3RDSPACE 54.
2006年1月4日軍法会議がついに開かれた。
ただ、最近やってない月1回の全体会議、とみな知らされた。だが土方の出席で、会議室はいいようのない不気味な雰囲気に包まれていた。
医師は僕ら全員に土方院長。事務長に婦長など代表者。
事務長はさっそく司会をつとめる。
「では、今週の・・」
「司会はわしがする」
土方が殴りこんだ。
「ですが・・」
「こらお前!誰にものを言うとるか。バカかお前」
「・・・・・」
土方院長は首をかしげなからノートを読んだ。
「こういう事は言いたくないんですけども、ダメですな。全然ダメ」
「経営方針・・?」
「お前に聞いとらん」
事務長は話しかけたが無視された。
「まずは病棟ですな。無駄な仕事をする人間が多い。感染のほうの配慮もなっとらん」
確かに間違った指摘ではないが・・・配慮に欠けていた。
「それと医者側。今の働きで現在のコストは問題でっせ。先生方」
院長は僕らのほうを見回した。
「医者という教育もなっとらんよ。大学に背を向けてきた結果がこれでしょうが。直さんといかん!事務長!」
「・・・はい」
「彼らはな!再教育せないかんですよ!」
「再教育・・・」
「このままやったら、とんでもない医者になるよ!」
事務長は歯ぎしりした。
「ですけど先生」
「なんや?」
「先生のほうだって」
「なんや?言うてみるか!言うてみさらせ!教授の耳に全部伝えて!お前らまでここに居れなくなってもええのか!おい!」
「知りませんでしたよ。事務とつるんで循環器の患者を断るなんて・・」
「おいお前!本気で言うとるのか!」
「真珠会に紹介・・なんでまたそんなところへ?」
「それが上に対する言い方なのか!」
圧倒されて、みな黙ってしまった。僕も言葉を失った。
「あの・・・」
手を挙げたのは真吾だった。
「こっちにも喋らせてもらえませんか?」
「なんや?言ってみ。ははは。バカが喋りよるわ」
「先生は、ご自分をどう評価されてますか?」
「なに?お前誰に・・」
周囲の視線は土方に集中した。
「どう評価?わしは院長として、ここの病院を守る使命があるわけですな。職員も患者もな」
「しかし先生。この雰囲気から何か感じませんか?」
「バカが」
「それは明らか。有意差ありです。全員が先生についてくるとでも思いますか?」
「ついて来ん奴は、辞めさせます!」
「先生だけになってもですか?」
ざわめきが起こった。真吾は毅然とした態度だ。
僕は圧倒されていた。
「真吾。どしたんだ・・・?何があった?シロー」
「第3次性徴というやつです」
「そんなのあるかいや?」
あれだけ控えめだった真吾だが、言葉は追随を許さなかった。
「どうです?もと・・医長先生」
「ぼ、僕は?僕は・・・」
まさかトシキが名指しされるとは本人も分からなかった。
「医長を降ろされたんですよ先生!いいんですか?」
「僕は・・・その」
「もういいです。シロー先生!」
シローは堂々と構えた。
「僕は家庭を持ってて、独断では行動できない存在です。仕事を放ったら、家族が路頭に迷ってしまう。ローンだって払えない」
真吾はうなずいている。
「でも僕自身のためだけにやってるわけじゃない。せっかくいい病院ができかけてるわけじゃないですか!それを潰すのか?」
土方は退屈そうに指をトントン机に叩く。
「生きがいを感じる職場でしょう?胸をはって毎日家に帰れる。そんな職場。僕らにそれを捨てろと言うんですか?」
あちこちからすすり泣きが漏れた。
「こんないつまでもビクビクして、まるでいじめられっ子みたいに。そんな雰囲気、職場じゃない!」
「よかった。僕と同意見。みんなはどうですか?」
真吾は僕を指差した。
「さあ先生!いつもの毒舌で、結語を!」
「なんだよお前。偉そうに・・・」
「す、すみません」
せっかく盛り上がったところを、真吾はくじかれた。
