NURSESIDE A ? ドクター報告 ?
2006年2月22日引き続き、シローがやってきた。
「どう?」
「あ、はい」婦長は重症板を一瞥した。リーダーの美野は出遅れた。
「あ、では報告・・」
「新入院が」ミチルはリーダーの存在を忘れ、報告を始めた。
「カテがあったから、まだ眠たいよ。さて、重症の方は、DMコントロール(糖尿病の血糖調節)はうまく?」
「指示の8時間ごとデキスターでは・・血糖はいずれも200台前半。スケール指示は今後も?」
「内服を足そう」シローは指示を書き始めた。
糖尿の患者はDKA(糖尿病性ケトアシドーシス。血糖が異常に高くなり血液が酸性に傾き呼吸、ひいては命にかかわる状態)で入院、以後絶食で生食・インスリン持続注入で血糖は徐々に落ち着いてきていた。
「あ、あの・・報告はあたしが」リーダーは後ろから覗き込む。
「ほかには?」シローは指示を書き終えた。ミチルは続ける。
「大部屋の成田さん。肺癌の化学療法中の。ここ2日食欲が」
「そのようだね」
「点滴か何か・・・?」
「ステロイドの内服を出すよ」
「患者さんへの説明は」
「今からしてくる」
シローはサッと向きを変え、廊下へ走っていった。
「あら。ごめんごめん!」婦長はサッと身をひいた。
「はは。はは」リーダーは内心怒っていた。
「それにしても、ああやってレスポンス早いと、助かりますね」リーダーは少し微笑んだ。
次は僕が立っていた。ズボンが少しずり落ち気味。
「だる。おはよ。シローにズボン、脱がされた」
「先生は・・・」リーダーは重症板、報告書などを指でなぞった。
「先生は。重症部屋。不安定狭心症の患者さんですよね」
「カテーテル検査はまだ同意が得られてないんだ」
「本日、家族の方が参ります」
「来たら呼んで」
「はい」
「ACTはきちんと測定してる?」
「指示通り、3時間ごとに測定しています。夜間が・・・400以上も?」
「その3時間前が300か?・・・なんでそんなに上がるんだ?」
ACTとは凝固時間のことで、血栓を形成させないために測定される。心筋梗塞などで血管拡張を行ったあと、再発を防ぐためだ。このため点滴内にはヘパリン(抗凝固剤)が入っており、血液の状態に応じてさらにヘパリンを追加減量していく。
凝固、つまり血液が固まる時間は長めの方が血栓が出来にくい。しかしあまり長すぎると出血傾向が出てきて、胃潰瘍とかカテーテル刺入部の出血などの問題が出てくる。
なので数時間ごとに測定するのが常だ。数値の低下は血栓傾向を招くのでヘパリン(抗凝固剤)を追加し、数値の過剰な上昇は出血傾向を招くのでヘパリンを減らす。
「数値、高すぎよね。ヘパリンの追加はしてないのに」
婦長も困った。
「そそそろもう1回測定する時間だよな。早めだけど、そろそろ測定してくれよ」
僕は不安そうに指示した。
「わ、わかりました。報告します。中奥さん」
「はいよ」
そこらをブラブラしていたオークの1人がイヤイヤそうに、重症部屋へ。
ミチルも続いた。
「おはようございます!」不安定狭心症50歳のおじさん。「メジャーリーグ」の監督に似ている。
「朝から何かさわがしいな。もめ事ですかいな?婦長さん」
「いいえ(笑顔)。定期の採血を」
「次の採血はあと1時間だろ・・・」
「先生の指示ですので。すみません」
中奥が腕をバッと取り上げ、おもむろに採血した。手荒だが、オークら旧体制派は採血は慣れている。
「そっちからでっか。夜中はこっちから採りよりましたがなあ・・・」
患者は点滴の入っている腕を挙上した。
「な・・・!」
婦長は驚き、詰所に戻った。
夜勤明けはまだ看護記録を記載している。
「ちょっと。点滴側から採血したの?」
「採血したのは・・・」ナース山本は若い方を指差した。まだ1年目の新人だ。
「あ・・たしです」
「ダメじゃない。点滴側から採血したら、点滴中のヘパリンの影響で」
「いけなかったんですか」
「ACTの結果をみて、おかしいなと思わなかった?ちょっと!ねえ!マジ?」
ナース山本が横を向いた。
「今、知りました・・・まさかそっちの腕からとは」
