NURSESIDE A ? 自己中心
2006年2月22日ドカン!とトイレのドアを閉めた。
「はい!もしもし!はあはあ」
『今日の・・事故の者ですけど』
無愛想で冷淡な声の持ち主は他でもない、朝の事故のオバサンだった。
連絡先の交換(携帯電話番号)は行ってはいたが、早速かかってきた。
「あ!あ!どど、どうも!」
場所をわきまえる余裕も無く、ミチルは大声で、しかも深々と礼をした。
「おお、お体のほうは!びょびょ、病院は!」
「病院はここでっせ〜。へへへ」
外で誰か、チョロチョロと小をしている。声から察すると大部屋の入院患者だ。
「ボケとんちゃいまっか〜」
『病院。行ってきたけど』
「レントゲンの所見は・・?」ついこんな聞き方になった。
『なんであたしが説明をするの?』
「そそ、そうでした」
『けっこう長いことかかるみたいやな・・あたた』
「だ、大丈夫ですか?」
「だいじょうぶですかぁ〜」
小をしている男は、まだ続けているようだ。前立腺が腫大しているのか。
ならばあの患者か・・余計な疑念が頭をよぎった。
「病院で、ケータイ使ってまっせ〜」
小の男はチャックをサッと上げ、からかうように近づいてきた。
「誰か知らんけど、ケータイは使用禁止でっせ〜」
ミチルはハッと気づいた。この患者は、ペースメーカーが入っている。
しかもこちらへ近づいている。壁を隔てたとしても、よほどの距離だった。
「もしもし。あとでまた・・」
『あんな。大阪から京都まで通うとこやねん。タクシー代いるねん』
「タクシー代・・・」
『車はな。さっそく預けてんねんけど。代車もないねんな』
「タクシー代。ええええ。出します出します」
『確かやな。出してくれるわけやな』
小を終えた男は、壁のすぐ外で足踏みしていた。
「おんめえ。大阪から京都やったら、JRか阪急電車があろうがあ!」
『なんて?』
「い、いえいえ。今職場で・・・」
『あんたの職場?キチガイでもおるんかいな?』
「あとで請求をしてくだされば」
『けっこうかかるで。明日戻ってくるから、そのときに連絡して取りにいくわ』
「は、はい・・・」
「ムダなことすんねや!ボケ!」
外の男はいきなり怒り出した。
「オラオラ!出てこんかい!」
電話の切り際、ミチルは鎮圧のため足で壁をけった。
「うわっ!おわっ!」
思ったより物凄い衝撃で、外の男ははじき飛んだ。
「ってて・・・ててえええ。おいコラ!婦長に言うぞ!」
「・・・・・・」
電話を切り、ミチルは黙り込んだ。
「婦長に言うてやな。お前なんかすぐに退院させたるねん!たいいん!」
「・・・・・・」
「ええか。逃げるなよ!おいマツ!」
「ヘイ」
松木という同室の患者が廊下で捕まった。
「おいマツ!検査は呼ばれたかマツ!」
「へへ。胃カメラ前で腹がすいてますわい」
「なんか悪いもん、見つかったりしてな。へへ」
「そんなあ。富田のダンナ。驚かさんといてえな!」
婦長は思い出した。、富田。58歳で狭心症。糖尿病あり。
医師の指示を守らず(間食している疑い)血糖のコントロールがいつも悪い。つまり協力的ではない。
主治医の真吾に早めの退院を呼びかけてはいるが、本人がなかなか同意しない。
富田さんはどうやら・・・婦長の存在を忘れてくれたようだ?
