NURSEBESIDE ? 脱走
2006年5月2日「あし?」
慣れてきた目で振り向くと・・・誰かが足を乗っけているのだ。
「この足は・・女の足か?」
両手で上に上にたどっていくと、当然はたかれた。
相手はやっと口を開く。
「何、してんねや?」
「こ、この低い声・・・・」
「なあ。ここで何をしてんねや?」
「まま、まさか・・・」
女将が襖から入るなり、電気をつけた。
「あの、外の人たちはいったい・・・」
頭上にそびえ立つのは、やはり婦長だった。
「くそ!やっぱりミチルさんか!」
僕は1回転し、ダ−ンと畳の上で受け身した。
ミチルは目の下にクマを作っており、不気味に微笑んでいる。
「でで、電話対応だったのは悪かったよ!」
「なにを弱気に甘えてんねや。もう遅いわ!」
女将は数歩、ミチルに近づいた。
「あの、どなたか知りませんが。靴のまま上がられては」
「るさい!」
「ひっ!」女将は腰を抜かした。
ミチルは僕の背中にまた足を押し付けた。
「こんなとこでコソコソ、飲み会なんかやっとんかい?ええ?」
「しし、仕事じゃないからいいじゃないか、はうっ!」足がねじられた。「もっとやって!」とは言ってない。
「詰所が今日、どんだけ大変なんか分かっとんのかコラ?」
「しし、知ってるけど・・イタタ。そ、そんな詰所を放って出てきても、いい、いいのかよ?」
「アホ。お前の後輩が代わりにやっとるわ!」
シロー、慎吾は準夜勤の手伝いをさせられていた。
「そ。そっか。それで来てないのか」
「何が<会合>や。お前だけちゃうけどもな。新人ナースもや」
「か、彼らはどこへ・・・?」
「聞こえんのか?声が」
「声?声って・・・」
僕は婦長を見上げ、指差した。
「ぱ、パンツが見えてる!」
「なにっ?」婦長は反射的にサッと隠した。しかし見えるはずもないスカート丈だった。
「今だ!くっ!ダダッシュダダッシュ、アー!」
ひるんだすきに、僕は襖へと飛びかかった。このままでは尋問を受けて徹夜するハメになると思ったからだ。
「待て!」
「そこっ!」
襖をおもいっきりつかみ、ガラッと廊下へ出た。
なんとそこには、大名行列を待つかのような長蛇の列があった。視界の端から端まで並んでいて壮観な眺めとでもいうべきか。
彼らは正座しており、ほとんどの人間がすすり泣き、あるいはもがいている(正座が苦しくて)。僕の正面には、最初にトイレに行ったはずの美野ナースが号泣している。ふだんのアイドル顔とは全くかけ離れた、ブルドックのしわくちゃ顔になっていた。
「ごべんださいごべんだだい(ごめんなさいごめんなさい)・・・ぶぶぶぶ」
鼻から鼻汁が何度も行き来している。
僕はこの彼女を気に入ってたとしても、その鼻水にはなりたくなかった。
「みんな。ひどいな・・・」
事務員が何度か立ち上がろうとするが、シビレが切れて横へ何度も倒れる。
事務長はさきほど座らされたばっかりのようだが、顔にはアザができている。放心状態だ。
医者としてここはなんとか助けたいが・・。
「わ、悪いけどオレ・・・ご、ごめん!」
ダッシュし、階段まで駆け抜けた。婦長の手は、すぐ後ろにあったはずだ。
いや、まだあるかもしれない。とにかく限界の、そのまた限界まで突っ走った。
「はあ、はあ。そういや、シローのGTOを駆ったという話だな?」
店の前に出て、新地の通りを見ると・・・赤い車が右手奥にある。
「あれだ。あれだな!そうか?」
ライトがついている。乗り込んで、そのまま持っていけるか。
飲酒していたことはとっくに忘れていた。
運転席のドアを引っ張り、そのまま入れた。すかさずロックした。
「ふう!はあ!ふう!・・・・婦長の奴、ロックもせずに!」
「こんばんは。先生」助手席がいきなり喋った。
「うわあ!びっくりしたなあもう!」
「わしわし。巣鴨のオッサンです」入院患者だ。
「な、なんでここに?」
「先生ごめん!外出してそのままパチンコに行ってて・・・!」
「パチンコ屋で婦長につかまったわけか?」
「執念でっせ。あの人は」