「オレは山奥にしばらくいたから、全体像はぼんやりだけど・・・だったら今まで通りでいいのでは?」
少しだけ笑いが聞こえた。
「事務長。お前だよ。お前が判断するんだよ!」
「その<お前>というのは・・・」
「医者に争わせるなよ。経営者にしか面通しできない事務長。お前が判断しろ!」
「あ〜、あ〜、なむさんだ〜・・!」
事務長はじっと机上を見つめ、観念したように受話器を持ち上げた。
プップッ・・・とゆっくり番号が押される。
事務長は横のミチル婦長をチラッと見た。
「ここでラーメン注文したら、ひんしゅくだな」
「バカ!」
婦長は眉間にシワを寄せた。
「あ!もしもし!」
事務長は思わず立ち上がった。どうやらつながったようだ。
「経営者に代わっていただけますか・・・どうしても。品川ですが」
土方は僕らを1人ずつ睨んでいた。抜け目は感じられない。
「先生ら。もう無理なんやて。教授に逆らってきたバツや。君ら凡人の力ではどうにもならんて!」
言葉の1つ1つが突き刺さる。こんな言い方をして、自分は傷つかないのか・・・。その人間性を疑った。
僕はそこに土方の本性を悟った。
「土方先生。残念です」
「なにが?お前何を言うてる」
「自分の使い方を間違ってしまったのではないかな・・・」
「患者を置き去りにして、旅に出る人間に言われたくないですな」
「今はマシだ。以前はマシだったという人間より、ずっといい」
「・・・・・」
事務長は会話を続ける。
「はいはい。ええ。その件で。スタッフ入れ替えのこと・・・はああ、もうすでにご存知でしたか」
土方はまだ言い足りない。
「これで君らの退職が決まったら、大学からは出さないよ。一生。まあ医者やめて、別の職業についたほうがいいんちゃうんかな・・・ははは」
真吾はフンと鼻を鳴らしていた。それ以外は怒りが収まらない。
「ええ・・・ええ・・・・わかりました」
事務長は思いつめたように、受話器を置いた。
みんなが一斉に注目した。
ただ、最近やってない月1回の全体会議、とみな知らされた。だが土方の出席で、会議室はいいようのない不気味な雰囲気に包まれていた。
医師は僕ら全員に土方院長。事務長に婦長など代表者。
事務長はさっそく司会をつとめる。
「では、今週の・・」
「司会はわしがする」
土方が殴りこんだ。
「ですが・・」
「こらお前!誰にものを言うとるか。バカかお前」
「・・・・・」
土方院長は首をかしげなからノートを読んだ。
「こういう事は言いたくないんですけども、ダメですな。全然ダメ」
「経営方針・・?」
「お前に聞いとらん」
事務長は話しかけたが無視された。
「まずは病棟ですな。無駄な仕事をする人間が多い。感染のほうの配慮もなっとらん」
確かに間違った指摘ではないが・・・配慮に欠けていた。
「それと医者側。今の働きで現在のコストは問題でっせ。先生方」
院長は僕らのほうを見回した。
「医者という教育もなっとらんよ。大学に背を向けてきた結果がこれでしょうが。直さんといかん!事務長!」
「・・・はい」
「彼らはな!再教育せないかんですよ!」
「再教育・・・」
「このままやったら、とんでもない医者になるよ!」
事務長は歯ぎしりした。
「ですけど先生」
「なんや?」
「先生のほうだって」
「なんや?言うてみるか!言うてみさらせ!教授の耳に全部伝えて!お前らまでここに居れなくなってもええのか!おい!」
「知りませんでしたよ。事務とつるんで循環器の患者を断るなんて・・」
「おいお前!本気で言うとるのか!」
「真珠会に紹介・・なんでまたそんなところへ?」
「それが上に対する言い方なのか!」
圧倒されて、みな黙ってしまった。僕も言葉を失った。
「あの・・・」
手を挙げたのは真吾だった。
「こっちにも喋らせてもらえませんか?」
「なんや?言ってみ。ははは。バカが喋りよるわ」
「先生は、ご自分をどう評価されてますか?」
「なに?お前誰に・・」
周囲の視線は土方に集中した。
