3RDSPACE 53.

2006年1月4日
僕とトシキ、あとで駅に降りてきた事務長と3人は・・・なんとかタクシーで真田病院に到着した。
僕らは足が濡れて、フラフラだ。

事務長はドロだらけの携帯を取り出した。
「病院はまだあるか?よかった・・」

事務室に入ると、太田が若い事務員らとキャッキャと騒いでいた。
「あはは!あはは!あ・・・」
太田が振り向くと、事務長が泥まみれで立っていた。

「もう帰ったから」
「うそ・・どうやって?」
「だからもう帰ったから!あんたクビ!」

事務長が見回すと、あちこち食い散らかしたゴミに落書き・・・。
「太田。ここで一体何を・・・」
「ちょっとしたパーティーを」
「乱交なら!外でやれ!退場!」

太田は事務室から追い出された。
事務長は久しぶりにデスクに座った。

向かいの女性事務員がオドオドしていた。
「事務長。真珠会か大学がここを乗っ取るという噂が」
「安心を。どことも契約などしないよ」
「しかし病棟は院長が権力を・・・彼によると、メインのドクターらは大学に送られます」
「そうは・・そうはさせない。させるか!」

僕とトシキは着替えて、僕は走り出した。

「ユウキ先生?どこへ?」
「病棟に決まってる!」
「土方先生と争う?」
「それもある!」
僕は階段へ走っていった。

事務長は考えた。ここで直接争うようなことがあれば、今後の病院関係にまで影響が及ぶ。
土方1人と争うせいで、大学病院自体を敵に回す価値などないのだ。

できれば穏便に、紳士的に片付けたい。

「よし!」

事務長は全館放送のためマイクを取り出した。

『メインスタッフ、およびメインドクターたちは大至急!会議室へ集合せよ!
ただし急変の場合は別!』

真吾はちょうど挿管にとりかかっていた。
「喉頭が見えない。見えない・・・待てよ!」

こういうときは焦らない。まずはアンビュー、次にアンビューだ。
周囲で見つめているナースの視線を消去し、真吾はアンビューに取り掛かった。

「もう一度・・!」
喉頭を見ようとするが・・
「すごい喉頭浮腫だ。これでは・・チューブを7フレに変更!」
背中からチューブを取り出す。

そのときちょうど、僕が現れた。
「これで入れろ!真吾!」
僕はマイ気管支鏡を持ってきた。台に接続。電源を入れる。

「転んでしまって、関節が動きにくい。やってくれ!」
「チューブを通して・・」
「見えるか?」
僕は補助のカメラでいっしょに確認した。

「真吾。あれが喉頭だ。すごい浮腫だな」
「・・・・・」
「入り口が分かるか?」
「ええ」
「そのまま真っ直ぐ!」

声帯が広がるタイミングを見計らって・・・
真吾はそのまま体を前に移動した。

「入りました!」
「よし!」
ナースらは固定にかかった。

土方が着いたときは、すべて処置済みだった。

「なんや?なにがあったんや?」
「遅いんですよ。先生・・・」
真吾は手袋を外した。

土方は周囲を確認した。
遠ざかる真吾の背中を見送った。

それはどことなく、寂しげな表情だった・・・。

まるで家を出て行く息子をあきらめるような気持ちにも似ていた。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索