NURSESIDE A ? 冷感・ヤバ勘・即挿管!
2006年3月3日詰所に戻ると、リーダーがあたふたしていた。
「美野さん。どうかした?」
「転科が・・」
「今になって?」
時計はもう3時半だ。日勤がラストスパートに入るというこの時間。
「今電話がありまして」
「どこから?」
「療養病棟です」
「また高熱でもほったらかしにしたの?え?」
「ふ、婦長さん。あたしに言われても・・・!」
すると早くもガラガラとベッドが運ばれてきた。点滴もつってない。
オーク軍団(50代)が2人で運んできた。
婦長は仁王立ちした。
「すみませんが。まだベッドの用意すらできてませんよ!」
「わ、わしらは・・」
オークの1人が呟く。
「わしらは婦長さんに言われるがままに、患者さんを運んできただけだべ」
「ふつうは誰かがまず直接来て、申し送ってベッドの用意をしてから・・・!」
「ま、とにかくお願いしますだ」
オークは簡単なサマリーを渡した。
『高熱で頻呼吸。酸素飽和度不明』
「何ですかこれ!」
「だ、だってミチル婦長さん。こっちは療養病棟ですだ。リハビリ中心の患者さんしかいねえべ」
「でも、せめてバイタルを測定するとか・・・」
「主治医のユウキ先生が、転科させといてって連絡で」
「いつ?」
「今さっきです。どうやら外に出ているようだべ」
「んだ!んだ!」もう1人のオークが頷く。
婦長は患者の入院ベッド一覧表を見渡した。
「残念ながら・・・当病棟は満床で・・・」
「いや、ちがうべ」
「えっ?」
「そっちがよくやる手段だべ。実は2人ほど退院があったと聞いてるべ!」
療養オークらは退院の患者の名前も控えていた。
「この人と、この人だべ」
オークは名札を指差し、一覧表から外した。
やられた。婦長としては周囲のことも考慮し、もうこれ以上の受け入れはしたくなかった。
だがしかし。患者には迷惑だ。ここが断れば軽症病棟など監視の甘い病棟になってしまう。
婦長は周囲に小刻みに礼をした。
「みなさん、ごめんなさいね。入院が1人」
「(一同)ええ〜〜〜〜!」
「主治医は会のために外出中だから、他の先生に診てもらって指示を仰いでください」
リーダーは婦長を指差した。
「婦長さんが先生に連絡?いっ?」
「あんたがするのよ!」
また詰所が静まった。さきほどの後遺症なのか、小奥の頬だけがピクピクと痙攣している。
主任は患者の指先で酸素飽和度を測定。
「おいおい。冷たくて測れねえぞ!毛布はかけとったんか?ん?」
療養のオークたちは、すでに引き上げていた。
手足が冷たく、酸素飽和度は不明。呼吸は浅く頻回だ。
「血圧はひっくいな。80かな。下は分からん!モニターつけるか!」
「2人部屋へ移しましょう」
日勤でかろうじて手の空いている者が手伝い、移動。オークらはマイペースで記録に没頭。
廊下をザッキーが走ってきた。
「そこ?そこか?」
「はーい!」婦長は手招きした。
ザッキーは不機嫌そうに部屋を覗いた。
「ああ、今ベッド移してるのかい。カルテは?」
「これ」
少し冷静だが不安定な婦長は、療養病棟のカルテを差し出した。
数ヶ月入院していた高齢男性。脳出血後遺症のリハビリ中だった。経口摂取はできていたが・・・。
「熱は、今日の昼にいきなり39度かよ?」
「その直後にドクターへの連絡は・・」
「してないようだな。さっきまでほったらかしか!」
「・・・・・」
「まったく。重症感というものがないのかよ!」
準備ができ、ザッキーは診察にかかった。
「レントゲンとか。採血もしてないんだよな?婦長!」
「来たばっかりです。向こうは療養病棟なので検査は全く」
「だろな。困ったな・・・」
ザッキーは何か考えていた。
「婦長さん。すまないが、シロー先輩にあと、頼んでおいて!」
「え?ザッキー先生は今日5時まででは?」
