NURSESIDE A ? 現場検証
2006年2月21日 幸い、ミチルは怪我もなく、打撲もないようだった。どこも痛くない。
「うう・・・」
ショックで体が硬直している。いったん車をおそるおそる・・バックした。
助手席側のドアはおそらくペシャンコだろう。
だがそれよりも気になるのは相手だ。
気がつくと、音楽がガンガンやかましい。
「うるさいのよ!あんたは!」
ドアを開け、後ろに停車している黒のセダンへ、タタタと歩み寄る。
右側は大きくへこんでいる。
「す、すみません!」
セダンの運転席のウインドウがサーッと下ろされた。
無愛想な太ったオバサンの顔だ。首の周辺を宝石で飾ってある。
「ちょっとアンタ・・・」
オバサンは今度はウインドウを上げ、改めてドアを開けた。
「あ〜あ・・・」
彼女はまず自分の車のボディを確認にかかった。
ミチルはオバサンの体の周囲を見回した。
「ケ!ケガは?怪我はありませんでしたか?」
「ん?せやな。たたた・・」
オバサンはわざとらしく、腰を押さえた。かなり太っており、変形性の関節症もあると思われるが。
「こ、腰ですか?」
「ああ。そういやなんか痛いわ。首もなんとなく・・・」
「びょ、病院へ!とにかく病院!でも救急車?警察?えっ?えっ?」
ミチルは震えながら、携帯を取り出した。
「今は救急車はええわ。とりあえず、警察呼ぼか」
オバサンは自分の車の凹みを見ながら呟いた。
「あ〜あ・・・ここもやられとる・・・これもや。ツッ(舌打ち)」
ミチルは110番へ連絡した。
『はい。もしもし』
「あの!車が2台ぶつかって!大変なことに!」
『うん。まあ落ち着いて。大丈夫だからねー』
「大丈夫じゃないわよ!」
『大きな事故なのかなー』
「大きいわよ!」
『そこはどちらですか?』
「え?」
見回すが、道路以外何も見当たらない。
近くを高速で車がビュウンビュウンと通り過ぎていく。
思わず指を耳に突っ込んだ。
「道路しか・・・!」
『何か、看板とか建物とか・・・』
「周囲にマンションがありますが・・・名前は」
なんとか場所の特定に四苦八苦し、警察は了承した。
『相手の方は、どんなですか?』
「首と腰が痛いと・・」
『救急車は必要ですか?』
「歩けているようです・・・」
『そうですか。なら待てますね。しばらくそこでお待ちを』
「あの!どれくらい?あたしも仕事場のほ・・」
『あのねー。しばらくそこでねー』
「どこから来るの?」
『そこでじっとしといてねー。さもないとオタク、不利になるからねー(ブツッ)』
電話は切れ、ミチルはまたオバサンに近寄った。
「すみません。私が左をよく見てなかったせいかも・・」
「わしは、ちゃんと見ていたがに」
「すみません。すみません」
どっちに分があるとかそういうことよりも、相手に症状があるのがつらかった。
オバサンは顔を合わさず、また車の傷を指でなぞる。
ミチルははっと気づき、携帯を鳴らした。
『はいこちら真田病院!本日の外来は朝9時よ・・』
「田中君?ミチルなんだけど!」
『ただいまルスにしておりますのでご用の方は・・』
「ちょっと!ふざけないでよ!」
『おおこれはミチル姫。おはようございます』
「い、今何時?」
『ちょうど8時になるとこですね。では』
「ちょっとちょっと!切らないで!」
『事務長はまだこちらには出勤は・・・』
「ではなくて!その!」
ミチルは小さく息を吸った。
「あまり大げさにしてほしくないんだけど・・・」
『おめでた?男?女?それはまだか』
「違うわよ、もう・・・実は交通事故に」
『ええっ?交通事故?婦長が交通事故?大変だ!』
「しっ!小さな声で!」
周囲でざわめきが聞こえた。
「しっ!まだここだけの話にして!」
『無事ですか?婦長さんは?』
「あたしは別に。相手の車に当たったのか、相手がぶつかったのか・・同時なのか」
