NURSEBESIDE ? 金のためか・・・!
2006年5月22日僕とじいさんは、たんたんと国道沿いに病院へと向かっていた。
あと15分はかかるだろう。
「はあ、はあ・・・じいさん、大丈夫か?」
「ふうふう・・・登りは終わりでんな」
「ああ。そろそろ下りだ」
なかなかタクシーも通らず、通っても急スピードのため捕まえるのは困難だ。
「はあ・・・じいさん。真珠会に買い取られたとか・・すまん、あれは言いすぎだった」
「いやいや。事実じゃから」
「・・・・・」
「だって。パチンコで負けて、今月の年金を使い果たして憂鬱になったところで、金の話が出てみい」
「?じいさん、年金もらってそれを全部?」
「そうや。だって、絶対出る台やって踏んでたからな!」
やっぱ、じいそのものに責任があるようだ。
「じいさん。金はいくら・・ま、いい。それは」
「だから、返すから」じいは立ち止まり、ポケットをまさぐった。
「だからいいって!俺は受け取れない!」
僕らはまたトボトボと歩き始めた。
「じいさん。ここまで疑ったらいけないかな。じいさんって、以前からうちの・・」
「以前から・・か?」
「ああ。正直に教えてくれ。じいさんは・・・以前から、うちの病院の情報を流してたのか?」
「わ、わしが?」
じいの怯えた表情で、真実はすぐに分かった。
「こ、ここだけの話なら」じいはうつむいた。
「ああ。もちろん」
「じゃ、じゃあ言おう。数ヶ月前、実習に来ておった学生さん」
「北野?」
「ああ。そんな名前やった」
「偽名らしいよ。調査によれば」
僕の診療に見学をとやってきた人間だ。大学からの紹介というのも嘘だったことが判明していた。
今のところ、関東地方に住む医者であることしか分かっていない。
「でもじいさん、知ってんだろ?こいつのこと」
「な、なんか大きな組織とつながっていて・・・」
「さあ。それが医師会だか真珠会だか分からんが」
「そこでも話を持ちかけられてもうた・・・」
「金をもらってか?」
どうやら、このじいは情報収集の中央ステーションにされていたらしい。
「わ、わしが喋ったっていうのは。各患者の個人の情報であって」
「それがイカンのだよ、じい!」
「家族がどうとか、そういう・・・」
「じいさん。仲の良かった患者の情報を、ああいう奴らに喋るなんて!」
「でも、しょうがないねん。金がなかったら、死ぬのを待つだけやねん」
数歩先のじいの背中が、淋しく見えた。
「ユウキ先生は、ほらまたパチンコやとか、無駄遣いするなとか言うやろ。それは分かっとる」
「・・・・・」
「わし、病気がありすぎて働けませんねん。まともに見つかる仕事は重労働」
「・・・・・」
「アルコール性心筋症があって、重労働にはストップがかかっとる。どうやって食っていったらいいねん」
「じいさん。だからといって、生保で降りた金を、さっそくパチンコにつぎ込んだらアカンやろ?」
「でも楽しみが・・・!」
じいは、なかなか譲らなかった。僕の言葉も必要以上に冷たく聞こえる。
じいはわざと歩幅を縮め、僕のほうに寄ってきた。
「なあなあ、ユウキ先生」
「な、なに?」
「ええ病院、ありまんねん」
「い、いきなり何だ?」
じいは、ポケットからメモを取り出した。
「奈良にある、真珠会第二病院」
「そこは以前、俺たちが開拓しに行ってきた病院だよ!」
「横取りされたんか?」
「前の院長が、陰でたくらんでいたんだよ!」
以前、戦友だった<ハカセ>という医者が院長をやっている。
「そこがな、そこがな。ユウキ先生欲しいって」
「誰が行くか!」
「院長先生が、<この前は失言を失礼申し上げます>って」
「あの野郎!」
僕らは知らない間に橋を渡り終え、街中に入った。もう7-8分で着きそうだ。
「じいさん。タクシー来そうなら、手を挙げようぜ」
「なあ。先生!先生!」
病院が近づくにつれ、じいは鼻息が荒くなってきた。
「じいさん。オレがその病院に行くことで、どれだけの金が入るか知らんが・・・」
「へ、へへ・・・」
病院事務員の間で、相場7-10万で陰の募集をかけている病院もある。
ドクターでこういう甘い声をかけられている人は、気をつけろ。
「オレはそんな奴らの仲間にはならんよ」
「先生。わしを助けると思って!」
「病気は助ける!というか助けたい!」
「病気を助けて、患者も助けるんですわ!」
「だる・・・」
やっとタクシーが捕まった。
「じいさん。今回がただの無断外泊では、済まされないと思うぞ」
「反省はしとります」
「婦長が許さないって」
「婦長さんは・・・もう戻ってきませんよ。だんな」
「何がダンナだ。婦長が戻ってこないってそんな。わけがないだろ?」
「婦長さん、もう真田病院には戻らんって言ってましたもん」
婦長は、どこ行った・・・?
