『 その自転車は、勢いよく交差点を駆け抜けていった。信号はちょうど黄色になったところだ 』

Y「レジデント・サードの冒頭だ。例の如く、唐突にストーリーが展開する」

『 両手手放しで、1階の医局の近くまで到着する。しかし時間がない 』

Y「時間がない。これがレジデント・サードのテーマだ」
N「研修医の忙しさをうまく表現してる」
Y「そうなんだ。余裕がない。財布もだ」
N「当時の収入は?」
Y「公立病院だからな。バイトは禁止でレジデントの場合手取りで20万前後だったな(国民年金・厚生年金・所得税など差し引かれて)。それも当直込みで。献血車バイトはよくて月1回2万かな?他病院バイトは禁止」
N「暮らしていけた?」
Y「イエス。だからここにいる」
N「ではなくて。生活費の・・」
Y「ノーだ。恥ずかしながら、仕送りが必要だ。家賃5万として光熱費2万、ガソリン1万、遊交費(飲み会など)2万、食費すべて外食6万ほど、電話代携帯含め3万(当時遠距離恋愛だったため)、生命保険2-3万、あと勉強する本が4−5万。CDなどレンタル月数千円。医局費数千円は蛇足か。当時の給料では全く歯が立たない」
N「なるほど。なにせユウキ先生は、この頃大学を出たての・・・」
Y「イエス。2年目だ。2年目で大学から出れるかどうかはそれぞれ(スーパーローテの現在とは状況が著しく異なる)。大学を離れると、異様な開放感に不安感がつきまとう」
N「放り出されたという感覚?」
Y「人間というのはわがままで、束縛を嫌う一方で常に誰かに守られたい。だが恩恵を感じるのは必ずその後だ」

『 「今日が救急日なのを知らなかったのか?」
  「すみません。聞いてませんでした」 』

N「初日から、大失態?」
Y「初日ではないが・・・まあほぼ初日の出来事だった。日々の診療に追われ・・言い訳だな」
N「日常診療を休んでの救急当番?」
Y「ノー。通常、それはない。今でこそ日常診療・当直業務との差別化が叫ばれてはいるが、実際それを割り切るのは難しい」
N「普段でも人手が足りない日常診療を・・」
Y「つまりは病棟業務。研修医でオーベンがつくにしても、主治医は主治医だ。<救急当番がありますので今日は早めに帰ります>なんていかないからね」
N「通常の業務の中での救急当番だね」
Y「イエス。日勤業務→夜間居残り→そのまま救急当番→明けてそのまま日勤業務」
N「体力勝負?」
Y「気力だな」

『 ちゃんと問診表見たんですか!ピリン系にアレルギー!妊娠中! 』

N「さっそく怒られている」
Y「イエス。指摘されるだけまだマシだ。公立病院ではその配慮が行き届いている・・べきだと思う」
N「問診表というのは、患者が記入する?」
Y「イエス。しかしすべての情報とは限らない。ふだんかかりつけの病院、既往歴などの情報の整理が必要だ」
N「夜間の救急だったら、かかりつけの病院は・・」
Y「かかりつけが夜間やってなくて、それで救急に来るパターンが基本だろう」
N「かかりつけの病院に問い合わせるという手は?」
Y「こちらから?夜間だよ。それは無理がある。精神科の場合など特に困るな・・・」
N「妊娠中だとか授乳中だと、処方に困るようだね」
Y「そりゃそうだ。こういう薬は安全だとか本に載ってても、怖くて出せない」
N「怖いと思うことが?」
Y「しょっちゅうだ。しかしそう感じなくなったときが危ないんだ」

『 「胸のどこが痛いんですか?」「こことここ、というか全体」 』

N「胸ということは・・・心臓か肺?」
Y「とは限らない。盲点なのが大動脈関係・・・あと心膜炎、心筋炎。ヘルペス、過換気でだって起こしうる。軽いものでは肋間神経痛も」
N「検査がいっぱいいるね」
Y「痛みが訴えの場合、とにかく重要なものから除外していく必要がある。検査は軽いものからだけどね」
N「友人から、見逃し例を聞く?」
Y「アーハン。というか、検査を怠った場合に多いな。レントゲン正面1枚、心電図だけしましたとか。採血の結果は明日以降というのは論外だ」
N「そんな病院でも救急を掲げている病院は・・」
Y「あるさ。市民が知らないだけだ」
N「どんな医者が当直か、とかの情報もないね」
Y「イエス。聞く権利はあると思うが。医者のキャラまでは・・」
N「近くの散髪屋で情報を?」
Y「イエス!それは有効だ!」

『 どんどん患者が運ばれてくる。こちらは喉が渇いてくる。しかしそんな時間はない。トイレにも行けず 』

N「インターミッションは取れないの?」
Y「周囲が目上ばかりなのに、<サー。トイレに行きますが大なので時間かかります>なんて言えるか?」
N「言いにくいもの?」
Y「でも言うべきだな。ガマンとストレスの積み重ねはいつか、破綻する」
N「公立病院は、レジデントは最下層?」
Y「それは言いすぎかな。だが雑用が少なく臨床一色の世界で、一番充実する時期だったと思う」

『 お前ら循環器・呼吸器は、DMのコントロールは下手だな 』

N「分野が違うと、こういう確執が?」
Y「このセリフはまだ可愛いものだが、各部署とも微妙な摩擦関係はある」
N「医者だけに限らず・・」
Y「医局とナースサイド、病棟詰所と外来・・・」
N「慣れてることは得意で、慣れてないことは突っ込まれる」
Y「エスカレートするとバカし合いになる。自明のタヌキ、いや自明の理だ」

『 「じゃ、俺、休んでくるからな。あとは電話で」「え?」 』

N「上司がいきなり休憩を?」
Y「もちろんこれは僕のケースだ。でも上下関係をよく表している」
N「留守番を頼まれたわけだね」
Y「修行中である、こういう時期は逆らわないほうがいい。医療スタッフの宿命だ」

『 臨床も学生んときと、同じだな。連想ゲームって点では 』

Y「これは言いすぎだったかな。<連想ゲーム>という表現に問題が」
N「連想という表現は分かりやすいがね」
Y「診断は、まず疑いから始まる。疑いは経験+カンからだ。でもカンも経験に基づくもの。経験は数」
N「数は・・・慣れにつながる?」
Y「イエス。慣れっていうのは、意識・脳が覚えているということ」
N「それを連想ゲームと表現を?」
Y「そうだ。連想するためには脳の中に、多くの経路がなければいけない。その経路どうしの間にも経路があって・・・」
N「そういうトレーニングを日頃?」
Y「積んでおかないと、経路は行き止まりバッタリだ」
N「エマージェンシー・シリーズは屈指だね」
Y「イエス。現場の雰囲気を掴むにはもってこいだ!酒や酒や!酒もってこい!」
N「♪あんたが日本一の臨床家になるのなら、うちはどんな拷問にも耐えてみせます・・・!」
Y「ジーザス。お前はマゾっ子メグかよ?」

(つづく)

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