ショックで思い出せない。
『相手の方は・・・』
「関節の痛みとかあるみたい。病院で診察を受けると思うけど」
『ではぜひうちへ。整形に最優先で診てまらいましょうや』
「うちかあ・・・でもなあ」
真田病院まであと数分の距離ではある。しかしミチルはイヤだった。事の大げさが拡がるのを嫌ったのだ。
「なんとか間に合うようにしようかとは思うけど・・・あたしの車、ボロボロで」
『へいへい』
「迎えに来てくれる?」
ミチルの車の左舷もかなりへこんでおり、これで出勤したら駐車場でバレてしまう。
『じゃあ、あっしが行きましょう・・・場所を』
「助かるわ。場所はね」
伝え終わり、ミチルは携帯を切った。引き続き、車を開けてエンジンを止めにかかった。
「おうわっ?」
車の中はかなりの大音量だった。よりによって「リング0」の主題歌だ。
♪しゅうまく〜へむ〜か〜う
「やめてよ!」
ミチルは思わず叫んだ。
オバサンはタバコを吸いながら、路側帯に立っている。
ミチルも少し離れて立ち、警察と田中くんの到着を待った。
また電話が鳴る。
「もしもし?」
『ああ、それでな。近所から魚もらったからそれを夕方・・』
「お父さん?もうやめてよ!」
『なんや?どうしたんや?』
「今は電話に出れるような状況じゃなくて!」
『出とるやないか?はっはおかしなヤツや。人のことチホー、チホー言うといて。自分やないか。ははあ』
「切る」
『親子の縁を?』
「ち・が・う!」
彼女は指を押し込むように携帯を切った。
オバサンは横目でミチルを睨んでいた。
彼女も負けず電話し始める。
「ああ。うん。そうなのよ。じこ。ふうん?いきなりぶつけられて。なんかうん。あちこち痛い。
アーイタタ・・・」
彼女は実にわざとらしく四肢をさすった。
すると後方彼方から、ミニバイクがドドド・・と駆けてきた。どうやら警察の到着だ。
ヘルメットを脱ぐと、もう60代くらいの爺さんのようだった。
「うわあ。結構派手にやっとりまんなあ!ええ?」
完全な他人事のように、爺さんは車を見回した。
「うわっ。ここも。ここも。ひえ〜・・・うわっ。うわっ」
ミチルには時間がなかった。
「あの」
「はいなっ?」
「状況の説明を。急ぐので」
「はいな。じゃあ聞かしてもらおか」
爺さんはやっと仕事の顔に。
するともう1台のミニバイクがまた後ろからドドド・・とこちらへやってきた。彼も警察だ。
ミチルは爺さんに説明を始めた。おばさんは離れている。
「あたしは高速道路を降りて、一般道路に合流」
「ははあ。アンタは高速道路を降りて、一般道路に合流したと!高速道路やな。高速!有料のな!」
「・・・・え。ええ。で、そのままドカンと」
「待てよ待てよ。こうそくどうろ・・・こうそくどうろ・・・はいと!いっぱんどうろから。まてよ。まてまて」
爺さんはメモが遅かった。
「そしたらはい!一般道路に入りました!入ろうとした!」
「はい。そこでドカンと」
「待ちいな。アンタは運転しとった以外何か・・」
「け・・・携帯で話してました」
「おっ?それはいかんな〜いかんいかん!」
「あ、でも携帯は切りました。そのあとの事故で」
「いやいやアンタの口ぶりでは、携帯で話しよった最中に」
「正確には、携帯を切ったあとでして」
「うん。まあホントかどうか別として」
「ホントよ!」
バカな警察相手に、ミチルは怒りを抑えるのがやっとだった。
もう1人の警官は、オバサンから事情聴取。
ミチルを何度も指差している。
「ミチルさん・・・やな。アンタから当たった覚えは?」
「左は確認していたんですけど・・・急にドカンと音がして」
「ほう!見てはいたけど音がした!」
「はい。でもあまりのショックで状況が」
「向こうの車は前から後ろまでキズありまっせ。ドカンやなくてズズズって擦ったんちゃいますの?」
