NURSEBESIDE ? 問答無用
2006年5月16日真田病院、事務当直室。今日の当直は事務員の若年男性1人。
六畳一間のテレビの部屋で寝そべる。
救急隊や患者からの電話を待つ。あと何回か病院内を巡回する。
相場的には一晩で1万弱。
何事もなければおいしい仕事だが、大変だと次の日に響く。
「おおっ!おおっ!いくいく!」
彼はガバッと起き上がり、コントローラーを夢中で操作し始めた。
家から持ってきたプレステ2が、彼の深夜の楽しみだ。
「こいこい!こいこい!」
彼はゲームキャラに勝手に名前をつけて遊んでいた。
「次のバッターはと!品川事務長!へっへっへ!」
ボタンで投球すると、<品川>は振り遅れた。
「ああっはっは!ざまあみろ事務長!ああっはっは!」
「こんばんは。品川です」
「うわっ!」
あまりの突然に、当直はコントローラーをテレビに放り投げた。
「じ、事務長・・・!」
「あ、ああ・・・」事務長はウツになっており、活気がなくうつむいている。
「事務長。違います。違います。このキャラはね、このキャラは・・!」
「手伝いに来たんだ」
「はっ?」
当直は時計を見たが・・まだというか深夜の1時だ。
「じ・・・事務長。まだ夜中の1時ですよ?」
「う、うん。知ってる」
「業務は朝の9時からですし」
「け、けど・・・」
「?」
「て、手伝わないと」
「?」
「手伝わないといけないんだ・・・」
「ああわかった!ひょっとして事務長・・・!」
「・・・・・・・」
「<彼女>とケンカして、戻ってきたとか?まさかね」
事務長は猫背がより強くなった。
「い、いや・・」
「すみません。冗談です」
「彼女も、戻ってくるんだよ」
「へ?」
赤電話がいきなりジリリリリーン!と響いた。
彼らに戦慄が走る。
「で、ではこれが・・?」
「で、出ても僕がいるとは・・・言わないで」
「で、でも」
「頼む・・・・!」
事務長は婦長の追撃を恐れていた。
事務当直はおそるおそる、受話器を持ち上げた。
「はい!真田病院!」
『もしもーし!』
中年男性の声である。
『救急搬送、受け入れをお願いします』
「あー、搬送か。実は当院、重症病棟自体が満床でして・・」
『63歳の男性。胸部痛。それと55歳男性。呼吸困難!』
「え?2人も?」
『その他、計6名。真珠会病院よりの転院要請』
「よ、要請って・・・?」
そば耳立てていた事務長が、電話を奪う。
「真珠会からは、何も電話は・・」
『あと5分でそちらへ到着しまーす!』
「まて!まってくれよ!」
電話は切られた。
事務長の顔が青ざめた。
「なんなんだ?これは・・・」
「分かりません」当直はテレビのスイッチを消した。
「真珠会病院が、よその病院へ患者を紹介する話は有名だ」
「患者を紹介?って・・別に珍しい話では」
「紹介状なしで」
「いいっ?」
大空の彼方、かすかにサイレンが聞こえてきた。
事務長、当直は協力して救急窓口を開ける。
広大な駐車場がぽっかりスペースを空けていた。
「今日の当直医は?」事務長はカレンダーを指でなぞった。
「・・・大学の精神科の先生だ。ハズレだな」
「あんたが決めたんでしょうが?」事務当直が思わず突っ込んだ。
「とりあえず、呼ぼう」
事務長はプッシュを3回押した。内線番号だ。
救急車が1台、さっそく現れた。サイレンが消える。こちらへ曲がって、そのままやってきた。
事務当直が誘導。
「オーライオーライ、ストップ!おお?」
もう1台が横から現れた。また1台、道路から進入。次々とサイレンが消える。
「いったい何台、来るんだ?」
救急入り口の向こうは、複数台の救急車によって占拠された。
バン、バンとハッチが開き、救急隊がストレッチャーをよいしょと持ち上げる。
まず1人目が来た。点滴も何も入っていない。
「63歳男性!胸部痛!」マスクした救急隊員、表情は見えない。
患者は肥満型で、胸を押さえている。
事務長は病院のストレッチャーを用意、みんなでいっせいに移した。
隣でも同様の処置が行われようとしている。
「ドクターがもうすぐ降りてきますので!」事務長は救急隊員をとどめようとした。
「あとの5名の患者の性別・年齢はこのメモに!」
