NURSEBESIDE ? 追跡車
2006年5月8日車は新地を離れていくが、例のパトカーがついてくる。
「なんだ?どこまで?」
僕とじいは後ろを振り返った。
「わかったよ婦長。今日だけ、じゃあ手伝うわな・・」
「徹夜なんかしたことないやろ?やってみいや」
「カテの呼び出しで何度もあるよ」
「じゃなくてな。人手の少ない病棟がどんなに大変なんか、知る必要があるんや」
じいは後部座席で携帯を触っている。
「じいさん・・・こんなときにメールかよ?」
「え?いやいや・・」
じいは携帯をパタンと閉じた。
繁華街をようやく抜け、パトカーも知らぬ間に消えた。
落ちていたスピードが徐々に増していく。
チラッと横目で覗いた婦長の顔は・・・美しいが真剣そのものだった。
「何、見てんねや?」
「い、いえ」
「ひとつ、頼みたいんやけど」
「ははっ。なんでも」
「今日の朝な。事故したんや」
「ええっ?」僕はわざとらしくとぼけた。
「でな。車が公園に置きっぱなしやねんな」
「動くのか?その車」
「いじられたらたまらんからな。それのキー渡すから、ほれ」
婦長はキーを片手で投げ、僕はパシッと受け取った。
アクセサリーに、長髪美少年の顔のシールがある。
「男前だな・・・誰?」
「ハイド」
「ジキルじゃなくて?」
「お前バカ。ラルクも知らんのか」
後部座席のじいがまた気になる。携帯をパカパカ押している。
顔に近接するあまり、ホラー映画のように顔面だけが青白い。
「よく見ると、HYDEって書いてあるな。これって・・・この前自殺した人?」
「アホが。それは<HIDE>のほうやろ!」
車は高速に乗った。
婦長は勢いよく飛ばし始めた。
「公園で降りて、車乗って病院まで運んでな」
「はいはい」
「<はい>は1回でええ」
「はい・・・ところで、じいさん」
じいはまた驚いて、携帯をパタンと閉めた。
「は、はいっ!」
「じいさん。こんな夜中に・・誰とメールを?」
「わわ、わし?わし・・・」
何か怪しいものを感じた。
高速を降りるまでの数分間、僕と婦長はいろんな話題に触れた。
「真珠会に逆らうようなマネはせんほうがええと思うで。先生」
「なんだ?味方か?」
「じゃなくて。聞けや。あんたら最近、よその先生は潰すし、<北野>を追い詰めるとか言うてるし」
「いいじゃないか。正義のためだ」
「また大学が誰かよこしてくるらしいやんか?」
「変なヤツなら、また争うまでだ」
「そうやってやな。病院の存亡にまで危険を及ぼすの、やめてくれへんか?」
「?」
「正義やどうやと言う前に、もうちとスタッフの痛みを聞いてあげたらどないや?」
「痛み・・・」
「自分のスタッフにも尊敬されん人間が、どうやって敵を守ると言うんや。おい、じい!」
じいはまた携帯を閉じた。
「は、はい!」
「何してるか、知ってるで!」
婦長はギラッとバックミラーを覗いた。
「も、もうやめます。これが終わったら・・・」
じいはラストスパートで最後のボタンを押しにかかった。
「なんやこれ?」
婦長と僕が気づいたときには、前後を大きなセダンで挟まれていた。
「減速してきたで?」
「婦長。横にずれろ」
「ああ」
車は左へスライドしたが、前後の車も同時にずれた。ハザードが点滅してくる。
婦長はとっさの判断なのか、急ブレーキを踏み込んだ。反射的に後ろの車が逸れ、前方へ走っていく。
「そこや!」
婦長は後ろを確認し、バックでギャギャギャと退いていった。僕も後ろを確認するが、幸い空いていて車は来ていない。
「婦長!どこまでバックするんだ?うわっ!」
首が振り回されたかと思うとまた急ブレーキだった。するとそのまま前進、インターの出口へと進んだ。
「生駒で慣らした元ヤンキーを、なめたらアカンで!」
婦長はつぶやき、またハンドルをきった。
真田病院の詰所では、準夜勤→深夜勤への申し送りが始まっていた。