「じいさん。でもな、俺はじいさんのことを知った以上は」
「わ、わしは何も言うてない。何もしとらん」
「じいさん!」
「証拠は?証拠はどこだ?」
「なっ・・?」
じいは自分を守るために必死だ。
「なあ先生!証拠もないのに、あることないこと言うなタコ!」
「た、タコ・・・?今、タコと?」
じいは目を血走らせ、ハアハアと息継ぎした。
「じいさん、それは・・・」
「・・・」
「医長に言え!」
「?」
思わず運転手はブレーキを踏みかけ、再び病院へと加速した。
「へへ、先生。証拠がないとダメだろう?」
「くそ・・・!」
「♪しょうこう、しょうこう、あさはら・・」
「そんな歌、歌うな!」
あと15分はかかるだろう。
「はあ、はあ・・・じいさん、大丈夫か?」
「ふうふう・・・登りは終わりでんな」
「ああ。そろそろ下りだ」
なかなかタクシーも通らず、通っても急スピードのため捕まえるのは困難だ。
「はあ・・・じいさん。真珠会に買い取られたとか・・すまん、あれは言いすぎだった」
「いやいや。事実じゃから」
「・・・・・」
「だって。パチンコで負けて、今月の年金を使い果たして憂鬱になったところで、金の話が出てみい」
「?じいさん、年金もらってそれを全部?」
「そうや。だって、絶対出る台やって踏んでたからな!」
やっぱ、じいそのものに責任があるようだ。
「じいさん。金はいくら・・ま、いい。それは」
「だから、返すから」じいは立ち止まり、ポケットをまさぐった。
「だからいいって!俺は受け取れない!」
僕らはまたトボトボと歩き始めた。
「じいさん。ここまで疑ったらいけないかな。じいさんって、以前からうちの・・」
「以前から・・か?」
「ああ。正直に教えてくれ。じいさんは・・・以前から、うちの病院の情報を流してたのか?」
「わ、わしが?」
じいの怯えた表情で、真実はすぐに分かった。
「こ、ここだけの話なら」じいはうつむいた。
「ああ。もちろん」
「じゃ、じゃあ言おう。数ヶ月前、実習に来ておった学生さん」
「北野?」
「ああ。そんな名前やった」
「偽名らしいよ。調査によれば」
僕の診療に見学をとやってきた人間だ。大学からの紹介というのも嘘だったことが判明していた。
今のところ、関東地方に住む医者であることしか分かっていない。
「でもじいさん、知ってんだろ?こいつのこと」
「な、なんか大きな組織とつながっていて・・・」
「さあ。それが医師会だか真珠会だか分からんが」
「そこでも話を持ちかけられてもうた・・・」
「金をもらってか?」
どうやら、このじいは情報収集の中央ステーションにされていたらしい。
「わ、わしが喋ったっていうのは。各患者の個人の情報であって」
「それがイカンのだよ、じい!」
「家族がどうとか、そういう・・・」
「じいさん。仲の良かった患者の情報を、ああいう奴らに喋るなんて!」
「でも、しょうがないねん。金がなかったら、死ぬのを待つだけやねん」
数歩先のじいの背中が、淋しく見えた。
「ユウキ先生は、ほらまたパチンコやとか、無駄遣いするなとか言うやろ。それは分かっとる」
「・・・・・」
「わし、病気がありすぎて働けませんねん。まともに見つかる仕事は重労働」
「・・・・・」
「アルコール性心筋症があって、重労働にはストップがかかっとる。どうやって食っていったらいいねん」
「じいさん。だからといって、生保で降りた金を、さっそくパチンコにつぎ込んだらアカンやろ?」
「でも楽しみが・・・!」
じいは、なかなか譲らなかった。僕の言葉も必要以上に冷たく聞こえる。
じいはわざと歩幅を縮め、僕のほうに寄ってきた。
「なあなあ、ユウキ先生」
「な、なに?」
「ええ病院、ありまんねん」
「い、いきなり何だ?」
じいは、ポケットからメモを取り出した。
「奈良にある、真珠会第二病院」
「そこは以前、俺たちが開拓しに行ってきた病院だよ!」
「横取りされたんか?」
「前の院長が、陰でたくらんでいたんだよ!」
以前、戦友だった<ハカセ>という医者が院長をやっている。
「そこがな、そこがな。ユウキ先生欲しいって」
「誰が行くか!」
「院長先生が、<この前は失言を失礼申し上げます>って」
「あの野郎!」
僕らは知らない間に橋を渡り終え、街中に入った。もう7-8分で着きそうだ。
「じいさん。タクシー来そうなら、手を挙げようぜ」
「なあ。先生!先生!」
病院が近づくにつれ、じいは鼻息が荒くなってきた。
「じいさん。オレがその病院に行くことで、どれだけの金が入るか知らんが・・・」
「へ、へへ・・・」
病院事務員の間で、相場7-10万で陰の募集をかけている病院もある。
ドクターでこういう甘い声をかけられている人は、気をつけろ。
「オレはそんな奴らの仲間にはならんよ」
「先生。わしを助けると思って!」
「病気は助ける!というか助けたい!」
「病気を助けて、患者も助けるんですわ!」
「だる・・・」
やっとタクシーが捕まった。
「じいさん。今回がただの無断外泊では、済まされないと思うぞ」
「反省はしとります」
「婦長が許さないって」
「婦長さんは・・・もう戻ってきませんよ。だんな」
「何がダンナだ。婦長が戻ってこないってそんな。わけがないだろ?」
「婦長さん、もう真田病院には戻らんって言ってましたもん」
婦長は、どこ行った・・・?
「じいさん。でもな、俺はじいさんのことを知った以上は」
「わ、わしは何も言うてない。何もしとらん」
「じいさん!」
「証拠は?証拠はどこだ?」
「なっ・・?」
じいは自分を守るために必死だ。
「なあ先生!証拠もないのに、あることないこと言うなタコ!」
「た、タコ・・・?今、タコと?」
じいは目を血走らせ、ハアハアと息継ぎした。
「じいさん、それは・・・」
「・・・」
「医長に言え!」
「?」
思わず運転手はブレーキを踏みかけ、再び病院へと加速した。
「へへ、先生。証拠がないとダメだろう?」
「くそ・・・!」
「♪しょうこう、しょうこう、あさはら・・」
「そんな歌、歌うな!」
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