NURSESIDE A ? 鬼婦長
2006年3月13日「よろしくお願いします。重症部屋6床満床。入院患者40名。呼吸不全が深夜に2名入院。退院2名、転棟1名・・です」
リーダーがパッと前を見ると、婦長とオバサンナースの中野がうつむいている。この2人の間には、どこか火花を感じた。
「え・・・AMI(急性心筋梗塞)で緊急カテしました47歳男性。酒巻さん。右冠動脈の血栓で、stent挿入。以後ST低下持続認めますが症状はありません」
「どれだけ下がった?」婦長は目頭を押さえた。
「どれだけ・・・」
「何ミリ下がったの?って聞いとるんやって」
気まずい沈黙。誰も助けはしない。
「朝の心電図と比べて・・・1ミリ・・かな」
「かな、はないやろ。2ミリ下がっとろうが」
「は、はい2ミリです」
「ホンマか?」婦長はリーダーを覗き込んだ。
「え・・・ええ」
「今のは適当にカマかけたんや。ホンマはこれやろ!」婦長は隠し持っていたモニター画面のコピーを出した。
「適当にもの言うたらアカンで。これが朝の分!昼の分!さっきの分!」
「あ、ああ・・・!」
婦長は細切れになったモニター波形の紙をテーブルに並べた。ああいう忙しいときでも、臨時で波形をプリントしていた。
「昼でもみられていた1ミリのST低下は、さっきの分では正常になっとろうが!」
「は、はい・・・そうです」
「そうですやないっ!」
「はいっで、でで・・・3時に酸素中止後もは飽和度100%、リハビリ徐々にアップしております」
「不穏の指示はどうなった?」婦長は目を閉じている。
「セレネースが・・・効かなかったっていう場合の?えっ?」
「リーダーやろ?」
「は、はい」リーダーは顔面蒼白に記録をめくった。
「真吾先生の指示で、今度暴れた場合はセルシンの使用をと」
「で?1日何回まで?どれくらい開けて?」
「あっ・・・」
「血圧はどれくらいまでなら使用可?」
「うっ・・・」
「ちゃんと聞けいや、ちゃんと・・・あーあ」
婦長はトントンと足を踏み鳴らした。
「こんな後輩持つと、ホンマ大変やわ・・温泉旅行とか行っとる場合か?なあ」
リーダーは睨まれたまま動けず。
「またドクターに聞かんといかんやんか。あーめんどくさ」
みな額に汗が流れるのが分かった。
「はい。続けいや」
「は、はい。74歳男性。肥大型心筋症」
「誰や。もうええんちゃうって言うた奴らは」婦長の言葉にまたオークらはビクつく。
「・・・入院時検査では閉塞型で、リスモダンの追加となっています。」
「不整脈が出たんか?」
「だと思うんですが・・・」
「ホンマか?適当に言うたらアカンで!」
「・・・・・・・・」
「さっき、言うたばかりやろ!」
リーダーは完全に縮こまってしまった。
「なんやあ。これぐらいのことでメソメソして!」
リーダーに続き、数人が涙目になった。
「泣いてすむ問題ちゃうで。あんたらは泣いて済むかもしれんけどな、患者さんは泣いても取り返しつかんのや!な!」
促された中野は、ボケッと上を向いた。
「ほえ?」
「甘やかしすぎなんとちがう?」
「だれが?」
「あたしらが。ちょっと甘やかしたら図に乗ってくるやろ?」
「あんたが?図に乗る?」
「ダメだこりゃ・・・も、いい!」
婦長はリーダーの記録一式をすべて奪い取った。
「いつまでも守ってくれると思ったら大きな間違いやで。さて、と・・・波多野じい肺炎は改善してその後も発熱あっても7度前半退院希望、呼吸リハビリ中」
ほぼ息継ぎなしも申し送りが始まった。
「ASRの患者さんはファイティングして主治医に報告、鎮静剤指示ありしかし気道内圧高め。チューブ狭窄はないもよう」
「ほげ?」中野は速過ぎてついていけなかった。
「人手が少ないとか言い訳やで。んで助けてもらった巣鴨さんは外出から・・戻ってないそうやな!」
