NURSEBESIDE ? 単細胞
2006年4月21日僕の横では顔を真っ赤にした男が寝ていた。
「おい、寝るな。寝るな!医長!」
「ぐ〜・・・」
医長は酒が弱く、<飲んだら寝る>というお約束だった。
ただし、どうやったら起きるかは知っている。
「おいみんな。医長を起こすぞ!見てろ!」
僕は医長の耳に口を近づけた。
「・・・・・急変急変!至急病棟まで!」
「はいっ?」医長はセミファーラーで飛び起きた。
「(一同)あっははっははは!」
みな腹を抱えて笑う。
医長は周囲を見回し、やっと状況をつかんだ。
「もう先輩・・やめてくださいよ!」
「だったら寝るな!みんな起きてんのに!」
「だから飲み会は僕は・・・ぶつぶつ。無理やり連れて来られたから・・!」
「医長な。お前、いつも飲み会、来ないだろ?」
「・・・・・」
「病棟だけでのコミニ、コミミ・・あれあれ」
なかなか言葉がうまくいかない。
向こうからピートが走ってきて、僕の左の頭をさすった。
「優位半球優位半球!」
「やめろって!」
「大事大事な優位半球!」
この男も完全に酔っていた。
「コミュニケーションだよ、医長先生」
「僕の現場での統率に、何か指摘でも?」
「(一同)おおおおお〜っ」
みなすこし、引いた。
「医長先生。そうじゃないんだけど。カタブツだけでいかず、ときにはやわらかく」
「柔らかく?意味が分からない」
「<柔よく剛を制す>っていうだろ?」
「さ!みな揃ったな!」事務長がパンパンと手拍子した。
みな座布団を直した。MRは説明が終わったようで、片付けにかかっている。
「あれ?」事務長は眉をひそめた。
「医者が2人足りないな・・・」
「そのうち来るだろ」僕は軽く流した。
事務長は軽く咳払い。
「今日は非公式の飲み会だからね。朝からスタッフの交通事故とかあって大変だったけど・・・まあ実現できてよかった」
怒られるかもしれないが。この飲み会は、事務長らが中心の若い女性スタッフたちとの交流パーティーである。あわよくば持ち帰りも辞さないという下心を持っている輩もいる。たいていは失敗に終わるのだが。
つまりあちこちの病院で日ごろ行われている飲み会と変わりない。
抱きついてくる女事務員をどかし、事務長は立ち上がった。
「さあさ!新人ナースから自己紹介せよ!」
「え。あたしから・・?」美野が立ち上がった。慣れている。動じてない。
「なんていえばいいのカナー。美野です!よろしくおねがいっ!ちゃんちゃん!」
「(男一同)おおおお〜っ」
僕は挙手した。
「おいおいそれだけか?たとえば趣味とか!」
美野は涼しい流し目で答える。
「趣味。ない」
「なことないだろ!何か言え!ふつう何か言うもんだろ!」
「え?何を?」彼女はムッとしていた。
「だる・・・最近の奴らはなんでこう」
事務長は僕の肩を押さえ、間をおいて喋った。
「美野ちゃん。いつもキレイだよ。そのスカーフがすごく似合う」
「えっ。これ?そうかな・・」
「その真っ赤なスカーフだよ。まるで歌に出てくる・・」
「そ、そんな歌があるの?」彼女の機嫌が直ってくる。
「その女性のような人だよ君は」
「やだ・・・事務長さん。照れるやないの」
事務長のエスコートは一流だ。歯の浮く言葉にもためらいがない。
横の女事務からエルボーを食らい、事務長はうずくまった。
「あたた・・・ユウキ先生。ああやって褒めちぎるんですよ!」
「よくあんなセリフが言えるな・・・」
「じゃ、喋らせてみましょうか。ホトトギス!」
事務長はまた立ち上がった。
「美野ちゃん。リーダーは初体験だったんでしょう?婦長さんはどうだった?」
「あ、あのオネエ?」
「?」
どうやら<オネエ>はミチル婦長のあだ名のようだ。
「オネエなあ・・・すっごく、むかつく!」
僕らは目が点になった。
「なんか、こっちが一生懸命話しようとしてんのにさあ。横槍で何度も腰を折るんだよ!」
「そうそう!まずこっちの話を聞けっての!」メガネっ子も感情的になってきた。
「だけどな!お前らだって反省せんといかんだろ!」僕は言い返したが・・。
「ねえねえ!なんでオネエの肩もつの!ねえ!」美野は食いかかった。
「肩?」
「自分はさあ、ナースのあら捜しばっかりしてさ!汚い字で指示ばか書き直してばっかで!ちゃんと頭ん中で整理して書きいや!」
「な、なんだと、きさ・・」
「そんでさ、オネエの前ではへコヘコして!性格悪いんちゃう?」
「あら捜し?へコヘコ?お前・・!」
「その<お前>はやめて!人のことオマエ呼ばわり!」
「そういうお前こそ、ミチルみたいじゃないか!」
事務長はまた僕を制した。
「ユウキ先生。この飲み会は交流のために設けたもので・・」
「本音も交流の一部だろ!」
「ちょっと。ちょっとだけ黙ってて」
「な・・・」
事務長は美野のほうを向いた。
「みーのちゃん。病棟の患者さんがね。褒めてたよ」
「え?」
「なんかすごく綺麗でおしとやかな看護師さんが来てくれたって」
「そ、そうかな・・」彼女はまた照れだした。
「でね。事務長さんもさぞかし鼻が長・・いやいや。鼻高々でしょうねって。あはは」
「なんか、ごまかしてない?」
みな張り詰め、笑おうとはしない。
