3RDSPACE 50.

2006年1月4日
真田病院の重症病棟。夜。

カルテの主治医はすべて<土方印>がつけられていた。
実質的な主治医はすべて彼、という指令が下された。
もともとの主治医名はその下に小さく書かれている。

シローは重症患者を回診して、詰所へ戻ってきた。ザッキーが続く。
「土方先生。ここ2日何も書いてないから把握がやっとだ・・・」
「何ですかアイツ。自分勝手、し放題で」
「昨日ナースに呼ばれて呼吸器設定を変えたんだけど・・」
「もとに戻されてますね」
「何の根拠もなくだよ。これは明らかに・・・」
「いやがらせだね」

後ろでは真吾が黙々とカルテを読んでは本と照らし合わせている。
ザッキーはあまり気に入らない。
「おい真吾!お前もなんとか言ってくれよ!」
「・・・・・・・」
「土方のオッサン、気管支鏡も教えてくれなくなったんだぞ!お前はなんとも・・!」
「やめるんだ。イライラするな!」シローが止めた。
「おい真吾!何か言え!いいヤツだと思った俺は、間違いか?」

真吾はキッとザッキーを睨んだ。

「卑屈になり続けたら、彼と同類になるってことです」
「なにい・・・」
「自分は基礎医学の教室で上司とウマが合わず、いつも卑屈になって
ばかりでした」
「今日はよく喋るよな?」
「その卑屈さが、これまでの自分を生んできたのではないかと思うんです」
「そうだな。ドクターバンクに魂を売ってたものな」

ザッキーは再び敵意をむき出した。
そしてモニター画面をプリントした。

「この波形は?真吾」
「PAT with block。ジギ中の患者さんです」
「オレの、いやもとオレの患者のこと・・・よく知ってるな」
「全患者の確認をしてて。でも厳密には先生の患者さんでは」
「じゃあ、これは?」
また別のモニター波形をプリントした。

「最近afの方ですね。サイナスもときにありますが」
「よく把握してるな」
「ええ。患者さんにはりつきましたから。ここ1週間」
「土方も役に立つな」
「いえ。あの先生は導入部だけで。あとは先生方の見よう見まねです!」

真吾は無視して、作業に再度とりくんだ。

「ザッキー先生。気を悪くなさらずに。これでもどうしても・・プライドはあるんです」
「プライド・・どんな?」
「生きたという経験年数は、先生より上ってことです!」

ザッキーはまた立ち止まって考えた。ゆっくり消化することにした。


「もしもし?」
廊下でシローは携帯を取った。
『こちら事務。息切れが来ます。66歳の女性』
「また呼吸器疾患か。循環器関係はもう断っちゃダメだよ!」

「はい・・」
太田は電話を置いた。横で土方がタバコを吸う。

「わかっとるやろな。太田」
「ええ」
「君はもうクビになりますが、真珠会がまた拾います。あとはわしがやる」
「ですね。ご期待に沿わず・・」
「まったく、その通りですわな!」

土方はタバコをもみ消し、ゆっくりと救急外来へ向かった。

「はああ、寒い寒い!」
シローとザッキーは救外にほぼ同時に到着した。真吾がのそっと登場。
ザッキーはわざと離れた。シローが引っ張る。

「ザッキー。何してるんだい?」
「別に・・・」
「真吾、いいこと言うよ。これからは先輩として対しなくちゃな。さ、ザッキーも変なプライドは捨てて!」
「プライドなんて」
「大学気分が、まだ抜けてないんだよ!」

シローはこうやって雰囲気を和らげた。

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