ダル6 ? ダカンがしますダカンがします!
2005年11月30日療養病棟へ。平和な病棟だ。
「久しぶりですね。ユウキ先生」
廊下から療養の婦長がついてきた。バアサンに近い。
「うちの病棟も、若い子入れようかしらね」
「へへ・・・どう?変わりなし?」
「うーん・・・」
婦長は看護記録のまとめを見回していた。
「もうちょっと顔出してよ。先生・・・」
「ごめんごめん。今週もいろいろあって」
療養病棟なので、基本的に検査・治療はない。もし急変などで
一般的な治療が必要な場合はここを<退院>して、一般病棟へ
<転院>させないといけない。療養病棟で検査・治療するとすべて
病院負担いわゆるマルメとなるからだ。
「熱出てる人もいないな・・・」
婦長はどこかに電話している。
「ユウキ先生が来たよ」
僕は部屋を1つずつ回った。約30名のうち半数が自立歩行、半数が寝たきり。自立している人は経済的な問題を抱える人が多くあるいは一人暮らし、またヘタすると危ない痴呆をもっている人が多かった。寝たきりは脳梗塞・脳出血などの後遺症があって食事介助が必要、場合によっては経鼻チューブ・胃ろうチューブからの流動食管理だった。
後者の流動食管理の場合、たまに食物がノドへ逆流し、肺炎を起こすことがある。脳卒中の後遺症だと唾液さえも誤嚥することがあり、それがきっかけで肺炎を起こすことも少なくない。あと尿路感染も起こしやすい(寝たきりに伴うものだったり、神経
因性膀胱だったり)。
自立している患者部屋は、同室者同士でおしゃべりする姿がよく見られる。実際は病室でというよりも、受付や駐車場で出会うことが多い。寝たきりの人も車椅子散歩している際にこちらとバッタリ会うケースが多い。
ただ・・1人、褥瘡が腰の仙骨部にできてしまった人がいた。小さいが黒くなっている。
「婦長、婦長」
詰所に戻った。
「褥瘡できてるじゃないか」
「ん・・・?」
婦長を連れて部屋へ。
寝たきりの患者を側臥位に。
「ほら。ここ。いつからなんだ?」
「いつからでした?」
「逆に聞くなよ?」
「先生の回診の印象では?」
「そりゃ、回診はしばらくしてなかったけど・・・背中まではいちいち見てないよ」
「こっちでも把握は・・・」
「おいおい。体位変換はやってんのか?」
「やってます!」
婦長の眉間にシワが寄った。
「2時間毎にか?」
「3時間ですけど」
「2時間が常識だろう?」
「無理です。この病棟はスタッフが少なくて」
「でも結果的にこうなったんじゃないか」
「先生にも責任があるんじゃないんですか?」
「くっ!この・・・!」
ドカドカと別のナースらが入ってきた。
「ふう・・・とにかく、この壊死した部分はデブリ(切除)しよう」
「ならすぐに一般病棟に移しましょうよ」
「向こうの都合もあるんだから・・」
「できます」
婦長は愛想なく詰所へ戻っていった。
そのまま重症病棟へ戻ると・・・ミチル婦長が電話で困っている。
「え、ええ。そうなんですけど病床の空きは・・はい・・・」
ミチルはキッと一瞬こっちを睨んだ。
「婦長さん。週明けというわけには・・・そうですか。ダメですか・・」
あのミチルが押されている。無理もない。相手はこの病院に何年も勤めてきたベテラン、ヌシにあたる人物だ。しかもナースは女社会。ヌシは絶大な権力を欲しいままにする。
「わ、わかりました。午後に1床空けますので」
電話を切り、彼女はフーッとため息をついた。
「ったく!」
バツ悪く、若いナースが入ってきた。
「婦長さん。下剤効かないって」
「待ってよもう!」
「?」
婦長は頭を抱えていた。
僕はそろ〜りと、各病室へ。廊下で検査室の技師長が通りかかる。
「ユウキ先生!週末はいいかな?輸血とか・・」
「ゴマちゃん?ああ。ないよ。たぶん」
「アーハン!」
巣鴨さんの大部屋に入る。
「おう!」
上半身裸で座っている。
「さあ!見てくださいや!」
「巣鴨さん。無断外出・・・」
「ああ、あれか。うん。したよ!」
このサバサバしたとこが憎めない人ではある。
だがこの人の外出目的は知っている。
「巣鴨さん・・・で、何合飲んだの?5合?」
「そこまでは飲んでないない・・・あっ」
口を隠したがもう遅い。
「困ったな。これじゃ何のために入院したのか・・・」
「へへへ、すまんすまん!」
「入院したくてもできない人だっているんだし」
「わし、追い出されるかな?へへへ」
「いや、そこまではしないけど」
「療養から褥瘡が来るんやってな。その代わりに追い出されるんかいな?」
すでに知っているのか!院内感染というか、院内電線だ!
