NURSEBESIDE ? 飲酒検問
2006年5月2日警官は僕の財布の中を見る。
「ユウキっていうんやな。あんた」
「はい」
「どういう事情があるんか分からんけど、許可もなく人の車に閉じこもったらアカンやろ?」
「は、はい」
「それがな、たとえ友人でもやで?ましてやキレイなおねえさんやで」
「・・・・・」
「返事は?」
「お、おおせの通りでございます」
ただ、ひれ伏すしかなかった。じいさんは関係ないといった表情だ。
警官はミチルに問いかけた。
「じゃあオネえさん。許してやるってことでいいんかいな?なんだったら法律でオトシマエつけることもできるけど」
「あ、そこまではいいです」
「そうやな。そのほうがええ」
僕はホッとした。しかしなんでこの女の手のひらで運命を左右されるのか。
「そのほうがええな。逆恨みしてしつこい男もおるしな」
「あの。彼!」婦長は僕を指差した。
「ん?何かされたのか?」
「酒、飲んでます!」
「なにい?」
警官は不適な笑いをうかべた。
「やっぱ飲んどんのか、お前・・・」
「うう、運転はしてなくて、その!」僕はピンチに陥った。
「そういや、なんか酒臭いな。おい!」
警官は、もう1人に何かを促した。
「こっちの車のほう、来いや」
僕はそのまま、近くのパトカーの外に立たされた。
「まずこのコップで、うがいしいや」
「うがい・・・」紛れもない、これは飲酒検問だ。
「それでな。うがいし終わったら、この風船、ふくらましいや!」
酒を飲んである程度時間が立っているが・・・・顔には熱感がある。まだ酔いは醒めてないとみた。
僕はコップを持ち、ぐっと・・・そのまま飲んでしまった。
「アホウ!飲んでどないすんねや!」警官が怒鳴った。
「す、すみません」
「しゃあないな。もう1杯・・おいおい!」
僕はオエエッ、と勢いよく吐いてしまった。警官に少しかかった。
「アホ!誰に向かって吐きよんねや誰に!」
「うげえ〜」ホントに気分が悪かった。
「ホラ!今度こそ!うがいや!うがい!上向いて、ホラ。ごろごろ!」
「え、ええ。分かってます」
「だったらはよ、やらんかい!」
僕は祈るように、うがいに力を込めた。自力で胃洗浄できればと願った。
「ぷぺっ」
吐き出し、そのまま風船が渡された。
「ふ、吹きこみます」
「あー、はよやれ!」
直前に、何度も過換気。最後の手段だ。有効かどうか知らないが、体の中の空気を薄めるつもりで。人間、追い詰められたらなんでもする。
「はふはふはふはふはふ」
「医者かお前?あっちのおねえさんが言うてたけど」
「はふはふはふ・・はい。プー」
観念して、風船に空気を送り込む。
警官は医者と分かったとたん、悪戯っぽい表情になった。
「ま。これが引っかかったらまた聞くけど。どこの病院や?」
「さ。さな・・・いやいや」
「?」
「真珠会・・」
僕は嫌いな病院の名前を出した。
「真珠会。ああ。最近あちこちに進出しとるな。会長さんは元気か?」
「ええ」
「急成長したクリニックと提携して、大きな本店建てるそうやな」
「え?あ、はい」
「わしも行ったことあるわ。松田クリニック」
「げっ・・・」
もう1人の警官が飲酒の測定?をしている。よく見えない。
「まあ、すばらしい先生やで。なんちゅうか、おおらかで」
「そそ、そうですか」
「お前もああいう医者目指さんとアカンで」
「はは・・・」
もう1人の警官が、納得いかん顔で近づいてきた。
「ウーン。ま、今回は基準を満たしてはないようだな・・」
「うそ?やった!」
「ホンマか?あー。そのようやな・・」尋問警官も残念そうだ。
「よしよし・・・」
「ま、ええわ。でもな、お前運転するなよ」
「はい」
「あのオネエサンが送ってくれるらしいから」
「ひっ・・・」
「だがこの一件は、あとで職場のほうに電話しとくからな。真珠会にな」
「勝手に・・・」
僕はパトカーから解放された。警官は後ろにいる。
尋問警官が少し心を開いた。
「わしな。松田クリニックでかかってんねや。とうにょう」
「糖尿病?」
「なに?<とうにょう>と<糖尿病>は同じなんか?」
「そ、そうです」
「うそ?松田先生は<尿に糖が出てて血糖は正常だから、あなたは糖尿病じゃなくて、とうにょう、のほうだ>とおっしゃってたぞ」
警官もこの程度か・・・。僕は軽く流すことにした。
「血液検査もやってるんやがな。結果はまあまあらしいがな」
「結果はもらってないの?」
「あそこの主義でな」
悪徳クリニックが・・・!