「実は、僕も会に出ようと思うんだ!」
ミチルの頭に、さきほどの広告がよぎった。
まさかこやつも・・・
「そうですか。ではお願いしときます」
婦長の背後、主任がシローを呼びに走る。
「先生先生!」
患者の真横で観察していた澪が叫んだ。引き返そうとしたザッキーが振り返った。
「ん?呼吸止まってる呼吸止まってる!」
反射的にアンビューバッグをつかみ、患者の頭側へ。
「挿管準備挿管準備!」
「他のドクターも呼んで!」婦長は脈をつかんだ。モニターは徐脈だ。
「なんだよ?酸素はいってなかったのかよ?」ザッキーは慌てた。
ミチルは喉頭鏡をザッキーに投げた。ザッキーはアンビューしながらモニターを見る。
「アポったのか、高カリなのか、分からないが・・・おい!なんで酸素の%が出ないんだ!」
「四肢の冷感が強くて!」澪が叫ぶ。
「ユウキのヤツ!ちゃんと見ろよな!」
ザッキーは挿管チューブをゆっくり挿入した。
シローが駆けつけ、点滴など手伝う。4時になり、真吾は夜診外来を開始中だ。
ザッキーは妙に慌てている。
「バイトブロックくれよ!バイトブロック!レントゲン呼べ!家族にはなんて?」
「落ち着いて先生!」婦長にツノがまた生えた。
「こんな時間に!」
「なによ!そんなに大切な会合なの?」
「2人ともうるさい!」シローの声が部屋中に響き渡った。
「医長に言うぞ!」
子供みたいな警告だが、一番効果のあるものだった。
「ザッキー。もう行ったら?」シローは冷ややかに道を開けた。
「え、ええ。すんません・・・」
ザッキーはミチルをニアミスするように廊下へ走り出た。
処置が終わり、婦長はいったん廊下へ出た。
主任が耳打ち。
「ミチル。どうやらもう、アンタしかいないようやね」
「あたししか?」
「夜の埋め合わせ!準夜・深夜帯のオールナイト!」
「何よ他人事みたいに!」
「だ、だって・・・」
主任は数歩下がった。
「だ。だって他人事やん?」
婦長のツノが、ポロッと抜け落ちたようだった。
「美野さん。どうかした?」
「転科が・・」
「今になって?」
時計はもう3時半だ。日勤がラストスパートに入るというこの時間。
「今電話がありまして」
「どこから?」
「療養病棟です」
「また高熱でもほったらかしにしたの?え?」
「ふ、婦長さん。あたしに言われても・・・!」
すると早くもガラガラとベッドが運ばれてきた。点滴もつってない。
オーク軍団(50代)が2人で運んできた。
婦長は仁王立ちした。
「すみませんが。まだベッドの用意すらできてませんよ!」
「わ、わしらは・・」
オークの1人が呟く。
「わしらは婦長さんに言われるがままに、患者さんを運んできただけだべ」
「ふつうは誰かがまず直接来て、申し送ってベッドの用意をしてから・・・!」
「ま、とにかくお願いしますだ」
オークは簡単なサマリーを渡した。
『高熱で頻呼吸。酸素飽和度不明』
「何ですかこれ!」
「だ、だってミチル婦長さん。こっちは療養病棟ですだ。リハビリ中心の患者さんしかいねえべ」
「でも、せめてバイタルを測定するとか・・・」
「主治医のユウキ先生が、転科させといてって連絡で」
「いつ?」
「今さっきです。どうやら外に出ているようだべ」
「んだ!んだ!」もう1人のオークが頷く。
婦長は患者の入院ベッド一覧表を見渡した。
「残念ながら・・・当病棟は満床で・・・」
「いや、ちがうべ」
「えっ?」
「そっちがよくやる手段だべ。実は2人ほど退院があったと聞いてるべ!」
療養オークらは退院の患者の名前も控えていた。
「この人と、この人だべ」
オークは名札を指差し、一覧表から外した。
やられた。婦長としては周囲のことも考慮し、もうこれ以上の受け入れはしたくなかった。
だがしかし。患者には迷惑だ。ここが断れば軽症病棟など監視の甘い病棟になってしまう。
婦長は周囲に小刻みに礼をした。