「おいマツ!ここ見張っとけ!」
「ヘイ!」
富田さんにはなんとなく大部屋を仕切っており、何人かがその配下にある。こぞってタバコを吸いにいったり、
集団で無断外出したり。富田さんの影響なのか、何人か<不良化>する患者が増えていた。松木さんも
その典型だ。
マツは廊下から、トイレの入り口をのぞく。
「へえそうか。携帯電話を使ってるのか。ペースメーカー入れた患者さんいるってのに・・・」
婦長は出ようにも出ることがはばかられた。普段周囲に注意していることだ。バレたら始末書は間違いない。
何を思ったか、また携帯を取り出した。
『詰所、外線です』リーダー美野が出た。
「あ、あのあたし」
『婦長さん?え?どうして?』
「シッ!小さな声で!」
『婦長さん。富田さんが今怒鳴り込んできてて・・・入ろうとするんです』
「詰所内に・・?」
『こわいです。助けてください!』
確かに富田の大声が・・・受話器、廊下からシンクロして聞こえる。
「美野さん。まま、松木さんはカメラへ?」
『ええっ?まだ呼ばれてませんけど?』
「急いで行かせて!」
『それはまたあとで』
「今すぐ!」
『はあっ?』
「お。なんか言いよんな!」
松木が近づいてきた。入院したときは善良そうな人だったが、富田さんにどこか毒されたのか。
「おーい!もしもし!」
「・・・・・」ミチルは押し黙った。神に祈った。
<神様。事故まで起こして、これ以上私を苦しめるのですか。エロイムエッサイム・・・!>
「こらああ!」大奥オークの声が轟いた。
「ひっ?」松木は飛び上がった。
「さっさと検査、行かんかい!」
「も、もう呼ばれたんかいね?」
「さあさ!こっちこっち!」
「うわあ!」
松木さんはズルズルと引っ張られていき、やがて声は消えていった。
「ハッ・・・!」
そろ〜とドアを開け、婦長は気を取り直し・・・悠々とトイレから出てきた。
廊下に出ると、自発的に歩行している40代女性に出くわした。
「おはようございます。婦長さん」
「うう!うん!はい!」
「?」
「どど、どう?」
「どうって・・・」
「狭心症で少しずつリハビリでしたよね?」
「おかげさまで。よくしてもらいまして・・・」
「いえいえ!そんなことないですわよ!私らもまだまだで!」婦長のテンションは高かった。
「いやいや。かていてる(カテーテル)してもろうた先生に、やで」
「・・・・・」
冷静になり、婦長は勇み足で詰所に戻った。
ちょうど大奥によって、富田さんが強制送還されるところだった。
「いたた!首、つかまんといてえな!」
「だったら勝手に入るな!」大奥は首根っこをつかんで、そのまま廊下へいっしょに出た。
「婦長さん!なんとか言うてえな!」
リーダー美野が婦長の横でささやく。
「婦長さん。あの看護師さん。いいんですか・・・」
「あ、あれはやりすぎね」
「注意しなくていいんですか」
「あとでしとくわ」
オークに妙な借りができ、ここで注意するのは気まずかった。
「ところで婦長さん。どこからだったんですか?」
「い、1階。内線が全部使われてて」
「それでわざわざ外線を?」
「て、テレホンカード余ってたしね」
「ふーん・・・」
美野は首をかしげ、まあいっかと姿勢を正した。
「トイレで携帯話している人がいるらしいです。富田さんが言うには」
「そ、それはいけないわね」
「見てきましょうか?」
すると大奥が戻ってきた。
「トイレ!誰もいない!まったく人騒がせな!富田のオッサンの作り話か?」
「あとは私がしとくわ!」思わずミチルは叫んだ。
「へっ?しとく?なにを?」
「だいたいの予想はつくので」
「だ、だれよ?」
「そこはまあ。いろいろあるの」
「フ−ン。それにしても富田のオッサン。自己中心やね」