「えっ?」
「バイタル記録も書いてますので!」
「しょ、紹介状はやはり?」
「それはもらってません。電話にて問い合わせを!」
「でんわって・・・」
事務長は向こうで横になっている呼吸困難の高齢男性が目に入った。
「さ、酸素いるんじゃないか?」
「では、私たちはこれにて!」
「ま、待て!」
救急隊はストレッチャーを回収し、バン、バンと後部から片付けていく。手馴れたものだ。
消えていた事務当直が、当直医を引っ張ってきた。
「さあさあさあさあ!」
「なっ!なに?」
眠たそうな若い男性ドクターが、キレイな白衣でやってきた。
「先生お願いします!」事務長は酸素マスクを取り出し、当直医に渡した。
「搬送、勝手に受け入れたの?」わがままドクターは不機嫌だ。
「だ、だって。うち、救急受け入れ24時間帯なのでして・・」
平日当直料金は、一般的に4万は出してる。
「夜は、寝てるだけでいいって、大学の先生が・・・!」
「ささ、とにかくお願いいたします!」
「自分、分かりませんよ!」
それでもとりあえず、診察にあたってもらった。
当直ナースが1人、のろのろとやってきた。
「ふんがあ。これなに?」
看護部長だ。人員不足でたまたま借り出されていた。
事務長は僕らとの今までの会話をヒントに、診療に参加した。
「き、緊急性のある人から・・・でしょう?」
事務長は6人の患者の脈を、1つずつとっていった。
「看護部長は、酸素飽和度の測定を!」
ドクターはオドオドしながら聴診器をはずした。
「にゅ、入院させましょうよ!入院を!」
「ベッドが満床なんです!」事務当直が両腕をクロスした。
「じゃあどうして受け入れたんです?」
「そ、それは向こうが勝手に!」
事務長は空いてる片手で、事務当直の頭をスコーンとしばいた。
「患者様たちに聞こえるだろうが!婦長!点滴ルートはいいのか?」
「があ?な、なににしましょうか?」
「僕に聞くな!注文取るみたいに!ドクターに聞け!」
「があ!」
彼らは文句を言いながらも、患者へのケアにとりかかった。
六畳一間のテレビの部屋で寝そべる。
救急隊や患者からの電話を待つ。あと何回か病院内を巡回する。
相場的には一晩で1万弱。
何事もなければおいしい仕事だが、大変だと次の日に響く。
「おおっ!おおっ!いくいく!」
彼はガバッと起き上がり、コントローラーを夢中で操作し始めた。
家から持ってきたプレステ2が、彼の深夜の楽しみだ。
「こいこい!こいこい!」
彼はゲームキャラに勝手に名前をつけて遊んでいた。
「次のバッターはと!品川事務長!へっへっへ!」
ボタンで投球すると、<品川>は振り遅れた。
「ああっはっは!ざまあみろ事務長!ああっはっは!」
「こんばんは。品川です」
「うわっ!」
あまりの突然に、当直はコントローラーをテレビに放り投げた。
「じ、事務長・・・!」
「あ、ああ・・・」事務長はウツになっており、活気がなくうつむいている。
「事務長。違います。違います。このキャラはね、このキャラは・・!」
「手伝いに来たんだ」
「はっ?」
当直は時計を見たが・・まだというか深夜の1時だ。
「じ・・・事務長。まだ夜中の1時ですよ?」
「う、うん。知ってる」
「業務は朝の9時からですし」
「け、けど・・・」
「?」
「て、手伝わないと」
「?」
「手伝わないといけないんだ・・・」
「ああわかった!ひょっとして事務長・・・!」
「・・・・・・・」
「<彼女>とケンカして、戻ってきたとか?まさかね」
事務長は猫背がより強くなった。
「い、いや・・」
「すみません。冗談です」
「彼女も、戻ってくるんだよ」
「へ?」
赤電話がいきなりジリリリリーン!と響いた。
彼らに戦慄が走る。
「で、ではこれが・・?」
「で、出ても僕がいるとは・・・言わないで」
「で、でも」
「頼む・・・・!」
事務長は婦長の追撃を恐れていた。
事務当直はおそるおそる、受話器を持ち上げた。
「はい!真田病院!」
『もしもーし!』
中年男性の声である。
『救急搬送、受け入れをお願いします』
「あー、搬送か。実は当院、重症病棟自体が満床でして・・」
