3RDSPACE 31.
2006年1月3日「ではお願いします!」
真吾がカルテを差し出し、トシキが受け取る。
「・・・・記入が多ければいいってもんじゃない」
「はい!」
「要点を中心に!この患者のスワンガンツ・データは?」
「ええっと・・」
「見ちゃダメだ!」
トシキはカルテを閉じた。
「知りたくて書き移したのなら、言えるはずだろ?」
「はい!」
真吾の返事には活気がみなぎっていた。
「覚えます!」
「ハッキリしてて、よろしい!」
もと医長は少し微笑んだ。
真吾が病棟へ出たあと、トシキは医局でタバコを吸った。
ソファの僕は不快で起きた。
「おい。禁煙って書いてるだろ。気にしろよ!」
「真吾先生。最近やる気ですよ」
「みたいだな。質問もし始めた」
「やる気を起こさせたもの・・なんでしょう?」
「さあ。エイドリアンじゃないのか?」
「は?」
医局に「ロッキー」のテーマが流れている。
僕が用意したサントラだ。
「これは真吾の応援歌だ!」
また真吾が戻ってきた。
ハチマキしながら、医学雑誌を読む。
土方が戻ってきた。
「受験でもするんですか?先生」
「このほうが吸収しやすくて」
「先生!あくまでも病気じゃなく、患者を診るんですよ!」
「はい!」
「本などにずっとつかまってたらイカンよ!」
「はい!これを調べてから・・・!」
「本とか論文とか・・・学術的になればなるほどですな。
人間というのは具体性から離れてしまうんですな」
「・・・・・・・・!」
「具体性から離れることは、患者から離れることを意味するんですよ!」
土方は立ち上がった。
またウトウトしていた僕は目が覚めた。
「とっつあん、いいこと言うな・・・」
「よし!もう一度!」
真吾は雑誌の書き写しを取り出し、再び病棟へ向かった。
「彼・・・かわりましたな」
土方はまた座った。
「土方大先生のおかげでしょう」ザッキーが覗いた。
僕は時計を見た。
「ザッキー。カテーテル行くぞ。土方先生は?」
「わし?今はいいですわ」
「時間があればまた見学を・・今後は先生にもヘルプをお願いしたくて」
「はいはい・・・ははは。<はい>は1回ですわな?」
「(一同)はははははは!」
僕はザッキーと廊下を走った。
「ザッキー。いい先生が来たよな!」
「僕は愛弟子です!」
「お前も気管支鏡が格段に上手くなったよな・・・!」
「土方先生が1人でもしていいと!」
「やったな!」
僕らはカテ室へ飛び込んだ。
もと医長とシローが着替え終わったところだ。
僕とザッキーはガラス窓ごしに、彼らを見ていた。
「ユウキ先生。研修施設の話・・聞きました?」
「研修施設?」
「東京の施設まで2年間出向くという」
「どこからそんな話が?」
「土方先生のコネですよ」
「うちの病院じゃダメなのか?」
左冠動脈に狭窄ありだが有意でない。
「ではないですけど・・・経験年数の長い医師が多数いて」
「最新機器もバッチリか・・・」
「カンファも山ほど。研究もできて」
「オレはここが好きだよ」
「先生。夢は大事ですよ」
「夢ね・・・現実逃避は好きだけど」
右冠動脈の末梢に狭窄あり。
「飲み会やビデオ鑑賞とか、遊びがですか・・・」
「余計なお世話だ。でもキャリアと家で寝るだけの人生なんて・・・」
「若いときはそれでもいいと思いますけど。土方先生は物凄かったみたいです」
「どんな?」
近くを総統が通り過ぎる。
「とっつあんの話?そりゃもう大変大変。変態変態」
「総統閣下。右冠動脈は拡張を?」僕は聞いた。
「AVブランチの手前だしね。ブロックがあるらしいじゃない」
「お願いします」
「土方先生は、アパートに服しか置いてなかったって」
「それって・・・?」
「ずっと病院にいたから。なのであたしらもずっと帰れなかったわ」
「病院で24時間起きていた?」
「あの先生が寝てるとこ、あたしら見たことなかった。なのでね、家に帰る人間は陰でこう言われてたわ」
「・・・・?」
「あいつらはサードスペースに逃げ込んだ、ってね」