ピクンと婦長は言葉に反応した。
「じこ?」
「じこ・・自己中心やねって」オークは意味不明で戸惑った。
「ああ。そういう意味ね。はいはい!」
「あんた、どしたの?」
「はいはい。以上!」
うっとうしくなり、話をそこで打ち切った。
「美野さん。報告は終わった?」
「シロー先生がもう来ます」
「さ!ドンマイドンマイ!がんばろ!ファイト一発!オロナイン!軟膏軟膏大阪南港!」
「?」
「はっ?じゃないないオロナミン!」
まだ動揺を隠せない婦長だった。
「はい!もしもし!はあはあ」
『今日の・・事故の者ですけど』
無愛想で冷淡な声の持ち主は他でもない、朝の事故のオバサンだった。
連絡先の交換(携帯電話番号)は行ってはいたが、早速かかってきた。
「あ!あ!どど、どうも!」
場所をわきまえる余裕も無く、ミチルは大声で、しかも深々と礼をした。
「おお、お体のほうは!びょびょ、病院は!」
「病院はここでっせ〜。へへへ」
外で誰か、チョロチョロと小をしている。声から察すると大部屋の入院患者だ。
「ボケとんちゃいまっか〜」
『病院。行ってきたけど』
「レントゲンの所見は・・?」ついこんな聞き方になった。
『なんであたしが説明をするの?』
「そそ、そうでした」
『けっこう長いことかかるみたいやな・・あたた』
「だ、大丈夫ですか?」
「だいじょうぶですかぁ〜」
小をしている男は、まだ続けているようだ。前立腺が腫大しているのか。
ならばあの患者か・・余計な疑念が頭をよぎった。
「病院で、ケータイ使ってまっせ〜」
小の男はチャックをサッと上げ、からかうように近づいてきた。
「誰か知らんけど、ケータイは使用禁止でっせ〜」
ミチルはハッと気づいた。この患者は、ペースメーカーが入っている。
しかもこちらへ近づいている。壁を隔てたとしても、よほどの距離だった。
「もしもし。あとでまた・・」
『あんな。大阪から京都まで通うとこやねん。タクシー代いるねん』
「タクシー代・・・」
『車はな。さっそく預けてんねんけど。代車もないねんな』
「タクシー代。ええええ。出します出します」
『確かやな。出してくれるわけやな』
小を終えた男は、壁のすぐ外で足踏みしていた。
「おんめえ。大阪から京都やったら、JRか阪急電車があろうがあ!」
『なんて?』
「い、いえいえ。今職場で・・・」
『あんたの職場?キチガイでもおるんかいな?』
「あとで請求をしてくだされば」
『けっこうかかるで。明日戻ってくるから、そのときに連絡して取りにいくわ』
「は、はい・・・」
「ムダなことすんねや!ボケ!」
外の男はいきなり怒り出した。
「オラオラ!出てこんかい!」
電話の切り際、ミチルは鎮圧のため足で壁をけった。
「うわっ!おわっ!」
思ったより物凄い衝撃で、外の男ははじき飛んだ。
「ってて・・・ててえええ。おいコラ!婦長に言うぞ!」
「・・・・・・」
電話を切り、ミチルは黙り込んだ。
「婦長に言うてやな。お前なんかすぐに退院させたるねん!たいいん!」
「・・・・・・」
「ええか。逃げるなよ!おいマツ!」
「ヘイ」
松木という同室の患者が廊下で捕まった。
「おいマツ!検査は呼ばれたかマツ!」
「へへ。胃カメラ前で腹がすいてますわい」
「なんか悪いもん、見つかったりしてな。へへ」
「そんなあ。富田のダンナ。驚かさんといてえな!」
婦長は思い出した。、富田。58歳で狭心症。糖尿病あり。
医師の指示を守らず(間食している疑い)血糖のコントロールがいつも悪い。つまり協力的ではない。
主治医の真吾に早めの退院を呼びかけてはいるが、本人がなかなか同意しない。
富田さんはどうやら・・・婦長の存在を忘れてくれたようだ?
