NURSEBESIDE ? 技師長!
2006年5月16日事務当直は、胸痛患者の横に心電図を運んできた。
「これくらいでしたら、私でも・・・!」
「へえ!やるな!」事務長は患者に呼びかけつつ、酸素飽和度をメモしていった。
しかし、1人だけ返事がない患者がいる。中年女性で肥満型。
「先生!この方、応答が・・・!酸素は十分ありそうですが」
「・・・・・・」
「何か考えられるものは?」
「国家試験以来で、そんなの・・・!」
「し、試験で出るんでしょ?」
「国家試験の病名は、特殊なのばっかだよ!中年女性、中年女性・・・」
「婦長!CTとかいるんじゃないのか?」
「中年女性、クッシング・・・ホルモン異常・・」ドクターは本を開き悩み始めた。
婦長は点滴確保に難渋している。
「こら婦長!聞いてるのか?」事務長は耳元でどなった。
「ががあ!あっち行け!」婦長は針を振り回し、事務長はしりもちをついた。
「・・・インスリノーマ・・・血糖を!」ドクターは本を閉じた。
「ふんがあ。やっと点滴、入った」
「婦長さん・・ですか?採血して、血糖をすぐに!」
「あ〜あ、いそがしいそがし!時間外もらわんと!」
とりあえず、指先で血糖確認。約20秒で「LOW」と出た。
「ブブ、ブドウ糖50%を40ml、注射してください!」
「があ!先生がやりいな!」婦長は他の患者にとりかかった。
「あいよ!お待ち!」放射線技師が現れた。飲み会には来ていない。
彼はベテランというのもあってか、おおよその状況を理解した。
「じゃ、僕の言う順番で、写真撮りましょうか!」
「いたた!」
起き上がろうとした事務長が、また膝をガクンとついた。
「な、なに?」
尻に手をやると、何やら針が刺さっていた。焦って抜く。深い針ではなかったようだ。
「翼状針・・・」
どうやら婦長が使用中に、床に落としたもののようだった。
「てて・・・使用済みなのか?」
念のため、採血を受ける予定とすることにした。針刺し事故の特異な一例だが、この場合は
あらかじめ作成されているはずの病院マニュアルに従う必要がある。
なおC型肝炎患者由来の針刺し時のインターフェロン投与については各病院で意見が異なるところである。
ブドウ糖投与の患者の顔が、少しだがしかめ顔になった。
「おおやった!やった!」ドクターは喜んだ。ハイになった。
「があ。センセ、CTは?」
「念のためだ!撮るよ!」
「があ。その前に伝票を」
事務当直が記録した心電図。事務長に渡される。
「ぼ、僕に分かるわけないだろ!」
事務長はドクターをつかまえた。
「先生、これ!」
「あとで見ます!CTに行くから!CT!」
「それは婦長に行かせますので!先生!所見を!」
「わ、わからないんですよ!」
「え?医者なのに?」思わず事務当直がつぶやいた。
見る見るうちに、ドクターの血相が変わっていく。
「ああそうですよ!どうせそうですよ!」ドクターは噛み付くようにダンダンと両足を踏んだ。
事務当直はまた事務長にしばかれた。
「このバカ!大事な大学のお客様だぞ!先生。すみません・・・」
「もう知らない!もう知らない!」ドクターは1歩ずつ退いていく。
「どうか!どうかここは穏便に!」
「医局に言ってやる!言ってやる!」
当直した検査技師のゴマちゃんが、いっそう濃いヒゲにて現れた。
「心電図、これか?あまり上手じゃないね」
「へへ・・」事務当直は態度が豹変した。
「狭心症などの、冠動脈系統ではないな。採血は以上か?」
ゴマちゃんは、揃った検体をカチャカチャまとめて、検査室へと向かった。
ドクターは、落ちかかった心電図をもう1度眺めた。
「うん。事務長さん。たしかに狭心症はないですね」
誰もが突っ込みたかったが、そんな気力はなかった。
こういう時は医療側の脈拍も増加し、焦りで冷静になるまで時間がかかることもある。
しかし最初の手順を忘れなければ、次に何をするかの道順は見えてくる。
救急車が入るまでに大まかな情報を手に入れ、搬送直後の患者の<第一印象>から緊急度を判断。
意識はありそうか、顔が白くないか(貧血・脱水の印象あるかどうか)。浮腫ってないか。
救急隊からバイタル・話を聞いていく。病院側ベッドに移すとき、まず用意するものを指示する必要がある。酸素関連(マスクなど)、点滴の指示などを。
患者への問いかけは必須で、返事がなければ前胸部をつねり痛み反応の有無を確認。
呼吸しているかは聴診器も大事だが胸郭の動きが重要だ。浅いのか深いのか。速いのか、止まりかけなのか。短い時間に多い情報を集めるほど、検査・処置の優先順位も決まってくる。
呼吸不全の場合、経験がなかったり自信がないとすぐに挿管準備となりそうだが、まずはアンビューバッグで送気である。『1にアンビュー、2にアンビュー』。高血糖への点滴も『1に生食、2に生食』である。
とにかく周囲の慌てた雰囲気に、そのまま流されないことである。救急のスタッフであろうと、しょせんは人間だ。飯も食うし、オナラも出る。
「さらば宇宙戦艦ヤマト」の斉藤始(はじめ)のセリフ。これを心に刻もう。
『技師長〜!慌てず急いで、正確にな!』
さあ分かったら行け!第2ラウンドだ!
