『 「あ、部長が来られた」早朝の病棟では循環器の医局員が全員整列、向こうから白髪の部長がのっしのっしとやってきた 』

Y「公立病院での週1回回診だ」
N「教授ではなくて・・・その科の責任者だよね?」
Y「そうだ。部長ということになる。それにしても・・・」
N「?」
Y「公的病院というのは奇妙だな。病院によってはその<部長>が何人もいるところがある」
N「年配の多い病院?」
Y「イエス。揉め事を避ける意味と、給与面での配慮があると思われる」

『 1つ決定的に違う点は・・教育に重きを置く教授と違って、入院患者の病状に常に重点を置いてくれているところ 』

N「教育に重きを・・」
Y「教育と、研究ということかな。なので回診ではいっしょについて廻る学生らにも指導しなくてはいけないし、自身の、またはそのグループの研究の一面の意味も持たなくてはならない」
N「研究・・・治験薬とか?」
Y「うん。まあ・・・そんなところだ。新薬の効果とか。参入した臨床試験とか。いろいろある」
N「公的病院では、あまりそんな機会はないと?」
Y「いや、そんなわけではない。研究しながら在籍している医者も多い。しかしこういった病院では研究施設そのものが十分でなく、時間的にも無理があることが多い」
N「動物実験は無理だね」
Y「イエス。なのでさきほどのような、新薬の効果・臨床試験だったり、症例報告またはそのまとめた報告の研究が多い」
N「たしか<レジデンツ・フォース>で・・」
Y「t-PAが出てきたな。あれはプラセボとの臨床治験」
N「その結果をまとめるのは・・・」
Y「ノー。まとめるのはあくまでも治験の主催者たちだ」
N「ユウキ先生らは何を?」
Y「その治験の適応を見つけ出し、同意を得ること」
N「プラセボ薬なのか新薬なのかの情報は・・」
Y「そんなの、こっちにも知らされない。知ってるのは業者だけなんだ」

『 unstable APの機序は知ってるね。冠動脈の血管内皮の障害が起こって、そこに血栓が形成されるというものだ。その血栓が次第に血管を閉塞してくる 』

Y「不安定狭心症。この概念は世の中、まだ十分浸透していない」
N「不安定っていうのは、症状が不安定ってこと?」
Y「というか、血栓が血管の中でニョキニョキ生えてきて、さあこれから血管を詰まらせようかと悩んでいる状態、だと思えばいい」
N「悩む?血栓にも意志が?」
Y「スカタン!あるわけないだろ!」
N「そりゃないよな」
Y「血栓が血管を詰まらせる寸前の状態だ。二トロの効果が十分なわけがない」
N「狭心症発作時の頓服だね」
Y「イエス。なので二トロの効きがイマイチと思ってきたなら報告する必要がある」
N「でも入院しろと言われたらイヤだし・・」
Y「ジーザス。これだから困るんだ!」

『 こういう角度でも撮っておくことが必要だ」だから、見えないって 』

N「現場の雰囲気を表してるね」
Y「イエス。指導する人間の周囲には多数の人間が群がる。1対1でするヒマなどないからね」
N「特に画像検査の指導などは・・」
Y「そうなんだ。指導する人間によってクセがあり、早口でもあったり」
N「学校の先生がすぐ板書きをサッと消すような感じだね」
Y「ジーザス!板書きって言葉、今でも通じるのか?」
N「でも見えなければ、<サー。見えないのですが>と正直に言えばいい」
Y「後悔している。まあ恋愛でも何でもそうだが、図々しいヤツになることも必要だ」
N「他人を押しのけてでも?」
Y「そうだ。われ先に、という意気込みだ」
N「授業で一番前に座って、ハイ!と挙手する生徒?」
Y「そうだ。小学校時代の積極性。あれが大事だ」
N「小学生レベルの積極性?」
Y「イエス。中学校〜高校〜大学では試験ができればたいていのことはクリアできる。しかし意外にも、社会に出たら眠っていた能力が試されるんだ」
N「なら部活動をやっておくのも有意義だね」
Y「イエス。ただ宗教活動や学生運動はやめとけよ。彼らは<自分至上主義>だから」
N「小学生みたいに・・ってことは、目上の人への報告とかも?」
Y「報告というより密告かな?医療関係者にはとにかく密告者が多いんだ」
N「はい先生!ユウキ先生が一番イケナイと思います!」
Y「そんな感じだジーザス!まさに小学生じゃないかガッデメ!」

『 「メキシチール飲んでてこれか・・」「メキシチール処方しても、全然変わりないですね」うるさいナースだなあ 』

Y「これはブログという形式なので・・あくまでも当時の印象・言葉遣いに基づいている」
N「こういったことにも反省を?」
Y「している。せっかくのアドバイスを単にうっとうしいと受け取ったり・・」
N「反抗期だね」
Y「忙しくてイライラしたりとか、あれはよくないな。それは分かってたんだが」
N「しかし反省すらしたことない医者も・・」
Y「いるいる。そんなのイッパイいる。とにかくフラストレーションはたまる。そういう職業だ」
N「何で発散を?」
Y「それは重要だな。しかしそのための時間がない。となると身近なものに走る」
N「食べること?」
Y「イエス。その1つがそれだ。あと・・・寝ること。まあ何でもいい。とにかくフラストレーションの処理は重要だ。気持ちを打ち明けるのも重要だ」
N「殻に閉じこもるなと・・?」
Y「そうだ。なるべく違う分野の人間と会い・・例えばもと同級生とか」
N「視野を狭くするなってことだね」
Y「イエス。自分をさらけ出せる友人は重要だ」

『 とにかく先生、来てください」「あの、他のバイタルは・・」ガチャッと切られた。「く、そー!」 』

N「待機当番で呼ばれたエピソード」
Y「公的病院では夜間を当直医が一手に引き受けるのではなく・・・各科ドクターが待機という形で輪番待機している」
N「研修医に廻ってくる確率は?」
Y「かなり高い。今は知らないが」
N「研修医だけで対処できないことも多いと思うが・・」
Y「まあまずは下っ端の人間が出動して、情報収集をしろということだ。誰だって進んで夜間の当番なんかしたくない」
N「呼ばれたとして、その手当ては?」
Y「僕がいたところではゼロだった」
N「給料が少ないのに?」
Y「そんなのお構いなしだ。公的病院だけに限らないが、彼らには心理的に経済的余裕はなく、大学のバックアップという強気がある」
N「さすがユウキ先生でも逆らえなかった?」
Y「オーマイ。そりゃそうだろ?圧倒的少数は、圧倒的大多数にはかなわない」
N「悲観的?」
Y「そうではない。数年したら圧倒的大多数の立場になれるからだ。しかしそれもジーザスだな」
N「いつかは這い上がれるかと?」
Y「谷をな。だが油断するな。あと一歩で這い上がれると油断したら突き落とされる」
N「ライオンキングの試練だね(そうなのか?)。突き落とされないためには?」
Y「違うところから登るんだ!」

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