「か、感心してる場合か!とにかく逃げなきゃ殺され・・」
僕はかかってるキーを右に回した。ガガガガ、という音。エンジンはかかったままだった。
「ユウキ先生。婦長さんを待たんと・・」
「待てない待てない!」
「そ、そんなことしたら、わしが危ないんや!」じいはとびかかってきた。
「やめろ、じい!」
すると、助手席のドアがコンコンとクールに叩かれた。
婦長だ。いつの間に。彼女はハフ、ハフと窓に息を吹きかけた。
「なんだ?文字でも・・?じいさん、どいてくれ!」
「いかん、いかんて!」
「ホモだと思われるだろ!通行人に!」
窓に、婦長は<あけろ>と上手に(反転字で)書いた。
僕は窓を少しスライドした。
「婦長。悪かったよ。そう言やいいんだろ?」
「いや。すまされへん」
「明日から控えめにやるから!ACTの測定もオレがするから!」
「明日は、もうあたしおれへんで!」
「なに?」
「今日までの給料もらって、やめたるんや!」
「アンタがいなくなったら、うちの病院は脳のないサルと同じだぜ!」
「サルなら同じだろうが?脳があってもないでも!」
婦長はいきなり周囲をキョロキョロ見回した。そして手を振り出した。
「婦長、何を・・・?ああっ!」
気づいたときは遅かった。腕章をつけた警官が2人、ゆっくり歩いてきた。棒でポンポン、肩を叩きながらだ。
「にいちゃんたち、男同士でお楽しみ中。悪いけどもやな」
「え?じ、じいさん!」じいさんはやっと離れた。
「ドア、開けてくれるか?」
「は、はい」
素直にドアを開いた。
警官の1人はGTOの周囲を見回し、もう1人は中をのぞく。
中をのぞいた警官は、ミチルのほうを向いた。
「大丈夫ですか?おねえさん」
「は、はい・・・」
ミチルはいきなり恥らうように豹変した。<おねえさん>で機嫌を少しよくしたらしい。
「何か、変なことされへんかった?」
「は、はい。でもいいんです」
「ん?正直に言いよー。悪い奴ら多いからなー。おら、出んかい!」
僕とじいは、外に出された。
慣れてきた目で振り向くと・・・誰かが足を乗っけているのだ。
「この足は・・女の足か?」
両手で上に上にたどっていくと、当然はたかれた。
相手はやっと口を開く。
「何、してんねや?」
「こ、この低い声・・・・」
「なあ。ここで何をしてんねや?」
「まま、まさか・・・」
女将が襖から入るなり、電気をつけた。
「あの、外の人たちはいったい・・・」
頭上にそびえ立つのは、やはり婦長だった。
「くそ!やっぱりミチルさんか!」
僕は1回転し、ダ−ンと畳の上で受け身した。
ミチルは目の下にクマを作っており、不気味に微笑んでいる。
「でで、電話対応だったのは悪かったよ!」
「なにを弱気に甘えてんねや。もう遅いわ!」
女将は数歩、ミチルに近づいた。
「あの、どなたか知りませんが。靴のまま上がられては」
「るさい!」
「ひっ!」女将は腰を抜かした。
ミチルは僕の背中にまた足を押し付けた。
「こんなとこでコソコソ、飲み会なんかやっとんかい?ええ?」
「しし、仕事じゃないからいいじゃないか、はうっ!」足がねじられた。「もっとやって!」とは言ってない。
「詰所が今日、どんだけ大変なんか分かっとんのかコラ?」
「しし、知ってるけど・・イタタ。そ、そんな詰所を放って出てきても、いい、いいのかよ?」
「アホ。お前の後輩が代わりにやっとるわ!」
シロー、慎吾は準夜勤の手伝いをさせられていた。
「そ。そっか。それで来てないのか」
「何が<会合>や。お前だけちゃうけどもな。新人ナースもや」
「か、彼らはどこへ・・・?」
「聞こえんのか?声が」
「声?声って・・・」
僕は婦長を見上げ、指差した。
「ぱ、パンツが見えてる!」
「なにっ?」婦長は反射的にサッと隠した。しかし見えるはずもないスカート丈だった。
「今だ!くっ!ダダッシュダダッシュ、アー!」
ひるんだすきに、僕は襖へと飛びかかった。このままでは尋問を受けて徹夜するハメになると思ったからだ。
「待て!」
「そこっ!」
襖をおもいっきりつかみ、ガラッと廊下へ出た。
