3RDSPACE 22.

2005年12月31日
 ベテランナースが患者を連れてくる。いきなりジオング、いやストレッチャーだ。

 43歳男性。ALS。気管切開口があり、在宅管理で痰を引いている。奥さんの献身的な介護だ。

「呼吸がすごく速いんです・・・」
ワイフはこれまで記録した手帳を広げて見せた。
「微熱はありますがこれは前から・・」

「慢性的な気道感染、尿路感染はありますからね・・・」
聴診で喘鳴。
「採血とレント・・いやCTを。その前に動脈を」
腕より採血。
「ナース。これ持ってって!」

カルテでは喘息の既往。ステロイド入り点滴開始とし、入院となった。

救急部屋では土方が一生懸命、真吾に指導している。

「あれこれ先生、検査しようしようという癖はつけないほうがいいよ」
「は、はい」
「患者を診る。まずは見ますね。そのときどうやって呼吸の情報を得ます?」
「聴診・・」
「うん。まあそうかもしれないが。ラ音とかあっても画像に一致するような確実なものではないでしょう?」
「酸素飽和度を測定して・・」
「観察するものは?一番重要な」
「・・・・・・・・・」
「呼吸回数ですな。それと胸・・胸郭の動きやね。動きで浅いか深いかを見る!昔は詳しい検査なんかなかったからね!」

一通りの検査が戻ってきた。

「ははあ。ARDSですな」
血液ガス、CTを中心に診断したようだが・・・真吾はさっぱりだった。
「はは・・分かりますか?先生」
「ええっと・・・」真吾は手帳を拡げた。
「そんなのに頼ったらいけませんよ先生!」
「は、はい!」
「考えなさい」
真吾は全データを渡された。

「真吾先生。先生は研修医として出発するわけだから、死ぬ気でやる必要があるんですよ」
「え、ええ」
「わしらの頃なんて、家に帰った記憶がない」
「・・・・・」

 そういうわけにはいかなかった。真吾はすでに子供までおり、病院オンリーの生活とはいかない。仕事中でも家族の顔が目に浮かぶ。

「わしの患者もいっしょに見ましょう。先生がカルテを書いて」
「はい」

真吾は各データをカルテに記入していった。

「あかんね」土方は見下ろしていた。
「?」
「先生はデータをそこに移しているだけやね。はは」
「考察・・」
「はは。先生は基礎系にいたとき、いろいろ考察したでしょうが。それに比べたら臨床なんて優しいものですわ」

口で言うのは簡単だった。

確かに真吾は数字の解釈にはセンスがあった。どれが何による異常なのか、など。しかし画像はみるものばかり。CTはどれも肺炎にしか映らない。

「土方先生。このCTは肺炎が両側・・・?」
「ん!いきなり人に聞かぬよう!自分で悩むのです!」

僕はそこを通りかかった。なんか懐かしい光景だ。
「やってるな!真吾!」

「このCTは先生の?」
土方はさきほどのCTに混じった写真に気づいた。
「ええ。ALSで喘息発作。それで入院を」
「CTを撮ったのは・・」
「肺炎による増悪がないかと」
「ないですな。でも先生。これ」

土方が指摘した部位。主気管支に狭窄がみられる。物理的な狭窄。
「これは肺癌ではないね。まあ除外の必要はあるが。既往に結核が?」
「あります」
「おそらくリンパ節・結核の融合した硬い組織に、気管が圧迫されたのでしょう」

CTを撮ったのは初めてではないが・・恥ずかしいことに、僕なら見逃していただろう。過去のもどうやら見逃していたようだ。

「土方先生。ありがとうございます」
「うん。後日ステントを入れておきますわ。喘息をよくしといてください」
「は、はいっ!」

僕は他の用事を思い出した。

「土方先生。カテーテル検査などを一時休診の形に?」
「うん。万一に備えて、事務長がそうしたみたいやね」
「そうですか。まあ今のところ、循環器関連の入院が減ってるので」
「循環器の患者は、ライバル病院に流れてるみたいやね」
「なにや救急・・・?」
「そうそう。そこの評判が良くなったのかな?先生らのせいじゃないと思うけど」
「痛いですね・・・あっ」

僕は病棟へ呼ばれた。

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