「後ろから当たって、あたしはブレーキ押して、そのまま相手が前方へ・・・だったかな?えっと・・・」
よく思い出せない。
「ま。あんたはそう言うてるけどもな。相手の話が優先や。被害者の」
「被害者?」
警官は退がり、もう1人の警官とペチャクチャ話し始めた。
「ミチルさん!」
田中君が自家用車から降りてきた。スーツ姿だ。
「大丈夫で?」
彼はミチルをの周囲をクルクル回り、向かい合って立った。
「ミチルさん。詰所はもう、申し送りの時間ですね」
「午前中の出勤は無理かなあ・・・」
「相手の方、もし病院に行くのであれば。ぜひ当院へ」
「あの。うちを勧めないで!」
「なして?」
「知られたくない!」
「最近うちも患者数が少なくて、へへ」
警官が戻ってきた。
「ああ。ダンナさんでっか」
「いえ。以前ふられまして」
田中君は本音を喋った。
警官のじいさんは頭をポリポリ掻いた。
「あのねえ。ミチルさんとやら。相手の証言ではね」
「はい・・・」
「あんたが一方的にぶつかってきよったって。で、引きずられたって」
「そ、そうなんでしょうか?」
「そ、そうなんでしょうかって?わしらはただ、現場検証してるわけやからね」
「あの方を病院に」
「ああ。どこがあるかいな。この近くは・・・」
「<なにや救急病院>が」
田中くんは驚いて身を乗り出した。
「ミチルさん。そこは真珠会が乗っ取・・・」
「ダンナさんは黙っといてもらえまっか」
警察官は病院の名前をメモした。
「そうでっか。これはご親切に。じゃ、保険屋にも電話しといてえな」
「はい」
「ミチルはんには同行はして欲しくないと、被害者の相手さんからの伝言や」
「・・・・・」
ミチルはあちこちに、ペコッと頭を下げた。
「本当にすみません・・・」
「へッ」
オバサンはふてくされ、車に乗り込んだ。
強烈な日差しが、いきなりミチルの眼を鋭く貫く。
「くっ!」
♪・・・まぶしすぎて、あしたが・・・がみえ〜な〜い・・・
「うう・・・」
ショックで体が硬直している。いったん車をおそるおそる・・バックした。
助手席側のドアはおそらくペシャンコだろう。
だがそれよりも気になるのは相手だ。
気がつくと、音楽がガンガンやかましい。
「うるさいのよ!あんたは!」
ドアを開け、後ろに停車している黒のセダンへ、タタタと歩み寄る。
右側は大きくへこんでいる。
「す、すみません!」
セダンの運転席のウインドウがサーッと下ろされた。
無愛想な太ったオバサンの顔だ。首の周辺を宝石で飾ってある。
「ちょっとアンタ・・・」
オバサンは今度はウインドウを上げ、改めてドアを開けた。
「あ〜あ・・・」
彼女はまず自分の車のボディを確認にかかった。
ミチルはオバサンの体の周囲を見回した。
「ケ!ケガは?怪我はありませんでしたか?」
「ん?せやな。たたた・・」
オバサンはわざとらしく、腰を押さえた。かなり太っており、変形性の関節症もあると思われるが。
「こ、腰ですか?」
「ああ。そういやなんか痛いわ。首もなんとなく・・・」
「びょ、病院へ!とにかく病院!でも救急車?警察?えっ?えっ?」
ミチルは震えながら、携帯を取り出した。
「今は救急車はええわ。とりあえず、警察呼ぼか」
オバサンは自分の車の凹みを見ながら呟いた。
「あ〜あ・・・ここもやられとる・・・これもや。ツッ(舌打ち)」
ミチルは110番へ連絡した。
『はい。もしもし』
「あの!車が2台ぶつかって!大変なことに!」
『うん。まあ落ち着いて。大丈夫だからねー』
「大丈夫じゃないわよ!」
『大きな事故なのかなー』
「大きいわよ!」
『そこはどちらですか?』
「え?」
見回すが、道路以外何も見当たらない。
近くを高速で車がビュウンビュウンと通り過ぎていく。
思わず指を耳に突っ込んだ。
「道路しか・・・!」
『何か、看板とか建物とか・・・』
「周囲にマンションがありますが・・・名前は」