「あのね山本さん。新人の面倒見、大変なのは分かるわ。でも重症部屋の患者さんに関しては、2重に確認していかないと」
「気をつけます。あのもう分かりましたから」
「うっ・・・」
先手を打たれた感じで、婦長は黙ってしまった。夜勤明けのストレスも分かるが・・・。というか、夜勤の人数を減らされたことがかなり腹立たしいのだろう。
僕は一部始終、聞いていた。
「おいおい。点滴側から採血しないってのは基本じゃないかよ?」
「す・み・ません。今後は目を光らせておきますので」山本は看護記録一徹で、振り向こうとしない。
「な?おい!こっち向けって!」
すると中奥が出てきた。
「ACTは170です。ヘパリン足したらええんだろ?」
「おい!みろ!低いじゃないか!」
「だって人手が・・・」山本はぶつぶつと言いながら記録を書いていく。
婦長は内心、とても傷ついてはいた。
僕の怒りは収まらない。カテで睡眠不足でもあった。
「これでおい、もし血栓が大きくなってそれこそ血管を塞いでみろよ!それこそ」
「先生。この件は私にも」婦長はペコッと頭を下げた。
「いやいや。ミチルさんは別に・・・」
「いえ。ナースの人手問題。これも関係があったと思います。これはまた早急に話し合う問題です」
「人手が減ったのは、委員会でとっくに決まった事項だろ?」
「事務側に押されてしまって、安易に同意した私の責任でもあります」
「総婦長の一声で決まったんだから、しゃあないよ。でもな。この件は違うだろ?人手がどうとかなんだとか!」
リーダーが廊下から現れた。
「ユウキ先生。呼吸がおかしい人が。一番奥の大部屋です」
「なんだよその言い方?あせろよ!」
僕はそのまま廊下へ突っ走った。ナースも何人か向かった。
「あたしも!アンビューバッグを!」婦長もバッグを抱え、走った。
婦長は走る途中、廊下で板をバンと取り上げ、救急カートを思いっきり引っ張りながら走った。うろうろしている富田さんらをジグザグで交わす。
「オラオラオラオラ!当たるわよ!」
とは言ってない。お前はジョジョか?
「どう?」
「あ、はい」婦長は重症板を一瞥した。リーダーの美野は出遅れた。
「あ、では報告・・」
「新入院が」ミチルはリーダーの存在を忘れ、報告を始めた。
「カテがあったから、まだ眠たいよ。さて、重症の方は、DMコントロール(糖尿病の血糖調節)はうまく?」
「指示の8時間ごとデキスターでは・・血糖はいずれも200台前半。スケール指示は今後も?」
「内服を足そう」シローは指示を書き始めた。
糖尿の患者はDKA(糖尿病性ケトアシドーシス。血糖が異常に高くなり血液が酸性に傾き呼吸、ひいては命にかかわる状態)で入院、以後絶食で生食・インスリン持続注入で血糖は徐々に落ち着いてきていた。
「あ、あの・・報告はあたしが」リーダーは後ろから覗き込む。
「ほかには?」シローは指示を書き終えた。ミチルは続ける。
「大部屋の成田さん。肺癌の化学療法中の。ここ2日食欲が」
「そのようだね」
「点滴か何か・・・?」
「ステロイドの内服を出すよ」
「患者さんへの説明は」
「今からしてくる」
シローはサッと向きを変え、廊下へ走っていった。
「あら。ごめんごめん!」婦長はサッと身をひいた。
「はは。はは」リーダーは内心怒っていた。
「それにしても、ああやってレスポンス早いと、助かりますね」リーダーは少し微笑んだ。
次は僕が立っていた。ズボンが少しずり落ち気味。
「だる。おはよ。シローにズボン、脱がされた」
「先生は・・・」リーダーは重症板、報告書などを指でなぞった。
「先生は。重症部屋。不安定狭心症の患者さんですよね」
「カテーテル検査はまだ同意が得られてないんだ」
「本日、家族の方が参ります」
「来たら呼んで」
「はい」
「ACTはきちんと測定してる?」
「指示通り、3時間ごとに測定しています。夜間が・・・400以上も?」
「その3時間前が300か?・・・なんでそんなに上がるんだ?」
ACTとは凝固時間のことで、血栓を形成させないために測定される。心筋梗塞などで血管拡張を行ったあと、再発を防ぐためだ。このため点滴内にはヘパリン(抗凝固剤)が入っており、血液の状態に応じてさらにヘパリンを追加減量していく。