おそらくパチンコだろうが・・・外出するたびに詰所に迷惑かける傾向にあった。
「明日の朝、強制で退院させるから」
「婦長さん。あたしが厳しく指導してなかったので・・」リーダーは懇願した。
「なんなら今日でもええ」
「あれこれ気づいてくださる人なので・・」
「あれとこれとはベツやベツ!」
婦長はその患者の名札の駒を半分横にずらした。
「連合弁膜症の方。夜間38℃。エコーでベジ(遊贅=疣=イボ)。IE(感染性心内膜炎)ということで抗生剤IVHルートから」
「ほげ?れんごう・・・」
「高熱時の指示ないやないかもらっとけよな次!2日前にDCしたザッキー患者パフ(発作性心房細動)はサイナス。不整脈なしモニター除去運動負荷問題なく退院」
「ぱふ?」
「これもザッキー患者カテ熱カテ−テル抜去後解熱、末梢入らずザッキーIVH試みるがヘタで入らず今笑ったの誰!」
含み笑いがバレた・・・のは、カウンターで座っている真吾だった。
「くっく・・・ああ、ごめんごめん。婦長さんて怒ると怖いね」
「だったら怒られんようにしいや!」婦長は吐き捨てるように怒鳴った。
「噂には聞いてたがなあ・・・へっへ」
「ちょっと待ちいや!くそっ!」
真吾は恐れつつ、医局へと戻っていった。
「食道エコー神野さんこれもザッキー。左心房に血栓像ありワーファリン開始3日後トロンボ(トロンボテスト)指示主治医説明してない明日朝一番で説明さす」
「ほげ?ザッキー先生まだおるで。さっき1階で若いナースらと」
「じゃあアンタの仕事な」
しかし中野はぼける。
「なにが?最近耳が遠くて・・」
「言うたで次富田58歳で狭心症。ペースメーカー植え込み後でDM(糖尿病)あり。血糖コントロール不良内服コンプライアンスプアー」
「プアー?」中野がほざく。婦長は無視。
「詰所に乱入教育的指導セクハラに注意特に点滴時」
「セクハラ?」
「オバハン関係なし次松木さん本日胃カメラ施行所見は逆食(逆流性食道炎)と慢性胃炎ピロリ鏡検ポジティブ次シローの患者でDKAやっとBS(血糖)下がってスケール指示でそろそろ食事」
あまりの速さに、誰もがついていけなくなってきた。
「大部屋成田さん肺癌ケモ食欲不振ステロイド追加副作用注意特に血圧血糖易感染!」
「いかんせん?ずずぅ」中野はよだれをぬぐった。
「ユウキの不安定狭心症カテ同意なしACT測定中夜勤古永点滴側の手採血厳重注意教育的指導明日にはヘパリン止め予定」
「ほげ?何言うてんのやろ・・・」
「ユウキ逆ギレ注意ありだったらドクターお前がせえ!」
婦長は拳をテーブルにドカンとたたきつけた。
「はあ、はあ・・・1人急変COPD痰で窒息一時的。アンビュー要すもすぐ改善喘鳴あるが主治医様子見だけ指示を待てども指示はなし」
「はあほいほい」
「はあ、はあ」
主任が固かった口を、ようやく開いた。
「ミ、ミチル・・・・ちょっとアンタ、落ち着けいや」
「なに!なに!」
「今日はなんか、おかしいで」
「でも!アンタはそれでも他人事なんやろ!」
「ううっ・・・?」
「言うたやろ!さっき言うたやろ!他人事って言うたやろ!」婦長は主任を指差した。
「ゴメン。あたし、もう帰るわ」主任はパッと席を外れた。
「どこ?どこへ行くのよ?」
「もうついていけへん」
「真珠会に行ってもな!地獄が待っとるだけやで地獄が!」
「どかんかい!」
遮る婦長をどかし、主任は奥に行き、服を着替え始めた。
「夜勤オールナイト!せいぜい頑張りな!」主任は袖を引っ張りつつ吐き捨てた。
「あんたに言われたくないわ!」
そう答えながら、ジロッと中奥を指差した。
「あんたや!あんたが池田のメガネを吹っ飛ばしたんや!」
「う・・おお」
中奥はジリジリと追い詰められた。
「そんで、誰が夜勤やるって?アンタがせないかんやろ?ふつうは!」
