ダル6 ? バケル君
2005年11月29日じいさんばあさんの話を聞き、病棟へ。
日勤リーダーが待ち構えている。若い新人ナース(医局人気No1)だ。
この前、間違って手を握った。
「は、初めてなのでよろしくお願いします!」
「ぎょぎょっ?なにやつ?」
「リーダーが初めてで・・・」
「でもま、いいんじゃないかサポートしてもらえば。リーダーは基本的には
詰所から出なくていいだろ?」
「とは限らない!」
大奥の声が響き渡った。まだ沸騰状態の婦長が隅にいた。
「あんたらは若い子になると、対応が全然違う!」
昨日に引き続き、まだ不機嫌だ。
僕はとりあえず申し送りを聞くことにした。
「掲示板は見たけど・・・他には?」
「は、はい。巣鴨さんが無断外出しましたっと!」
「そんなこと、平気で言うか・・・ま、いいいい」
老ナースならお仕置きだ。
「えーと・・・気胸の人は。楽になったありがとうって言ってました」
「・・・・・・呼吸状態は?」
「楽だって。そんな感じで」
「具体的には・・・」
だる。この子はまだまだだ。例のシーンが浮かぶ。
『この子が最後の本命でした』『いや、まだほかに(ええ女は)おる!』
「波多野さんが、もう帰りたがっていて」
「じいなあ・・・。たぶん帰るだろうな」
「詰所がちょっと忙しくなってきたんで・・・」
「はあ?」
「入院を引き伸ばすってのは無理な感じですか?」
「感じ、感じって・・・はやってるよね」
「うん。よく言うよく言う!」
新人は知らない間にタメ口になっていた。
「いー感じって・・・・そういや昨日、誰かが歌ってたな」
「パフィー?先生、古い!」
「いやいや、オレでもアユ、歌えるんだぞ」
「うそ!聞きたい!」
婦長の口が僕の耳元に近づいた。
「なめとんのか。お前らは」
僕らは凍りつき、申し送りの続きを聞いた。
「・・・わかった。昨日の夜、オペになった患者は消化器外科が?」
「ユウキ先生が共診となってます」
「おいおい。もうこれ以上診れないって!」
「どうしましょう・・・」
「主治医はあくまで消化器外科で、オレは必要時・・」
すると婦長がまたやってきて、耳元に近づいた。
「自分で言わん・・」
「はい。いいます」
カルテを確認。土曜日にはよほどのケースのみに検査を提出。
「末期状態の人は・・・・やはりな」
多臓器不全が進んでいる。呼吸器の状態を確認。
横で遠方から来た、親戚の中年女性が座ったまま寝ている。
起こすのは気がひけるが。
「すみません・・」
「あ?は、はい。ね、眠ってた・・」
「みなさん、もう一通り会われましたか?」
「ええ。もう先生。高齢でこれ以上は」
「そうですね・・・」
データを見せ、説明。今後はいたずらに本人への負担だけが増す
可能性を説明し、結果的に治療法はもうここまでという話になった。
「家族の方。どうもありがとう」
感謝して、また詰所に戻った。
「方針が変わったので。書くよ」
検査指示や家族への説明など、特に風向きや流れが変わる場合は、なるべくフレッシュな間にナースと確認を取る。当院ではそれが徹底されていた。
一見簡単な作業だが・・・実は、なかなかできることではない。
「日本語で言ってくれ日本語で!」
医長が怒っている。察しはつくが新人ナースにだ。
「仕事が遅くなってしょうがない!」
「は、はい。えーと・・・」
「婦長!どうなってる!」
さすがの婦長も医長には頭が上がらない。
「きょ、今日は1日目のリーダーで。私はサポートを」
「だったらサッサと手伝わないか!このあといろいろ処置があるのに!」
医長は僕を見つけ、少し弱気?になった。
「うん、まあいいから。続けて」
医長は少し落ち着いた。いちおう上司の僕に見られたのが恥ずかしかったのだろう。
「ユウキ先生。気管切開しますが。手伝えますか」
「オレ?ああ。いいよ。いつ?」
「今から」
「いきなりかよ・・・」
「いきなり、その・・・」
彼はもじもじ口をモグらせた。ギャグが不得意な彼の癖だ。今度は何を言うのか。
「い、いきなりジパング・・・」
「は?」
「いきなりジパングだから、って・・・先生よく言うじゃないですか」
「それを言うなら<ジオング>だろうが!スカタン!」
「で、では準備できたらお呼びします」
「だる・・・朝もはよから・・・」
詰所の奥の鏡で顔を見ては、寝癖を直す。
「♪朝もはよからヘア〜のみだれをセッセとセッセとととのえる!」
夜勤ナースはもう帰る準備。中年ナースらは乱れた化粧を直している。
それにしてもこいつら。化粧があるとないとで全然違うな・・・。
女はバケル君だよな・・・。
以前勤めていた病院の、ある循環器ドクターが言ってたな。夜間に若い女医は呼びにくいと。特に循環器グループの緊急カテの場合など。そこのヘッドが言うには、わざわざ夜中に若い女の子をたたき起こして化粧させ、1人で来させるなんて男のオレにはやりにくい、と。なので女医は困ると。つまり男が勝手に悩んでいるだけだ。
思いやりが一見あるような意見だが、あくまでも<若い>女医に限定しているところに、彼への同情の余地などない。
北斗の拳のキャラのように、目を閉じた。
「花の命は短いか・・・フッ」
中年ナースらはムッとした表情で僕を見上げていた。
「ユウキ先生!準備できたそうです!」
リーダーの声が聞こえた。
「よし!ぷわぁ!」