「これくらいでしたら、私でも・・・!」
「へえ!やるな!」事務長は患者に呼びかけつつ、酸素飽和度をメモしていった。
しかし、1人だけ返事がない患者がいる。中年女性で肥満型。
「先生!この方、応答が・・・!酸素は十分ありそうですが」
「・・・・・・」
「何か考えられるものは?」
「国家試験以来で、そんなの・・・!」
「し、試験で出るんでしょ?」
「国家試験の病名は、特殊なのばっかだよ!中年女性、中年女性・・・」
「婦長!CTとかいるんじゃないのか?」
「中年女性、クッシング・・・ホルモン異常・・」ドクターは本を開き悩み始めた。
婦長は点滴確保に難渋している。
「こら婦長!聞いてるのか?」事務長は耳元でどなった。
「ががあ!あっち行け!」婦長は針を振り回し、事務長はしりもちをついた。
「・・・インスリノーマ・・・血糖を!」ドクターは本を閉じた。
「ふんがあ。やっと点滴、入った」
「婦長さん・・ですか?採血して、血糖をすぐに!」
「あ〜あ、いそがしいそがし!時間外もらわんと!」
とりあえず、指先で血糖確認。約20秒で「LOW」と出た。
「ブブ、ブドウ糖50%を40ml、注射してください!」
「があ!先生がやりいな!」婦長は他の患者にとりかかった。
「あいよ!お待ち!」放射線技師が現れた。飲み会には来ていない。
彼はベテランというのもあってか、おおよその状況を理解した。
「じゃ、僕の言う順番で、写真撮りましょうか!」
「いたた!」
起き上がろうとした事務長が、また膝をガクンとついた。
「な、なに?」
尻に手をやると、何やら針が刺さっていた。焦って抜く。深い針ではなかったようだ。
「翼状針・・・」
どうやら婦長が使用中に、床に落としたもののようだった。
「てて・・・使用済みなのか?」
念のため、採血を受ける予定とすることにした。針刺し事故の特異な一例だが、この場合は
あらかじめ作成されているはずの病院マニュアルに従う必要がある。
なおC型肝炎患者由来の針刺し時のインターフェロン投与については各病院で意見が異なるところである。
ブドウ糖投与の患者の顔が、少しだがしかめ顔になった。
「おおやった!やった!」ドクターは喜んだ。ハイになった。
「があ。センセ、CTは?」
「念のためだ!撮るよ!」
「があ。その前に伝票を」
事務当直が記録した心電図。事務長に渡される。
「ぼ、僕に分かるわけないだろ!」
事務長はドクターをつかまえた。
「先生、これ!」
「あとで見ます!CTに行くから!CT!」
「それは婦長に行かせますので!先生!所見を!」
「わ、わからないんですよ!」
「え?医者なのに?」思わず事務当直がつぶやいた。
見る見るうちに、ドクターの血相が変わっていく。
「ああそうですよ!どうせそうですよ!」ドクターは噛み付くようにダンダンと両足を踏んだ。
事務当直はまた事務長にしばかれた。
「このバカ!大事な大学のお客様だぞ!先生。すみません・・・」
「もう知らない!もう知らない!」ドクターは1歩ずつ退いていく。
「どうか!どうかここは穏便に!」
「医局に言ってやる!言ってやる!」
当直した検査技師のゴマちゃんが、いっそう濃いヒゲにて現れた。
「心電図、これか?あまり上手じゃないね」
「へへ・・」事務当直は態度が豹変した。
「狭心症などの、冠動脈系統ではないな。採血は以上か?」
ゴマちゃんは、揃った検体をカチャカチャまとめて、検査室へと向かった。
ドクターは、落ちかかった心電図をもう1度眺めた。
「うん。事務長さん。たしかに狭心症はないですね」
誰もが突っ込みたかったが、そんな気力はなかった。
こういう時は医療側の脈拍も増加し、焦りで冷静になるまで時間がかかることもある。
しかし最初の手順を忘れなければ、次に何をするかの道順は見えてくる。
救急車が入るまでに大まかな情報を手に入れ、搬送直後の患者の<第一印象>から緊急度を判断。
意識はありそうか、顔が白くないか(貧血・脱水の印象あるかどうか)。浮腫ってないか。
救急隊からバイタル・話を聞いていく。病院側ベッドに移すとき、まず用意するものを指示する必要がある。酸素関連(マスクなど)、点滴の指示などを。
患者への問いかけは必須で、返事がなければ前胸部をつねり痛み反応の有無を確認。
呼吸しているかは聴診器も大事だが胸郭の動きが重要だ。浅いのか深いのか。速いのか、止まりかけなのか。短い時間に多い情報を集めるほど、検査・処置の優先順位も決まってくる。
呼吸不全の場合、経験がなかったり自信がないとすぐに挿管準備となりそうだが、まずはアンビューバッグで送気である。『1にアンビュー、2にアンビュー』。高血糖への点滴も『1に生食、2に生食』である。
とにかく周囲の慌てた雰囲気に、そのまま流されないことである。救急のスタッフであろうと、しょせんは人間だ。飯も食うし、オナラも出る。
「さらば宇宙戦艦ヤマト」の斉藤始(はじめ)のセリフ。これを心に刻もう。
『技師長〜!慌てず急いで、正確にな!』
さあ分かったら行け!第2ラウンドだ!
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