なんとそこには、大名行列を待つかのような長蛇の列があった。視界の端から端まで並んでいて壮観な眺めとでもいうべきか。
彼らは正座しており、ほとんどの人間がすすり泣き、あるいはもがいている(正座が苦しくて)。僕の正面には、最初にトイレに行ったはずの美野ナースが号泣している。ふだんのアイドル顔とは全くかけ離れた、ブルドックのしわくちゃ顔になっていた。
「ごべんださいごべんだだい(ごめんなさいごめんなさい)・・・ぶぶぶぶ」
鼻から鼻汁が何度も行き来している。
僕はこの彼女を気に入ってたとしても、その鼻水にはなりたくなかった。
「みんな。ひどいな・・・」
事務員が何度か立ち上がろうとするが、シビレが切れて横へ何度も倒れる。
事務長はさきほど座らされたばっかりのようだが、顔にはアザができている。放心状態だ。
医者としてここはなんとか助けたいが・・。
「わ、悪いけどオレ・・・ご、ごめん!」
ダッシュし、階段まで駆け抜けた。婦長の手は、すぐ後ろにあったはずだ。
いや、まだあるかもしれない。とにかく限界の、そのまた限界まで突っ走った。
「はあ、はあ。そういや、シローのGTOを駆ったという話だな?」
店の前に出て、新地の通りを見ると・・・赤い車が右手奥にある。
「あれだ。あれだな!そうか?」
ライトがついている。乗り込んで、そのまま持っていけるか。
飲酒していたことはとっくに忘れていた。
運転席のドアを引っ張り、そのまま入れた。すかさずロックした。
「ふう!はあ!ふう!・・・・婦長の奴、ロックもせずに!」
「こんばんは。先生」助手席がいきなり喋った。
「うわあ!びっくりしたなあもう!」
「わしわし。巣鴨のオッサンです」入院患者だ。
「な、なんでここに?」
「先生ごめん!外出してそのままパチンコに行ってて・・・!」
「パチンコ屋で婦長につかまったわけか?」
「執念でっせ。あの人は」
「か、感心してる場合か!とにかく逃げなきゃ殺され・・」
僕はかかってるキーを右に回した。ガガガガ、という音。エンジンはかかったままだった。
「ユウキ先生。婦長さんを待たんと・・」
「待てない待てない!」
「そ、そんなことしたら、わしが危ないんや!」じいはとびかかってきた。
「やめろ、じい!」
すると、助手席のドアがコンコンとクールに叩かれた。
婦長だ。いつの間に。彼女はハフ、ハフと窓に息を吹きかけた。
「なんだ?文字でも・・?じいさん、どいてくれ!」
「いかん、いかんて!」
「ホモだと思われるだろ!通行人に!」
窓に、婦長は<あけろ>と上手に(反転字で)書いた。
僕は窓を少しスライドした。
「婦長。悪かったよ。そう言やいいんだろ?」
「いや。すまされへん」
「明日から控えめにやるから!ACTの測定もオレがするから!」
「明日は、もうあたしおれへんで!」
「なに?」
「今日までの給料もらって、やめたるんや!」
「アンタがいなくなったら、うちの病院は脳のないサルと同じだぜ!」
「サルなら同じだろうが?脳があってもないでも!」
婦長はいきなり周囲をキョロキョロ見回した。そして手を振り出した。
「婦長、何を・・・?ああっ!」
気づいたときは遅かった。腕章をつけた警官が2人、ゆっくり歩いてきた。棒でポンポン、肩を叩きながらだ。
「にいちゃんたち、男同士でお楽しみ中。悪いけどもやな」
「え?じ、じいさん!」じいさんはやっと離れた。
「ドア、開けてくれるか?」
「は、はい」
素直にドアを開いた。
警官の1人はGTOの周囲を見回し、もう1人は中をのぞく。
中をのぞいた警官は、ミチルのほうを向いた。
「大丈夫ですか?おねえさん」
「は、はい・・・」
ミチルはいきなり恥らうように豹変した。<おねえさん>で機嫌を少しよくしたらしい。
「何か、変なことされへんかった?」
「は、はい。でもいいんです」
「ん?正直に言いよー。悪い奴ら多いからなー。おら、出んかい!」
僕とじいは、外に出された。
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