3RDSPACE 26.

2005年12月31日
 真吾は病院に寝泊りはしなかったものの、地道に地道に指導を
受け続けた。土方や僕らも感情的にはならず、使えるものだけを指導していったつもりだ。

 80歳で蜂窩織炎の患者。高熱と足に大きな紅斑、熱感。足自体が腫れている。土方先生が老人ホームから受け持った。

真吾は情報を噛み砕く。
「抗生剤はペニシリン系統・・・この浮腫は片側性・・・」
「菌は表皮から由来ですね!バカでも分かります!」
土方が笑いながらやってきた。この人のウケ狙いはダークネスだ。

「はっは。正確には菌が皮膚から侵入して、炎症を起こしたんですな。血管・細胞間の滲出液みたいなものですわ」
「菌は表皮ブ菌・・・」
「それは2番目。1番はA群β型レンサ球菌。白癬の場合もありますよ!先生先生!」
「はい?」
「先生はもっと重症を診ないといかんいかん!」

真吾は重症部屋に連れて行かれた。

レスピレーターがついている患者。

「ユウキ先生がウイニングしている患者やがね」
「呼吸回数が・・・」
重症板をみると、肺炎が軽快した患者の呼吸回数(呼吸器の)が日ごとに減らされている。

「SIMVですな。わしはこういう新しいのは慣れんな・・・」
「SIMV14回・・・」
「わし明日ユウキ君に説明しとくわ。完全自発に切り替える!」

モードが変えられ、いきなりCPAPモードになった。

真吾は手帳と機械の表示を見合わせた。
「1回あたりの換気量が少ない・・・頻呼吸」
「なら、プレッシャーサポートをかければいいんですよ先生」
圧補助のツマミを右一杯に。

呼吸が安定してきた。

「それを数時間やりなさい。今日は1時間、明日は2時間・・」
「オン&オフ・・?」
「ま、似てますな」

土方は引き上げていった。

数時間後。

真吾が医局へ戻ると、土方が新聞を読んでいた。

「お・・お疲れ様です」
「ん!」
「いろいろとどうも、ありがとうございます」
「先生。医者同士、礼は要らないよ」
土方はパラリと新聞をめくった。足は投げ出している。
「対等な立場ですからね」

しかし距離は感じた。

「・・・・・・」
真吾は適当にマンガを探した。

土方は周囲に誰もいないのを確認した。
「真吾先生。ねえ」
「はい」
「先生あれやね。マンガなど読まず、もうちょっと頑張りましょうよ!」
「はい・・・」
「ここの病院はどちらかというと、数をこなさないかんし、経営も大事にせんといかん性格の病院やね」
「・・・・・・」
「真吾先生は、症例を1つずつ丁寧に見る時間が必要やね」
「・・・・・・」
「正直言って、使い物になりませんからね。今のままでは」

容赦ない言葉だ。しかし正統的だ。
土方は新聞をしまい、両手を組み合わせた。

「うーん。先生の場合、基本的な手技をじっくり教えてくれる病院が向いとるような気もするが・・」
「大学は自分は・・・」
「うん。いやね、研修医になれと言ってるのとは違うよ」
「・・・・・・・・」
「わしが教授に働きかけたら何とかなるんだが。例えばやね。大学に1・2年戻って、そこで修行するわけですわ」
「・・・・・・・・」
「そしてここへ戻ってくる。それもありですわな」
「しかし、大学に戻れば、そこからの人事は教授が」
「わしがどうとでもできるっちゅうに。ははは。いいですか?わしについてくれば問題ない。そこで・・」

シローが入ってきた。土方は話を中断。

「石丸先生は、家族持ちらしいね?」
「え?はい!」
「家族を持ってる社会人というのは、違いますわな」
「ですかね」
「違う違う。嫁さんと子供を食わしていくわけやからね。子供はホント、これまた金がかかるんですわ。ははは!」

土方は真吾を見て笑うが、真吾は黙っている。

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