「でな。この前、頭のシーティー撮ったんや。トンネルに入るやつ」
「CTね。はいはい」
クリニックは増長し、CTまで完備するほどになっていた。
「なんかよーく見たら、小さな黒い点があったんやな。<先生、これなんですか?>って
言うたらな。<年のせい>やって」
「あわわ・・」
「年のせい、いうことは心配いらんのやな?」
「いやいや。それはラクナ梗塞といって・・・」
「らくな?」
「脳梗塞の小さい版ですよ。小さい血管がつまったやつ」
「年のせいなんやろ?」
「動脈硬化が強い証拠ですよ」
「なんやお前、偉そうやな?」
警官はピタッと止まった。少し不快だったのか。
「松田先生の指導の通りやっとればええな?」
「いやあ。僕としてはあまり・・・」
「<信じるものは救われる>っちゅうやろ?」
「変なもの、信じないように」
「あん?あー。もしもし?真珠会?」
この警官、ホントに電話しやがった。
僕は、GTOの助手席に座った。なぜかチャイルドシートが新たに乗せられ、
その上に座らされたかっこうだ。座高が高く、頭が天井にくっつく。
後部座席にじいが小さく座っている。
引き続き、婦長が運転席に腰掛けた。
「あんたら、ベルトしめえや」
婦長の催促と同時に、僕らは震えながらベルトした。
パトカーをバックミラーで追いながら、ミチルはタバコをふかした。
「フー・・・マッポはアホやな」
「まっぽ?ふるう」
「燃やそか?」
「い!いえいえ!」僕は縮こまった。
「フー。あのマッポ、真珠会に電話しよったで?何言うたんお前?」
「飲酒検問にひっかからなくてよかったよかった」
「真珠会、怒るで多分」
「じゃ、家まで送ってくれますか?」
「何甘えたことぬかしとんねん」
「・・・」
「じいと仲良く、病院まで出戻りや」
「病院?」
「準夜の終了まであと1時間もない。そろそろ深夜勤務のお出ましや」
「そ、それがなにか・・・」
「医者2人が準夜の手伝いした。アンタもせいや」
僕は後ろを振り返った。
「ほほ、ほかのメンバーは・・・」
「あいつらも、みな来るで」
「げげっ?」
「というか、今のうちにもう向かってるで」
「そんなことさせて・・・!」
「あたしは何も言うてない。彼らが自発的にするって言うたんや。行くで!」
誰が自発的に行くものか・・・!
ミチルはタバコを放り出し、いっせいにアクセルを踏んだ。
「ぐわあああ!」
僕は頭を天井に摩擦熱を発しながら、なんとか平衡を保とうとした。
「ユウキっていうんやな。あんた」
「はい」
「どういう事情があるんか分からんけど、許可もなく人の車に閉じこもったらアカンやろ?」
「は、はい」
「それがな、たとえ友人でもやで?ましてやキレイなおねえさんやで」
「・・・・・」
「返事は?」
「お、おおせの通りでございます」
ただ、ひれ伏すしかなかった。じいさんは関係ないといった表情だ。
警官はミチルに問いかけた。
「じゃあオネえさん。許してやるってことでいいんかいな?なんだったら法律でオトシマエつけることもできるけど」
「あ、そこまではいいです」
「そうやな。そのほうがええ」
僕はホッとした。しかしなんでこの女の手のひらで運命を左右されるのか。
「そのほうがええな。逆恨みしてしつこい男もおるしな」
「あの。彼!」婦長は僕を指差した。
「ん?何かされたのか?」
「酒、飲んでます!」
「なにい?」
警官は不適な笑いをうかべた。
「やっぱ飲んどんのか、お前・・・」
「うう、運転はしてなくて、その!」僕はピンチに陥った。
「そういや、なんか酒臭いな。おい!」
警官は、もう1人に何かを促した。
「こっちの車のほう、来いや」
僕はそのまま、近くのパトカーの外に立たされた。
「まずこのコップで、うがいしいや」
「うがい・・・」紛れもない、これは飲酒検問だ。
「それでな。うがいし終わったら、この風船、ふくらましいや!」
酒を飲んである程度時間が立っているが・・・・顔には熱感がある。まだ酔いは醒めてないとみた。
僕はコップを持ち、ぐっと・・・そのまま飲んでしまった。
「アホウ!飲んでどないすんねや!」警官が怒鳴った。
「す、すみません」
「しゃあないな。もう1杯・・おいおい!」
僕はオエエッ、と勢いよく吐いてしまった。警官に少しかかった。
「アホ!誰に向かって吐きよんねや誰に!」
「うげえ〜」ホントに気分が悪かった。
「ホラ!今度こそ!うがいや!うがい!上向いて、ホラ。ごろごろ!」
「え、ええ。分かってます」
「だったらはよ、やらんかい!」
僕は祈るように、うがいに力を込めた。自力で胃洗浄できればと願った。
「ぷぺっ」
吐き出し、そのまま風船が渡された。
「ふ、吹きこみます」
「あー、はよやれ!」
