一生懸命書き綴る。救急指定の病院でも、当直医が患者を
確実に受け入れしてもらうために、経営者はあれこれ工夫をこらす。
通常は患者1人の入院につき3000-5000円の懸賞金が出る。
この教授はこれに固執しているようだ。
「ふん。で、どんな患者を?」
「アネミーです。HCCのラプチャーだと。ショックになってなかったのが幸いで。あとは消化器外科が」
「待て待て!1つずつ言え!・・・すまんが書いてくれんか?」
彼は日誌を差し出し、大急ぎで食べにかかった。
いちおうお客さんのため、僕も余計なちょっかいはやめた。
机の上に荷物を置くと、ピートがまた寝ている。
「ピート。昨日も泊まりか?」
「うう・・・とぼけんな。ユウキが呼んだ消化器外科から呼ばれて・・」
「オペしたのか」
「ああ。安定してるが・・・連日夜間呼び出しで、きついぜ」
「仕事だろ」
「ペインクリニックに鞍替えすっかな・・・」
「弱気な。オマエは救急+麻酔医志望だろ?」
僕は彼の肩をガシッとつかんだ。
「ノーペイン!」
「そ、そうだな」
「ノーペイン!」
「ノーペイン!」
「ノーペイン!安易にペインに進むな!」
「イエッサー!」
「だる・・・」
白衣に着替え、医局のドアを開けると、整形のじいが入ってきた。
思わず会釈した。
「おはようございまふ」
「おう!あれからどうや?」
「昨日の夜、心電図など確認しました」
「どうせ、どうもなかったんやろ?」
「明らかなものは・・・」
「なんや?セコセコしやがって。フン・・・おいピート!」
ピートは眠そうに顔を上げた。
「は、はい・・・」
「何寝よんねん、アホンダラが!今日ももう1件入れるからな!」
僕は廊下に出た。さらに後ろから・・・秘書さんが呼び止める。
「ユウキ先生。医局費!」
「いくら?」
「4か月分」
「8千円か・・・はいはい」
延滞したお金を払う姿は、絵にならない。
「秘書さん。北野は?」
「学生さん?なんか、昨日の昼から行方が・・・」
「最後に見たのは、病院近くの交差点だな」
「まさか・・・?」
「死んだ?」
「いえいえ。そこまでは私!」
彼女は慌てた。
医長やシローらが到着してくる。でも彼らはすでに白衣だ。
早くも病棟の早朝回診を終えたのだ。
「今日の会議は11時からです!」
医長は僕めがけて報告した。
「大事な議題があるようです!」
「ホントかよ?」
「ユウキ先生には、ぜひ出席してほしいと事務長が」
「ほう。軍法会議になりそうか?」
「?」
僕は医局を出て、体を浮かし右肘をバンと手すりに乗せた。
「どけどけ!ザッキー!」
「うわ?」
着飾って階段を上がるザッキーは道を開けた。
タン、と降りて僕は振り向いた。
「ザッキー。北野は知らないよな?学生!」
「え。ええ」
「会ったらカンチョウしといてくれ」
「はっ!」
非常識な学生だな。いきなり去るなら、挨拶してからにしろ!
でも今日、最後の最後に戻ってくるのではないか?
そんなヨカンがします、ヨカンがします・・・。
「いたた・・・」
昨日の夜、ナースらに襲われた際にできた打撲傷が痛む。仕事に支障が出ないようにしないとな。
「痛くない痛くない・・・ノーペイン!ノーペイン!」
手すりをまた滑り、ダダンダン!と廊下へはじけ飛んだ。
「ととと!止まれ!」
ブレーキがやっと利いたが、そこは・・・
またリハビリ室だった。
向こうからばあさんがやって来る。
「あのなあ先生。10個ほど聞いて欲しいことがあんねや・・・」
「だ、だるう・・・」
周りを囲まれ、ひとまず対症療法に専念した。
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