「そ、それは・・・」
「でもせんのやろ?訴えるで!」
「ゆ、夕方は家族の世話があって・・・」
「フン。じゃ、夜中は出てこれるわけやな?」
「・・・・・」
「絶対に出てきてよ。あたしは待っとるで」
「ぃ・・・」
「返事は!」
「はい・・・」
残りのオークらも完全にビビっていた。
婦長は看護記録をトントン、とテーブルに打ち付けた。
「も、ええわ。みんな帰り。中奥は深夜のヘルプ、お願いな!」
みな解散。婦長と中野を残し、残りは着替え、荷物取りに向かった。
中奥にすれ違いざま、ミチルは聞いた。
「事故のこと、喋ったんか?」
「え、ええ・・・ちょっと」
「ちょっとやないやろ。面白おかしく、しゃべったんか?」
「面白おかしくなんて・・」
「笑っているのも今のうちやで」
「・・・・・・・」
「深夜、楽しみにしとるから」
「しし、失礼しまーす・・」澪がそそくさと出て行こうとした。
「あんたもモニターの波形ばっか集めず、人間として患者を見いや!」
「は、はい・・・」
「救急の甘い思い出に浸っとるヒマはないで」
「・・・・・・」
「じゃ。深夜、楽しみにしとるで!」
「ふ、ふちょうさん・・・」
「ん?」
「深夜は私と中奥さんとでなんとかなりますから・・・そ、その婦長さんはどうかお休みになって」
「患者のカテの邪魔して、ようそんな事言えるんやな?」
「えっ?」
「ユウキの言うとおりやで。何かあったら自分のせいやと思いいや!」
「・・・・・・」
次、大奥が出て行く。
「オ・・お疲れさん」
「あんたが早食いさせてた患者。熱が出とるで」
「・・・・・・」
「呼吸不全になったら電話するから」
「・・・・・・」
大奥は無言で去った。
ミチルがモニターを覗いたとたん、ポケットのペンが落ちた。
小奥が拾おうとしたが・・・。
「あんたのその汚い手で、さわらんといて!」
「あぅ・・・」頬がプルプル振動する。
どうやらワザとしかけたものだった。
リーダーがパッと前を見ると、婦長とオバサンナースの中野がうつむいている。この2人の間には、どこか火花を感じた。
「え・・・AMI(急性心筋梗塞)で緊急カテしました47歳男性。酒巻さん。右冠動脈の血栓で、stent挿入。以後ST低下持続認めますが症状はありません」
「どれだけ下がった?」婦長は目頭を押さえた。
「どれだけ・・・」
「何ミリ下がったの?って聞いとるんやって」
気まずい沈黙。誰も助けはしない。
「朝の心電図と比べて・・・1ミリ・・かな」
「かな、はないやろ。2ミリ下がっとろうが」
「は、はい2ミリです」
「ホンマか?」婦長はリーダーを覗き込んだ。
「え・・・ええ」
「今のは適当にカマかけたんや。ホンマはこれやろ!」婦長は隠し持っていたモニター画面のコピーを出した。
「適当にもの言うたらアカンで。これが朝の分!昼の分!さっきの分!」
「あ、ああ・・・!」
婦長は細切れになったモニター波形の紙をテーブルに並べた。ああいう忙しいときでも、臨時で波形をプリントしていた。
「昼でもみられていた1ミリのST低下は、さっきの分では正常になっとろうが!」
「は、はい・・・そうです」
「そうですやないっ!」
「はいっで、でで・・・3時に酸素中止後もは飽和度100%、リハビリ徐々にアップしております」
「不穏の指示はどうなった?」婦長は目を閉じている。
「セレネースが・・・効かなかったっていう場合の?えっ?」
「リーダーやろ?」
「は、はい」リーダーは顔面蒼白に記録をめくった。
「真吾先生の指示で、今度暴れた場合はセルシンの使用をと」
「で?1日何回まで?どれくらい開けて?」
「あっ・・・」
「血圧はどれくらいまでなら使用可?」
「うっ・・・」
「ちゃんと聞けいや、ちゃんと・・・あーあ」
婦長はトントンと足を踏み鳴らした。
