3RDSPACE 40.

2006年1月4日
真吾が廊下を走っていくと、家から携帯が鳴った。

「もしもし?」
『とうちゃん。ごめん勤務中に』
「お前か・・・どうした?」
『今日もとうちゃん、帰れないかな』
「しようがないだろ!こんな仕事だし!」
『とうちゃん、怒らないで・・とうちゃん』
「すまないが、切るよ!」
『とうちゃんが心配で』
「心配したって、何も解決なんか・・・ごめん。今は精一杯なんだ。切るよ!」

思ってはいけないことだが、最近は仕事に家族を持ち込みたくない。
忙しくなるにつれ、真吾は自分の薄情な部分にも気づいた。

それは修正可能なものだ。しかし今は目の前のことで精一杯。

真吾はひとまずトイレに隠れ、頭を抱えた。
で、さきほど机で覚えたことを思い出そうとした。

覚えたはずが、覚え切れていない。
年齢の限界も感じる。

これもよくあることだ。ある程度知識を蓄えてさあ現場で生かそうと思ったとき、年齢の壁にぶち当たったような気になる。年齢のせいかどうなのかは分からないが、学生のときの記憶力がいかに超人的なものだったかを思い知らされる。

それに加えて土方への反感、自分への無力さが邪魔をする。

患者を思うだけでは、心の支えにはならない。

「そうだ・・・」
彼は僕の手帳のコピーを参照した。
僕が奈良に出かける前、彼にコピーした。
そこには歴代のオーベン語録が載っている。

「上司による理不尽な叱咤。自分という屈辱。だがそれらはすべて
今後の飛躍となる。なぜなら彼らは・・・」
手帳をどんどんめくる。

「<反面教師>という名の偉大な恩師・・・・そうか!」

たとえ自分がここを追い出され、大学へ行かされようとバンクに
また頼ろうと、どこでも同じだ。結局は自分次第。

彼のせいでどこかへ追いやられようとも、彼は教師だ。
患者も彼も、今の非力な自分もみな教師だと思えばいい。

そう考えると、怒りという概念はどこかへ吹き飛びそうだ。

やる気をそがれることなく、彼は勉強を続けた。

先代の人々はそうやって自分から自分を発見し、成長していったのだ。
これは追い込まれた人間でないと分からない。

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