「サードスペース・・・?」
総統は中に入っていった。
ザッキーが近づいてきた。
「サードスペースって?あっ?えっ?うっ?」
「そのマネはむかつくからやめろって・・・!」
「サードスペースって・・土方のとっつあんも、例えがシャレてますね」
「血管でもない、細胞でもない・・・体の代謝に直接関与しない、無意味なな空間ってことか?」
「僕もサードスペースには入りたくないな・・・」
「でもオレは・・・必要だと思うよ。サードスペースは」
現実逃避の場所として解釈されているようだ。
右冠動脈の末梢がバルーンで拡張された。ステント挿入。
僕は画面を確認した。
「なんだか最近は、ステント入れてハイ終わりだな」
「面白みが減りましたか・・・」
「いや。でもこう思うことが大事なんだよ」
ステント万能時代の始まりだった。循環器領域の学問はこのあたりを頭打ちに、以後どこか限界を感じさせるものがあった。
カテが終わり、シローが出てきた。
「シロー。大丈夫か?」
「え、ええ。昨日は寝てなくて。子供が夜中に・・」
シローは病棟に寄らず、医局へ戻ってきた。
真吾が一生懸命、勉強している。土方は不在。
「真吾先生。カテの見学は・・・」
「ぶつぶつ・・・」
「聞いてるのかい?」
「ぶつぶつ・・・はい?」
「カテーテル検査に、近々入ってもらう必要があるんだ!」
いつになく、シローはイライラしていた。睡眠不足が続いているのだ。人手不足への不満もある。
「そんな本読み!家に帰ってからにしてよ!」
「・・・・・・・」
「ズバリ言うけど・・・」
「?」
「勤務時間を独学に使われても困るんだ。僕らの・・病棟の負担を減らす努力をしてもらわないと!」
真吾はまた反省しなくてはならなかった。自分の患者だけ診てもダメ。仕事とは、自分の落ち度を無くすことではないのだ。
「わかりました。すみません・・・」
真吾は頭を下げた。シローは出て行く。
「森も見なきゃな・・・」
真吾がカルテを差し出し、トシキが受け取る。
「・・・・記入が多ければいいってもんじゃない」
「はい!」
「要点を中心に!この患者のスワンガンツ・データは?」
「ええっと・・」
「見ちゃダメだ!」
トシキはカルテを閉じた。
「知りたくて書き移したのなら、言えるはずだろ?」
「はい!」
真吾の返事には活気がみなぎっていた。
「覚えます!」
「ハッキリしてて、よろしい!」
もと医長は少し微笑んだ。
真吾が病棟へ出たあと、トシキは医局でタバコを吸った。
ソファの僕は不快で起きた。
「おい。禁煙って書いてるだろ。気にしろよ!」
「真吾先生。最近やる気ですよ」
「みたいだな。質問もし始めた」
「やる気を起こさせたもの・・なんでしょう?」
「さあ。エイドリアンじゃないのか?」
「は?」
医局に「ロッキー」のテーマが流れている。
僕が用意したサントラだ。
「これは真吾の応援歌だ!」
また真吾が戻ってきた。
ハチマキしながら、医学雑誌を読む。
土方が戻ってきた。
「受験でもするんですか?先生」
「このほうが吸収しやすくて」
「先生!あくまでも病気じゃなく、患者を診るんですよ!」
「はい!」
「本などにずっとつかまってたらイカンよ!」
「はい!これを調べてから・・・!」
「本とか論文とか・・・学術的になればなるほどですな。
人間というのは具体性から離れてしまうんですな」
「・・・・・・・・!」
「具体性から離れることは、患者から離れることを意味するんですよ!」
土方は立ち上がった。
またウトウトしていた僕は目が覚めた。
「とっつあん、いいこと言うな・・・」
「よし!もう一度!」
真吾は雑誌の書き写しを取り出し、再び病棟へ向かった。
「彼・・・かわりましたな」
土方はまた座った。
「土方大先生のおかげでしょう」ザッキーが覗いた。
僕は時計を見た。
「ザッキー。カテーテル行くぞ。土方先生は?」
「わし?今はいいですわ」
「時間があればまた見学を・・今後は先生にもヘルプをお願いしたくて」
