3RDSPACE ?

2005年12月31日
応接室に、やがて梶原氏も通され、真吾と並ぶ。
向かいに事務長と田中。

梶原氏は用紙を差し出す。
「こちらの条件はこれ・・・」
「こちらでの規約事項です」
田中が別の用紙を差し出し、互いに交換する。

梶原氏はフンフンと目を通す。
途中で眉が少し寄った。

「ン・・・?これは」
彼は紙をヒラリと台の上に載せた。
「住居手当は全額、交通費は全額負担。それはいいのですが・・・<当直業務>というのは?」
「それは言ってなかったかもしれませんが・・」
答えようとした田中を、事務長が遮る。

「当院では現在、人手の確保が非常に困難になってまして」
「名義貸しのことがニュースになってからですか?」
梶原氏は言葉にためらいがない。

「そ、そうです。当院でも2名、大学からお借りしていたのですがね・・・手を引かれることになりました」
「ま、それで医者の需要が増したのは分かりますがね」
梶原氏は余裕の笑みだった。

「分かりますが。でも契約ですよこれは。重要な。しかも私が間に入っているのです」
「ええ。この話まであらかじめしておくべきでし・・」
「なりませんな。信用問題だ。いいですか事務長さん」
「はい」
「真吾先生は常勤医師。週休1日で年俸1400万だが、日当直という条件は聞いていない」
「え、ええ。しかし現在は常勤が週に1〜2回当直する現状で」
「それは私・・たちの知ったことではありませんぞ!」

真吾も気まずそうに首を縦にふった。
梶原は立ちかけた。
「信用できん!もう行きましょうか?真吾先生」

「わ、わかりました。ではこの話はチャラで」
事務長は焦っていた。よくやる<ボケ>は通じなかった。病院事務長ならよくやる手段だ。直前でサラッと有無を言わさず追加の契約を結ばせるのは、病院事務側がよくやるテクだ。訪問販売の手口と同じ。
「今後勤務の上、再検討できればということで」

「そういう話は勝手に進めなきよう!いいか!常に私を通してからだ!」
梶原氏は強硬だった。

「この病院には私も信頼と期待を持っていますからね。彼を落胆させたくはないんです」
「ええ・・・」
「なにかその・・噂では、勢力をミナミから奈良・・・東方面に広めていると?」
「誰がそんな」
「ははは・・・隠し事はよしましょうや!」
「・・・・・・・」
「言い換えましょうか。いったんは縮小した病院の規模を広げようと?」
「その通りです」
「乗っ取りでは?」
「まさか。いくらなんでも・・・!真珠会といっしょにしないでください。人聞きの悪い」
カッとなった事務長の肩を、田中が押さえた。

「では真吾先生・・頑張って」
梶原氏は立ち上がった。
「先生に少しでも不都合が生じるのであればなんなりとお申し付けを・・飛んでまいりますよ!」
「ああ。ありがとう。梶原さん。も、もう帰るのかい?」
「ええ。では・・・品川さん。頼みますよ!」

真吾は田中に導かれ、医局へと案内されていった。

「貴重品やパソコンなど、私物には気をつけてください」
「ええ」
「当院のデータが、何者かにコピーされたり盗まれるという事件がありまして」
「物騒ですね」
「噂ではライバル病院からの依頼人だとか・・・ここです」

医局。

ドクターはみな勤務中で不在、中年女性の医局秘書だけが座っている。
「よろしくおねがいします」
「はい。ここですね。僕の机は」

真吾は指定された机に座った。

「早速なのですが・・」秘書はゆっくり近づいた。
「はい」
「1階がてんてこ舞いで。サポートをお願いできればと事務長から」
「わかり・・・ました。僕でよければ」

なんとなく根回しのうまい事務長だった。

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