『63歳の男性。胸部痛。それと55歳男性。呼吸困難!』
「え?2人も?」
『その他、計6名。真珠会病院よりの転院要請』
「よ、要請って・・・?」
そば耳立てていた事務長が、電話を奪う。
「真珠会からは、何も電話は・・」
『あと5分でそちらへ到着しまーす!』
「まて!まってくれよ!」
電話は切られた。
事務長の顔が青ざめた。
「なんなんだ?これは・・・」
「分かりません」当直はテレビのスイッチを消した。
「真珠会病院が、よその病院へ患者を紹介する話は有名だ」
「患者を紹介?って・・別に珍しい話では」
「紹介状なしで」
「いいっ?」
大空の彼方、かすかにサイレンが聞こえてきた。
事務長、当直は協力して救急窓口を開ける。
広大な駐車場がぽっかりスペースを空けていた。
「今日の当直医は?」事務長はカレンダーを指でなぞった。
「・・・大学の精神科の先生だ。ハズレだな」
「あんたが決めたんでしょうが?」事務当直が思わず突っ込んだ。
「とりあえず、呼ぼう」
事務長はプッシュを3回押した。内線番号だ。
救急車が1台、さっそく現れた。サイレンが消える。こちらへ曲がって、そのままやってきた。
事務当直が誘導。
「オーライオーライ、ストップ!おお?」
もう1台が横から現れた。また1台、道路から進入。次々とサイレンが消える。
「いったい何台、来るんだ?」
救急入り口の向こうは、複数台の救急車によって占拠された。
バン、バンとハッチが開き、救急隊がストレッチャーをよいしょと持ち上げる。
まず1人目が来た。点滴も何も入っていない。
「63歳男性!胸部痛!」マスクした救急隊員、表情は見えない。
患者は肥満型で、胸を押さえている。
事務長は病院のストレッチャーを用意、みんなでいっせいに移した。
隣でも同様の処置が行われようとしている。
「ドクターがもうすぐ降りてきますので!」事務長は救急隊員をとどめようとした。
「あとの5名の患者の性別・年齢はこのメモに!」
「えっ?」
「バイタル記録も書いてますので!」
「しょ、紹介状はやはり?」
「それはもらってません。電話にて問い合わせを!」
「でんわって・・・」
事務長は向こうで横になっている呼吸困難の高齢男性が目に入った。
「さ、酸素いるんじゃないか?」
「では、私たちはこれにて!」
「ま、待て!」
救急隊はストレッチャーを回収し、バン、バンと後部から片付けていく。手馴れたものだ。
消えていた事務当直が、当直医を引っ張ってきた。
「さあさあさあさあ!」
「なっ!なに?」
眠たそうな若い男性ドクターが、キレイな白衣でやってきた。
「先生お願いします!」事務長は酸素マスクを取り出し、当直医に渡した。
「搬送、勝手に受け入れたの?」わがままドクターは不機嫌だ。
「だ、だって。うち、救急受け入れ24時間帯なのでして・・」
平日当直料金は、一般的に4万は出してる。
「夜は、寝てるだけでいいって、大学の先生が・・・!」
「ささ、とにかくお願いいたします!」
「自分、分かりませんよ!」
それでもとりあえず、診察にあたってもらった。
当直ナースが1人、のろのろとやってきた。
「ふんがあ。これなに?」
看護部長だ。人員不足でたまたま借り出されていた。
事務長は僕らとの今までの会話をヒントに、診療に参加した。
「き、緊急性のある人から・・・でしょう?」
事務長は6人の患者の脈を、1つずつとっていった。
「看護部長は、酸素飽和度の測定を!」
ドクターはオドオドしながら聴診器をはずした。
「にゅ、入院させましょうよ!入院を!」
「ベッドが満床なんです!」事務当直が両腕をクロスした。
「じゃあどうして受け入れたんです?」
「そ、それは向こうが勝手に!」
事務長は空いてる片手で、事務当直の頭をスコーンとしばいた。
「患者様たちに聞こえるだろうが!婦長!点滴ルートはいいのか?」
「があ?な、なににしましょうか?」
「僕に聞くな!注文取るみたいに!ドクターに聞け!」
「があ!」
彼らは文句を言いながらも、患者へのケアにとりかかった。
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