「はいはい・・・ははは。<はい>は1回ですわな?」
「(一同)はははははは!」
僕はザッキーと廊下を走った。
「ザッキー。いい先生が来たよな!」
「僕は愛弟子です!」
「お前も気管支鏡が格段に上手くなったよな・・・!」
「土方先生が1人でもしていいと!」
「やったな!」
僕らはカテ室へ飛び込んだ。
もと医長とシローが着替え終わったところだ。
僕とザッキーはガラス窓ごしに、彼らを見ていた。
「ユウキ先生。研修施設の話・・聞きました?」
「研修施設?」
「東京の施設まで2年間出向くという」
「どこからそんな話が?」
「土方先生のコネですよ」
「うちの病院じゃダメなのか?」
左冠動脈に狭窄ありだが有意でない。
「ではないですけど・・・経験年数の長い医師が多数いて」
「最新機器もバッチリか・・・」
「カンファも山ほど。研究もできて」
「オレはここが好きだよ」
「先生。夢は大事ですよ」
「夢ね・・・現実逃避は好きだけど」
右冠動脈の末梢に狭窄あり。
「飲み会やビデオ鑑賞とか、遊びがですか・・・」
「余計なお世話だ。でもキャリアと家で寝るだけの人生なんて・・・」
「若いときはそれでもいいと思いますけど。土方先生は物凄かったみたいです」
「どんな?」
近くを総統が通り過ぎる。
「とっつあんの話?そりゃもう大変大変。変態変態」
「総統閣下。右冠動脈は拡張を?」僕は聞いた。
「AVブランチの手前だしね。ブロックがあるらしいじゃない」
「お願いします」
「土方先生は、アパートに服しか置いてなかったって」
「それって・・・?」
「ずっと病院にいたから。なのであたしらもずっと帰れなかったわ」
「病院で24時間起きていた?」
「あの先生が寝てるとこ、あたしら見たことなかった。なのでね、家に帰る人間は陰でこう言われてたわ」
「・・・・?」
「あいつらはサードスペースに逃げ込んだ、ってね」
「サードスペース・・・?」
総統は中に入っていった。
ザッキーが近づいてきた。
「サードスペースって?あっ?えっ?うっ?」
「そのマネはむかつくからやめろって・・・!」
「サードスペースって・・土方のとっつあんも、例えがシャレてますね」
「血管でもない、細胞でもない・・・体の代謝に直接関与しない、無意味なな空間ってことか?」
「僕もサードスペースには入りたくないな・・・」
「でもオレは・・・必要だと思うよ。サードスペースは」
現実逃避の場所として解釈されているようだ。
右冠動脈の末梢がバルーンで拡張された。ステント挿入。
僕は画面を確認した。
「なんだか最近は、ステント入れてハイ終わりだな」
「面白みが減りましたか・・・」
「いや。でもこう思うことが大事なんだよ」
ステント万能時代の始まりだった。循環器領域の学問はこのあたりを頭打ちに、以後どこか限界を感じさせるものがあった。
カテが終わり、シローが出てきた。
「シロー。大丈夫か?」
「え、ええ。昨日は寝てなくて。子供が夜中に・・」
シローは病棟に寄らず、医局へ戻ってきた。
真吾が一生懸命、勉強している。土方は不在。
「真吾先生。カテの見学は・・・」
「ぶつぶつ・・・」
「聞いてるのかい?」
「ぶつぶつ・・・はい?」
「カテーテル検査に、近々入ってもらう必要があるんだ!」
いつになく、シローはイライラしていた。睡眠不足が続いているのだ。人手不足への不満もある。
「そんな本読み!家に帰ってからにしてよ!」
「・・・・・・・」
「ズバリ言うけど・・・」
「?」
「勤務時間を独学に使われても困るんだ。僕らの・・病棟の負担を減らす努力をしてもらわないと!」
真吾はまた反省しなくてはならなかった。自分の患者だけ診てもダメ。仕事とは、自分の落ち度を無くすことではないのだ。
「わかりました。すみません・・・」
真吾は頭を下げた。シローは出て行く。
「森も見なきゃな・・・」
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