凝固、つまり血液が固まる時間は長めの方が血栓が出来にくい。しかしあまり長すぎると出血傾向が出てきて、胃潰瘍とかカテーテル刺入部の出血などの問題が出てくる。
なので数時間ごとに測定するのが常だ。数値の低下は血栓傾向を招くのでヘパリン(抗凝固剤)を追加し、数値の過剰な上昇は出血傾向を招くのでヘパリンを減らす。
「数値、高すぎよね。ヘパリンの追加はしてないのに」
婦長も困った。
「そそそろもう1回測定する時間だよな。早めだけど、そろそろ測定してくれよ」
僕は不安そうに指示した。
「わ、わかりました。報告します。中奥さん」
「はいよ」
そこらをブラブラしていたオークの1人がイヤイヤそうに、重症部屋へ。
ミチルも続いた。
「おはようございます!」不安定狭心症50歳のおじさん。「メジャーリーグ」の監督に似ている。
「朝から何かさわがしいな。もめ事ですかいな?婦長さん」
「いいえ(笑顔)。定期の採血を」
「次の採血はあと1時間だろ・・・」
「先生の指示ですので。すみません」
中奥が腕をバッと取り上げ、おもむろに採血した。手荒だが、オークら旧体制派は採血は慣れている。
「そっちからでっか。夜中はこっちから採りよりましたがなあ・・・」
患者は点滴の入っている腕を挙上した。
「な・・・!」
婦長は驚き、詰所に戻った。
夜勤明けはまだ看護記録を記載している。
「ちょっと。点滴側から採血したの?」
「採血したのは・・・」ナース山本は若い方を指差した。まだ1年目の新人だ。
「あ・・たしです」
「ダメじゃない。点滴側から採血したら、点滴中のヘパリンの影響で」
「いけなかったんですか」
「ACTの結果をみて、おかしいなと思わなかった?ちょっと!ねえ!マジ?」
ナース山本が横を向いた。
「今、知りました・・・まさかそっちの腕からとは」
「あのね山本さん。新人の面倒見、大変なのは分かるわ。でも重症部屋の患者さんに関しては、2重に確認していかないと」
「気をつけます。あのもう分かりましたから」
「うっ・・・」
先手を打たれた感じで、婦長は黙ってしまった。夜勤明けのストレスも分かるが・・・。というか、夜勤の人数を減らされたことがかなり腹立たしいのだろう。
僕は一部始終、聞いていた。
「おいおい。点滴側から採血しないってのは基本じゃないかよ?」
「す・み・ません。今後は目を光らせておきますので」山本は看護記録一徹で、振り向こうとしない。
「な?おい!こっち向けって!」
すると中奥が出てきた。
「ACTは170です。ヘパリン足したらええんだろ?」
「おい!みろ!低いじゃないか!」
「だって人手が・・・」山本はぶつぶつと言いながら記録を書いていく。
婦長は内心、とても傷ついてはいた。
僕の怒りは収まらない。カテで睡眠不足でもあった。
「これでおい、もし血栓が大きくなってそれこそ血管を塞いでみろよ!それこそ」
「先生。この件は私にも」婦長はペコッと頭を下げた。
「いやいや。ミチルさんは別に・・・」
「いえ。ナースの人手問題。これも関係があったと思います。これはまた早急に話し合う問題です」
「人手が減ったのは、委員会でとっくに決まった事項だろ?」
「事務側に押されてしまって、安易に同意した私の責任でもあります」
「総婦長の一声で決まったんだから、しゃあないよ。でもな。この件は違うだろ?人手がどうとかなんだとか!」
リーダーが廊下から現れた。
「ユウキ先生。呼吸がおかしい人が。一番奥の大部屋です」
「なんだよその言い方?あせろよ!」
僕はそのまま廊下へ突っ走った。ナースも何人か向かった。
「あたしも!アンビューバッグを!」婦長もバッグを抱え、走った。
婦長は走る途中、廊下で板をバンと取り上げ、救急カートを思いっきり引っ張りながら走った。うろうろしている富田さんらをジグザグで交わす。
「オラオラオラオラ!当たるわよ!」
とは言ってない。お前はジョジョか?
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