「どう評価?わしは院長として、ここの病院を守る使命があるわけですな。職員も患者もな」
「しかし先生。この雰囲気から何か感じませんか?」
「バカが」
「それは明らか。有意差ありです。全員が先生についてくるとでも思いますか?」
「ついて来ん奴は、辞めさせます!」
「先生だけになってもですか?」
ざわめきが起こった。真吾は毅然とした態度だ。
僕は圧倒されていた。
「真吾。どしたんだ・・・?何があった?シロー」
「第3次性徴というやつです」
「そんなのあるかいや?」
あれだけ控えめだった真吾だが、言葉は追随を許さなかった。
「どうです?もと・・医長先生」
「ぼ、僕は?僕は・・・」
まさかトシキが名指しされるとは本人も分からなかった。
「医長を降ろされたんですよ先生!いいんですか?」
「僕は・・・その」
「もういいです。シロー先生!」
シローは堂々と構えた。
「僕は家庭を持ってて、独断では行動できない存在です。仕事を放ったら、家族が路頭に迷ってしまう。ローンだって払えない」
真吾はうなずいている。
「でも僕自身のためだけにやってるわけじゃない。せっかくいい病院ができかけてるわけじゃないですか!それを潰すのか?」
土方は退屈そうに指をトントン机に叩く。
「生きがいを感じる職場でしょう?胸をはって毎日家に帰れる。そんな職場。僕らにそれを捨てろと言うんですか?」
あちこちからすすり泣きが漏れた。
「こんないつまでもビクビクして、まるでいじめられっ子みたいに。そんな雰囲気、職場じゃない!」
「よかった。僕と同意見。みんなはどうですか?」
真吾は僕を指差した。
「さあ先生!いつもの毒舌で、結語を!」
「なんだよお前。偉そうに・・・」
「す、すみません」
せっかく盛り上がったところを、真吾はくじかれた。
「オレは山奥にしばらくいたから、全体像はぼんやりだけど・・・だったら今まで通りでいいのでは?」
少しだけ笑いが聞こえた。
「事務長。お前だよ。お前が判断するんだよ!」
「その<お前>というのは・・・」
「医者に争わせるなよ。経営者にしか面通しできない事務長。お前が判断しろ!」
「あ〜、あ〜、なむさんだ〜・・!」
事務長はじっと机上を見つめ、観念したように受話器を持ち上げた。
プップッ・・・とゆっくり番号が押される。
事務長は横のミチル婦長をチラッと見た。
「ここでラーメン注文したら、ひんしゅくだな」
「バカ!」
婦長は眉間にシワを寄せた。
「あ!もしもし!」
事務長は思わず立ち上がった。どうやらつながったようだ。
「経営者に代わっていただけますか・・・どうしても。品川ですが」
土方は僕らを1人ずつ睨んでいた。抜け目は感じられない。
「先生ら。もう無理なんやて。教授に逆らってきたバツや。君ら凡人の力ではどうにもならんて!」
言葉の1つ1つが突き刺さる。こんな言い方をして、自分は傷つかないのか・・・。その人間性を疑った。
僕はそこに土方の本性を悟った。
「土方先生。残念です」
「なにが?お前何を言うてる」
「自分の使い方を間違ってしまったのではないかな・・・」
「患者を置き去りにして、旅に出る人間に言われたくないですな」
「今はマシだ。以前はマシだったという人間より、ずっといい」
「・・・・・」
事務長は会話を続ける。
「はいはい。ええ。その件で。スタッフ入れ替えのこと・・・はああ、もうすでにご存知でしたか」
土方はまだ言い足りない。
「これで君らの退職が決まったら、大学からは出さないよ。一生。まあ医者やめて、別の職業についたほうがいいんちゃうんかな・・・ははは」
真吾はフンと鼻を鳴らしていた。それ以外は怒りが収まらない。
「ええ・・・ええ・・・・わかりました」
事務長は思いつめたように、受話器を置いた。
みんなが一斉に注目した。
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