「そういや先生」
「話を逸らすのは」
「いやいや。となりの2人部屋な。人工呼吸器がついとる部屋」
「ええ。主治医は僕ですが・・」
「さっきからピーピー鳴っててな。見に行ったら水が管に溜まりかけとったよ」
「管に水・・?」
部屋へ行くと、たしかに・・・蛇管(だかん)に水がかなり溜まっている。呼吸の通り道に水が。加湿が過剰な影響もあるのだろうが、これはナース(まあ主治医もだろうが)が観察を怠っている証拠だ。
「水。抜きました。ありがとう」
振り返って巣鴨さんに礼をした。
「今度そうなってたら、わししとくわ」
「いやいや。せんでいいですせんでいいです!」
「すみません。ナースには厳しく言っときますので!」
僕はズカズカと詰所に入っていった。婦長がいる。
機嫌が悪かろうと、それがどうしたってんだ!
「婦長!ダカンに水が溜まってたらしいぞ!どうして気づ・・!」
「(うなずいて)1つ部屋空いたので、そこに褥瘡の人入れますね」
「はいどうも」
会議の時間が近づいてきた。
「久しぶりですね。ユウキ先生」
廊下から療養の婦長がついてきた。バアサンに近い。
「うちの病棟も、若い子入れようかしらね」
「へへ・・・どう?変わりなし?」
「うーん・・・」
婦長は看護記録のまとめを見回していた。
「もうちょっと顔出してよ。先生・・・」
「ごめんごめん。今週もいろいろあって」
療養病棟なので、基本的に検査・治療はない。もし急変などで
一般的な治療が必要な場合はここを<退院>して、一般病棟へ
<転院>させないといけない。療養病棟で検査・治療するとすべて
病院負担いわゆるマルメとなるからだ。
「熱出てる人もいないな・・・」
婦長はどこかに電話している。
「ユウキ先生が来たよ」
僕は部屋を1つずつ回った。約30名のうち半数が自立歩行、半数が寝たきり。自立している人は経済的な問題を抱える人が多くあるいは一人暮らし、またヘタすると危ない痴呆をもっている人が多かった。寝たきりは脳梗塞・脳出血などの後遺症があって食事介助が必要、場合によっては経鼻チューブ・胃ろうチューブからの流動食管理だった。
後者の流動食管理の場合、たまに食物がノドへ逆流し、肺炎を起こすことがある。脳卒中の後遺症だと唾液さえも誤嚥することがあり、それがきっかけで肺炎を起こすことも少なくない。あと尿路感染も起こしやすい(寝たきりに伴うものだったり、神経
因性膀胱だったり)。
自立している患者部屋は、同室者同士でおしゃべりする姿がよく見られる。実際は病室でというよりも、受付や駐車場で出会うことが多い。寝たきりの人も車椅子散歩している際にこちらとバッタリ会うケースが多い。
ただ・・1人、褥瘡が腰の仙骨部にできてしまった人がいた。小さいが黒くなっている。
「婦長、婦長」
詰所に戻った。
「褥瘡できてるじゃないか」
「ん・・・?」
婦長を連れて部屋へ。
寝たきりの患者を側臥位に。
「ほら。ここ。いつからなんだ?」
「いつからでした?」
「逆に聞くなよ?」
「先生の回診の印象では?」
「そりゃ、回診はしばらくしてなかったけど・・・背中まではいちいち見てないよ」
「こっちでも把握は・・・」
「おいおい。体位変換はやってんのか?」
「やってます!」
婦長の眉間にシワが寄った。
「2時間毎にか?」
「3時間ですけど」
「2時間が常識だろう?」