なんとか場所の特定に四苦八苦し、警察は了承した。
『相手の方は、どんなですか?』
「首と腰が痛いと・・」
『救急車は必要ですか?』
「歩けているようです・・・」
『そうですか。なら待てますね。しばらくそこでお待ちを』
「あの!どれくらい?あたしも仕事場のほ・・」
『あのねー。しばらくそこでねー』
「どこから来るの?」
『そこでじっとしといてねー。さもないとオタク、不利になるからねー(ブツッ)』
電話は切れ、ミチルはまたオバサンに近寄った。
「すみません。私が左をよく見てなかったせいかも・・」
「わしは、ちゃんと見ていたがに」
「すみません。すみません」
どっちに分があるとかそういうことよりも、相手に症状があるのがつらかった。
オバサンは顔を合わさず、また車の傷を指でなぞる。
ミチルははっと気づき、携帯を鳴らした。
『はいこちら真田病院!本日の外来は朝9時よ・・』
「田中君?ミチルなんだけど!」
『ただいまルスにしておりますのでご用の方は・・』
「ちょっと!ふざけないでよ!」
『おおこれはミチル姫。おはようございます』
「い、今何時?」
『ちょうど8時になるとこですね。では』
「ちょっとちょっと!切らないで!」
『事務長はまだこちらには出勤は・・・』
「ではなくて!その!」
ミチルは小さく息を吸った。
「あまり大げさにしてほしくないんだけど・・・」
『おめでた?男?女?それはまだか』
「違うわよ、もう・・・実は交通事故に」
『ええっ?交通事故?婦長が交通事故?大変だ!』
「しっ!小さな声で!」
周囲でざわめきが聞こえた。
「しっ!まだここだけの話にして!」
『無事ですか?婦長さんは?』
「あたしは別に。相手の車に当たったのか、相手がぶつかったのか・・同時なのか」
ショックで思い出せない。
『相手の方は・・・』
「関節の痛みとかあるみたい。病院で診察を受けると思うけど」
『ではぜひうちへ。整形に最優先で診てまらいましょうや』
「うちかあ・・・でもなあ」
真田病院まであと数分の距離ではある。しかしミチルはイヤだった。事の大げさが拡がるのを嫌ったのだ。
「なんとか間に合うようにしようかとは思うけど・・・あたしの車、ボロボロで」
『へいへい』
「迎えに来てくれる?」
ミチルの車の左舷もかなりへこんでおり、これで出勤したら駐車場でバレてしまう。
『じゃあ、あっしが行きましょう・・・場所を』
「助かるわ。場所はね」
伝え終わり、ミチルは携帯を切った。引き続き、車を開けてエンジンを止めにかかった。
「おうわっ?」
車の中はかなりの大音量だった。よりによって「リング0」の主題歌だ。
♪しゅうまく〜へむ〜か〜う
「やめてよ!」
ミチルは思わず叫んだ。
オバサンはタバコを吸いながら、路側帯に立っている。
ミチルも少し離れて立ち、警察と田中くんの到着を待った。
また電話が鳴る。
「もしもし?」
『ああ、それでな。近所から魚もらったからそれを夕方・・』
「お父さん?もうやめてよ!」
『なんや?どうしたんや?』
「今は電話に出れるような状況じゃなくて!」
『出とるやないか?はっはおかしなヤツや。人のことチホー、チホー言うといて。自分やないか。ははあ』
「切る」
『親子の縁を?』
「ち・が・う!」
彼女は指を押し込むように携帯を切った。
オバサンは横目でミチルを睨んでいた。
彼女も負けず電話し始める。
「ああ。うん。そうなのよ。じこ。ふうん?いきなりぶつけられて。なんかうん。あちこち痛い。
アーイタタ・・・」
彼女は実にわざとらしく四肢をさすった。
すると後方彼方から、ミニバイクがドドド・・と駆けてきた。どうやら警察の到着だ。
ヘルメットを脱ぐと、もう60代くらいの爺さんのようだった。
「うわあ。結構派手にやっとりまんなあ!ええ?」
完全な他人事のように、爺さんは車を見回した。