僕はそのとき・・・何かの存在を感じた。
「おい、寝るな。寝るな!医長!」
「ぐ〜・・・」
医長は酒が弱く、<飲んだら寝る>というお約束だった。
ただし、どうやったら起きるかは知っている。
「おいみんな。医長を起こすぞ!見てろ!」
僕は医長の耳に口を近づけた。
「・・・・・急変急変!至急病棟まで!」
「はいっ?」医長はセミファーラーで飛び起きた。
「(一同)あっははっははは!」
みな腹を抱えて笑う。
医長は周囲を見回し、やっと状況をつかんだ。
「もう先輩・・やめてくださいよ!」
「だったら寝るな!みんな起きてんのに!」
「だから飲み会は僕は・・・ぶつぶつ。無理やり連れて来られたから・・!」
「医長な。お前、いつも飲み会、来ないだろ?」
「・・・・・」
「病棟だけでのコミニ、コミミ・・あれあれ」
なかなか言葉がうまくいかない。
向こうからピートが走ってきて、僕の左の頭をさすった。
「優位半球優位半球!」
「やめろって!」
「大事大事な優位半球!」
この男も完全に酔っていた。
「コミュニケーションだよ、医長先生」
「僕の現場での統率に、何か指摘でも?」
「(一同)おおおおお〜っ」
みなすこし、引いた。
「医長先生。そうじゃないんだけど。カタブツだけでいかず、ときにはやわらかく」
「柔らかく?意味が分からない」
「<柔よく剛を制す>っていうだろ?」
「さ!みな揃ったな!」事務長がパンパンと手拍子した。
みな座布団を直した。MRは説明が終わったようで、片付けにかかっている。
「あれ?」事務長は眉をひそめた。
「医者が2人足りないな・・・」
「そのうち来るだろ」僕は軽く流した。
事務長は軽く咳払い。
「今日は非公式の飲み会だからね。朝からスタッフの交通事故とかあって大変だったけど・・・まあ実現できてよかった」
怒られるかもしれないが。この飲み会は、事務長らが中心の若い女性スタッフたちとの交流パーティーである。あわよくば持ち帰りも辞さないという下心を持っている輩もいる。たいていは失敗に終わるのだが。
つまりあちこちの病院で日ごろ行われている飲み会と変わりない。
抱きついてくる女事務員をどかし、事務長は立ち上がった。
「さあさ!新人ナースから自己紹介せよ!」
「え。あたしから・・?」美野が立ち上がった。慣れている。動じてない。
「なんていえばいいのカナー。美野です!よろしくおねがいっ!ちゃんちゃん!」
「(男一同)おおおお〜っ」
僕は挙手した。
「おいおいそれだけか?たとえば趣味とか!」
美野は涼しい流し目で答える。
「趣味。ない」
「なことないだろ!何か言え!ふつう何か言うもんだろ!」
「え?何を?」彼女はムッとしていた。
「だる・・・最近の奴らはなんでこう」
事務長は僕の肩を押さえ、間をおいて喋った。
「美野ちゃん。いつもキレイだよ。そのスカーフがすごく似合う」
「えっ。これ?そうかな・・」
「その真っ赤なスカーフだよ。まるで歌に出てくる・・」
「そ、そんな歌があるの?」彼女の機嫌が直ってくる。
「その女性のような人だよ君は」
「やだ・・・事務長さん。照れるやないの」
事務長のエスコートは一流だ。歯の浮く言葉にもためらいがない。
横の女事務からエルボーを食らい、事務長はうずくまった。
「あたた・・・ユウキ先生。ああやって褒めちぎるんですよ!」
「よくあんなセリフが言えるな・・・」
「じゃ、喋らせてみましょうか。ホトトギス!」
事務長はまた立ち上がった。
「美野ちゃん。リーダーは初体験だったんでしょう?婦長さんはどうだった?」
「あ、あのオネエ?」
「?」
どうやら<オネエ>はミチル婦長のあだ名のようだ。
「オネエなあ・・・すっごく、むかつく!」
僕らは目が点になった。
「なんか、こっちが一生懸命話しようとしてんのにさあ。横槍で何度も腰を折るんだよ!」
「そうそう!まずこっちの話を聞けっての!」メガネっ子も感情的になってきた。
「だけどな!お前らだって反省せんといかんだろ!」僕は言い返したが・・。
「ねえねえ!なんでオネエの肩もつの!ねえ!」美野は食いかかった。
「肩?」
「自分はさあ、ナースのあら捜しばっかりしてさ!汚い字で指示ばか書き直してばっかで!ちゃんと頭ん中で整理して書きいや!」
「な、なんだと、きさ・・」
「そんでさ、オネエの前ではへコヘコして!性格悪いんちゃう?」
「あら捜し?へコヘコ?お前・・!」
「その<お前>はやめて!人のことオマエ呼ばわり!」
「そういうお前こそ、ミチルみたいじゃないか!」
事務長はまた僕を制した。
「ユウキ先生。この飲み会は交流のために設けたもので・・」
「本音も交流の一部だろ!」
「ちょっと。ちょっとだけ黙ってて」
「な・・・」
事務長は美野のほうを向いた。
「みーのちゃん。病棟の患者さんがね。褒めてたよ」
「え?」
「なんかすごく綺麗でおしとやかな看護師さんが来てくれたって」
「そ、そうかな・・」彼女はまた照れだした。
「でね。事務長さんもさぞかし鼻が長・・いやいや。鼻高々でしょうねって。あはは」
「なんか、ごまかしてない?」
みな張り詰め、笑おうとはしない。
僕はそのとき・・・何かの存在を感じた。
コメント