「おいマツ!ここ見張っとけ!」
「ヘイ!」
富田さんにはなんとなく大部屋を仕切っており、何人かがその配下にある。こぞってタバコを吸いにいったり、
集団で無断外出したり。富田さんの影響なのか、何人か<不良化>する患者が増えていた。松木さんも
その典型だ。
マツは廊下から、トイレの入り口をのぞく。
「へえそうか。携帯電話を使ってるのか。ペースメーカー入れた患者さんいるってのに・・・」
婦長は出ようにも出ることがはばかられた。普段周囲に注意していることだ。バレたら始末書は間違いない。
何を思ったか、また携帯を取り出した。
『詰所、外線です』リーダー美野が出た。
「あ、あのあたし」
『婦長さん?え?どうして?』
「シッ!小さな声で!」
『婦長さん。富田さんが今怒鳴り込んできてて・・・入ろうとするんです』
「詰所内に・・?」
『こわいです。助けてください!』
確かに富田の大声が・・・受話器、廊下からシンクロして聞こえる。
「美野さん。まま、松木さんはカメラへ?」
『ええっ?まだ呼ばれてませんけど?』
「急いで行かせて!」
『それはまたあとで』
「今すぐ!」
『はあっ?』
「お。なんか言いよんな!」
松木が近づいてきた。入院したときは善良そうな人だったが、富田さんにどこか毒されたのか。
「おーい!もしもし!」
「・・・・・」ミチルは押し黙った。神に祈った。
<神様。事故まで起こして、これ以上私を苦しめるのですか。エロイムエッサイム・・・!>
「こらああ!」大奥オークの声が轟いた。
「ひっ?」松木は飛び上がった。
「さっさと検査、行かんかい!」
「も、もう呼ばれたんかいね?」
「さあさ!こっちこっち!」
「うわあ!」
松木さんはズルズルと引っ張られていき、やがて声は消えていった。
「ハッ・・・!」
そろ〜とドアを開け、婦長は気を取り直し・・・悠々とトイレから出てきた。
廊下に出ると、自発的に歩行している40代女性に出くわした。
「おはようございます。婦長さん」
「うう!うん!はい!」
「?」
「どど、どう?」
「どうって・・・」
「狭心症で少しずつリハビリでしたよね?」
「おかげさまで。よくしてもらいまして・・・」
「いえいえ!そんなことないですわよ!私らもまだまだで!」婦長のテンションは高かった。
「いやいや。かていてる(カテーテル)してもろうた先生に、やで」
「・・・・・」
冷静になり、婦長は勇み足で詰所に戻った。
ちょうど大奥によって、富田さんが強制送還されるところだった。
「いたた!首、つかまんといてえな!」
「だったら勝手に入るな!」大奥は首根っこをつかんで、そのまま廊下へいっしょに出た。
「婦長さん!なんとか言うてえな!」
リーダー美野が婦長の横でささやく。
「婦長さん。あの看護師さん。いいんですか・・・」
「あ、あれはやりすぎね」
「注意しなくていいんですか」
「あとでしとくわ」
オークに妙な借りができ、ここで注意するのは気まずかった。
「ところで婦長さん。どこからだったんですか?」
「い、1階。内線が全部使われてて」
「それでわざわざ外線を?」
「て、テレホンカード余ってたしね」
「ふーん・・・」
美野は首をかしげ、まあいっかと姿勢を正した。
「トイレで携帯話している人がいるらしいです。富田さんが言うには」
「そ、それはいけないわね」
「見てきましょうか?」
すると大奥が戻ってきた。
「トイレ!誰もいない!まったく人騒がせな!富田のオッサンの作り話か?」
「あとは私がしとくわ!」思わずミチルは叫んだ。
「へっ?しとく?なにを?」
「だいたいの予想はつくので」
「だ、だれよ?」
「そこはまあ。いろいろあるの」
「フ−ン。それにしても富田のオッサン。自己中心やね」
ピクンと婦長は言葉に反応した。
「じこ?」
「じこ・・自己中心やねって」オークは意味不明で戸惑った。
「ああ。そういう意味ね。はいはい!」
「あんた、どしたの?」
「はいはい。以上!」
うっとうしくなり、話をそこで打ち切った。
「美野さん。報告は終わった?」
「シロー先生がもう来ます」
「さ!ドンマイドンマイ!がんばろ!ファイト一発!オロナイン!軟膏軟膏大阪南港!」
「?」
「はっ?じゃないないオロナミン!」
まだ動揺を隠せない婦長だった。
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