3RDSPACE 47.

2006年1月4日
バキッ、と医局のテーブルが宙を舞った。

「わしの許可もせずに、受け入れをするとは何事ぞや!」
土方は物凄い剣幕で、T−レックスのように医局の中を揺るがした。

「循環器患者を断って、呼吸器患者を受け入れる指示を・・」
シローは緒が切れていた。
「そんな指示なんて、ありですか?」

「こら!お前誰に向かって口をきいてる!」
「自分の専門だけというのは都合がよすぎます」
「シロー先生。だったな!先生。こっちへ」

シローは土方の個室へ呼ばれた。

「座れ」
「ええ。先生。あんまりです」
「そういう物事の是非を、君たちが判断すべきではないんですよ先生!」
「うちのかかりつけ患者まで断って、紹介先が真珠会ですか・・・」
「あのね。ハハハ。いいですか」
「どういう関係があるんですか!」

土方は全く耳を貸さず、真向かいに座り込んだ。

「君のことは知ってるよ。大学でのレジデント時代で挫折しとるんですな。実際」
「そんな話。蒸し返して一体・・」
「教授に頼まれてるんですよ。私は。君は自分の都合ばかり優先して、相手をののしる。君ら全員の共通点ですな」
「・・・・・・」
「要するに、教授があなた方に仕返ししたいわけですな」
「子供みたいな・・」
「医局のイメージが悪くなったんですよ。こんな前例ができてみい。これから入る医局員が<あ、あそこはガードゆるいな>って、ナメてかかるわけですよ。意味分かりますか?」

「見せしめですか。僕らは」
「ま、その第一号ですな」
「そんなとこ、誰が帰るものか・・・!」
「ほらまた。都合が悪くなると逃げて、居心地が良くなると態度がでかくなる・・・これまで来れたのも、大学を含めた周囲のおかげですよ。大学医局があったからこそ、今の仲間ができた」
「でも先生方のおかげではありません」
「上の人間をコケにするようでは、あかんね・・・それにね先生」
「まだ何が?」
「そんなことするから、子供も思ったように成長せん。心を開かん」
「なに・・・?誰からそんな」

シローは目を見開いた。どうやら松田から聞いたようだ。

「あのね先生。松田が変な宗教やっとるってバカにしたらいかんですよ。先生やこの病院にとって大事な客なんやから。形だけでも入信してやればいいじゃないですか。それが世渡りというものです。これから大学に戻るっていうのに、どうするんですか?生きてはいけんぞ!家族はどうすんねや!」
「くそ、くそ・・・!」

シローは無念の涙を流した。

土方の「口撃」は、人間の心に深い傷を、マシンガンのごとく植えつけていった。

「君たちは・・いいですか。大学に戻ります。研修医とほぼ同じ扱いです。バイトも禁止。オーベンも当てて、島病棟医長のもと監視下におかれます!」

間もなくドアが開いた。

「自分も聞きます・・・」
ザッキーが入ってきた。
「土方先生。心疾患患者も救急には、今後受け入れますので」
「バカか。お前。ならん。さあ入れ!」
土方は目を大きく見開いた。メガネをかけていても分かる。

ザッキーはシローの横に座る。
知らぬ間に、寝ていたはずの真吾も入り口で立っていた。

「ザッキー先生。先生はな、わしは見込んでたんだけどな」
「いろいろ考えましたが・・自分は東京へは行きません」
「わしは別に、行けとは言ってない」
「言いましたって。東京で修行して、真珠会に入れって」

シローはまた驚いた。

「そんなこと、言われてたの?ザッキー」
「すみません・・・乗せられてました」
「うちのスタッフを分散させるのも狙いか・・!」

土方は腕組みして2人を見下ろした。

「ま、もうダメですな。君らは」
「・・・・・」シローは不快そうに見つめた。
「分かりました。早速メンバーは一新させます!先生らは週明けから大学で再教育!」

シローの顔がゆがんだ。土方は全く動じない。

「先生。病院もリストラの時代なんですよ」
「ザッキー。何か言ってやれ!」

ザッキーはしかし冷えていた。
「こっちから消えますよ。こんな先生とはいたくない」

土方は無視して立ち上がった。
「少なくとも、関西では生きていけませんよ先生」
「くそ・・・」
「まあしかし、ユウキといいトシキといい、変な寄生虫が住み着いたものですな・・・」
彼はパソコンになにやら文書を打ち始めた。

「信念のない医者ばっかり集まっては自分の主張のみ言う」

みな悔しくて、ただ立ち尽くしていた。

「庶民性とかなんとか抜かすのは、君らの場合20年早いんですな」

「庶民性・・先生。それ」真吾は呟いた。
「それって・・・誰から聞いた言葉・・・?」

土方は一瞬とまどい、エンターキーを2度叩いた。

シローは振り向いた。
「真吾。どうしたの?」
「庶民性っていう言葉は、ユウキ先生が学生さんにこっそり教えた言葉で・・」
「北野くんに?懐かしいな」
「この先生がなんでそれを・・・」
「初耳だねそれは。僕らも」

土方はプリンターに紙を補給した。

シローは天井を見上げて考えた。
「そうか。なんとなく見えてきた。土方先生は・・・たぶんこうだ。ザッキー」
「北野とつるんで?アイツ・・」
「それは分からない。けど土方先生は北野くんからの情報をもとにして・・組織的な何かを感じる。大学だけでなく・・」
「真珠会に患者を紹介したところをみると・・・」
「北野くん、土方先生、真珠会・・・たぶん全てはつながってる」

漠然とではあるが、正しい推理だった。

土方が立ち上がった。
「よし。わしの意見がまとまった。メールの仕方はわし知らないんで・・」
ファックスにセットする。番号を押し、スタート。

「教授への人事願を出しました。その通りになることでしょう」

今日は金曜日。教授は月曜日にやってくる。いずれにしてもファックスが見られるのは間違いない。

土方はまた座った。
「ほら。とっとと出ていかんか!」

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