3RDSPACE 34.

2006年1月3日
田中の捜索により、空港で奈良の院長の身柄が確保された。

「雪がひどくて・・・なんとか帰れました」
田中と院長は凍えながら病院内へ入ってきた。
「ロビーにふつうに座ってました」

ストーブのある応接室へ。院長が事務長らに尋問
されている。

院長はうつむいていた。向かいでは事務長が腕組みしている。
「うちの医者がみな姿を消して・・わしもパニックになってどうしようもなかったんです」
「航空券予約までして。計画的な犯行ですよ」
「ははあ、やはりご存知でしたか・・」
「しかし院長。あんまりですよ。がっかりです」
「私は逃げたのではない。どうしていいか分からなくて」
「え、ええ。動転されたのは分かりますが」
「・・・・・・・・・・・」
「こっちの立場もお願いしますよ」
「す、すまん」

事務長は以後、小声で喋った。

「病院に患者が置き去りになったことが分かれば大変ですよ」
「君らが来るのは知ってたから・・」
「だとしてもですよ。こちらは何も知らなかった」
「だがそれでいいと・・」
「ウソおっしゃい!誰がそんなこと!」
「私はもう、あの病院はやっていけんよ」
「なんでそういう話になるんですか・・・」

注文したピザが届く。みなで1枚ずつ、分ける。田中が切り終わる。
「ドクターの分、忘れましたね。そういや」
「これ以上は分割できんだろう」
事務長は食べ始めた。事務側は食べることしかすることがない。

事務長は食べながら話しかけた。
「これでは合併は無理ですね。モグモグ・・・だいいち信用できない」
「私の病院はどうなる?ムニャムニャ」
「そうですね。フグフグ・・・こういうことではどうでしょうか。いっそそちらの病院を」
「売れというのか」
「そんな言い方してません。私はその病院が潰れるというのなら・・生かしたいのです」
「ふむ・・・」
院長は言葉を失ったが、選択の余地は少なかった。
「つまり買ってくれるというわけですな?」
「ま、そういうことかな」

彼らは額の交渉を行った。院長も観念した様子だ。

ピートが走ってきた。
「不安定狭心症は、なんとかいける。腹痛も来たりで、まあこれもなんとか・・」
「医学のことはよく・・・病棟の把握は?」
事務長は冷ややかに聞いた。

「なんとか把握はすんだが。病名不明が20人、IVHなどの処置を要する人間が8名、DICっぽいのが3名」
「まあ頑張って!」
「食うものないか?食うもの!」
「実は私らも何も食べてないんです」

もう食べ終わっていた。

いったん外した田中が、息を切らして戻ってきた。
「急患、外傷です!包丁で手を切って!あと3名来ます!それと・・・」
「チッ!」
ピートはすぐ出て行った。

院長はうなだれていた。

「わしとしても証拠がほしい。重大な契約だからな。これに調印を。とりあえず」
院長は用紙を差し出した。

事務長はためらわずサインする。
「これに?証拠なんて・・・信用してくださいや。はいはい・・・と!」

今度は事務長が用紙を差し出す。誓約書だ。

「では調印してください。大事な書類です。これに調印すれば」
誓約書が院長の眼前に置かれた。
「そうすれば・・・それと同時に当院の優秀なスタッフたちを、呼んで来させます」
「うむ・・・・・」
院長は印鑑を出すしぐさをした。しかし腕時計もチラホラ見ている。

何の関係が・・・?

「さあ。お願いします!」
事務長はイライラしていた。こうしてる間にも、ピートや眼科医は救急処置にヒーヒー追い回されている。

「さあ!」
「フン・・・」

いきなり院長の顔つきが変わった。勝ち誇った表情だ。

「気でも狂われた?」
「フン・・・」
院長はイスに深く腰掛けた。

「そうですか。では以上の内容をおたくの医師会に・・」
事務長が電話に手を伸ばしたところ、妙に騒がしい音が聞こえてきた。
「?何かが・・近づいてくる?」

バアンとドアが力強く開くと同時に、背広のヤクザ風男性が現れた。

「西川!お前!真珠会の!」
「久しぶりだな!品川!」
剃りこみのヤクザはサングラスを外した。
「仲間だったころが懐かしいな!ボウズ!」

「なんでお前がここに来るんだ?」
「その<お前>って呼ぶの、やめてくれないか?」
「それはユウキの口癖で・・」

西川はテーブルに座った。

「本日よりこの病院は、わが真珠会に吸収される」
「なんだって・・・!」
「馬鹿者が。最初からそういう筋書きだ」
「くくく!」
「うちのスタッフが乗り込むまで7日間。その間の診療はお願いするぞ」

事務長は立ち上がった。
「そっか。ならもううちは引き上げる」
「そうはいかんいかん!待て!」
「連絡する」
「待て待て!医者が引き上げたら!ここの患者は誰が見る?」
「お前らこそ、患者をほったらかしにして・・・!」

事務長が睨むが、院長は知らんぷりだ。

西川は余裕だった。
「ま、1週間。それだけの辛抱だ。それまで各患者の評価を頼むよ」
「知らない。そんなの。断る」
「さっき院長の書類にハンコ押しただろ?」
「うえっ?そういう書類なの?」
「1週間頑張ってもらうための、短期の契約だ」

事務長は院長に飛びかかったが、交わされた。西川は脚を組み替えた。

「ここにいたドクターらは引退寸前のじいさんばあさんばかりだ。検査もろくにせず、評価もしとらん。したがって情報はゼロに近い。ドクターは古参のため、カルテはドイツ語」
「うちのドクターを利用するつもりか。させないぞ」
「そうだよ。ではな!」

西川、院長らは次々と引き上げていった。

「ああ、それと・・」
「なんだ?」
「救急隊は今後もひっきりなしにやって来る。近所の病院は都合が悪くてな」
「何をした?また変な圧力を・・・!」
「まあ頑張れ!わっはは!」

院長は汗をぬぐった。
「西川さん。ここまで時間を引っ張るのに苦労したよ・・・」
「では行こう」
西川はエスコートし、彼らは去っていった。

事務室には事務長と、事務員数人が取り残された。

ピートは眼科医ともめていた。

「ダメだ。もたない。こっちがな」ピートが汗をぬぐった。脱水のひどい患者が多く、IVHも入りにくい。

それに救急搬送までやってくる。

眼科医はウロウロして騒いでいるだけだった。
「オレじゃ、せいぜい点滴ぐらいしかできないよ。眼科の患者はいないかな」
「応援を呼ぶとするか・・」
「ならオレが携帯で・・なに?電波が出てない?」
「そんだけ山奥ってことだ。事務長に頼んで、応援をよこしてもらおう!」

事務長は生気なく詰所に入ってきた。
「なんでせうか」

「な。もとは君の責任だろ?」
眼科医が目を光らせ、いきなり元気になった。
「応援を呼んで、しのいでくれよ。君の一存で!」

「・・・・・・・・」
「君が不用意に印鑑押したのがいけないんだからさ!」
「うーん。うーん。はいはいすみません私がわるうございましたで済む問題ではないのでありまして」
「ピートも僕も限界なんですって。食べ物もないし」
「みんなそうです。ゲップ!あ」
「?」

事務長は手を頭に当てた。
「分かりました・・・呼びます呼びます。どうか先生方。それまではどうか・・ナンマンダブナンマンダブ」
「病院で拝むな!」

事務長は病院に連絡を入れた。
「事務長代理の、太田くんを」

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