3RDSPACE 36.
2006年1月3日「やっと行きましたわ。彼ら・・・あとはわしがやる。太田はちょっと鈍いね。今後はいらん」
短い会話で携帯は切れ、土方は勉強中の真吾のところに向かった。
「真吾先生。どうだろうか?」
「え?」
「先生はやはり基本から勉強せんといかんて、わし言ったよね」
「ええ。なのでこうして」
「大学で基本からやるように、わし教授に進言しようと思うんや」
真吾はキッと振り向いた。
「それはやめていただけません・・か!」
「ふむ?」
「僕は大学の指図を受けるつもりはありません。この病院の、ここ、この医局でないと」
「いやいや。ですから。この医局のわしが」
「先生は大学からのはは、派遣ですので、そんな権利は」
「頑固ですな先生。あのね。違うんですよ先生」
「・・・・・・・・」
「民間病院はね。確かにお金はいいでしょうな。先生の月給を見せてもらったが、
大学のスタッフの半年分を、先生は1ヶ月で稼ぐんですよな。先生にはそれが
魅力なんでしょう」
「・・・・・・・・」真吾は否定はしなかった。
「ま、言い訳はいろいろあるもんです」
土方はコーヒーを沸かした。
「先生ねえ。自分だけが楽をして、未熟な経験で患者さんらを殺してですよ・・」
「殺すなんて・・・」
「看護婦さんたちを見てみなさい。先生はああやってつまらん指示出して、ナースに
すべて押し付けている」
「・・・・」
「君らはそういう踏み台にした人間らを接待して・・まあ飲みに行ったりですな。
そうしてふんぞりかえって・・・人間として最低のことをやっとるわけですわな」
真吾は圧倒された。しかし屈することはできない。
「先生のおっしゃることはどうも・・」
「またそうやって言い訳をするんですな。そしてまた自分の殻に逃げ込む。
君以外の4人の医者もそうですわ」
「理解できません」
「基礎系で顕微鏡ばっかり見てたんでしょう。周囲との接触もできず、自分の
世界だけに浸っていたわけですな。サードスペースに入るわけですわ。そういう人間は」
「・・・・・・・・」
「そういう人間の末路を見てみなさいよ先生。この間、神戸で児童の首が置かれる
事件があったでしょう?現実から隔絶された人間ですよ。ああいうことをするのは」
「・・・・・・・・」
「わしはな。そういう人間失格の医者を全部、一掃したいんですわ」
土方はやっと本来の目的を話した。
真吾は無視して本を読み続けた。頭の中に家族を浮かべ、怒りはなんとか抑えていた。
「おいこら!なんとか言わんかっ!」
「うおっと」
いきなりの怒声に驚き、真吾はよろめいた。
「前にも言っただろうが!スタンドプレーだろうが!」
「いったん病棟で患者さんを診て、ここで復習・・」
「患者から離れるな!わしが教えただろうが!」
物凄い剣幕で、土方は真吾の背中をつかんだ。
「さあ!行ってこい!」
「資料が・・」
「資料よりも患者を診ないか!わしの指示は絶対だ!」
「しかし・・」
「重症患者がおるだろうが!その患者から離れるな!」
「それを調べるためにこうして」
「おいこら!誰に向かってものを言うてる!おお!」
その豹変ぶりは、ミチル以上だった。
さすがの真吾も冷静さを失い、あわてて廊下に出た。
「いったいどうしたんだ・・・」
続いて土方が現れ、ズンズンと詰所に降りていった。
重症病棟では大声で伝達事項を交信しているナースらがいた。
土方が入ってきてみな敬礼。
「・・・・・・・」
土方はカルテ庫にある60冊ものカルテを・・・・1冊ずつ無造作に
取り出した。主治医シールを1枚ずつ、剥ぎ始める。インディアンの
皮剥ぎのごとく。
「先生!一体・・・」
ミチルは驚いて、理由を求めた。
「何かあったんでしょうか?」
土方は怒り狂ったようにシールを次々と床に落としていく。
「主治医は、全部わし!」
「ええっ?」ミチルは驚いた。
「これまでの主治医は、サブ主治医としての役目!」
「せ、先生。どうして・・」
「どうしてやと?誰にものを言うとる!お前バカちゃうんか!」
「きゃああっ!」
あまりの威圧感に、ミチルは床に転んだ。
「民間やから油断すると思ったら、大きな間違いやぞ!聞いてるんかお前ら!」
周囲のナースらはみな検体凝固した。
「指示はサブ主治医が出すが、最終確認のわしの許可が要る!今後!検査も!