せっかく舐めたアメを台所に吐き出し、個室へと向かった。
日勤リーダーが待ち構えている。若い新人ナース(医局人気No1)だ。
この前、間違って手を握った。
「は、初めてなのでよろしくお願いします!」
「ぎょぎょっ?なにやつ?」
「リーダーが初めてで・・・」
「でもま、いいんじゃないかサポートしてもらえば。リーダーは基本的には
詰所から出なくていいだろ?」
「とは限らない!」
大奥の声が響き渡った。まだ沸騰状態の婦長が隅にいた。
「あんたらは若い子になると、対応が全然違う!」
昨日に引き続き、まだ不機嫌だ。
僕はとりあえず申し送りを聞くことにした。
「掲示板は見たけど・・・他には?」
「は、はい。巣鴨さんが無断外出しましたっと!」
「そんなこと、平気で言うか・・・ま、いいいい」
老ナースならお仕置きだ。
「えーと・・・気胸の人は。楽になったありがとうって言ってました」
「・・・・・・呼吸状態は?」
「楽だって。そんな感じで」
「具体的には・・・」
だる。この子はまだまだだ。例のシーンが浮かぶ。
『この子が最後の本命でした』『いや、まだほかに(ええ女は)おる!』
「波多野さんが、もう帰りたがっていて」
「じいなあ・・・。たぶん帰るだろうな」
「詰所がちょっと忙しくなってきたんで・・・」
「はあ?」
「入院を引き伸ばすってのは無理な感じですか?」
「感じ、感じって・・・はやってるよね」
「うん。よく言うよく言う!」
新人は知らない間にタメ口になっていた。
「いー感じって・・・・そういや昨日、誰かが歌ってたな」
「パフィー?先生、古い!」
「いやいや、オレでもアユ、歌えるんだぞ」
「うそ!聞きたい!」
婦長の口が僕の耳元に近づいた。
「なめとんのか。お前らは」
僕らは凍りつき、申し送りの続きを聞いた。
「・・・わかった。昨日の夜、オペになった患者は消化器外科が?」
「ユウキ先生が共診となってます」
「おいおい。もうこれ以上診れないって!」
「どうしましょう・・・」
「主治医はあくまで消化器外科で、オレは必要時・・」
すると婦長がまたやってきて、耳元に近づいた。
「自分で言わん・・」
「はい。いいます」
カルテを確認。土曜日にはよほどのケースのみに検査を提出。
「末期状態の人は・・・・やはりな」
多臓器不全が進んでいる。呼吸器の状態を確認。
横で遠方から来た、親戚の中年女性が座ったまま寝ている。
起こすのは気がひけるが。
「すみません・・」
「あ?は、はい。ね、眠ってた・・」
「みなさん、もう一通り会われましたか?」
「ええ。もう先生。高齢でこれ以上は」
「そうですね・・・」
データを見せ、説明。今後はいたずらに本人への負担だけが増す
可能性を説明し、結果的に治療法はもうここまでという話になった。
「家族の方。どうもありがとう」
感謝して、また詰所に戻った。
「方針が変わったので。書くよ」
検査指示や家族への説明など、特に風向きや流れが変わる場合は、なるべくフレッシュな間にナースと確認を取る。当院ではそれが徹底されていた。
一見簡単な作業だが・・・実は、なかなかできることではない。
「日本語で言ってくれ日本語で!」
医長が怒っている。察しはつくが新人ナースにだ。
「仕事が遅くなってしょうがない!」
「は、はい。えーと・・・」
「婦長!どうなってる!」
さすがの婦長も医長には頭が上がらない。
「きょ、今日は1日目のリーダーで。私はサポートを」
「だったらサッサと手伝わないか!このあといろいろ処置があるのに!」
医長は僕を見つけ、少し弱気?になった。
「うん、まあいいから。続けて」
医長は少し落ち着いた。いちおう上司の僕に見られたのが恥ずかしかったのだろう。
「ユウキ先生。気管切開しますが。手伝えますか」
「オレ?ああ。いいよ。いつ?」
「今から」
「いきなりかよ・・・」
「いきなり、その・・・」
彼はもじもじ口をモグらせた。ギャグが不得意な彼の癖だ。今度は何を言うのか。
「い、いきなりジパング・・・」
「は?」
「いきなりジパングだから、って・・・先生よく言うじゃないですか」
「それを言うなら<ジオング>だろうが!スカタン!」
「で、では準備できたらお呼びします」
「だる・・・朝もはよから・・・」
詰所の奥の鏡で顔を見ては、寝癖を直す。
「♪朝もはよからヘア〜のみだれをセッセとセッセとととのえる!」
夜勤ナースはもう帰る準備。中年ナースらは乱れた化粧を直している。
それにしてもこいつら。化粧があるとないとで全然違うな・・・。
女はバケル君だよな・・・。
以前勤めていた病院の、ある循環器ドクターが言ってたな。夜間に若い女医は呼びにくいと。特に循環器グループの緊急カテの場合など。そこのヘッドが言うには、わざわざ夜中に若い女の子をたたき起こして化粧させ、1人で来させるなんて男のオレにはやりにくい、と。なので女医は困ると。つまり男が勝手に悩んでいるだけだ。
思いやりが一見あるような意見だが、あくまでも<若い>女医に限定しているところに、彼への同情の余地などない。
北斗の拳のキャラのように、目を閉じた。
「花の命は短いか・・・フッ」
中年ナースらはムッとした表情で僕を見上げていた。
「ユウキ先生!準備できたそうです!」
リーダーの声が聞こえた。
「よし!ぷわぁ!」
せっかく舐めたアメを台所に吐き出し、個室へと向かった。
コメント