直前に、何度も過換気。最後の手段だ。有効かどうか知らないが、体の中の空気を薄めるつもりで。人間、追い詰められたらなんでもする。
「はふはふはふはふはふ」
「医者かお前?あっちのおねえさんが言うてたけど」
「はふはふはふ・・はい。プー」
観念して、風船に空気を送り込む。
警官は医者と分かったとたん、悪戯っぽい表情になった。
「ま。これが引っかかったらまた聞くけど。どこの病院や?」
「さ。さな・・・いやいや」
「?」
「真珠会・・」
僕は嫌いな病院の名前を出した。
「真珠会。ああ。最近あちこちに進出しとるな。会長さんは元気か?」
「ええ」
「急成長したクリニックと提携して、大きな本店建てるそうやな」
「え?あ、はい」
「わしも行ったことあるわ。松田クリニック」
「げっ・・・」
もう1人の警官が飲酒の測定?をしている。よく見えない。
「まあ、すばらしい先生やで。なんちゅうか、おおらかで」
「そそ、そうですか」
「お前もああいう医者目指さんとアカンで」
「はは・・・」
もう1人の警官が、納得いかん顔で近づいてきた。
「ウーン。ま、今回は基準を満たしてはないようだな・・」
「うそ?やった!」
「ホンマか?あー。そのようやな・・」尋問警官も残念そうだ。
「よしよし・・・」
「ま、ええわ。でもな、お前運転するなよ」
「はい」
「あのオネエサンが送ってくれるらしいから」
「ひっ・・・」
「だがこの一件は、あとで職場のほうに電話しとくからな。真珠会にな」
「勝手に・・・」
僕はパトカーから解放された。警官は後ろにいる。
尋問警官が少し心を開いた。
「わしな。松田クリニックでかかってんねや。とうにょう」
「糖尿病?」
「なに?<とうにょう>と<糖尿病>は同じなんか?」
「そ、そうです」
「うそ?松田先生は<尿に糖が出てて血糖は正常だから、あなたは糖尿病じゃなくて、とうにょう、のほうだ>とおっしゃってたぞ」
警官もこの程度か・・・。僕は軽く流すことにした。
「血液検査もやってるんやがな。結果はまあまあらしいがな」
「結果はもらってないの?」
「あそこの主義でな」
悪徳クリニックが・・・!
「でな。この前、頭のシーティー撮ったんや。トンネルに入るやつ」
「CTね。はいはい」
クリニックは増長し、CTまで完備するほどになっていた。
「なんかよーく見たら、小さな黒い点があったんやな。<先生、これなんですか?>って
言うたらな。<年のせい>やって」
「あわわ・・」
「年のせい、いうことは心配いらんのやな?」
「いやいや。それはラクナ梗塞といって・・・」
「らくな?」
「脳梗塞の小さい版ですよ。小さい血管がつまったやつ」
「年のせいなんやろ?」
「動脈硬化が強い証拠ですよ」
「なんやお前、偉そうやな?」
警官はピタッと止まった。少し不快だったのか。
「松田先生の指導の通りやっとればええな?」
「いやあ。僕としてはあまり・・・」
「<信じるものは救われる>っちゅうやろ?」
「変なもの、信じないように」
「あん?あー。もしもし?真珠会?」
この警官、ホントに電話しやがった。
僕は、GTOの助手席に座った。なぜかチャイルドシートが新たに乗せられ、
その上に座らされたかっこうだ。座高が高く、頭が天井にくっつく。
後部座席にじいが小さく座っている。
引き続き、婦長が運転席に腰掛けた。
「あんたら、ベルトしめえや」
婦長の催促と同時に、僕らは震えながらベルトした。
パトカーをバックミラーで追いながら、ミチルはタバコをふかした。
「フー・・・マッポはアホやな」
「まっぽ?ふるう」
「燃やそか?」
「い!いえいえ!」僕は縮こまった。
「フー。あのマッポ、真珠会に電話しよったで?何言うたんお前?」
「飲酒検問にひっかからなくてよかったよかった」
「真珠会、怒るで多分」
「じゃ、家まで送ってくれますか?」
「何甘えたことぬかしとんねん」
「・・・」
「じいと仲良く、病院まで出戻りや」
「病院?」
「準夜の終了まであと1時間もない。そろそろ深夜勤務のお出ましや」
「そ、それがなにか・・・」
「医者2人が準夜の手伝いした。アンタもせいや」
僕は後ろを振り返った。
「ほほ、ほかのメンバーは・・・」
「あいつらも、みな来るで」
「げげっ?」
「というか、今のうちにもう向かってるで」
「そんなことさせて・・・!」
「あたしは何も言うてない。彼らが自発的にするって言うたんや。行くで!」
誰が自発的に行くものか・・・!
ミチルはタバコを放り出し、いっせいにアクセルを踏んだ。
「ぐわあああ!」
僕は頭を天井に摩擦熱を発しながら、なんとか平衡を保とうとした。
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