「こんな後輩持つと、ホンマ大変やわ・・温泉旅行とか行っとる場合か?なあ」
リーダーは睨まれたまま動けず。
「またドクターに聞かんといかんやんか。あーめんどくさ」
みな額に汗が流れるのが分かった。
「はい。続けいや」
「は、はい。74歳男性。肥大型心筋症」
「誰や。もうええんちゃうって言うた奴らは」婦長の言葉にまたオークらはビクつく。
「・・・入院時検査では閉塞型で、リスモダンの追加となっています。」
「不整脈が出たんか?」
「だと思うんですが・・・」
「ホンマか?適当に言うたらアカンで!」
「・・・・・・・・」
「さっき、言うたばかりやろ!」
リーダーは完全に縮こまってしまった。
「なんやあ。これぐらいのことでメソメソして!」
リーダーに続き、数人が涙目になった。
「泣いてすむ問題ちゃうで。あんたらは泣いて済むかもしれんけどな、患者さんは泣いても取り返しつかんのや!な!」
促された中野は、ボケッと上を向いた。
「ほえ?」
「甘やかしすぎなんとちがう?」
「だれが?」
「あたしらが。ちょっと甘やかしたら図に乗ってくるやろ?」
「あんたが?図に乗る?」
「ダメだこりゃ・・・も、いい!」
婦長はリーダーの記録一式をすべて奪い取った。
「いつまでも守ってくれると思ったら大きな間違いやで。さて、と・・・波多野じい肺炎は改善してその後も発熱あっても7度前半退院希望、呼吸リハビリ中」
ほぼ息継ぎなしも申し送りが始まった。
「ASRの患者さんはファイティングして主治医に報告、鎮静剤指示ありしかし気道内圧高め。チューブ狭窄はないもよう」
「ほげ?」中野は速過ぎてついていけなかった。
「人手が少ないとか言い訳やで。んで助けてもらった巣鴨さんは外出から・・戻ってないそうやな!」
おそらくパチンコだろうが・・・外出するたびに詰所に迷惑かける傾向にあった。
「明日の朝、強制で退院させるから」
「婦長さん。あたしが厳しく指導してなかったので・・」リーダーは懇願した。
「なんなら今日でもええ」
「あれこれ気づいてくださる人なので・・」
「あれとこれとはベツやベツ!」
婦長はその患者の名札の駒を半分横にずらした。
「連合弁膜症の方。夜間38℃。エコーでベジ(遊贅=疣=イボ)。IE(感染性心内膜炎)ということで抗生剤IVHルートから」
「ほげ?れんごう・・・」
「高熱時の指示ないやないかもらっとけよな次!2日前にDCしたザッキー患者パフ(発作性心房細動)はサイナス。不整脈なしモニター除去運動負荷問題なく退院」
「ぱふ?」
「これもザッキー患者カテ熱カテ−テル抜去後解熱、末梢入らずザッキーIVH試みるがヘタで入らず今笑ったの誰!」
含み笑いがバレた・・・のは、カウンターで座っている真吾だった。
「くっく・・・ああ、ごめんごめん。婦長さんて怒ると怖いね」
「だったら怒られんようにしいや!」婦長は吐き捨てるように怒鳴った。
「噂には聞いてたがなあ・・・へっへ」
「ちょっと待ちいや!くそっ!」
真吾は恐れつつ、医局へと戻っていった。
「食道エコー神野さんこれもザッキー。左心房に血栓像ありワーファリン開始3日後トロンボ(トロンボテスト)指示主治医説明してない明日朝一番で説明さす」
「ほげ?ザッキー先生まだおるで。さっき1階で若いナースらと」
「じゃあアンタの仕事な」
しかし中野はぼける。
「なにが?最近耳が遠くて・・」
「言うたで次富田58歳で狭心症。ペースメーカー植え込み後でDM(糖尿病)あり。血糖コントロール不良内服コンプライアンスプアー」
「プアー?」中野がほざく。婦長は無視。
「詰所に乱入教育的指導セクハラに注意特に点滴時」
「セクハラ?」
「オバハン関係なし次松木さん本日胃カメラ施行所見は逆食(逆流性食道炎)と慢性胃炎ピロリ鏡検ポジティブ次シローの患者でDKAやっとBS(血糖)下がってスケール指示でそろそろ食事」