「みなさん、ごめんなさいね。入院が1人」
「(一同)ええ〜〜〜〜!」
「主治医は会のために外出中だから、他の先生に診てもらって指示を仰いでください」
リーダーは婦長を指差した。
「婦長さんが先生に連絡?いっ?」
「あんたがするのよ!」
また詰所が静まった。さきほどの後遺症なのか、小奥の頬だけがピクピクと痙攣している。
主任は患者の指先で酸素飽和度を測定。
「おいおい。冷たくて測れねえぞ!毛布はかけとったんか?ん?」
療養のオークたちは、すでに引き上げていた。
手足が冷たく、酸素飽和度は不明。呼吸は浅く頻回だ。
「血圧はひっくいな。80かな。下は分からん!モニターつけるか!」
「2人部屋へ移しましょう」
日勤でかろうじて手の空いている者が手伝い、移動。オークらはマイペースで記録に没頭。
廊下をザッキーが走ってきた。
「そこ?そこか?」
「はーい!」婦長は手招きした。
ザッキーは不機嫌そうに部屋を覗いた。
「ああ、今ベッド移してるのかい。カルテは?」
「これ」
少し冷静だが不安定な婦長は、療養病棟のカルテを差し出した。
数ヶ月入院していた高齢男性。脳出血後遺症のリハビリ中だった。経口摂取はできていたが・・・。
「熱は、今日の昼にいきなり39度かよ?」
「その直後にドクターへの連絡は・・」
「してないようだな。さっきまでほったらかしか!」
「・・・・・」
「まったく。重症感というものがないのかよ!」
準備ができ、ザッキーは診察にかかった。
「レントゲンとか。採血もしてないんだよな?婦長!」
「来たばっかりです。向こうは療養病棟なので検査は全く」
「だろな。困ったな・・・」
ザッキーは何か考えていた。
「婦長さん。すまないが、シロー先輩にあと、頼んでおいて!」
「え?ザッキー先生は今日5時まででは?」
「実は、僕も会に出ようと思うんだ!」
ミチルの頭に、さきほどの広告がよぎった。
まさかこやつも・・・
「そうですか。ではお願いしときます」
婦長の背後、主任がシローを呼びに走る。
「先生先生!」
患者の真横で観察していた澪が叫んだ。引き返そうとしたザッキーが振り返った。
「ん?呼吸止まってる呼吸止まってる!」
反射的にアンビューバッグをつかみ、患者の頭側へ。
「挿管準備挿管準備!」
「他のドクターも呼んで!」婦長は脈をつかんだ。モニターは徐脈だ。
「なんだよ?酸素はいってなかったのかよ?」ザッキーは慌てた。
ミチルは喉頭鏡をザッキーに投げた。ザッキーはアンビューしながらモニターを見る。
「アポったのか、高カリなのか、分からないが・・・おい!なんで酸素の%が出ないんだ!」
「四肢の冷感が強くて!」澪が叫ぶ。
「ユウキのヤツ!ちゃんと見ろよな!」
ザッキーは挿管チューブをゆっくり挿入した。
シローが駆けつけ、点滴など手伝う。4時になり、真吾は夜診外来を開始中だ。
ザッキーは妙に慌てている。
「バイトブロックくれよ!バイトブロック!レントゲン呼べ!家族にはなんて?」
「落ち着いて先生!」婦長にツノがまた生えた。
「こんな時間に!」
「なによ!そんなに大切な会合なの?」
「2人ともうるさい!」シローの声が部屋中に響き渡った。
「医長に言うぞ!」
子供みたいな警告だが、一番効果のあるものだった。
「ザッキー。もう行ったら?」シローは冷ややかに道を開けた。
「え、ええ。すんません・・・」
ザッキーはミチルをニアミスするように廊下へ走り出た。
処置が終わり、婦長はいったん廊下へ出た。
主任が耳打ち。
「ミチル。どうやらもう、アンタしかいないようやね」
「あたししか?」
「夜の埋め合わせ!準夜・深夜帯のオールナイト!」
「何よ他人事みたいに!」
「だ、だって・・・」
主任は数歩下がった。
「だ。だって他人事やん?」
婦長のツノが、ポロッと抜け落ちたようだった。
コメント