「うわっ。ここも。ここも。ひえ〜・・・うわっ。うわっ」
ミチルには時間がなかった。
「あの」
「はいなっ?」
「状況の説明を。急ぐので」
「はいな。じゃあ聞かしてもらおか」
爺さんはやっと仕事の顔に。
するともう1台のミニバイクがまた後ろからドドド・・とこちらへやってきた。彼も警察だ。
ミチルは爺さんに説明を始めた。おばさんは離れている。
「あたしは高速道路を降りて、一般道路に合流」
「ははあ。アンタは高速道路を降りて、一般道路に合流したと!高速道路やな。高速!有料のな!」
「・・・・え。ええ。で、そのままドカンと」
「待てよ待てよ。こうそくどうろ・・・こうそくどうろ・・・はいと!いっぱんどうろから。まてよ。まてまて」
爺さんはメモが遅かった。
「そしたらはい!一般道路に入りました!入ろうとした!」
「はい。そこでドカンと」
「待ちいな。アンタは運転しとった以外何か・・」
「け・・・携帯で話してました」
「おっ?それはいかんな〜いかんいかん!」
「あ、でも携帯は切りました。そのあとの事故で」
「いやいやアンタの口ぶりでは、携帯で話しよった最中に」
「正確には、携帯を切ったあとでして」
「うん。まあホントかどうか別として」
「ホントよ!」
バカな警察相手に、ミチルは怒りを抑えるのがやっとだった。
もう1人の警官は、オバサンから事情聴取。
ミチルを何度も指差している。
「ミチルさん・・・やな。アンタから当たった覚えは?」
「左は確認していたんですけど・・・急にドカンと音がして」
「ほう!見てはいたけど音がした!」
「はい。でもあまりのショックで状況が」
「向こうの車は前から後ろまでキズありまっせ。ドカンやなくてズズズって擦ったんちゃいますの?」
「後ろから当たって、あたしはブレーキ押して、そのまま相手が前方へ・・・だったかな?えっと・・・」
よく思い出せない。
「ま。あんたはそう言うてるけどもな。相手の話が優先や。被害者の」
「被害者?」
警官は退がり、もう1人の警官とペチャクチャ話し始めた。
「ミチルさん!」
田中君が自家用車から降りてきた。スーツ姿だ。
「大丈夫で?」
彼はミチルをの周囲をクルクル回り、向かい合って立った。
「ミチルさん。詰所はもう、申し送りの時間ですね」
「午前中の出勤は無理かなあ・・・」
「相手の方、もし病院に行くのであれば。ぜひ当院へ」
「あの。うちを勧めないで!」
「なして?」
「知られたくない!」
「最近うちも患者数が少なくて、へへ」
警官が戻ってきた。
「ああ。ダンナさんでっか」
「いえ。以前ふられまして」
田中君は本音を喋った。
警官のじいさんは頭をポリポリ掻いた。
「あのねえ。ミチルさんとやら。相手の証言ではね」
「はい・・・」
「あんたが一方的にぶつかってきよったって。で、引きずられたって」
「そ、そうなんでしょうか?」
「そ、そうなんでしょうかって?わしらはただ、現場検証してるわけやからね」
「あの方を病院に」
「ああ。どこがあるかいな。この近くは・・・」
「<なにや救急病院>が」
田中くんは驚いて身を乗り出した。
「ミチルさん。そこは真珠会が乗っ取・・・」
「ダンナさんは黙っといてもらえまっか」
警察官は病院の名前をメモした。
「そうでっか。これはご親切に。じゃ、保険屋にも電話しといてえな」
「はい」
「ミチルはんには同行はして欲しくないと、被害者の相手さんからの伝言や」
「・・・・・」
ミチルはあちこちに、ペコッと頭を下げた。
「本当にすみません・・・」
「へッ」
オバサンはふてくされ、車に乗り込んだ。
強烈な日差しが、いきなりミチルの眼を鋭く貫く。
「くっ!」
♪・・・まぶしすぎて、あしたが・・・がみえ〜な〜い・・・
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