あまりの速さに、誰もがついていけなくなってきた。
「大部屋成田さん肺癌ケモ食欲不振ステロイド追加副作用注意特に血圧血糖易感染!」
「いかんせん?ずずぅ」中野はよだれをぬぐった。
「ユウキの不安定狭心症カテ同意なしACT測定中夜勤古永点滴側の手採血厳重注意教育的指導明日にはヘパリン止め予定」
「ほげ?何言うてんのやろ・・・」
「ユウキ逆ギレ注意ありだったらドクターお前がせえ!」
婦長は拳をテーブルにドカンとたたきつけた。
「はあ、はあ・・・1人急変COPD痰で窒息一時的。アンビュー要すもすぐ改善喘鳴あるが主治医様子見だけ指示を待てども指示はなし」
「はあほいほい」
「はあ、はあ」
主任が固かった口を、ようやく開いた。
「ミ、ミチル・・・・ちょっとアンタ、落ち着けいや」
「なに!なに!」
「今日はなんか、おかしいで」
「でも!アンタはそれでも他人事なんやろ!」
「ううっ・・・?」
「言うたやろ!さっき言うたやろ!他人事って言うたやろ!」婦長は主任を指差した。
「ゴメン。あたし、もう帰るわ」主任はパッと席を外れた。
「どこ?どこへ行くのよ?」
「もうついていけへん」
「真珠会に行ってもな!地獄が待っとるだけやで地獄が!」
「どかんかい!」
遮る婦長をどかし、主任は奥に行き、服を着替え始めた。
「夜勤オールナイト!せいぜい頑張りな!」主任は袖を引っ張りつつ吐き捨てた。
「あんたに言われたくないわ!」
そう答えながら、ジロッと中奥を指差した。
「あんたや!あんたが池田のメガネを吹っ飛ばしたんや!」
「う・・おお」
中奥はジリジリと追い詰められた。
「そんで、誰が夜勤やるって?アンタがせないかんやろ?ふつうは!」
「そ、それは・・・」
「でもせんのやろ?訴えるで!」
「ゆ、夕方は家族の世話があって・・・」
「フン。じゃ、夜中は出てこれるわけやな?」
「・・・・・」
「絶対に出てきてよ。あたしは待っとるで」
「ぃ・・・」
「返事は!」
「はい・・・」
残りのオークらも完全にビビっていた。
婦長は看護記録をトントン、とテーブルに打ち付けた。
「も、ええわ。みんな帰り。中奥は深夜のヘルプ、お願いな!」
みな解散。婦長と中野を残し、残りは着替え、荷物取りに向かった。
中奥にすれ違いざま、ミチルは聞いた。
「事故のこと、喋ったんか?」
「え、ええ・・・ちょっと」
「ちょっとやないやろ。面白おかしく、しゃべったんか?」
「面白おかしくなんて・・」
「笑っているのも今のうちやで」
「・・・・・・・」
「深夜、楽しみにしとるから」
「しし、失礼しまーす・・」澪がそそくさと出て行こうとした。
「あんたもモニターの波形ばっか集めず、人間として患者を見いや!」
「は、はい・・・」
「救急の甘い思い出に浸っとるヒマはないで」
「・・・・・・」
「じゃ。深夜、楽しみにしとるで!」
「ふ、ふちょうさん・・・」
「ん?」
「深夜は私と中奥さんとでなんとかなりますから・・・そ、その婦長さんはどうかお休みになって」
「患者のカテの邪魔して、ようそんな事言えるんやな?」
「えっ?」
「ユウキの言うとおりやで。何かあったら自分のせいやと思いいや!」
「・・・・・・」
次、大奥が出て行く。
「オ・・お疲れさん」
「あんたが早食いさせてた患者。熱が出とるで」
「・・・・・・」
「呼吸不全になったら電話するから」
「・・・・・・」
大奥は無言で去った。
ミチルがモニターを覗いたとたん、ポケットのペンが落ちた。
小奥が拾おうとしたが・・・。
「あんたのその汚い手で、さわらんといて!」
「あぅ・・・」頬がプルプル振動する。
どうやらワザとしかけたものだった。
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