薬も!入退院も!すべて!」
「で、でも・・」
若いナースの声が震えていた。
「先生のとこまで、いちいち見せに行かないといけないんですか・・」
「おいお前!名前言え!そんなの当然だろが!ぐあ!」
「きゃあ!うわああん!」
そのナースも泣き始めた。
「何がイチイチや!言葉が小学生やね。おい!」
「うええええ!うえええ!」
ナースは恐怖で泣きじゃくった。
ミチルはやっと起き上がった。
「そんなこと・・・各主治医は了解するんでしょうか」
「する!わしの命令なんやぞ!わしの!おい!今からや!」
「・・・・」
「あいつらにも言わんとな・・・おい!シローとザッキーはどこや?婦長」
「カテーテル検査中で」
「フン。循環器のバカどもは、いつでも<カテのひとつ覚え>やな!わっはは!」
真吾は歯がガタガタ震えていた。
「真吾先生。だいたいですね。心臓カテーテル検査とかインターベンションとか申してる
けれども。循環器の医者はうそ臭いね。インターベンションした群としてない群との長期予後は
どうなっとるんですか?そういう報告がありますか?」
非常にムチャな指摘だった。
「待ってください・・・」
後ろから人影が現れた。
短い会話で携帯は切れ、土方は勉強中の真吾のところに向かった。
「真吾先生。どうだろうか?」
「え?」
「先生はやはり基本から勉強せんといかんて、わし言ったよね」
「ええ。なのでこうして」
「大学で基本からやるように、わし教授に進言しようと思うんや」
真吾はキッと振り向いた。
「それはやめていただけません・・か!」
「ふむ?」
「僕は大学の指図を受けるつもりはありません。この病院の、ここ、この医局でないと」
「いやいや。ですから。この医局のわしが」
「先生は大学からのはは、派遣ですので、そんな権利は」
「頑固ですな先生。あのね。違うんですよ先生」
「・・・・・・・・」
「民間病院はね。確かにお金はいいでしょうな。先生の月給を見せてもらったが、
大学のスタッフの半年分を、先生は1ヶ月で稼ぐんですよな。先生にはそれが
魅力なんでしょう」
「・・・・・・・・」真吾は否定はしなかった。
「ま、言い訳はいろいろあるもんです」
土方はコーヒーを沸かした。
「先生ねえ。自分だけが楽をして、未熟な経験で患者さんらを殺してですよ・・」
「殺すなんて・・・」
「看護婦さんたちを見てみなさい。先生はああやってつまらん指示出して、ナースに
すべて押し付けている」
「・・・・」
「君らはそういう踏み台にした人間らを接待して・・まあ飲みに行ったりですな。
そうしてふんぞりかえって・・・人間として最低のことをやっとるわけですわな」
真吾は圧倒された。しかし屈することはできない。
「先生のおっしゃることはどうも・・」
「またそうやって言い訳をするんですな。そしてまた自分の殻に逃げ込む。
君以外の4人の医者もそうですわ」
「理解できません」
「基礎系で顕微鏡ばっかり見てたんでしょう。周囲との接触もできず、自分の
世界だけに浸っていたわけですな。サードスペースに入るわけですわ。そういう人間は」
「・・・・・・・・」
「そういう人間の末路を見てみなさいよ先生。この間、神戸で児童の首が置かれる
事件があったでしょう?現実から隔絶された人間ですよ。ああいうことをするのは」
「・・・・・・・・」
「わしはな。そういう人間失格の医者を全部、一掃したいんですわ」
土方はやっと本来の目的を話した。
真吾は無視して本を読み続けた。頭の中に家族を浮かべ、怒りはなんとか抑えていた。
「おいこら!なんとか言わんかっ!」
「うおっと」
いきなりの怒声に驚き、真吾はよろめいた。
「前にも言っただろうが!スタンドプレーだろうが!」
「いったん病棟で患者さんを診て、ここで復習・・」
「患者から離れるな!わしが教えただろうが!」
物凄い剣幕で、土方は真吾の背中をつかんだ。
「さあ!行ってこい!」
「資料が・・」
「資料よりも患者を診ないか!わしの指示は絶対だ!」
「しかし・・」
「重症患者がおるだろうが!その患者から離れるな!」
「それを調べるためにこうして」
「おいこら!誰に向かってものを言うてる!おお!」
その豹変ぶりは、ミチル以上だった。
さすがの真吾も冷静さを失い、あわてて廊下に出た。
「いったいどうしたんだ・・・」
続いて土方が現れ、ズンズンと詰所に降りていった。
重症病棟では大声で伝達事項を交信しているナースらがいた。
土方が入ってきてみな敬礼。
「・・・・・・・」
土方はカルテ庫にある60冊ものカルテを・・・・1冊ずつ無造作に
取り出した。主治医シールを1枚ずつ、剥ぎ始める。インディアンの
皮剥ぎのごとく。
「先生!一体・・・」
ミチルは驚いて、理由を求めた。
「何かあったんでしょうか?」
土方は怒り狂ったようにシールを次々と床に落としていく。
「主治医は、全部わし!」
「ええっ?」ミチルは驚いた。
「これまでの主治医は、サブ主治医としての役目!」
「せ、先生。どうして・・」
「どうしてやと?誰にものを言うとる!お前バカちゃうんか!」
「きゃああっ!」
あまりの威圧感に、ミチルは床に転んだ。
「民間やから油断すると思ったら、大きな間違いやぞ!聞いてるんかお前ら!」
周囲のナースらはみな検体凝固した。
「指示はサブ主治医が出すが、最終確認のわしの許可が要る!今後!検査も!
薬も!入退院も!すべて!」
「で、でも・・」
若いナースの声が震えていた。
「先生のとこまで、いちいち見せに行かないといけないんですか・・」
「おいお前!名前言え!そんなの当然だろが!ぐあ!」
「きゃあ!うわああん!」
そのナースも泣き始めた。
「何がイチイチや!言葉が小学生やね。おい!」
「うええええ!うえええ!」
ナースは恐怖で泣きじゃくった。
ミチルはやっと起き上がった。
「そんなこと・・・各主治医は了解するんでしょうか」
「する!わしの命令なんやぞ!わしの!おい!今からや!」
「・・・・」
「あいつらにも言わんとな・・・おい!シローとザッキーはどこや?婦長」
「カテーテル検査中で」
「フン。循環器のバカどもは、いつでも<カテのひとつ覚え>やな!わっはは!」
真吾は歯がガタガタ震えていた。
「真吾先生。だいたいですね。心臓カテーテル検査とかインターベンションとか申してる
けれども。循環器の医者はうそ臭いね。インターベンションした群としてない群との長期予後は
どうなっとるんですか?そういう報告がありますか?」
非常にムチャな指摘だった。
「待ってください・・・」
後ろから人影が現れた。
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