「無理です。この病棟はスタッフが少なくて」
「でも結果的にこうなったんじゃないか」
「先生にも責任があるんじゃないんですか?」
「くっ!この・・・!」
ドカドカと別のナースらが入ってきた。
「ふう・・・とにかく、この壊死した部分はデブリ(切除)しよう」
「ならすぐに一般病棟に移しましょうよ」
「向こうの都合もあるんだから・・」
「できます」
婦長は愛想なく詰所へ戻っていった。
そのまま重症病棟へ戻ると・・・ミチル婦長が電話で困っている。
「え、ええ。そうなんですけど病床の空きは・・はい・・・」
ミチルはキッと一瞬こっちを睨んだ。
「婦長さん。週明けというわけには・・・そうですか。ダメですか・・」
あのミチルが押されている。無理もない。相手はこの病院に何年も勤めてきたベテラン、ヌシにあたる人物だ。しかもナースは女社会。ヌシは絶大な権力を欲しいままにする。
「わ、わかりました。午後に1床空けますので」
電話を切り、彼女はフーッとため息をついた。
「ったく!」
バツ悪く、若いナースが入ってきた。
「婦長さん。下剤効かないって」
「待ってよもう!」
「?」
婦長は頭を抱えていた。
僕はそろ〜りと、各病室へ。廊下で検査室の技師長が通りかかる。
「ユウキ先生!週末はいいかな?輸血とか・・」
「ゴマちゃん?ああ。ないよ。たぶん」
「アーハン!」
巣鴨さんの大部屋に入る。
「おう!」
上半身裸で座っている。
「さあ!見てくださいや!」
「巣鴨さん。無断外出・・・」
「ああ、あれか。うん。したよ!」
このサバサバしたとこが憎めない人ではある。
だがこの人の外出目的は知っている。
「巣鴨さん・・・で、何合飲んだの?5合?」
「そこまでは飲んでないない・・・あっ」
口を隠したがもう遅い。
「困ったな。これじゃ何のために入院したのか・・・」
「へへへ、すまんすまん!」
「入院したくてもできない人だっているんだし」
「わし、追い出されるかな?へへへ」
「いや、そこまではしないけど」
「療養から褥瘡が来るんやってな。その代わりに追い出されるんかいな?」
すでに知っているのか!院内感染というか、院内電線だ!
「そういや先生」
「話を逸らすのは」
「いやいや。となりの2人部屋な。人工呼吸器がついとる部屋」
「ええ。主治医は僕ですが・・」
「さっきからピーピー鳴っててな。見に行ったら水が管に溜まりかけとったよ」
「管に水・・?」
部屋へ行くと、たしかに・・・蛇管(だかん)に水がかなり溜まっている。呼吸の通り道に水が。加湿が過剰な影響もあるのだろうが、これはナース(まあ主治医もだろうが)が観察を怠っている証拠だ。
「水。抜きました。ありがとう」
振り返って巣鴨さんに礼をした。
「今度そうなってたら、わししとくわ」
「いやいや。せんでいいですせんでいいです!」
「すみません。ナースには厳しく言っときますので!」
僕はズカズカと詰所に入っていった。婦長がいる。
機嫌が悪かろうと、それがどうしたってんだ!
「婦長!ダカンに水が溜まってたらしいぞ!どうして気づ・・!」
「(うなずいて)1つ部屋空いたので、そこに褥瘡の人入れますね」
「はいどうも」
会議の時間が近づいてきた。
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