「なんだ?どこまで?」
僕とじいは後ろを振り返った。
「わかったよ婦長。今日だけ、じゃあ手伝うわな・・」
「徹夜なんかしたことないやろ?やってみいや」
「カテの呼び出しで何度もあるよ」
「じゃなくてな。人手の少ない病棟がどんなに大変なんか、知る必要があるんや」
じいは後部座席で携帯を触っている。
「じいさん・・・こんなときにメールかよ?」
「え?いやいや・・」
じいは携帯をパタンと閉じた。
繁華街をようやく抜け、パトカーも知らぬ間に消えた。
落ちていたスピードが徐々に増していく。
チラッと横目で覗いた婦長の顔は・・・美しいが真剣そのものだった。
「何、見てんねや?」
「い、いえ」
「ひとつ、頼みたいんやけど」
「ははっ。なんでも」
「今日の朝な。事故したんや」
「ええっ?」僕はわざとらしくとぼけた。
「でな。車が公園に置きっぱなしやねんな」
「動くのか?その車」
「いじられたらたまらんからな。それのキー渡すから、ほれ」
婦長はキーを片手で投げ、僕はパシッと受け取った。
アクセサリーに、長髪美少年の顔のシールがある。
「男前だな・・・誰?」
「ハイド」
「ジキルじゃなくて?」
「お前バカ。ラルクも知らんのか」
後部座席のじいがまた気になる。携帯をパカパカ押している。
顔に近接するあまり、ホラー映画のように顔面だけが青白い。
「よく見ると、HYDEって書いてあるな。これって・・・この前自殺した人?」
「アホが。それは<HIDE>のほうやろ!」
車は高速に乗った。
婦長は勢いよく飛ばし始めた。
「公園で降りて、車乗って病院まで運んでな」
「はいはい」
「<はい>は1回でええ」
「はい・・・ところで、じいさん」
じいはまた驚いて、携帯をパタンと閉めた。
「は、はいっ!」
「じいさん。こんな夜中に・・誰とメールを?」
「わわ、わし?わし・・・」
何か怪しいものを感じた。
高速を降りるまでの数分間、僕と婦長はいろんな話題に触れた。
「真珠会に逆らうようなマネはせんほうがええと思うで。先生」
「なんだ?味方か?」
「じゃなくて。聞けや。あんたら最近、よその先生は潰すし、<北野>を追い詰めるとか言うてるし」
「いいじゃないか。正義のためだ」
「また大学が誰かよこしてくるらしいやんか?」
「変なヤツなら、また争うまでだ」
「そうやってやな。病院の存亡にまで危険を及ぼすの、やめてくれへんか?」
「?」
「正義やどうやと言う前に、もうちとスタッフの痛みを聞いてあげたらどないや?」
「痛み・・・」
「自分のスタッフにも尊敬されん人間が、どうやって敵を守ると言うんや。おい、じい!」
じいはまた携帯を閉じた。
「は、はい!」
「何してるか、知ってるで!」
婦長はギラッとバックミラーを覗いた。
「も、もうやめます。これが終わったら・・・」
じいはラストスパートで最後のボタンを押しにかかった。
「なんやこれ?」
婦長と僕が気づいたときには、前後を大きなセダンで挟まれていた。
「減速してきたで?」
「婦長。横にずれろ」
「ああ」
車は左へスライドしたが、前後の車も同時にずれた。ハザードが点滅してくる。
婦長はとっさの判断なのか、急ブレーキを踏み込んだ。反射的に後ろの車が逸れ、前方へ走っていく。
「そこや!」
婦長は後ろを確認し、バックでギャギャギャと退いていった。僕も後ろを確認するが、幸い空いていて車は来ていない。
「婦長!どこまでバックするんだ?うわっ!」
首が振り回されたかと思うとまた急ブレーキだった。するとそのまま前進、インターの出口へと進んだ。
「生駒で慣らした元ヤンキーを、なめたらアカンで!」
婦長はつぶやき、またハンドルをきった。
真田病院の詰所では、準夜勤→深夜勤への申し送りが始まっていた。
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